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「ランチの女王」にまつわるバックグラウンド②
「ランチの女王」にまつわるバックグラウンド②(概念編)033
2002年に「ランチの女王」というドラマがフジテレビで放送されました。僕も通いのコックの川端守としてレギュラー出演させて頂いたのですが、僕自身が現場でどんなふうにパックグラウンドを考えたのかをお話します。まずは簡単にストーリー紹介から。
鍋島健一郎は一攫千金を狙って実家のレストランを飛び出して日本中を巡ったが、結局挫折して東京に舞い戻って来る。しかし家族に合わせる顔が無いと思った健一郎は偶然入ったカフェで飛び切り可愛いウェイトレスを見つけ、彼女を口説いて婚約者だということにして実家の門を叩く。
婚約者を連れて帰って来た健一郎をこれで兄貴も落ち着いてくれると思い家族は歓待する。ところが翌朝、健一郎の姿はどこにもない。次男の勇二郎が店の金庫を開けてみると中は空っぽ。健一郎は売り上げを盗んで逃亡したのだ。失望する家族。困惑する偽婚約者の麦田なつみ。彼女は本来ならそこから出て行かなければならない立場だが、「わたし健一郎さんが戻って来るのをここで待ちます!」と何故か嘘をつく。実は昨日食べたオムライスに感動し、幼い頃に父親と食べた記憶が甦ったなつみは店にも家族にも強い親近感を抱いていたのだ。翌日からウェイトレスとして「キッチンマカロニ」で働くなつみ。可愛い彼女はあっという間に看板娘となり、店で働く次男の勇二郎、三男の純三郎、四男の光四郎たちも次第になつみに好意を寄せるようになっていく。
しかしある日、麻薬の売人を半殺しにして警察に追われている元彼の矢崎が現れてヨリを戻そうと迫る。なつみが拒絶すると矢崎は大暴れして店内を破壊。勇二郎たちにも怪我を負わせて逃げる。自分に暗い過去があることを勇二郎たちに知られてショックを受けるなつみ。皆んなに迷惑はかけられないと店を辞めることを決意する。なつみのことが大好きな兄弟たちは全員で反対するが彼女の決心は固い。ここまでがクライマックス直前のストーリーです。
いよいよなつみが出ていく前日の営業終了後。最後の店内掃除をしている彼女の背後に川端が立って言います。「なっちゃんには、ずっとココにいてほしいな」と。台本を読んでいて、僕はこの「ずっと」に引っかかりました。確かに彼女は可愛いし、兄弟みんなが彼女に恋心を抱いている。だけど「ずっと」は意味深だよなと。通いのコックの川端守までがなつみに執着する理由は何なのだろうと。そこで僕は台本には描かれていないサイドストーリーを勝手に考えることにしました。
もともと物語の主人公については作者が詳しく書き込んでいてかなりの割合で仕上がっていますが、脇役のバックグラウンドには隙間があります。つまりこの隙間を埋めるのが脇役の特権なのです。さて、このドラマには他にも見習いコックの牛島ミノルや兄弟の父親で店の主人でもある鍋島権造がいます。兄弟の母親はずっと昔に亡くなっているのですが、実は台本には彼女のエピソードがまったく描かれていないのです。つまり兄弟たちの「母親」こそが僕に取っての創作の鍵でした。以下、僕が勝手に想像した川端守物語です。
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