見出し画像

Gravity その手に引き寄せたもの

Gravity is working against me.
「Gravity」、エレキギターがカッコいい音楽で、スローな曲調にヴォーカルの声量があがるところがいい。軽やかでゆったりしたビートが聞き心地よく、ジョン・メイヤーの歌に宇野昌磨のスケートがのっていく。テンポの穏やかさから、その一挙手一投足を集中して見ることができるプログラムだ。

振付はステファン・ランビエール、1ポーズでも格好良く見える振付がいつも印象的で、宇野昌磨が演じる《Gravity》はスケーティングを大きく見せる手の動きがアクセントになっている。大技のジャンプ(4F)を着氷して1回転するパフォーマンスでは、左手が高く振り上げられ、その一瞬に自信がみなぎる。左手を突き出して進んでいくステップのパフォーマンスでは視線の先まで思いの何かがのっている。差し出される両手は時に柔らかい。振り上げられる手の数々は、絶秒なバランスやスピンを大きく引き延ばすよう演出している。熟達したスケーティングに格好良さが散りばめられた。
 
自分に感じる重いもの、プレッシャー、つきあっていくさ、うまいことね。(と聞こえた。)
 
全日本選手権2022を優勝して出場した世界フィギュアスケート選手権2023は、連覇がかかった大会。ショートプログラムはそれを占う場だ。技の要素は取りこぼしなく、高難度のジャンプを決めていかないといけない。前日の負傷というアクシデントは緊張感を倍増させ、試練の物語もつくり出した。観客が固唾をのんで見守るも、この時の《Gravity》は、すべてのバランスが整って、リズムに合わせた踊りも表情も見事。力強く伸びやかなスケートでプログラムを演じきった。

落ち着いた臙脂色のシャツには、襟と表前立ての黒い布地のラインが雰囲気を引き締め、そこにダイヤ型のラインストーンがきらめきを添えた。クリムキンイーグルから天井に上げられた手のアクセントも光る。宇野昌磨×ステファン・ランビエール、手の先まで洗練させて磨き上げたプログラム。宇野昌磨はこの日、Artistだった。
 
■ 世界フィギュアスケート選手権2023
2023年3月23日  さいたまスーパーアリーナ
宇野昌磨 ショートプログラム《Gravity》
音楽:ジョン・メイヤー(米国)「Gravity」(2006年)
振付 :ステファン・ランビエール(スイス)
ジャッジ詳細:総得点 104.63 (技術点 57.70 演技構成点 46.93)/ RANK1(SP)
-----
2023年3月25日フリースケーティング《G線上のアリア》を滑り、日本男子初の世界フィギュア連覇を成し遂げた。
ジョン・メイヤー:米国のシンガー・ソングライター、ギタリスト。“現代の三大ギタリスト”としても名を馳せる。

いいなと思ったら応援しよう!