【建築家の頭の断面図】製作建具は本当に必要なの?①(住宅)
昔は「建具屋さん」という人たちがたくさんいたけれど、和室をあまり造らない現代において、左官職人と同じようにかなり減っている気がします。設計事務所は製作建具を使いたがる傾向にあり、オリジナリティを出す、シンプルに納めることを目的としてコストをかけていることが多いかなぁって思うんですが・・・
様々な建築を見ていて、本当にそこを製作建具にする必要があるかなぁって思うことも多々あります。
ちなみに僕は製作建具と既製品建具を混合しながらデザインするのですが、その理由はこんな感じです。
既製品では表現できないデザインを、トータルのインテリアバランスを見て製作建具を採用する
シンプルに納めるなら既製品建具は機能的に優秀なのでメーカー品を使う
常にコストバランスを見て使い分けるので全てを製作建具にすることはしない
これは住宅に限っての考え方です。店舗の場合はシンプルな建具でも製作することはあります。それはなぜかというと、一般的にテナント入りする改装の店舗の場合、図面が完成してから早くて1か月後には完成させなければいけません。その場合、既製品では納期が間に合わないからです。また住宅の工務店と店舗の工務店は得意分野が全く違うので、店舗の場合は比較的スムーズに製作建具をすすめれます。(このあたりはまた違う記事でお話します)
さて、少し話が逸れましたが、まず既製品建具の良さとしては、
コストが安い
開閉実験をしているので商品の機能性(バランス)が非常に良い
シンプルなデザインなら製作建具に負けないものが出てきている
この最後の「3」のデザインについてですが、最近ではびっくりするくらい見付の細い(正面から見た枠の幅)建具が大手メーカーから出てきてるので、製作でコスト掛けるより全然良いなぁって思う商品もあります。
このガラスの枠・・・すごくないです?
これをやられると建具屋さんもかなりきついなぁって感じます。
僕が思うに、大手メーカーは普及しそうなターゲット層向けに商品をつくるので、感覚としてミラノサローネで出てきたデザインを4~5年遅れで商品リリースするイメージです。それがここ数年、シンプルなものが根強く人気なので、デザインの流行サイクルがメーカーの発売時期とラップしてきたのかなぁって思います。
このことで、日本の住宅業界のデザイン力は少なからず底上げしてきたと感じているのですが、一方で「人と同じデザイン」になりがちです。
「人と同じが嫌」という方は、全体のインテリアバランスを見ながら部分的にでも製作建具を入れると、コストを抑えながらオリジナリティを発揮できるんじゃないかなぁって思います。具体的にcdwの実例を見ながら、何を考えながらデザインしたかをお話したいと思います。
※間違っても建具単体で「かっこいいから」というデザインはしない方がいいです。全体とのバランスがとれず、チグハグなインテリアになるからです。
①木の割れを意識した収納建具
こちらはリビングの収納とキッチンの収納を兼ねた壁面収納です。このデザインは木の色をある程度の面積で採用して、少し柔らかい雰囲気を醸し出したかったからなのですが、ポイントは扉の開く部分の角度です。
そもそも木って乾燥すると割れたり反ったりするので、その自然の割れを彷彿させるように、開き部に角度を付けて割れを表現しました。さらにここからがポイント・・・
その割れ目の奥に、モールディング装飾をして色を入れました。これはクライアントから「この色をどこかに入れたい」と指定された3色があり、それが家族の絆を深めるものだったので、さりげないヌケ感として採用しました。
本当に簡単な「ひと手間」なのですが、これをすることでただの収納が、このクライアントの個性となり、ヌケ感になるんですよねぇ
こういうことを丁寧にデザインすること・・・大事と思いません?
②木の割れを意識した収納建具
こちらも①と同じ木の割れを意識した収納ですが、こちらは取っ手をオーダーで造り、据え付けました。ホワイトを基調とした比較的明るい空間の中で、こちらも木の配分を考え、この扉と合わせてダイニングテーブルもオーダーでデザインして整えました。(ちなみにcdwは設計事務所ですが家具も造れます)
上部に吊るされているトム・ディクソンの「コッパーライト」に負けないアクセントを少しだけ柔らかめに入れたかったので、このデザインにしています。
↓TOM DIXON
ポイントは造り方です。①の収納建具は収納含めて家具工事として造っているのですが、こちらの建具は大工工事で収納内部を造り、建具のみ製作しています。それによってコストがかなり変わるんです。
コストイメージ:家具工事>大工工事+製作建具
大工工事って基本的に建物の坪数によって坪単価計算で手間費を決めている工務店が多いため、個別で人工(ニンク)を計上する家具工事とは違うんです。コスト重視なら「大工工事」を多用する(大工さんには嫌がられますが)、精度を求めるなら「家具工事」といった使い分けが良いかなぁって思います。
ちなみにこの大工工事を利用する場合、下地の壁の厚みや建具丁番想定などが必要なので、知識や経験の少ない設計者の場合、仕上がりがおかしくなります。なぜかというと大工さんから見れば「手間な作業」、実施設計(図面描く人)から見れば「家具図のような詳細は描けない」ということが起こり、結果的に姿図(外形図)のみの指示で詳細図を描かず、現場で「納まるように納める」になってしまうからです。
こういうディテールをこだわりたいという方は、デザインをする人が誰なのか、こだわりはどのくらいあるのかをしっかり見極めた方がいいかなぁって思います。
・・・すみません、本当はこの記事だけで完結させるつもりでしたが、かなりの量になりそうなので、「vol.2」で続きを書くことにします。
今回はここまで。
ありがとうございました。
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