Future Bass黎明期を辿る80曲
突然ですが、Future Bassの歴史を語りたいと思います。
『デレマス曲から辿るFuture BassとJersey Club 〜 Taku Inoue・石濱翔の楽曲から』を書いているうちに、Future Bass黎明期にどういった潮流があったのか、1本の記事にまとめてみようと思い立ちました。特に2010年代初頭から、Future Bassが流行期を迎える2014年前半頃までの状況についてまとめます。
まとめようと思ったのは、この時代のFuture BassがSoundCloudの様なサイトで発表されてきた特性上、既に消えてしまったり、遡るのが難しくなってきているからです。
80曲を引用しているので少々長いかも知れませんが、お付き合い頂ければ幸いです。
※ 楽曲名は「」、アルバム・EP名は『』、レーベル名は<>で表記します。また、楽曲の日付は、リリース日か、それより早くSoundCloud上などで視聴が公開されていれば、そちらを優先しています。
(8/27 10:25追記 Shawn Wasabiの功績は外せないと思ったので追記しました)
(9/18 17:11追記 「Yunomi - ゆのみっくにお茶して」の投稿が2014年6月だったので追記しました)
ⅰ. 2010年代前半の状況
2010年頃のインターネットの音楽シーンを概観すると、既にMyspaceの人気は衰えており、ダンスミュージックやエレクトロニカを扱ったネットレーベルが国内外で乱立し、Hip-HopシーンではUSのラッパーがミックステープと呼ばれるフリーのアルバムを配布するのが一般的になっていました。その他、インディペンデントなアーティスト達が動画サイトで楽曲を発表し、ブログやフォーラムでmp3を配布すると言ったアングラな動きもありました。
そんな折、まず2011年頃にBandcampに注目が集まります。Bandcampはアーティストが個人で直接楽曲やアルバムを販売できるサイトで、当時としては非常に画期的でした。BandcampからはCloud Rap、Chillwave、Witch House、Seapunk、Vaporwave、Future Funk、Gorgeなどのジャンルが有名になりました。また、XXYYXXの様なアーティストがBandcampでアルバムをセルフリリースし、話題を集めました。
並行して、2011年末までにSoundCloudにユーザーが集まり始めます。SoundCloudには世界中のトラックメイカーやレーベルのアカウントが集い、上に挙げたジャンルも含め、多様なクラブミュージック、ビートミュージックが公開され、拡散されました。
2012年のSoundCloudでは、当時注目されていたJuke/footworkや、XXYYXX以降と言うべきR&Bの声ネタをサンプリングしたアンビエントなTrapが流行していました。2013年4月頃からJersey Clubが爆発的に流行し、トラックメイカー達によって、無数のJersey Clubが作られることとなりました。同年から、現在のFuture Bassと呼ばれる音楽の萌芽が見られるようになり、2014年にはFuture Bassが流行期を迎えました。
ⅱ. Future Bassとは
Future Bassを一言で説明するのは難しいですが、現在Future Bassとされているジャンルの特徴を以下に列記します。
・ BPM130〜160でTrapのビートを基本としてハーフのリズムを取る。
・ きらびやかな音作りで、デチューンした音色のリードシンセが使われる。
・ クラーベのリズムやキメを多用した派手な展開。
・ アルペジオが鳴らされる。(アルペジオとは和音を構成する音を一音ずつ順番に弾いていく奏法のこと)
・ ピッチアップされたヴォイスサンプルが使われる。
・ 特徴的なシンセの音色が使われる。例を挙げると、ローパスフィルターを数十msで開くことで作る「ミョワン」「ポワン」と言う音色。「ヴァヴァヴァヴァ」と言うノコギリ波を細かく刻んだ音色。サイドチェインコンプかオートメイションで描いた「ッヴァーッヴァー」と持ち上がってくる音色。LFOの周波数を変化させるかそれに類するオートメーションを描くことで実現される「ミョワワワ〜ン」と言う音色。または、ドライなノコギリ波を「ジャーン!」と盛大に鳴らし、リリースは残さず切ってしまう使い方など。
Future Bassのこうした特徴は、例えばRustieやFlume、Wave Racerと言った個別のアーティストの影響だと言い切ってしまうことも出来ます。
しかしながら、ここではより有機的な解説を試みます。Future Bassの潮流を生んだ2010年代前半のトラックメイカー達が、その時々の流行や、フレッシュなサウンドを感じ取りながら、互いのアレンジを模倣し合うことで、同時多発的にFuture Bassと言うジャンルが形成されていった様子を時系列順に追ってみたいと思います。
ⅲ. 2013年以前 〜 Future Bass前夜
まず、2009年〜2012年にかけてリリースされたクラブミュージックの中に、それまでのクラブミュージックのジャンルでは区別出来ない楽曲群がありました(日本では総じてベースミュージックと呼んでいたと思います)。
こうしたものの中から、Future Bassの潮流に影響を与えたと思われる楽曲を発表順に紹介します。
【Hudson Mohawke - Fuse (2009年10月)】
まず最初に紹介したいのは、2009年に<Warp Records>からリリースされたHudson Mohawkeのアルバム『Butter』です。このアルバムはそれまでのジャンル枠組みにとらわれない多彩なビートと、メロディアスで派手な展開の楽曲で構成されており、「時代を10年先駆けていた」と言われています。特に、テクノの名門<Warp Records>からのリリースとあって、大きな話題となりました。そのポップで派手な展開や、どこか可愛らしいメロディ、ピッチアップした声ネタなどに、後のFuture Bassの要素を感じさせます。
【James Blake - CMYK(2010年5月)】
James Blakeは2011年2月の1stアルバムがポスト・ダブステップと評され、高い評価を得たことで有名ですが、それ以前には<R&S Records>からこんなトラックをリリースしています。ビートはBurialの様なDubstepの影響が色濃いですが、聴きやすいコード進行のノコギリ波シンセと、ピッチアップされた声ネタの組み合わせは原Future Bass的です。
【Rustie - Ultra Thizz(2011年7月)】
【Rustie - Surph feat. Nightwave(2011年10月)】
Hudson Mohawkeと同じく<Warp Records>からリリースされたRustieのアルバム『Glass Sword』に収録されている楽曲です。このアルバムはFuture Bassの歴史を語る上で欠かすことができません。
Rustieは2007年頃から活動しているトラックメイカーですが、2011年10月に<Warp Records>からリリースしたこのアルバムで一躍有名になります。
「Ultra Thizz」はメロディアスかつ、クラーベのリズムで打ち込まれるド派手な展開が非常にFuture Bass的です。こうした「キメ」を多用した展開は、後のFuture Bassの大きな要素の1つになっていきます。
「Surph」はTrap由来のビートに、「タッタッタッ」とクラーベで打ち込まれるシンセ、きらびやかな音作りやピッチアップされたヴォイスサンプルが後述のWave Racerにも影響を与えていると思われます。
【XXYYXX - About You(2012年3月)】
XXYYXXは当時16歳のトラックメイカーで、こうしたダウナーでチルなTrapをBandcamp上でセルフリリースしていました。レイドバックしたビートに、物悲しく静かに鳴るサイン波の和音、歌う様なボイスサンプルから構成されたアンビエントでダウナーな楽曲の数々が話題となりした。こうした音像は当時ポスト・ダブステップと呼ばれ、2011年2月にリリースされたJames Blakeの1stアルバムに追随するものと捉えられていました。実際「James Blake - CMYK」(2010年5月)ともやっていることは近いです。XXYYXXの楽曲はBandcampやSoundCloudで多くのフォロワーを生むことになります。Future Bassとはまた少し違う音像にはなりますが、当時はこうしたメロディアスなTrapが流行していたと言う背景があります。
【XLII - Thro-Yo (BROKEN HAZE REMIX) (2012年4月)】
日本のトラックメイカーBROKEN HAZEがイギリスの<Civil Music>からリリースした楽曲で、XLIIと言うビートメイカーのEPに収録されたRemixです。Dubstepの影響下にあるものの、Hudson MohawkeやRustieに呼応していると思われるきらびやかなシンセとピッチアップされた声ネタ、2:32からのキメの展開などの要素が、2012年リリースにも関わらずFuture Bassを感じさせます。
【Hermitude - HyperParadise (Flume Remix)(2012年6月)】
【Flume - Insane Feat. Moon Holiday(2012年11月)】
Flumeは<Future Classic>からデビューしたオーストラリアのアーティストです。2012年11月の1stアルバム『Flume』はオーストラリア本国でチャート1位になる等、この手の音を作るアーティストとしては早い段階でヒットしており、Future Bassを語る上で重要なアーティストとして数えられます。
Flumeの楽曲で注目したいのは、サビやドロップにおいて、8分または16分のリズムでバッキングのシンセが「ヴァヴァヴァヴァ」と鳴らされる展開です。Flumeはこの展開を更に進化させていくことになります。
【Lindsay Lowend and Jonah Baseball - Brian Williams(2012年8月)】
Lindsay Lowendは2012年7月頃からSoundCloudで楽曲を発表していたワシントンのトラックメイカーです。初期はXXYYXXの様なR&BネタのアンビエントなTrapを作っていて、そうした流行の中にあるものだと思われいていましたが、中でもLindsay Lowendはゲーム音楽にルーツがあるようで、チップチューン感のあるシンセやアルペジオをかなり早い段階でTrapと融合させていました。
(共作のJonah Baseballも後々SoundCloudで楽曲を発表し始めます。)
【Alizzz - Tactel(2012年8月)】
Alizzzはスペインのトラックメイカーで、ヨーロッパのレーベル <MofoHifi>からデビューしました。この「Tactel」は、先に上げたHudson MohawkeやRustieの影響を感じさせつつも、「Neon Lights」が80年代Discoに影響を受けていることから、当時人気だったChill Wave〜80年代シンセポップをルーツとしてこういったサウンドを作るようになったと思われます。
【Bobby Tank – Afterburn(2012年8月)】
Bobby Tankは2011年デビューのトラックメイカーです。初期はBrostepを作っているのですが、<MofoHifi>からリリースした「Afterburn」は、同レーベルのAlizzzとも共鳴した、きらびやかなサウンドとド派手な展開にアルペジオを乗せるアレンジでFuture Bassを感じさせます。
【Cid Rim - Draw (Dorian Concept Remix)(2012年8月)】
オーストリア出身のビートメイカーCid Rimの楽曲を、同郷のDorian ConceptがRemixしたトラックです。波形を見ていただくと分かる通り、0:28から急に「ジャーン!ジャーン!ジャーン!ジャーン!ジャーーーーーーン!」と言う大仰なシンセが鳴り響き、めちゃくちゃビックリします。このパワフルな展開が強烈に印象に残るため、その後のキメを多用するFuture Bassにも影響を与えたのではないかと筆者は勝手に思っています。
【Cashmere Cat - Secrets + Lies(2012年10月)】
Cashmere Catは2012年10月に<Pelican Fly>からリリースされたEP『Mirror Maru』が話題を呼んだアーティストです。この頃のCashmere Catはハープやカリンバ、オーボエと言ったちょっと変わったアコースティック楽器を使ったり、ピッチを上げ下げした不思議なヴォイスサンプルやリードシンセを使ったベースミュージックで、多くのフォロワーを生みました。
(正直Future Bassと言う言葉を聞くようになった2014年頃には、Cashmere CatをFuture Bassだとは1ミリも思っていませんでしたが、英Wikipediaや、『サウンド&レコーディング・マガジン』2015年3月号では、これもFuture Bassと言うことになっているので、Future Bassっぽいかなと思われる曲を紹介しました。Cashmere CatをFuture Bassとする感覚は、リアルタイムの日本のリスナーが使っていた「ベースミュージック」と言う括りに近いと思われます)
【Bear//Face - Taste My Sad】
2012年の最後に、Bear//Faceを紹介しておきます。Bear//FaceはBandcampでこうしたアンビエントなTrapをリリースしていたトラックメイカーで、Cloud Rapなどのラッパー達にトラック提供もしていたました。今ではBandcampは消えています。2013年になるとこうしたアンビエントなTrapの人気は、Jersey Clubに取って代わられていきますが、Chill Trapと言うジャンルとして残っていきます。
ⅳ. 2013年 〜 Future Bass萌芽の時代
2013年になると、今の耳で聞いても十分Future Bassと言える楽曲が登場し始めます。当時はまだ、それらをFuture Bassと言う同じ括りだとは考えていませんでしたが、「なんかこう言う感じの曲最近流行ってるな〜」と言う感覚が、SoundCloudを利用する世界中のリスナーとトラックメイカー達の間で広まっていきます。
【Ta-ku - BrokeAs(2013年1月)】
Ta-kuはオーストラリアのビートメイカーで、2009年からHip-Hop系のビートをリリースしています。オーストラリアはFuture Bass初期の重要なエリアになっていきます。Ta-ku自身はFuture Bassをほぼ作っていませんが、Flumeが彼の曲をRemixしたり、後述のWave Racer、Cosmo's Midnightと共にEPをリリースしています。そんなTa-kuが唯一制作したFuture Bassっぽい楽曲がこれです。Future Bassっぽいと言いつつ、当時流行していたXXYYXXや<Soulection>の様なR&Bの声ネタを使ったメロウなビートミュージックの性格も強い多面的な楽曲です。
【Flume - Left Alone (Bobby Tank Remix)(2013年2月)】
Flumeの楽曲をBobby TankがRemixしたバージョンです。細かく刻まれたノコギリ波や、サイドチェインコンプのかかった「ッヴァーッヴァー」と言う持ち上がってくるシンセが、だいぶFuture Bassらしくなってきました。
【Rustie - Triadzz(2013年3月)】
【Rustie - Slasherr(2013年3月)】
2013年3月リリースのRustieによる2曲入りEPから、2曲とも紹介します。
「Triadzz」では、2011年7月の「Ultra Thizz」を更に進化させた様な、大仰なシンセとオープンハイハットを「ジャンジャンジャーン!!!!!」と鳴らしてキメるド派手な展開があまりに鮮烈です。
「Slasherr」もサイドチェインコンプのかかったノコギリ波が8分で「ヴァーヴァーヴァーヴァー」と鳴る展開が余りにも気持ち良過ぎます。この「ヴァーヴァーヴァーヴァー」展開とTrapビートの組み合わせは、2013年末頃から登場するLove Trap(またはChill Trap)に多大な影響を与えていると思われます。
【813 - Elastique(2013年3月)】
813は2006年頃から活動しているロシアのトラックメイカーで、初期はHip-Hop系のビートを作っていましたが、2011年12月に<Donky Pitch>からリリースしたEP『Spectrum Riff』辺りからエレクトロな音作りに変わり始め、2013年に<Activia Benz>からリリースしたEP『Recolor』はきらびやかでポップなベースミュージックが人気となりました(Bobby Tankも参加しています)。特にこの「Elastique」はそのメロディやリードシンセの音色など、やっていることは現在で言うところのFuture Bassそのものと言っていいでしょう
【Miguel - Do You… (Cashmere Cat Remix)(2013年4月)】
Cashmere Catによる「Miguel - Do You…」のブートレグRemixです。これは日本でもメチャクチャ流行りました。EDMの様にビルドアップしてドロップでは盛大にシンセを鳴らして、キメを多用して盛り上げる展開がFuture Bassの典型の1つになっていきます。
【Alizzz - Collapse(2013年4月)】
【Alizzz - Whoa!(2013年6月)】
Alizzzが4月、6月と矢継ぎ早にリリースした2枚目のEP『Collapse』と『Whoa!』からのタイトルトラックです。「Collapse」は「ジャーンジャーンジャーンジャーン」と言うキメがとにかく派手。キメ展開が終わると賢者モードに入ったかのようにしっとりした雰囲気になるのも凄い落差があります。「Whoa!」は「Black Rob - Whoa」の声ネタを使ったのソウルフルなトラックで、これらもまた、サビのキメで盛り上げることに注力された楽曲だと言えます。
【Deon Custom - Pearls(2013年5月)】
オランダのトラックメイカーDeon Customのデビュー作。アレンジメントそのものにまだ拙さがあるものの、やっていることはFuture Bassと言えるでしょう。Deon Customは翌年にリリースする「Bliss」が人気を博することになります。
【Disclosure - You & Me (Flume Remix)(2013年6月)】
今では大スターとなったHouse・Grage系ユニットDisclosureの、FlumeによるオフィシャルRemixです。強烈なサイドチェインコンプのかかった「ッヴァー!ッヴァッヴァッヴァー!」と言うシンセアレンジは、後の「The Chainsmokers - Closer ft. Halsey」(2016年7月)で盛大にパクられています。
【Ghost Town DJ's - My Boo ( Wave Racer Remix)(2013年6月)】
【Wave Racer - Rock U Tonite(2013年6月)】
Future Bassの最重要アーティストと言っていいでしょう。Wave Racerの登場です。
Wave Racerはオーストラリアのトラックメイカーで、2013年6月にSoundCloudで公開した上記2曲が話題となり、同年8月にFlumeと同じく<Future Classic>からデビューします。
「My Boo (Wave Racer Remix)」はJersey Clubではありますが、シンセアレンジはWave Racerそのものです。ゲーム音楽に影響を受けたと言うWave Racerの楽曲は、聴いていてとにかく気持ちの良いシンセサウンドと小気味の良いアルペジオ、キャッチーなメロディと声ネタで構成されています。このサウンドはPUSHERやMaxoと言ったフォロワーを生んだ他、大勢のトラックメイカー達に研究され、多大な影響を与えました。
【bo en - be okay (with Avec Avec)(2013年7月)】
<Maltine Records>からEP『pale machine』としてリリースされた、ロンドンのトラックメイカーbo enと関西のアーティストAvec Avecの共作楽曲です。bo en自身が歌う多幸感に溢れた歌唱と、Avec Avecが以前から得意としていた「ホワン」と言うシンセに、ファンシーで可愛らしい世界観が魅力です。この曲自体はFuture Bassとはまた異なりますが、その後の国内でのKawaii Future Bassに影響を及ぼしたと思われる楽曲です。
【Lindsay Lowend – GT40(2013年8月)】
Lindsay Lowendの唯一のEP『Wind Fish』に収録されているFuture Bass風な楽曲です。ビートにJuke/footworkが取り入れられています。Lindsay Lowendは現在ではAntonio Mendez名義でハウスなどの楽曲を作っていて、Lindsay Lowend名義でのSoundCloud上の楽曲は消えています。今でもたまにLindsay Lowend名義のリリースがある他、このEPといくつかのRemix仕事が手に入ります。Anamanaguchi 、Lido、Sevyn Streeter feat. Chris Brownなど錚々たるメンツの楽曲をオフィシャルでRemixしていますが、SoundCloudではアニメネタのトラックを作っていたりしてオタクっぽかったです。
【Cosmo's Midnight - The Dofflin(2013年9月)】
【Cosmo's Midnight - The Dofflin (Wave Racer Remix)(2013年9月)】
Cosmo's Midnightは2012年にFlumeのRemixが話題となったオーストラリアの双子のトラックメイカーです。彼らも初期のFuture Bassを代表するアーティストです。この「The Dofflin」はWave RacerとTa-kuのRemixを含む3曲入りのEPとしてリリースされ、Wave Racerの影響を受けたFuture Bassに仕上がっています。当時既に注目されていたWave RacerのRemixにばかり話題が集まりましたが、原曲1:12からの「ディディディディー」とノコギリ波が細かく刻まれたアレンジにも注目して貰いたいです。
【DCUP - Don't Be Shy (Wave Racer Remix)(2013年9月)】
「The Dofflin (Wave Racer Remix)」と同時期にリリースされたWave RacerのRemixワークです。この時期のリリース攻勢でWave Racerの注目度は一気に高まり、Future Bassの典型の1つとなっていく楽曲スタイルが知れ渡るって行きます。
【Feels Good - $aturn Vs. Just A Gent(2013年9月)】
【Matthew Parker - Bigger Picture (Just A Gent Remix)(2013年9月)】
2013年9月から、Just A Gent、Saturn、Kasboらによって、Love Trapとタグ付けされたトラックが公開され、注目を集めました。Love TrapはChill Trapとも呼ばれ、現在ではこの名前で残っています。Just A Gentはオーストラリア出身のトラックメイカーです。同じくオーストラリアの<Future Classic>勢とはあまり関係ないようですが、Trapにメロディアスで派手なシンセを乗せたFuture Bassの一派と言えます(ちなみにJust A Gentは2017年10月に「Future Bass Is Dead」と言う曲をリリースしています)。
【Seiho - Night Of Liar(2013年10月)】
関西のアーティストSeihoによる1曲。Seihoは独特の官能的な世界観を軸とした楽曲を発表しているアーティストですが、この楽曲はFuture Bass的なアプローチに振り切った楽曲となっおり、ビルドアップ→ドロップ→キメを多用した展開を見せるFuture Bassと言えます。オーケストラのように豪勢なシンセと、駆け抜けるタムのフィルインが余りにもグルーヴィーです。ダイナミックな展開に乗せて歌われるソウルフルな声ネタもかっこよすぎます。
【Panama - Always (Wave Racer Remix)(2013年10月)】
【Panama - Destroyer (Cosmo's Midnight Remix)(2013年11月)】
<Future Classic>のバンドPanamaの楽曲をWave RacerとCosmo's MidnightがRemixしています。もはや安定感があります。
「Cosmo's Midnight - The Dofflin」に見られた「ディディディディー」とノコギリ波を細かく刻むCosmo's Midnightのアレンジを、「Always (Wave Racer Remix)」ではWave Racerも取り入れています
【Saturn - LuvTrvp(2013年11月)】
【Just A Gent & Kasbo - Sovereign (feat. Jon)(2013年11月)】
Love Trap一派によるトラックもSoundCloudで続々と発表されていきました。「Rustie - Slasherr」(2013年3月)にも見られた、サイドチェインを効かせたノコギリ波が「ヴァーヴァーヴァーヴァー」と鳴る壮大な展開を存分に聴かせてくれます。
【Cosmo's Midnight - Goodnight (feat. Polographia)(2013年12月)】
Cosmo's Midnightによる2曲入りEPから。「Cosmo's Midnight - The Dofflin」や「Panama - Always (Wave Racer Remix)」でも登場した、「ディディディディー」とシンセを細かく刻んだアレンジが健在です。
【Flight Facilities - Stand Still feat. Micky Green (Wave Racer Remix)(2013年12月)】
「こいつは良い曲しか作れないのか?」となってきたWave RacerのRemixワーク。0:28に登場する「ワッ」と言う声ネタは、Future Bassが好きな方は他の楽曲でも耳にしたことがあるかも知れませんが、「DJ Blaqstarr & Rye Rye - Shake It To The Ground」が元ネタです。
【Tomggg - Popteen(2013年12月)】
2013年を締めくくるのは日本のトラックメイカーTomgggが<Maltine Records>からリリースした「Popteen」です。おそらく2019年現在にFuture Bassと言って多くの人が思い浮かべるのはこのサウンドではないでしょうか?Tomgggがこの「Popteen」で生み出した、ポップでファンシーな世界観と、おもちゃの木琴とグロッケンが転がるようにメロディを奏でるアレンジは、日本のトラックメイカー達に絶大な影響を及ぼし、Kawaii Future Bassと言う派生ジャンルを形成していくことになります。1:43からのダイナミックな展開も聞きどころです。
コラム 〜 「Future Bass」と言う名称について
実は「Future Bass」と言う言葉自体は2010年代初頭から存在しています。しかし、それらが指している楽曲は今で言うところの「Future Bass」とは異なっていました。例えばポスト・ダブステップだったり、チルいTrapだったり、人によって様々です。「Future」と言う単語が「未来っぽい」と言う形容詞として1つのキーワードであり、平易な意味で「Futureなベースミュージック」=「Future Bass」と表現することがあったのです。
「Future Bass」がジャンル名として使われるようにったのは2013年後半以降と思われます。この頃から現在の意味でのFuture Bassな楽曲が広まり始め、これらを括るジャンル名として「Future Bass」が使われ始めました。「Future Bass」以外にも「Neon」「Wavy」「Kawaii Bass」なんてのもありましたが「Future Bass」が定着した感じです。
しかも、ジャンルとしての「Future Bass」も細かく見れば意味が変遷していたように思います。2014年初頭までは、SoundCloud上で「Love Trap」や「Chill Trap」とタグ付けされたメロディアスなTrapのことを指していたと思うのですが、2014年後半にはWave Racerの様な楽曲を指す言葉になっていました。さらに2015年頃には、2013年以降のメロディアスで特徴的な音色のシンセを使ったベースミュージック全般を指すようになりました。
当時、無数のトラックメイカー達が、SoundCloudを介してFuture Bass的な感覚を共有しながら、独自のサウンドが生み出していったので、アレンジの幅も広がり、「Future Bass」が指し示すものもどんどん膨らんでいったのだと思います。
ⅴ. 2014年 〜 Future Bass流行に至る時代
2014年に入るとFuture Bassは増加の一途を辿り、もはや追いきれなくなります。「Future Bass」と言う名称も浸透していきます。ここでは<Monstercat>レーベルからFuture Bassの楽曲がリリースされるようになる2014年7月頃までを追ってみたいと思います。
【The Chain Gang Of 1974 - Sleepwalking (Just A Gent Remix)(2014年1月)】
【Kasbo - The Wind-Up Bird(2014年1月)】
Love Trap勢Just A GentとKasboの同時期のリリースです。Just A Gentは相変わらず「ヴァーヴァーヴァーヴァー」ですが、KasboはWave Racerの影響が出てきています。
【Romby - I won't be afraid(2014年1月)】
Rombyは当時17歳のトラックメイカーで、現在はSoundCloudもTwitterも消えています。楽曲は基本的にTrapだったのですが、非常にエモいトラックも作っていて、Love Trapに共鳴したトラックメイカーでした。
【Anamanaguchi - Prom Night (Lindsay Lowend Remix)(2014年1月)】
Lindsay LowendによるAnamanaguchiのRemixです。ビートはFuture Bass的とは言えないのですが、チップチューンの様なゲーム音楽アレンジのため、Future Bass文脈で紹介しておきます。
【Wave Racer – Streamers(2014年2月)】
Wave Racerのニューシングル。安定感が凄いです。1:36を聞くとわかりやすいですが、『ゼルダの伝説』のナビィの声ネタが使われています。これは「Rustie - Hover Rapes」(2012年10月)でも使われていました。
【Saturn - Love You (Just A Gent's Edit)(2014年2月)】
SaturnのJust A GentによるEdit。「モワンモワン」と言う音が特徴的で、おそらくこれはローパスフィルターにアサインしたLFOの周波数を変化させることで実現していると思われます。
【TNGHT - Higher Ground (Noï remix)(2014年2月)】
Noï(Noïthingness)はフランスのビートメイカーで、現在ではSoundCloudのアカウントを消しています。Trapの名曲「TNGHT - Higher Ground」を全く違う趣きのFuutre Bassに仕上げています。
【Justin Timberlake - TKO (Lido Remix)(2014年2月)】
後に絶大な支持を集めることになるノルウェーのアーティスト、LidoのSoundCloud上での鮮烈なデビュー作です。Wave Racerの様なポップな曲調とは異なりますが、「Rustie - Triadzz」や「Cid Rim - Draw (Dorian Concept Remix)」の様なキメを多用したドラマチックな展開のFuture Bassです。
この時点ではLidoが何者なのか日本のリスナーは全く知りませんでしたが、ノルウェーではlidolidoとして有名なラッパー・ポップスシンガーでした。
この後、Lidoは名作Remixを数多く作り、Cashmere Catと同じ<Pelican Fly>からEPもリリースします。
【Grant Bowtie - Reach(2014年3月)】
現在ではFuture Bassのヒット曲を数多くリリースしているレーベル<Monstercat>の最初のFuture Bass楽曲です。ディテールにはWave Racerの影響が強く感じられますが、よりEDM然としたBig Roomな音像に仕上がっています。
【<Moving Castle> - 『MOVING CASTLE VOL. 001』(2014年4月)】
AObeats、Manila Killaと言ったトラックメイカーが所属するレーベル<Moving Castle>のコンピレーション第一弾です。この頃になると、世界中の無数のトラックメイカー達がFuture Bassサウンドを模倣し始めるようになります。
【Lorde - Tennis Court (Flume Remix)(2014年4月)】
グラミー賞も獲ったニュージーランドのシンガーソングライターLordeをFlumeがオフィシャルRemix。聞き所は1:43からです。「Disclosure - You & Me (Flume Remix)」でも見せていたシンセアレンジが更に進化し、地の底から沸き上がってくるかの様な、壮大かつ、未だかつて聴いたこともない様な音像の音サビとなっています。
【813 –『Xoxo』EP(2014年4月)】
813によるふざけたジャケットの3曲入りEP。2013年3月の前作『Recolor』のポップさはそのままに、3曲目「XOXO」では「Always (Wave Racer Remix)」(2013年10月)などに聞かれるノコギリ波を細かく刻んだシンセアレンジを採用しており、明確にWave Racer以降のサウンドとなっています。
【Destiny's Child - Say My Name (Cosmo's Midnight Bootleg)(2014年4月)】
Cosmo's Midnightによる「Destiny's Child - Say My Name」のブートRemix。盟友Wave Racerと共にWave Racer型Future Bassのオリジネーターとして安定感のある仕上がりです。Jersey Club展開も入ります。
【Ryan Hemsworth - Ryan Must Be Destroyed (Wave Racer Remix)(2014年4月)】
トロントのアーティストRyan Hemsworthの楽曲をWave RacerがRemix。お互いの曲をRemixした限定500枚の7インチ・シングルとしてリリースされました。この曲では『ゼルダの伝説』のナヴィに続いて、スマブラのヨッシーの声ネタを使っています(0:28など)。
【Bobby Tank – Undone(2014年4月)】
Bobby Tankの2曲入りEP『Undone』のタイトルトラックです。2012年8月の「Afterburn」と同じくきらびやかな派手さはそのままに、「ミョワン」と言うシンセの音色がWave Racerの存在を感じさせます。
【Basenji - Speak With A Dofflin (Sable Remix)(2014年4月)】
<Future Classic>所属のシドニーのトラックメイカーBasenjiの楽曲を、オーストラリア西海岸の都市パース出身のSableがRemix。SableはSoundCloudに登場した頃はCashmere Catのフォロワーでしたが、このRemixはFlumeの影響を感じさせるトラックとなっています。
【Hundaes - Bit Different(2014年4月)】
Hundaesはニュージーランドのトラックメイカーで、元はエレクトロ・ハウスを作っていましたが、この頃はFuture Bassを作っています。ちなみにLove Trapとタグ付けされています。
【Lido - Money(2014年5月)】
同年2月に<Pelican Fly>の主催DJ SlowのMixの中でかけられ、即話題になったLidoの出世作です。聴いていただくと分かるように、どこを切ってもキメで構成された凄まじいテンションの楽曲になっています。コード進行も凄まじくキャッチーです。今聞いても凄まじい。2014年に公開されたLidoによる数々の名作Remixと共に、彼の代表曲となりました。この「Money」は翌月の2014年6月に4曲入りEP『I Love You』としてリリースされています。
【Nadus - Nwxrk(2014年5月)】
NadusはJersey Clubの本場ニュージャージー州ニューアークのトラックメイカーで普段はJersey Clubを作っていますが、<Pelican Fly>からリリースしたEP『Broke City EP』はハチャメチャなFuture Bassになっています。0:57からのクラーベのリズムで2小節に渡ってキメ続ける展開はあまりにも高揚感があります。「Rustie - Triadzz」(2013年3月)もそうであったように、クラーベでキメる展開はFuture Bass初期からよく見られますが、行き着くとこまで行った感じです。筆者はこの原曲の方が好きなのですが、RL Grimeによる「Nadus - Nxwxrk (RL Grime Edit)」(2014年6月)の方が有名です。
【Kasbo - Reaching(2014年5月)】
Love Trap勢Kasboの新曲。ドロップでキメを多用するタイプのFuture Bassですが、この曲もまだまだLove Trapとタグ付けされています。
【Pusher - Skyline(2014年5月)】
【PUSHER - Islands, Waves, Caves, & Skies(2014年5月)】
PUSHERは2014年5月に上記2曲を発表して注目されたトロントのトラックメイカーです。一聴して分かる通り、潔いくらいのWave Racerフォロワーです。彼はこうしたFuture Bassのメイキング動画をYoutubeで公開して、Wave Racerサウンドの普及に一役買いました。
【MAXO - Honeybell(2014年5月)】
ブルックリンのサウンドクリエイター・トラックメイカーのMAXOによる、Wave RacerマナーなFuture Bassです。MAXOは普段はゲーム音楽やチップチューンを作っていますが、Wave Racerの登場以降こうしたFuture Bassも制作しています。PUSHERとMAXOが登場した辺りから、Wave Racer型のFuture Bassのルーツにはゲーム音楽があるらしいと言うことが、遅蒔きながら解ってきました。
【Yanis.S feat. Lea Mojica - Heartless Boy (Hundaes Remix)(2014年5月)】
Love Trapでタグ付けしているHundaesによるRemixワーク。Remixコンテスト用に制作したらしいのですが、締め切りに間に合わなかったとのことです。時間がかかっただけのことはあるのか、メチャクチャエモくて良いRemixに仕上がっています。
【Yunomi - ゆのみっくにお茶して (feat. nicamoq)(2014年6月)】
EDMなどの楽曲を制作していたトラックメイカーtkrismとボーカリストのnicamoqのユニットYunomiの初音源。tkrism氏は現在では個人でYunomi名義を使い、Kawaii Future Bassを代表する売れっ子プロデューサーとなっています。J-popの流行でも合ったペンタトニックスケールを用いた和風なアレンジとFuture Bassの融合と言うYunomiを代表するスタイルが既に完成されています。
【Fluke Nukes - Lemonade(2014年6月)】
Fluke Nukesは現在も活動しているトラックメイカーで、この当時はCashmere CatやJersey Clubに影響を受けた楽曲を発表していました。この頃の楽曲は、現在は消えています。この曲はLidoにも通じるドラマチックなキメ系Future Bassに仕上がっています。
【WRLD - Orbit (feat. Richard Caddock)(2014年6月)】
当時17歳のオランダのアーティストWRLDが<Monstercat>からリリースした楽曲です。Remixと言う形でなくFuture Bassと歌唱を合わせたと言う点で最初期の試みになると思いますが、白眉の出来です。当時Lidoが注目されていたことで、キメを多用した展開が脚光を浴びていたのもあり、この楽曲も話題となりました。
【Foster The People - Best Friend (Wave Racer Remix)(2014年6月)】
遂に来ました。Future Bassと言うジャンルを代表すると言っても過言ではない名曲中の名曲、Wave RacerによるFoster The PeopleのオフィシャルRemixです(ただしリリースされていません)。この楽曲は余りにもキュートでハッピーで気持ちの良い音色と和音で構成されており、これを初めて聴いた時は「こんなに良い曲を作ることが可能なのか!」と驚愕しました。人間に作ることが可能な「良い曲」の上限を1段階上げたとさえ思います。
【Deon Custom - Bliss(2014年6月)】
まとめてて思ったんですが、2014年6月ってなんかめちゃくちゃ凄くないですか?これも2014年6月ですか。Deon Customによる名作Future Bassです。「livetune feat. 初音ミク - Tell Your World」をサンプリングしているらしき初音ミク使いでも話題になりました。
【Milo Mills & Noï - War Of Roses(2014年6月)】
NoïとベルリンのトラックメイカーMilo Millsの共作によるFuture Bass。佳作ではありますが、みんな大好きJust the two of us進行を使った、忘れがたい一曲となっています。
【Michael Jackson - Beat It (Sci-Fi Scheme Remix)(2014年6月)】
主にR&BのJersey Club Editを作っていたSci-Fi Schemeと言うトラックメイカーによる「Michael Jackson - Beat It」のRemix。基本的にはJersey Clubですが、0:28からのサビのシンセアレンジはFuture感に溢れています。
【BANKS - Drowning (Lido Remix)(2014年6月)】
【AlunaGeorge - Superstar (Cosmo's Midnight x Lido Remix)(2014年6月)】
【ZHU - Faded (Lido Remix) (2014年6月)】
ヤバい曲だらけの2014年6月の最後にLidoのRemixワークスを3曲まとめて紹介します。
・ 「ジャーン!ジャーン!ジャーン!」とクラーベのリズムでキメるLidoお得意の音サビがあまりにもカッコいい「BANKS - Drowning (Lido Remix)」
・ Cosmo's Midnightと組んだトリッキーな「AlunaGeorge - Superstar (Cosmo's Midnight x Lido Remix)」
・ シンセアレンジが天才の所業としか言いようがない「ZHU - Faded (Lido Remix)」(渋谷WOMBのLido来日公演でこの曲かかった時、その場にいた女の子が「なにこれすごーい!」と言ってたのをよく覚えています)
これ全部2014年6月か!2014年6月Future Bassの全盛期じゃん!
【<Moving Castle> - 『MOVING CASTLE VOL. 002』(2014年7月)】
<Moving Castle>のコンピ第二弾。この頃は新しいFuture Bassが次から次にSoundCloudで公開されて、毎日凄まじい情報量でした。
【Geek Boy - Troubles On Your Mind(2014年7月)】
マンチェスターのトラックメイカーGeek BoyによるJust the two of us進行のFuture Bassです。先述の「Milo Mills & Noï - War Of Roses」(2014年6月)と同じアイデアと言えますが、甲乙つけがたいですね。
【San Holo – 『Cosmos』EP(2014年7月)】
後にメジャーデビューしてFuture Bassの代表的なアーティストにも数えられるようになるSan HoloのデビューEPです。正直これよりこの後に発表する「Dr. Dre - The Next Episode (San Holo Remix)」(2014年10月)の方が圧倒的に有名です。
【Mark Redito - Truly (feat. Sarah Bonito)(2014年7月)】
LAのプロデューサーMark Redito(当時はSpazzkid名義)のEP『Promise』からの話題の一曲。歌っているのはイギリス人のボーカリストSarah Bonitoで、日本語を織り交ぜたポップスグループKero Kero Bonitoとしても活動しています。このEPはFuture Bassな楽曲も入っていますが、「Truly (feat. Sarah Bonito)」はFuture Bassの要素を取り入れたポップソングであることが注目ポイントです。Mark Reditoは日本との交流も深く、『Promise Remixes Pt. 1』『Promise Remixes Pt. 2』には日本のトラックメイカー達も多数参加しています。
【Laszlo x WRLD - You & Me(2014年7月)】
【Grant Bowtie - Cloud Nine(2014年7月)】
最後に<Monstercat>からリリースのされたFuture Bass2曲を紹介します。WRLDと同郷オランダのLaszloによるWave Racerマナーな「You & Me」、ちょっとGlitch Hop感もあるGrant Bowtieの「Cloud Nine」。この後も<Monstercat>はFuture Bassを続々リリースし、Future Bassがメジャーな存在になっていくのを牽引していきます。Love Trap勢だったKasboや、San Holo、Deon Customも<Monstercat>からリリースしています。そして2016年7月には大ヒット曲となった「Marshmello - Alone」がリリースされます。
ⅵ.Future Bassのその後
2014年7月までに登場したFuture Bassの楽曲を紹介しましたが、これ以上先となると余りにも数が多く追いきれません。Future Bassはこの後、USヒットチャートやJ-popにも顔を出すほどの影響力を持つようになり、2010年代後半を代表する新ジャンルに成長していきます。
Future Bassが有名になったきっかけの一つとして、「Shawn Wasabi - Marble Soda」があります。
【Shawn Wasabi - Marble Soda(2015年4月)】
カリフォルニアのプロデューサーShawn Wasabiが大量のFuture Bassをマッシュアップして「演奏」する動画が大ヒットしました。この動画はネットニュースなどでも取り上げられ大きな話題となったので、これでFuture Bassを知ったという方も多いのではないでしょうか?
Future Bassが最初にメインストリームに現れたのは、2016年5月に<Monstercat>からリリースされた「Marshmello – Alone」で、同年7月の「The Chainsmokers - Closer feat. Halsey」、同年12月の「Alan Walker - Alone」と続きます。
K-Popでも2017年10月のTwiceのアルバム『Twicetagram』に収録の「Twice - 날 바라바라봐」(LOOK AT ME)」がWave Racer直系のFuture Bassでした。
日本でも2015年頃からトラックメイカーのtkrismとボーカリストのnicamoqのユニットYunomiが歌ものFuture Bassでブレイクし、Ujico*/Snail's Houseの楽曲が海外を中心に高い評価を受けました。これらはKawaii Future Bassと言うFuture Bassの派生ジャンルとして浸透していきます。Ujico*/Snail's Houseによって初めてKawaii Future Bassが提唱された楽曲を紹介しておきます。
【Ujico*/Snail's House - Grape Soda(2015年7月)】
また、アニソン・ゲーソンにもFuture Bassの影響が現れ始めます。音ゲーでは早い時期からFuture Bassの楽曲が登場したり、2016年8月末から放映のアニメ『ステラのまほう』のED曲「ヨナカジカル」がFuture Bass的なサウンドで話題になりました。
そして、2017年8月のPerfumeのシングル「If you wanna」でFuture Bassと言う単語が大々的に取り上げられて、現在に至ると言う感じです。
ⅶ. まとめ
Future Bass黎明期の潮流について、筆者がリアルタイムに見聞きした範囲のことをまとめてみました。
本来であれば当時の状況を詳細に記述するのならば、Soulectionの様なメロウなTrap勢力、後のFuture Funkのムードに繋がっていくKEATS//COLLECTIVE、Jersey Clubなどサウンドが互いに影響し合っていた事実があります。そこまで書くと収集がつかなくなるのであまり触れていませんが…。
また、筆者がゲーム音楽やチップチューンに疎いため、過去のゲーム音楽や、当時のチップチューンシーンがFuture Bassに与えた影響について言及できていない点を、今後の課題として挙げておきます。
この記事から様々な歴史的な証言が発信され、「Future Bass黎明期」についての記録が進めば幸いです。
以上、もはやPost Future Bassと言うべき時代に来ている2019年に、昔話をさせて貰いました。
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