見出し画像

ごめんね、おばあちゃん

2月某日、叔母から連絡がありました。
祖母が胸を押えて酷く痛がり、倒れたと。
間もなく日付けも変わるかという時間だったと思います。
お世話になっている高齢者向けの施設から病院へと救急搬送され、検査の後で知らされた病は心筋梗塞でした。

わたしが地元を離れている間に、祖母は同じ病で1度入院、手術をしています。
今も日常を送れているのは埋め込まれているペースメーカーが規則正しいリズムを送ってくれるから。
とても人当たりのいい自慢の祖母なんです。
そんな祖母だから、たくさんの人の力、化学の力、医学の力をお借りして生きてくれています。

物心ついた時には祖父母は離縁しており、祖母は単身逞しく生きてました。
内職の造花の製作をする祖母の手元をじっと見るのが好きでした。
葉っぱや花びらの形に切り取られたパーツにコテをあて、力加減に注意をしつつ少しの回転を加えながら引き抜く。
綺麗な曲線を描くパーツに針金をあて一つにまとめていき、真ん中にビーズやモールで作られた雄しべや雌しべをあしらったらあっという間に一輪の可愛らしい花が出来上がるんです。

祖母に教えて貰いながら、一緒に花を作るのが好きでした。
祖母と違い不器用なわたしは何度も火傷し、その度にほんの数的水を混ぜた砂糖とアロエで治療してもらってました。痛みがふわりと消えてなくなるんですよ、これ。
この火傷に砂糖、祖母以外にやってる人を見聞きしたことがないのですが知っているよって方はどれくらいいるんだろう。

そんなふうに一緒にお花を作る時にいつも聞かせてもらっていた、おばあちゃんとおばあちゃんの女の約束。
わたしが4歳の時に亡くなった母方のおばあちゃんは、父方のおばあちゃんに自分の分まで迷子の花嫁姿を見送ってあげて欲しい、旦那様と並ぶ世界で一番幸せな花嫁を見守ってあげて欲しいとお願いしていたそうで。
おばあちゃんはいつも『この約束を果たすまではばあちゃん死なないからな』と笑って撫でてくれました。

『白無垢にもドレスにも、ばあちゃんが一番綺麗な花作ってやるからな』

いつも愛情に満ちた微笑みで、撫でてくれたんです。

そんな祖母もいつの間にか90歳を超え、認知機能も酷く衰え、大病を繰り返し……。
いつまでも元気で愛情深いおばあちゃんと、少しの間お別れする覚悟を持たなければいけない時がきてしまいました。

お医者様からはもってあとひと月程でしょう、と告げられています。
現在入院しているのは緊急性の高い患者さんの受け入れを行っている専門の病院です。
病状が落ち着けば最初に救急搬送された病院への転院が決まっていますので、わたしがおばあちゃんの意識があるうちに会えるのはもうこの瞬間しか残されていません。

おばあちゃんの意識が戻ったと聞かされた時、おばあちゃんたちの願いを、約束を果たしてあげるために架空の婚約者でもでっち上げて連れていこうかとも考えたんですけどね、やめました。

現実的じゃないですし、大好きな人以外の男と嘘でも結婚しますなんて言いたくないなと思ってしまって。
こんな時なのに、自分を優先してしまう孫で申し訳ない気持ちももちろんあるんです。
それでもやっぱり、耐えられる自信がありません。

おばあちゃんには、笑顔で会いたいから。

ワガママで手のかかる孫でごめんね。
わたしだけ、旦那様も曾孫も会わせてあげられなくてごめん。
きっと約束を破らせちゃう、ごめんなさい。

だけどね、おばあちゃんが大好きな気持ちは他の子たちにだって負けないよ。
大好きだよ、おばあちゃん。
早く会いに行きたい。
会えたら、その時はわたしが大好きになった人の話を聞いて欲しい。
今誰よりも幸せなわたしと、過ごして欲しい。

何かのきっかけのひとつにでもなれたなら嬉しいです\(*ˊᗜˋ*)/♡ヤホー