「24時間本屋さん」の思い出 その6(最終回)
その1の記事はこちら
https://note.mu/curryyylife/n/n24d2938bc662
“1650年の春、サント・コロンブ夫人はこの世を去った。あとには2歳と6歳の娘が遺された。ムシュー・ド・サント・コンブは伴侶の死から癒えることはなかった。彼は妻を愛していた。「24時間本屋さん」を作曲したのは、そのときのことである。”
本屋で複数の寝息が聞こえてくる。
もはや起きているのは、ぼくと店長の2人だ。朝6時、世界は朝を迎えたが、我々は沈黙した。
なぜ、ぼくたちが起きているのか、それはこの後に用事があるからだ。店長は8時から渋谷のラジオに出演する。どうして、こんなクレイジーな企画の後に、出演予定を入れてしまったのか。後悔しても遅く、刻一刻とオンエアタイムは近づいてきている。
もはや、寝ることもできない。寝たらラジオの時間に起きれない。まんじりともせずに時が過ぎるのを待った。
6時になり、ぼくは少しだけ仮眠をすることにした。店長は寝ないらしい。冷たいフローリングの上に寝そべると、一瞬にして意識は吹き飛んだ。
誰かの携帯電話のアラームが鳴った。ぼくのだった。時刻は朝7時。店長がラジオ局へ出発する時間だ。
彼を見てみると、レジに座り、首を垂れていた。寝ていた。しかし、幸いな事に死んではいない。
「時間ですよ」と言った。「寝てませんよ」と返事が返って来た。ぼくは無視した。
無事に店長はラジオ出演を果たし、ぼくも本屋から電話で出演をした。その音源はどこかにあるので、聞いてほしい。本当に24時間イベントをやっていたことの証拠だ。
みんなで朝ごはんを食べた。
昨日の残りにブドウとパンだ。
なんとなく意識がはっきりしたところで、『鼻』と『鼻』の読書会をやった。
ゴーゴリと芥川の作品を比較しながら話をした。
もし、まだ『鼻』を読んだことのない人がいたら、ゴーゴリはクソ面白コンテンツだということマジで知ってほしい。
読書会の途中で店長が帰ってきた。
ぼくたちは24時間の戦いを称え合い、口々に感想を話した。ここでどんな話をしたのか一つも覚えていない。
「解散」の掛け声をして、24時間本屋さんは終わりを告げた。
そして仲間たちは、家に帰っていった。
のだったらよかったのだけれど、なぜか1時間くらいだらだら過ごした。
体力の限界を迎えているものの、家に帰るのは惜しいらしい。
なんだか不思議な一日だった。嘘みたいな時間を過ごした。もし、店の外にでたら世界が滅んでいたり、異世界だったりしても驚かないだろう。
ぼくたちは奇妙な経験をして、日常に帰っていく。
最後に、この記事を読んでいるあなたが「24時間本屋さん」をやりたいと思っているのだとしたら伝えたいことがある。
そんなこと、やめといたほうがいいよ。
おわり
※この記事は2019年5月2日~3日に、双子のライオン堂書店で行われたイベント「24時間本屋さん」の感想文です。感想ですので、事実と異なるフィクションが含まれています。
https://peatix.com/event/635701/view
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