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「なんでアートを見るのに美術史とか色々知らなきゃダメなの?」からはじめる現代アート入門

前回は誰のためにアートを作ってるのかを分析することでアートを理解しやすくするツールをご紹介しました。そこで今回はその応用編をする予定でしたが先日行ってきた瀬戸内国際芸術祭2016が思った以上に楽しかったのでそっちの記事を書くことにします。応用編についてはまた次回。


まず、瀬戸内国際芸術祭2016ついて軽くご説明しておきます。瀬戸内国際芸術祭は瀬戸内海に浮かぶ直島、豊島、小豆島などの島々を舞台にした国内外のアーティストが参加する芸術祭です。


今回、僕は2日間を使って直島、豊島を見て周りました。暑すぎて死にかけましたが直島の宮浦ギャラリー六区で見た丹羽良徳さんの「歴代町長に現町長を表敬訪問してもらう」など面白い作品が見れたので十分楽しめました。(ちなみに丹羽さんの展示が見られるのは夏期のみとのこと、、)


個人的に瀬戸内国際芸術祭は事前にどういう作品か詳しく知らずに見た方がより楽しめるものも多い印象でした。そこで今回は、芸術祭の見どころを紹介するのではなく、周っていて気になった作品から考える「なんでアートを見るのに美術史とか色々知らなきゃダメなの?」について解説しようと思います。


よくアートを見るためには美術史などの知識が必要と言われることが多いです。これには2つの理由があります。1つ目は前回の記事の中でも説明した通り、現在のアートワールドは大きな運動場の中でサッカーや野球や鬼ごっこなどのそれぞれ違う遊びをしている人たちがいる状態にあります。野球をより楽しむためには野球のルールを知っていた方がいいですよね?それと同じようにアートを楽しむためにもルールを知っていた方がより楽しめます。鬼ごっこのようにシンプルなルールなもの(感じたままに表現しろ!など)もあれば、野球のような簡単にルールを知っているだけでも理解できるけど、細かいルールを知っていればより楽しめるものもあります。つまりルールを知るためです。ですから鑑賞するにあたって知ろうとする姿勢が大事になるんですね。同時に作り手側も伝える努力をしていかないといけないですね。


2つ目ですが、知識を使いながら読み解くことで理解できる作品の特殊な効果があるからです。簡単にいうと勉強した事へのご褒美ですね。


この「勉強した事へのご褒美」について瀬戸内国際芸術祭のベネッセハウスミュージアム(芸術祭の会期後でも鑑賞可能です)で見た、柳幸典さんの「バンザイ・コーナー」を参照しながら解説していきます。


作品はこれです。

(photo by flickr user doc18 | click to enlarge)


バンザイのポーズをとったウルトラマンのフィギュアが展示空間の角に配置されていて、壁に鏡を配置することであたかもウルトラマンが円状に配置されているように見せていますね。


美術出版社から出ている「現代アートファンのための新・定番 日本のアーティスト ガイド&マップ The All Art Lovers’ Absolute Guide to Contemporary Japanese Artists」にこの作品についての解説があったのでご紹介します。


”いっせいにバンザイするウルトラマンの群像が鏡に反映されることで日の丸ように見えますが、これはポップ・カルチャーと天皇制が溶け合って増殖する現代社会のありようを、もっとも簡潔明瞭に示した傑作です。”

(美術出版社「現代アートファンのための新・定番 日本のアーティスト ガイド&マップ The All Art Lovers’ Absolute Guide to Contemporary Japanese Artists」37ページ参照)


この作品で僕が注目したのは、壁に鏡を配置することであたかもウルトラマンが円状に配置されているように見せているところウルトラマンのフィギュアを使っているところです。


ここで一人のアーティストを紹介します。ロバート・スミッソンです。
代表作はスパイラル・ジェティという作品で美術館などの展示空間に直接作品を置くのではなく、ある特定の場所に作品を作り出すランドアートを代表する作家です。


そのロバート・スミッソンのこちらの作品をご覧ください。


バンザイ・コーナーと同じような作りになっていますね。


さらにロバート・スミッソンにはこんな作品があります。

「king kong meets gem of egypt」というタイトルの作品で、工事用の巨大重機とキングコング(キングコングの逆襲に出てくるメカニ・コング)を並べることでその類似性を表現していますね。

ここから読み解いていきます。

共通点 : 鏡とフィギュア

バンザイ・コーナーが壁に鏡を配置することであたかも円状に配置されているように見せていることからわかる通り、柳さんはスミッソンを意識してこの作品を作っていることがわかります。

モチーフ : ウルトラマン、キングコング

さらに注目すべきはウルトラマンのフィギュアを採用しているところです。「king kong meets gem of egypt」で使われているメカニ・コングの出てくる「キングコングの逆襲」の特技監督はウルトラマンの生みの親である円谷英二です。

ここまででつながりがはっきり見えてきましたね。さらに読み解きは確信の部分に入っていきます。

巨大化

ウルトラマンは本来の設定上40メートルの身長があるキャラクターです。それを踏まえてスミッソンの作品のスケール感と特撮特有の小さなものを大きいものに見せる文脈とからめると、バンザイ・コーナーで使われているウルトラマンが認識の中でめちゃくちゃ大きくなり、それに伴って作品自体も大きな作品つまりランドアートのように理解できるわけです。

これを発見した瞬間すごく気持ち良いです。なぜならば裏技を見つけた時のように、キャプションにはこのことが書かれていないのにそれを理解できた、キャプションを飛び越えてそのことに気づいたからです。これがご褒美です。

ちなみにバンザイ・コーナーの隣にあった作品は、リチャード・ロングというランドアートを代表する作家です。つまり、キュレーターはこの効果を理解して隣に配置したと推測できます。

このようにキュレーションの意図も読めるようになります。つまり1つの展示で「作品を観る」「作品を読む」「キュレーションを読む」ことができるので鑑賞が3倍楽しくなります。



土曜会は今回のようなアートを分析したり、お互に持っている知識の共有、つながり作りの場として3か月に1回開催している会です。アーティストに限らずいろんな方が参加されてます。 次回開催は10月22日(土)に池袋で14時から開催されます。詳細はこちらになります。

http://ptix.co/2dgXGjm
https://www.facebook.com/events/997925846999994/?ti=icl

土曜会 art study meeting

https://zh-tw.facebook.com/doyohkai/

参考書籍

美術出版社「現代アートファンのための新・定番 日本のアーティスト ガイド&マップ The All Art Lovers’ Absolute Guide to Contemporary Japanese Artists」

https://www.amazon.co.jp/dp/4568201993


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