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白井未衣子とロボットの日常《反転》 17・絶縁の日

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サヨナラ、スキダッタヨ。 ※エピローグあります。
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2024年5月の記事一覧

早く!と私は急かしていた。

和希兄ちゃんは察して、形態チェンジを承諾した。
『わかった。すぐにやるぞ!』
『ああ!イライラする!』
勇希兄ちゃんは余程ストレスが溜まっていたのか、苛立ちの声をあげた。

即決したせいで、チェンジに移行するための発光が行われた。

【パスティーユ・フラワー】にチェンジするのは、久しぶりの感覚がする。
タレス内部に最初に乗り込んだ時、【フラワー】で待ち構えていたのに。

自身の周囲全てを蹴散らす戦法が得意なタイプは、対人戦闘には向かないんだろう。
【サニー】か【スカイ】で挑むのは仕方がない。

この2形態で決めていたのだったら、私は文句を言わない。
だけど、戦況は埒があかないまま。

【ブラッドガンナー】は、武人兄ちゃんは時々ゼェゼェと、息を吐いている。
体力の限界を見破っているのに、水色と黄色の2形態は一向に終わらせる気配がない。
殆どかわされている。

対する【ブラッドガンナー】も、私達を倒せる機会は沢山あった。
そもそも宇宙全体では、半世紀ぐらい前から出没したのにもかかわらず、大量繁殖したHR。
生物と機械の交配の元で産まれ落ちた、禁断の生命体。
武人兄ちゃんは同じ仕組みで生まれた者達からも、恐れられている存在。

マルロから聞いた話によると、
『クーランが誇張しているとして信用しない者がいたのも事実だが…。
ラルクが強いHRであるのも事実だ。
何より奴は、立ち回りと取捨選択が得意だ。不要物を切り捨てる事も厭わん。
よく、地球産の基地を存続させたな…。』
という評価であった。

チェンジは一瞬で終わる。
パァン、と風船の膜が割れるように。

【パスティーユ】シリーズは10Mは超える大きな人型ロボだ。
それでも、外見の雌雄がきちんと整えられている。
【サニー】が豪快なマッチョメン、【スカイ】はスリムなジェントルマンという、『男性』を思い起こさせる。

反対に【フラワー】は、キュートなプリンセス像を模したロボと化している。
本物の、『女性』型のロボだ。
機体のラインの色の大半がピンクで塗られているのも、『女性』を強調するアクセントになっている。

【フラワー】の右手には、自慢の武器であるくす玉のついたロッドが握られていた。

ぶっちゃけ言うと、右手だけで軽く降って弾を飛ばす方が早いかな…と考えてはいた。
面倒くさくても、火力を重視した。
ロッドは両手で握る。
リュート王子の専用機【ホーンフレア5th】みたいに、突き槍の構えを取った。
右手を前に、左手を後ろに配置した状態に固定して。

これはロッドであって、槍ではない。
上部の先端は槍の刃先ではなく、くす玉のオブジェ。
物理的に押して、相手の機体にはぶつけない。

本来なら、兄達にエネルギーの残量を確認してもらいたかったけど、流石にそこまでの猶予はない。
使い切る覚悟の上で、やるしかないんだ。

【ブラッドガンナー】とは、至近距離まで来たのか?と焦りそうな所まで接近している。
形態チェンジの光を発したおかげで、多少のタイムラグが生じた。
これを利用するしかない。

もう少し貯めてから発射したかったけど、先に銃の発砲を許してしまう。
だから、淡いピンクのビームを出した。

黒いロボの姿が全く見えなくなってしまうまで、ビームを出し続けた。
いや、消し炭にしようという気持ちで、ビームの威力を上げている。
ロッドから放たれる淡いピンクのビームは濃さを増し、小径の幅も広がった。
視界が狭い空間だと、ピンクの景色のみで区別がつかない状態になっている。

【ブラッドガンナー】を探そう、という気を起こさせない程。

『未衣子!最後の予備はもう変えている!』
「報告ありがとう、和希兄ちゃん!」
『悠長に言ってんじゃねぇよ!あと8割切ってんだからな!』
「あら、エネルギーの残量は読めるんだね?」
『いつまでも俺の頭を舐めんじゃねえよ!』

勇希兄ちゃんが怒鳴ったけど、彼の反論はいつも通りだから気にしていない。

エネルギーの残量の減少は深刻だ。
【パスティーユ】はエネルギーを完全に使い切ると、機能を停止する。
戦闘にて武装展開できないだけでなく、様々な場所への移動も不可能になる。

現在、私達は未だに研究所の中だ。

研究所から、タレスから脱出しないといけない。
しかし、エネルギー切れを起こしてしまうと…自力で出られなくなってしまう。
マルロのロボ形態【チタン・キュレン】が間に合えば、いいのだけども…。

過度に期待しすぎてはダメだ。
あそこの広間で、マルロは自戒の念も込めて食い止めている。