ゲイのカミングアウトをめぐって~クリス・コルファー
ゲイの役になって
前の記事のように、テレビドラマ「glee」でメジャーデビューを果たし、俳優になる夢をかなえたクリスさん。
しかし、制作側が彼のために用意したのは、当初の予定にはなかったゲイの役(カート・ハメル)でした。
クリス:まだ役が決まっていなかったので、自分がゲイを演じることになるのはもちろん、あのドラマにゲイの役が出てくることすら、予想もしていませんでした。
(中略)
こんなとてつもない展開になるとは、想像もできませんでした。
ー クリス・コルファー 2020.11.19 OUT FRONT 誌
▼ 「OUT FRONT」誌はこちら。
クリス:(ゲイの役にされてしまったのは)いまだに、理解しがたいことですね。
特に「glee」に出るまでは無名のクローゼット(カミングアウトしていないゲイ)の少年だったので、当時は非常に恐怖感があったのです。
ゲイだというだけで子どもを痛めつけるような、保守的な町で育ったものですから。
田舎町のクローゼットの少年から、おそらく世界一有名なゲイのティーンズの一人になったのは、すさまじいまでの体験でした。
ー クリス・コルファー 2020.11.19 OUT FRONT 誌
事実、故郷の小さな町・クローヴィス(カリフォルニア州)でも、クリスさんの活躍に沸く一方で、「実際にゲイなのではないか?」という噂が飛び交ったそうです。
お母さんのコメント
そんな質問ぜめにあっていた、クリスさんの母・キャリンさんへのインタビューです。
キャリン:いつも言ってやるんですよ、「だったら、何?」って。
率直に言って、息子がゲイかどうか、私にはわかりません。彼と話し合ったこともありませんから。
でも、いつか彼がカミングアウトするようなことがあったとしても、彼には今までどおり、父親と私がついていますし、生きていく上でのあらゆることに援助と愛情を惜しみません。
そこは、変わることはありません。永遠に。
性的指向にしたがって誰かを愛することは、誰にも止められないんです。
彼は、私の子どもですから!
クリストファーが望むなら、どういう人になろうと、私は心の底から満足です。
ー キャリン・コルファー 2009.9.8 「ロサンゼルス・タイムズ」より
“I always say, ‘What if he is?’ To put it bluntly, I don’t know if my son is gay or not,” she said. “It’s not a conversation we’ve had with him. But if it ever came out that he is, he would still have his dad and myself and our support and love in everything he does in life. That would not change. Ever. You can’t stop loving someone for his sexual orientation. He’s my kid! I’m completely comfortable with whoever Christopher wants to be.”
LGBTQのお子さんを持つご家族の方に、ぜひお読みいただきたい言葉ですね。
「誰にも止められない」ことを理解
キャリンさんの言葉の中でも、「誰にも止められない」という部分を理解するのが、私は、とても大切だと思いました。
「誰にも」とは、「本人にも」止められない、ということ。
反抗心や趣味によって、「あえて」そうしているわけではない。
ここがわからないと、
「反抗したいだけ」「わざわざ非難されるようなことをしている」
「やめようと思えば、やめられる」
そう考えて、話は平行線をたどってしまうと思うのです。
また、当事者であるお子さんのほうも、「どうせ理解してもらえない」とすぐにあきらめないで、
「心配や迷惑をかけたいわけではない」
「これ以外の自分でいるのは無理」
だと、根気よく伝える必要があると思います。
それこそ、保護者を教育するつもりで。
私自身も、子どもから「glee」を教えてもらうまでは、無知と誤解のかたまりでした。
特に日本人の場合は、「よく知らないだけ」の場合が少なくないと思います。
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無条件の愛情
それにしても、キャリンさんの言葉からは、無条件の愛情が伝わってきて胸を打たれます。
「glee」に登場するカートの父親・バートもそうでした。
きっとどの保護者も(私の親はDVなどの問題がありましたが、それでも)根底に持っているものなのだと私は思います。
バートは、まだゲイのことを十分理解していないうちにカミングアウトされましたが、「お前への愛情は変わらないよ。言ってくれてありがとうな、カート。」という言葉をかけて、抱きしめてあげています。
そして、その権利を守ることに人生をかけるまでになります。
理解できる・できないより以前に、「無条件の愛情」をはっきりと伝えてあげることが、どれほど子どもの安心につながるか。
一番不安で、とまどっているのは、本人だと思いますから。
ついに、カミングアウト
ところで、クリスさんのお母さんは、おそらくもっと前にカミングアウトされていたようなのです。
その際、好きなドラマの母親役がゲイの息子をとても愛しているから、自分もそうする、とおっしゃったそうです。
▼ それは、このドラマでした。「ブラザーズ&シスターズ」
ただし、ゲイだと知られると身の危険がある地域だということで、家族だけの秘密ということになっていました。
それにもかかわらず、クリスさんは、「glee」への出演によって、カミングアウトを全世界から迫られるような形になってしまったのです。
しかも、今から10年以上前の当時は、LGBTQについての理解は、現在とは比べ物にならないほど遅れていました。
カミングアウトした当時の記事を少し読みましたが、デビューしたばかりの10代のクリスさんにとっては、あまりにも重い決断だったに違いないと感じました。
ゲイの人たちのためなら
しかし、ご自身のこのカミングアウトについて、クリスさんはとても前向きに発言していらっしゃいます。
ー カートを演じることで、世間にカミングアウトする勇気が出たのですか?
クリス:その通りです。ほんの少し正直になることで、ほとんどのゲイの俳優の夢でもある僕の望み、すなわち、多くのゲイの人たちに慰めと安心を贈ることができました。
世界中のクローゼットの子どもたちから、僕のことを尊敬しているという手紙をもらうようになるとは、思ってもみないことでした。
そして、カートというキャラクターに対する気持ちは、自分だって同じだったのです。
僕は、もうここから先は、後戻りできないんだと悟りました。
ー クリス・コルファー 2020.11.19 OUT FRONT 誌
「ほんの少し正直に」とおっしゃってはいますが、「後戻りできない」という言葉に、当時の覚悟がうかがえます。
「多くのゲイの人たちに慰めと安心を贈る」ことができたのなら、本望だということなのでしょう。
▼ 恋人のウィル・シェロッドさん(左)と。
カミングアウトできない子どもたち
LGBTQについての理解は国や地域によっても差があり、カミングアウトによって身を危険にさらす場合もあるそうです。
また、場所の問題や危険性に限らず、個々の環境や事情は様々でしょう。
クリス:僕にとって本当に嬉しくもあり辛くもあるのは、今なお世界中のゲイの子どもたちから手紙をもらうことです。(※現在、週に数百~数千通とのこと)
彼らはとても過酷な環境にいて、安全上の理由でカミングアウトできないのです。
今できること以上に、もっと彼らの助けになれたらいいのですが…。
胸が張り裂けそうな思いです。
ー クリス・コルファー 2020.11.19 OUT FRONT 誌
トランスジェンダーのコミュニティを支援したり、作品や発言を通して、LGBTQの人々を励ましているクリスさん。
著書は、地域によっては発刊禁止になっており、差別との闘いは続いています。
「今できること以上に、もっと彼らの助けに」
この思いが、さらに多くの日本の子どもたちに届くことを願っています。
▼ クリスさんのカミングアウトが生んだものとは。
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▼ 記者の方のインスタグラム。この取材は、ご自宅からチャットで行われました。