[レポート]遠隔医療の現状と課題

この10年で情報通信技術は目覚ましい成長を遂げたにもかかわらず、我が国における遠隔医療の普及は進んでいない。

本稿では遠隔医療の普及の律速段階となっている諸問題を概説する。

目次

  1. 遠隔医療の有用性と安全性

  2. 遠隔医療の収益性

  3. データの二次利用

遠隔医療の安全性

患者の利益の保護の観点から、情報の非対称性の甚だしい医療分野においては、医学的根拠に基づいて適切な法規制が行われるべきだ。一方で、過剰な規制はイノベーションを阻害し、医療の発展を遅滞させるから、絶えずエビデンスの創出に努めなければならない。

遠隔医療では、その性質から、患者を医師を直接観察することができないこと、緊急時に適切な処置を行えないことが明らかであるので、遠隔の診療であっても、対面診療と同等の安全性が期待される疾患群に限定して、適応となるのが妥当であろう。

現状では、適正な規制のための安全性に関するエビデンスが不足しており、有用である可能性が高い、多くの患者の命を助け、またはQOLを著しく改善する可能性のある遠隔医療分野のアイデアの多くが、社会実装されていない。

遠隔医療の収益性

遠隔診療に関する法規制は、この5年間で大きく変化した。平成30年の厚生労働省医政局の通知によって、医師法20条の新たな解釈が示され、事実上の遠隔医療の全面解禁が行われた。

この領域の法制度、保険診療における取り扱いは、非常に不確実性が高いので、企業の参入障壁となっている。このことは、臨床研究への投資の不足と関連しており、有用性に関するエビデンスが不足している。有用性に関するエビデンスの蓄積は、社会実装の最大の障壁のひとつである、医療保険の適応を取得するのに重要だ。

いわば負のスパイラルに陥っているので、きちんと対処される必要がある。政府は明確な方向性を示すとともに、遠隔医療の取り組みに対する補助金を拡充すべきだ。

データの二次利用

遠隔医療の収益性を高めるために、遠隔医療の過程で生み出される膨大なデータを、適正に活用することが必要だ。昨年に個人情報保護法が改正され、若干の規制緩和がなされた。適正に利用すれば、特別の同意を必要としないという仕組みを社会に浸透させる必要がある。

遠隔医療で生じるデータは、疫学研究や臨床研究を加速させる。一定の基準を満たした研究者、あるいは製薬企業等が、お金を支払ってデータを利用する仕組みは、遠隔医療の収益化を容易にする。さらに、遠隔医療の有用性を示すのにも役立つ可能性がある。

まとめ

本稿では、遠隔医療の普及を阻む諸問題を概説した。遠隔医療の持つポテンシャルは過小評価されているように思われる。特に、医師の不足する地域の患者や希少疾患の患者の命を救い、またはQOLを大幅に改善する。

遠隔医療の費用対効果は高いはずだから、より多くの人にこの話題に興味を持ってもらい、ポジティブな政治的決定が行われることを強く希望する。

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