タイ 安全保障の見通し
多極化する世界、大国間の競争の中、タイが自国の安全保障に懸念を抱いていることは想像に難くない。
中小国は、国益を庇護しうる大国に接近するか、あるいは中小国間の協力により外部勢力の野心に歯止めをかけるか、重大な決断を迫られる。
NIA-タイの国家情報局は「2043年国際勢力構造」と題した報告書において今後数十年の見通しを記述した。
NIAは、タイが直面しうるシナリオを3つ挙げている。
1.米中二極対立の持続
米国、欧州連合、英国、豪州、日本、韓国などの自由民主主義的勢力がミニラテラル(Minilateral)な連携を強化し、中国の影響力を抑制する。
一方、中国の台頭は続き、ロシア、イラン、北朝鮮など、対米関係が緊張状態にある勢力を包括した陣営を築くだろう。
2.断片化する世界
このシナリオでは、イデオロギーに基づく結束が緩み、各国の課題と利益に基づく局所的協力関係が目立つ。米国、中国、ロシアの旗振り役としての存在感は薄れゆく。
3.力のコンドミニアム
最後のシナリオは「力のコンドミニアム」と形容され、国家や非国家の主要勢力が、大企業やハイテク企業を含む他勢力と権力や影響力をめぐって競争する。このような状況下では、特定の1つのグループが他グループに対して圧倒的な力を持つことはない。したがって、勢力均衡と瀬戸際外交が常態化し、国際機関は以前ほど主導的な役割や影響力を持たなくなるものの、非国家勢力がより多く参加することで、世界共通の問題についての協議の場を提供する重要な存在であり続けるだろう。
国民への注意喚起
NIAは、タイの市民は、国内経済、安全保障、社会情勢に対する外国勢力の影響に意識を向けるべきであるとした。
北部
特にタイ北部は、大国間の対立のあおりを受けやすい。米中はいずれもメコン川流域に関連する活動を展開している。ワシントンが安全保障と市民的関与(civic engagement)の拡充に注力する一方、北京は経済からの関与に重点を置いている。
中部平野
大国の対立は、「民主主義 対 非民主主義」という政治的対立を通じて、タイの民衆に打撃を与えた。
南部
観光業と大規模インフラ投資の拡大が期待される地域である。アンダマン海域では、漁船団の水準を改善し、向上させる必要がある。
深南部
NIAの報告書は、西側諸国の支援を受けた非政府組織の新たな役割を予測している。一方イスラーム国家は、深南部3県に一層の注意を向けると同時に、同地のムスリムとの結束強化を試みる。
今後の施策
タイは、ミドルパワーの地位を築き、ASEANの枠組みを通じて東南アジアで主導的な役割を担うことができるだろう。また、安全保障上のリスクを軽減するために、対外関係を多様化させなければならない。大国への依存度を下げれば、不確実かつ断片化した世界において、より強かに立ち回れるだろう。