ひねったグラインド(ねじれたグラインド)?
久しぶりに作ったRemington R4593タイプ、いわゆるMuskrat(マスクラット)と呼ばれるモデルです。同じパターンのブレードが2枚、前後についています。
これ、いろんな意味で作るのが面倒なナイフです。
・・・まずは各部分の鋼材の厚みをどうするか?・・・
今回作ったマスクラットのサイズは、ブレード長65mmを考慮して
ブレード厚2.0mm、スリーブ厚1.5mm、シングル・バックスプリング厚3.5mm。この辺りがバランスが良いのではないかと思います。
・・・もしブレード長75mmならば、ブレード厚2.5mm、スリーブ厚2.0mm、バックスプリング4.5mmでもいけるかもしれないかな・・・
こっちのほうが削りしろが大きい分、作るのがラクかも?
・・・スリーブはどうやって固定する?・・・
ロウ付け?またはカシメる?・・・私の場合はピンでカシメました。ロウ付け出来ないので、アハハハ・・・
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このナイフ、上記の厚みスペックでブレードを素直にグラインドすると、クローズドできません。
そのまま畳むと2本のブレードが接触してしまいます。
・・・さらにこのブレード、スウェッジも無く、ベベルの立ち上がりも表裏とも削り抜かずにキレイにベベルストップを残さなければならないので、
ちょっと厄介です。
・・・なので、それぞれのポイントをセンターからずらしてネールマーク側に寄せてグラインドしていますが、ベベルの立ち上がり部分は鋼材厚のセンターで削らなければなりません。
・・・「それ、普通に削って熱処理前にネールマーク側に曲げればイイんじゃね?」と思われるかもしれませんが、残念ながら、そう簡単な問題ではありません。もしそうしてもブレード同士は接触します。
・・・「それ、スリーブを2mm厚にしてバックスプリング厚4mmにすればイイんじゃね?」
たしかにそうすれば簡単に畳めますが、オリジナルのRemington R4593では、ブレード厚よりもスリーブ厚が明らかに薄くなってます。昔の職人さんに作れたものが現在の職人に作れないのは何とも悔しいではないですか!
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では、どうすればうまく畳めるのか・・・
ここで登場するのが、「ひねったグラインド」とか「ねじったグラインド」と呼ばれる(正式な呼称がわかりません)スキルです。
飛行機のプロペラの様に、ブレードの根元からポイントにかけてゆるやかなピッチでねじれていくブレードの削り方です。
・・・このスキル、私の世代(50歳代中〜後半)くらいのオールドスタイルフォルダーのナイフメーカーまではけっこうできる人が多いのですが、それより下の若い世代では、残念ながらこれをやってる人を見かけませんね。 まぁ、面倒くさいですしね・・・残念ながら、そろそろロストテクノロジーになりつつあるようです・・・
そこで、今回はひねったグラインド(ねじれたグラインド)のご紹介です。
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ところで、皆さんは「抜いたグラインド」というのはご存知でしょうか?
この呼称、おそらく「鋼材の厚みを抜く」というニュアンスから来ているものだと想像しますが・・・
この抜いたグラインド、おそらくほとんどのナイフメーカー(フィクスドのナイフメーカー含む)が、意識的か無意識的かにかかわらず行っているスキルだと思います。
下のイラストのようにベベルの立ち上がり部分の刃幅よりもポイントに近い方の刃幅が広いタイプのブレード(クリップポイントパターンに多くあります)のグラインドの際に必要です。
これ、エッジ厚を均一に保ちながら素直にグラインドすると、ベベルのラインは赤い線のようにエッジラインと平行に出ます。
このまま素直に削って行くと、ベベルストップが一番上まで来ても斜線部分が削り残ります。「じゃぁ、ベベルを削り抜けばイイんじゃね?」とおっしゃる方もいるでしょうが、フォルダーでは基本的にベベルストップをキレイに残すのがお約束なので・・・そのために最初から薄い鋼材を使用しています。
そこで、このベベルラインをブレードバックと平行に出そうとすると、タングに対するグラインドの角度をブレードの根元からポイントにかけてゆるやかに浅くして斜線部分を削り落とさなければなりません、そうしないとエッジ厚が一定に保たれませんからね・・・
これが「抜いたグラインド」です。
まずはこの抜いたグラインドを意識してコントロールできるようにならなければなりません。
「ひねったグラインド(ねじれたグラインド)」はこの「抜いたグラインド」の応用です。・・・
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・・・では、ひねったグラインド(ねじれたグラインド)はどうやればいいのか?
マスクラットのブレードを例にすると・・・
ネールマーク側の面は、基本的には「抜いたグラインド」をしない、言い換えるならまったく抜かないグラインドで削ります。・・・が、ベベルの立ち上がり部分はエッジを鋼材厚のセンターで削りながら、ポイント部分はエッジをネールマーク側に寄せていますので、グラインドの角度は根元からポイントに向けてゆるやかに浅くなります。・・・結果的には抜いたグラインドの応用になりますが、できるだけ鋼材の厚みを残すようにグラインドします。
一方、ネールマークの反対側の面は超抜いたグラインドをします。つまり「極端に抜いたグラインド」です。
ベベルの立ち上がり部分はエッジを鋼材厚のセンターで削りながら、ポイント付近ではエッジを鋼材のセンターを越えてネールマーク側にさらに寄せて削り込みます。できるだけ鋼材の厚みを削ぎ落としますので、急激にテーパーします。
・・・残念ながら実物の画像ではよくわかりませんねー・・・トホホ。
では解りやすくイラストでご説明しましょう・・・
上記のイラストは、鋼材の厚み部分だけを拡大して解りやすくしたものです。
一番上がブレードバックを上から見た図、2番目がエッジラインの流れ、 一番下がブレードの断面をポイント側から見た図です。
エッジラインのイラストで解るように、ポイントに近づくほどにエッジラインが鋼材のブレード断面の幅の中心からズレてきます。つまりブレードバックとエッジの関係がねじれていっているということです。
ブレードの断面ですが、ポイント付近ではネールマーク側のブレードの角度はタングとほぼ平行に近くなり、ほとんど角度がついてません。
・・・何となくご理解いただけたでしょうか?
ブレードの表裏をこの組み合わせで削ると、ブレードが根元からポイントにかけてゆるやかにねじれます。
・・・しかしながらイラストはあくまでも理論値です。実際には三次曲面にねじれたブレードを滑らかにつないで削っていかなければなりません。ちょっと面倒ですね。
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この「抜いたグラインド」と「ひねったグラインド(ねじれたグラインド)」はマスクラット以外にもストックマンやコングレス等、様々なマルチブレードのフォルダー製作には必須です。
とくにホィットラーを作る際には3本全てのブレードに応用しなければなりません。メインブレードは両面に超抜いたグラインドをかけて、出来るだけ厚みを削り落とします。サブブレードの2本にはひねったグラインドをそれぞれ逆にかけなければなりません。
・・・皆さ〜ん、マルチブレード作るならゼッタイ必要なスキルですよ〜! 誰かが体得しないとロストテクノロジーになりますよー!・・・
Let’s tryです!