ボルスタのフルーテッド
アトランタのブレードショーに行ってた頃のこと。
アメリカ人のナイフメーカーはプロ、アマ問わず、フランクに質問してくる人が多かった。
「どうすれば、このアクション・フィールをだせるの?」
「このヘアラインとミラーのコンビネーション仕上げはどうやってるの?」
「キミは何歳からナイフメイキングしてるんだ?」等々。
その中で一番多くのナイフメーカーに質問されたのが、
「ボルスタの細いフルーテッドの中はミラーになってるけど、どうやったらミラーにできるんだい?」
”フルーテッド”とは、ボルスタ内のミゾのこと。他に”グルーブ”とか言ったりすることもある。この”フルーテッド”、装飾的な面もあるが滑り止めの効果もある。
オールドスタイルのフォルダーには、ボルスタにフルーテッドを入れることが多いが、当時そのほとんどは3mm幅前後のフルーテッドが多数派。
私も初期の頃のナイフには、この太めのフルーテッドを付けていたのだが、ある時期から、約1.3mm幅の細いフルーテッドに変更した。
約3mm幅のフルーテッドならば、サンドペーパーで磨くことができ、バフもかけられるので内部をミラーフィニッシュにすることは比較的簡単なのだが、約1.3mm幅の細いフルーテッドとなると、これがなかなかに難しい。サンドペーパーではうまく磨けないし、ミゾが細すぎてバフもうまくかけられない。そういった理由で当時は細いフルーテッドを採用しているナイフメーカーはほとんどいなかった。・・・
・・・では、なぜフルーテッドを細く入れたかったのかと言うと・・・
ボルスタの長さが十分長い場合は幅広のフルーテッドでもかまわないが、極端にボルスタが短い場合、幅広のフルーテッドだとピボットピンの穴に近くなりすぎて、ピボットピンのカシメの際に非常にやりづらかったから。
今回はこの細いフルーテッドの入れ方と磨き方をご紹介する。
*
まずは、ボルスタのR曲面を出した後、ガイドラインを引く(画像では見えづらくてスイマセン)。
私が使っているのは、コンパスのような工具(正式名称、ワカリマセン)。
このガイドラインに沿って、三角ヤスリでミゾを切る。ガムテープを貼っているのは、ヤスリが滑った際にライナーにキズが付かないための養生。
次に丸ヤスリの先端で約1mm幅のミゾを切る。
最後に、約1.2mmのライン丸ヤスリで均一にミゾを切る。細いラインヤスリはホールドしにくいので、ピンバイスにくわえさせてやると作業しやすい。ミゾの深さは約1mm、ボルスタのRに沿って均一の深さに入れるのがコツ。
*
さて、これからこのミゾの中を磨いてミラーにするわけだが、磨くための道具は・・・タコ糸。
・・・いろいろ試してみたが、木綿のタコ糸がイチバン性能が良い。ナイロン系の糸やケブラーも試したが、化学繊維だと摩擦熱ですぐに切れる・・・
このタコ糸にバフ研磨剤の青棒をこすりつけて、デンタルフロスの要領で、ゴシゴシ擦って磨く。
画像の上から、太いタコ糸(約2.0mm)、2番目が中くらいのタコ糸(約1.3mm)、3番目が細いタコ糸(約0.7mm)。
一番下は、今回使用した約1.3mmの青棒をこすりつけたタコ糸。・・・タコ糸はいろんな太さのラインナップがあるので便利。
ミラーにする作業は、まずフルーテッドを切ったライナー・ボルスタを治具に固定する。
青棒をこすりつけたタコ糸を、デンタルフロスの要領で両手で持ち、左右にゴシゴシ往復させる。
力の入るストロークは10cm前後なので、30cmくらいのタコ糸を、まずは左側部分でゴシゴシゴシゴシ、次に中央部分でゴシゴシゴシゴシ、
最後に右側部分でゴシゴシゴシゴシ、そうしたら再度青棒をこすりつける。これが1セットで、これをひたすら繰り返す。
・・・ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ・・・
この際、できるだけタコ糸を水平と言うか、まっすぐに往復させるのがコツ。ボルスタのRに沿わせようと変に湾曲させると、フルーテッドの両端だけが深いミゾになったり、キレイなU字型の側面が崩れたりして、残念な結果になる。
約5分〜10分くらいこの作業を続けると、フルーテッドの中がだんだんミラーになってくる。
しかし、ルーペで見るとヤスリ跡の磨き残しが必ずあるので、その部分を重点的に磨いていく・・・ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ。
「磨いてはルーペで確認」を繰り返し、キズが無くなるまでゴシゴシゴシゴシ。
キレイなミラーになった。側面もキレイなU字型。
*
この手法は、ボルスタのフルーテッド以外にも応用可能。
私の場合、Remington R1306のブレットの中の線も細いタコ糸(約0.7mm)で磨いてミラーフィニッシュしたり(画像では見えづらいが)、
以前作ったナイフはフロント・ボルスタ、シールド、エンド・ボルスタに入れまくったこともある。
金属以外では、パールやカーボンファイバー等のハンドルにも応用したことがあるが、金属よりは柔らかいので、簡単にツルツルになる。
全てを試したことは無いが、おそらくどんなハンドル材にも応用可能だろうと思う。
*
フォルダーだけではなく、ワイド・ヒルトのフィクスドに入れてもキレイだと思うので、皆さんもトライしてみては?