「投げられた安心」
笑う回数は増えた
でもそれは今まで生きてきた技術【作り笑い】
無意識でも出来てしまう生きるための術
そして気が張っていたのか早口に人はなる
それは
【いつもの私でいたくて】の表れ
大切な人の前でもよくわからない【強がり】をキメてしまっていた
久しぶりの特別な時間
少しでも怖がる自分を奮い立たせたくて
これから先、目の前が真っ暗になるかもしれない
次々起きてくる新しい世界に自分が闘えるのか
不安になっていた
その自分を…見せたくなくて
目の前のこの人に
『こんなの普通だ』と強い私を見せたかったのかもしれない
【大丈夫だよ、お前ならやれる】
声が目の前から聞こえた
何を言われたのか解らなくて、だし巻き玉子が口から落ちた
笑いながら私の口に付いている卵焼きの残りを拭こうとする目の前の人
今まで何の話をしていたのか、
一瞬で頭から飛んだのだ。
【だから、お前なら大丈夫。お前は凄いやつだ、自信持てよ。】
【それに何かあったら俺がいる】
【1人じゃない】
繰り出される言葉の意味を考えるのに必死で
残りのだし巻き玉子が取り皿の上に置いてけぼりだ
確か、だし巻き卵が美味しいという話をしていたはずなのに。
私を見ていたんだ
知っていたんだ
この人は気づいていたんだ
俯いた私に
手が伸びてきた
【お前が出来る奴で凄いってこと、俺は知ってる】
頬を撫でる手はご飯を食べるせいか、
温かかった。