スピノザの診察室 感想
まず読み終わって感じたのは雄町哲郎先生に会いたいという感情だ。
生粋の甘党で京都の様々な和菓子やお菓子を笑みを零して食べる敏腕医師の姿が愛らしさに溢れている。
原田病院に勤務している医師たち全員に愛着を持った。医師として皆敏腕だが敏腕であるが故に想像を絶する経験をしてきたのだと感じた。
忙しすぎる環境だと見えるものも見えなくなってしまう。マチ先生が大学病院に勤務していた時は患者の顔を覚えられない、一人一人を只の患者の一人としか捉えられなかった。だが妹が病死してしまい医者としての患者に向き合い方を変えようと決心した。この変化は身近な人の死から経験したマチ先生の医師としての変化だったのだろう。
作中で医者として研究者か哲学者かの2パターンに分かれると言っていた。
どちらも医者として素晴らしいのだが、私は哲学者のパターンに惹かれた。
終末期に患者であったとしても負の感情に囚われてほしくない、だったり「人間は世界という決められた枠組みの中で流木のように流されていく無力な存在」というマチ先生の言葉は矛盾しているが、無力な存在だからこそ、無力同士で手を取り合い暗闇に小さな光を灯す。それが幸せなのではないか。
マチ先生の感慨や倫理観とスピノザの言葉が一致した分かりやすく医者の世界や患者の世界、人に対して向き合い方の一つの考え方を学べる最高の一冊でした。