障害者雇用の面接結果待ちの心境2
ノックの回数は3回、確かにしたはずだ。
「どうぞ」
厚みのあるガラス張りのドアの先から面接官の声がかすかに聞こえ、徐にドアを開けた。
「失礼致します!」
第一印象が肝心だと思い、障害者雇用の求人に応募した重い精神疾患持ちの人間とは到底思えないような元気の良い挨拶をした。
案外出来そうで出来ない面接の入退室の動作は何度もYouTubeで確認し、自宅で練習はしていたのだが、「荷物はこちらに置いてください」と想定外の指示をされ、言われた通りその場所に持ってきたカチコチの就活バッグを置いた。その一連の流れの最中私は恐らく見るに耐えない気持ち悪い動作をしていたと思う。
そのきもムーブを取り繕うように、ハキハキと自分の名を名乗り一礼した。
恐らく最初の質問は自己紹介または志望動機がデフォルトだろうと思っていた。それに対する回答が脳内でロケット鉛筆かのごとく順番待ちしていたというのに、面接官は履歴書を見ながら私の経歴を独り言かのように読み上げていった。
「◯◯大学卒業なんだね」
「はい!」
「◯◯の資格を持っているんだ。優秀だね」
「はい、ありがとうございます」
「前職は○◯に勤めていたんだね」
「はい・・・そうなんです・・・」
段々とこれは正解の返しではないということに気づき、自分の声がどんどん小さくなる。
だが今更返答パターンを変えることも出来なかった。
私は臨機応変が苦手である。面接で自分の短所を聞かれた際にはそう答えようと思っていた。まさに今臨機応変を求められる瞬間に遭遇し、これは短所なんです。と声を大にして言い訳をしたくなった。
疑問系の質問に対して回答をするといった定型の練習しかしてこなかった為に、どう答えたら良いか分からず、ただ相槌を打つだけの時間が長らく続いた。
「自分の長所を教えてください」
“これ、昨日やったやつだ・・・!”
見たことがある問題に直面した時、進研ゼミの漫画の歴代の主人公は皆そう言っていた。用意していた質問に対する答えはスラスラと口から出てきた。
「障害者手帳は一級とのことだけど、私達分からないのでネットで確認したんですね・・・結構大変な・・状態ということなんですよね・・・?」
面接にはとても苦手意識があった為、“聞かれた質問にただ答えればいいだけだ”と自分に言い聞かせていたが、突如急所を突かれ困惑した。
「障害について教えてください」
このように聞かれることを想定して私は準備をしていた為、障害について聞きたいという意味は同じであろうが、予想とは異なった問われ方だった。
更に面接官が“ネットで精神疾患の等級の程度を調べた”という前提に私は怖気ついてしまった。正直、精神障害1級で面接まで導いてくれたということは、あまり等級を気にしていないのだと期待があった。
過去1番症状が酷いタイミングの時に障害者手帳の申請したことで恐らく精神障害1級となったこと。現在の症状や、症状が起きてしまう原因などを包み隠さず伝えた。
「私は過去カスタマーハラスメントの被害を受けそれにより体調を崩すようになり統合失調症と診断されました」
ここまで来たら逃げも隠れもしない。そう強く思った。