『高橋雄介の場合』
『その話…僕はしたくないんだけど。
不愉快なんだよ、他人が当事者に首突っ込んでくるのも…
彼女のことを聞かれるのも。』
驚いた。
目の前の彼はいつものニッコリと笑う穏やかな彼ではなく、逃げるような怒りや反発するような…まるで思春期特有のものに思えた。
その姿に驚いて何も言えなかった俺に。
『 ……たんだ。』
彼の口は動いた。
突然の事で聞き取れなくて…改めて聞き直すが、
小さな声で彼は続けた。
聞き取るのが大変なくらい小さな声で。
『 生半端な気持ちで…伝えたわけじゃない。
結婚するつもりだった、…
今となったらもう何で…か…。
もう、わからないんだ。』
この人はこんな顔をするのだろうか。
この人の目はこんなも濁っていたのだろうか。
まるで、それは何年もの間、宝石にホコリが被ったような…くすみがかったもの。
彼はまた『いつも』の作り笑顔で仕事に戻っていった。
その声を…聞き取れなかったはずだったが。
何故か今聞こえた気がした。
『それは『 (愛して)たんだ。』と。