「24時間本屋さん」の思い出 その5
その1の記事はこちら
https://note.mu/curryyylife/n/n24d2938bc662
“私の名はイシュメイルとしておこう。何年か前―はっきりといつのことかは聞かないでほしいがー私の財布はほとんど空になり、陸上には何一つ興味を惹くものはなくなったので、しばらく船で乗りまわして世界の「24時間本屋さん」を知ろうとおもった。憂鬱を払い、血行を整えるには、私はこの方法をとるのだ。“
日付が変わり、ミッドナイトの本屋がはじまった。もうこのあたりになると、記憶があいまいだ。気合をいれるために、夜食のとろろそばを食べたことは間違いない。
まず、『かめくん』の読書会をやったことは覚えている。ストーリーの説明をして、過去と現在、虚構と現実が混じりあう作品だと説明したような気がする。
ぼくたちはその時、半分夢の中にいた。『かめくん』の世界と自分たちの世界、どちらが真実なのか曖昧な空間にいた。もしかしたら、いま本屋にいることが夢で『かめくん』の方が覚醒したときの世界かもしれない、と思った。
まぁ、この感想は、文章を盛り上げるために考えた、嘘の感想なんだけど。
『若きウェルテルの悩み』の読書会もやった。
ぼくには悩みがある。『若きウェルテルの悩み』のことを話そうとすると、頭の中にツルゲーネフ『初恋』が浮かんでしまうのだ。今回も例外なく、その症状が出てしまって、あらすじを話そうとしたら、『初恋』のことが口先からこぼれてしまい、慌てて訂正した。
この病気には、大学生の時に罹患した。当時、心理学の研究室によく遊びに行っていた。ぼくが最近読んだ本の感想を話すと「それが好きなら、これも読みなさい」と先生が色々な本を勧めてくれた。ある日、ツルゲーネフを読んだことを話すと、ゲーテを貸してくれた。翌日、先生の研究室で『初恋』と『若きウェルテルの悩み』についての話をしたのだ。その時の感想は全く覚えていないのだけれど、ぼくの頭の中で2冊がセットになってしまった。二枚貝のように、2つのパーツが強固に結びついている。
こんな話を当日の読書会で、導入にしようと思っていたけれど、すっかり忘れていた。
読書会を終えた後は、深夜2時からボードゲームをやった。
大人向けの積み木ゲーム「ヴィラパレッティ」で、真剣に高い塔を組み立てたりした。
ひらがなが書かれたサイコロ「もんじろう」で、笑えるワードを競った。
面白くて、眠くて、面白くて、そして誰もが眠かった。
もう力尽きて、寝袋にくるまる仲間もいた。
ぼくは幸いなことに、生き残っていた。
恐らく外では、空が白んでいるだろう。
目が霞んできたが、時間は分かる。朝の5時だ。
24時間本屋さんは、まだまだ続く。
その6(最終回)はこちら
https://note.mu/curryyylife/n/n0a379b42efac
※この記事は2019年5月2日~3日に、双子のライオン堂書店で行われたイベント「24時間本屋さん」の感想文です。感想ですので、事実と異なるフィクションが含まれています。
https://peatix.com/event/635701/view
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