ー夏の魔物ー
「♪夏~は股間が痒くなる~♪痒くなったらデリケアエムズ~♪」のCMが耳から離れない。
家族団欒の場を切り裂くであろうキャッチーなメロディーとインパクトのある歌詞。
男性は誰しもが夏になったら股間が痒くなるんだという印象を与えかねない。
「お兄ちゃん、夏は痒くなるの?」などと質問されたらどう答えるのだろうか。
例え痒くても強がって「全員が痒くなる訳じゃねぇよ」と答えるのが一般的だろう。
もう10年以上前になるだろうか。
私の股間が痒くなったことがある。
当時はデリケアエムズという商品があることを知らず、
「これは高校時代に流行っていたインキンに違いない。野球部の奴らが夏の合宿後に集団感染してたやつだ。風呂で感染したって言ってたけど…俺もこの前温泉行ったしその時か…。」
「病院に行かなくては…。」とすぐに思ったのだがやはり箇所が箇所だけに恥ずかしくてなかなか行けなかった。
半年ほど放置しただろうか。
痒み止めやかぶれを治すクリームを誤魔化し程度に塗ってみたものの症状は悪化の一方で何をしていても股間が痒い。
電車で座っていても、仕事をしていても、ご飯を食べていても、常に痒くて集中出来ない。
これはマジでヤバイ…。それに他の病気だったらもっと大変だ。
私は意を決して病院に行くことにした。
家の近所の病院だとナースや客にコンビニかスーパーでばったり会ったら恥ずかしい。会社の近所も同様に却下。
私は自分が住んでるところから二つ先の駅にある病院を選んだ。
少し緊張しながら病院に入った。
静かな待合室で数人の患者が待っているが股間が痒くて来たのは私だけだろう。
受付で問診票を書かされる。
どこが?…股の辺り
どのように?…痒い
他に病気は?…なし
アレルギー…なし
どこが?に股間と書こうかすごく迷ったが書けなかった。
絶対に受付の女性に笑われると思った。
私にとって女性には知られたくない秘密の症状なのだ。
しばらくして名前を呼ばれ診察室へ通された。
ドアを開けて私は目を疑った。
女医…
診察室には若めの女医が座っていた。
ナースが座っているのかと思ったがその後ろにベテラン風なナースが立っていたので間違いなく女医みたいだ。
女医「では患部を見せて下さい」
私「え…!?」
私は一瞬戸惑った。
目の前には女医とナース。
診察室がやけに広く感じる。
ナースのおばさんはアラウンド50ぐらいか。ベテランの匂いがプンプンする。
恥ずかしがってる私を冷たく蔑むような目で見ている。
治療しに来たのだから患部を見せることは重々承知の上なのだがまさか女医だとは聞いていなかった。
しかし、物は考えようで男性の医者だったとしても恥ずかしい行為には違いない、むしろ嬉しいシチュエーションなのではないか。
ズボンを下ろして…
パンツを下ろして…
そして患部を見せて…
患部は私の股間…
股間…
おち○ち○…
「お○ん○ん見せて?」
女性に言われたい言葉ベスト10に入るであろう言葉をまさか病院で聞くことになるとは思わなかった。
ただここでパンツを下ろして全てをさらけ出すのは物凄い抵抗があった。
しかし患部を見てもらわないことには治療もしてもらえない…。
時間にしたら数秒だろう。私は今までにないくらい自分の脳を回転させた。
どうしたら恥ずかしさを回避して治療してもらえるか。
私はパンツの横から金玉を出した。
竿を見せずに玉ちゃんだけを出したのだ。
これほど画期的な方法はないだろう。
私は数秒で考えた天才的な発想に陶酔していた。
陶酔しきってニヤニヤしていたのかもしれない。
気付くと女医の後ろに立っているおばさんナースが先程よりも蔑んだ目で私を見ている。
女医が診察を始めた。
ピンセットで細胞を少しとって検査するという。
少しの皮膚(玉の皮)を液体の入った試験管に入れて何やら調べている。
間も無く結果が出た。
女医「ん~菌は見当たらないですね。なので掻かなければ治ります」
俺「え?」
女医「でも痒みは我慢出来ずに無意識に掻いてしまいますから、少し強めの痒み止めを出しておきますね」
俺「あの、インキンじゃないですか?」
女医「じゃないです」
俺「かぶれを治すクリームとか塗ってたんですが」
女医「悪化します」
どうやら私は掻かなければ治る症状を自分で掻いて悪化させ、見せなくてもいい股間をわざわざ女医に見せに来てしまったみたいだ。
その後、薬の効果は素晴らしく数日で痒みも消えた。
医療はすごいなぁと感心してしまったものだ。
あれからもう10年も経つのか。
そんな若かりし頃の失敗談を思い出しているが、10年振りに私の股間が痒くなっている。
私はインターネットを駆使して綺麗な女医のいる皮膚科を探している。