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アニメ研究の話・その2

 ラブコメが好きな日本人は多いのではないだろうか。「アニメ研究の話・その1」でいくつかアニメを挙げたが、その多くがラブコメだった。 『名探偵コナン』『らんま1/2』『うる星やつら』『めぞん一刻』『タッチ』……。 これらは、それぞれが全く別のジャンルに見えるが、大別すれば「ラブコメ」である。
 そもそも「ラブコメ」の定義自体が曖昧であるから、スタジオジブリの『耳をすませば』や『コクリコ坂から』も場合によってはラブコメとして見ることができる。この2つの作品は少女漫画を原作としている。

 「ラブコメ」は”ラブ”と”コメディ”を合成した和製英語であるから、本来ならば、「恋愛喜劇」と捉えるべきだろう。———喜劇とは何か。調べてみると、どうやら、滑稽さを交えたり観客を笑をわせたりしながら、人生の真実面を描く演劇のことらしい。
 だから私は、主題が至極真っ当であることというのは、それがラブコメであるかどうかの判断基準にならないのではないかと思うのである。


ミステリー? ラブコメ? 『名探偵コナン』


 順番に見ていこう。まず『名探偵コナン』だ。この作品は、作者いわく「殺人ラブコメディ」なのである。今や多くのファンを獲得している長寿作品となった本作であるが、なぜこの作品はここまで愛されているのだろうか。

 第一に、その緻密に組み上げられたストーリー。原作の連載開始から30年近く経つが、毎回、編み出されるトリックには脱帽する。さらにその要所要所に“黒の組織”との対立がある。

 第二に、多彩な登場人物。レギュラーのメンバーに加え、そこに色を加える準レギュラー。それぞれにしっかりと定まった設定と関係性があり、これも『名探偵コナン』の魅力の1つだ。

 第三に、豪華な声優陣。コナンを演じる高山みなみ氏は、『魔女の宅急便』のキキ(彼女が主役級の女性を演じている作品はこれくらい)や『らんま1/2』の天道なびきをはじめ、『忍たま乱太郎』の乱太郎などの少年役やテレビ番組のナレーションで有名な声優だ。「アニメ研究の話・その1」でも述べたように、『らんま1/2』では山口勝平氏(『魔女の宅急便』ではトンボ役)や林原めぐみ氏、緒方賢一氏や日髙のり子氏らと共演した。
 また『名探偵コナン』のキャラクターの中でも女性を中心に絶大な人気を誇っている、安室透と赤井秀一を演じるのは、『機動戦士ガンダム』でアムロ・レイを演じた古谷徹氏とシャア・アズナブルを演じた池田秀一氏である。

 第四に、豪華な主題歌。アニメでは、初期はZARDやB’z、後に倉木麻衣や大黒摩季といった面々が主に主題歌を担当している。劇場版では近年、ポルノグラフィティや東京事変、スピッツといった豪華な面々が担当している。

ラブコメの先駆者はスゴい!

 次に高橋留美子作品を挙げる。作品の発表順では 『うる星やつら』『めぞん一刻』『らんま1/2』だ。100%ヒットメーカーである高橋留美子氏の代表作の3つだ。個人的に、この3作をまとめて「高橋留美子ラブコメ三部作」と呼んでいる。

ラム


らんま と あかね


 「〇〇ラブコメディ」のように例えるとするならば、『うる星やつら』は「SFラブコメディ」であり、『らんま1/2』は「格闘ラブコメディ」である。高橋留美子氏の作品というのは、基本的にギャグ漫画である。
 まず、この2つは主人公が高校生である。『めぞん一刻』の主人公は20歳と22歳であるが、これもギャグ漫画である。一の瀬のおばさんや四谷など、主人公・五代裕作の周りの人物が強烈であり、五代とヒロインの音無響子との間を引っ掻き回しているのである。

 『うる星やつら』、『らんま1/2』———とにかく昭和から平成初期にかけてのアニメというのは、ポロリが多い。このように性に対してオープンなのが、この時期のアニメに限らず1つの特徴と言えよう。
 これを表現の多様性と見るべきである。私が言いたいのは、多様性が重んじられる現代において、表現の多様性はどんどん制限されているという事実である。このような表現が、子供の成長になんらかの悪影響を及ぼしているというエビデンスはどこにもない。にもかかわらず、社会の風潮によってこれらが制限されていく様は、ただ親が育てやすいような子供を形成していっているというふうにしか思えない。このことについてはいずれかまた記述したいと思う。

音無響子

 『めぞん一刻』は、実に興味深い。ラブコメには、登場人物の人間性を無視している作品もあるように思う。しかし、この作品にそういうことはないと断言できる。そもそもが、高橋留美子氏が青年向け漫画雑誌に連載したもので、様々な読者が想定される少年向け漫画では描けない部分も描写できるのである。

 『めぞん一刻』では、五代裕作は浪人生(のち大学生)で、その下宿先である一刻館の管理人が音無響子である。第1話では、前の管理人が職を辞し、音無響子が新たに管理人としてやって来るところから始まる。前述した四谷(五代の隣、4号室の住人。年齢、職業ともに不明。五代にちょっかいを出す最もミステリアスな人物)や一の瀬(1号室の住人。親子3人で暮らしている。大酒飲み)などがいるので五代が一刻館から出ていこうとするところに、新たな管理人として音無響子がやって来て、出ていくことを踏みとどまるのである。



 あだち充原作の『タッチ』は、単に恋愛を描いている作品ではなく、作品の前半部分では、兄弟愛もかなり描かれる。『タッチ』はその上、スポーツ漫画にも純粋なラブコメにも分類し難い。主人公となる上杉達也は、双子の弟・和也と違い、スケベだったりお茶目だったりするのだが、その反面、野球を始めてからは、その男らしい部分が色濃く描かれる。また、『タッチ』の最終章については、かなり興味深いところがあるので。これはおいおい記述することにする。

映画でラブコメを取り入れる

月島雫


先日、宮﨑駿最新作『君たちはどう生きるか』の公開の前に『コクリコ坂から』が放送されたが、私は、やっぱりカルチェラタンが好きだと思う。
 『耳をすませば』、『コクリコ坂から』は、やはり映画なので、TVアニメほど小人物模様について細かく描写することはできない。
 しかしながら、ラブコメを映画に取り入れることは、一定の効果をもたらす。その中で、私が好きな『サマーウォーズ』を挙げよう。

佐久間敬


 主人公の健二はバイトという名目で、夏休みに夏希先輩の彼氏役をすることになるのだが、色々あって……という話である。夏希の母の実家・陣内家は長野・上田の名家で、16代目当主の大おばあちゃんの誕生日会のためにその親戚が集まるのだが、あることがきっかけで全世界を巻き込んだ大事件の中心地となってしまうのである。
 細田守作品では、ストーリー、作画など、総合的に見てこの作品より右に出るものはないかもしれない。

ラブコメは哲学

四宮かぐや


 最近私が見たものに、『かぐや様は告らせたい』というものがある。“最近見た”——動画配信サービスでイッキ見だが。橋本環奈がヒロインの四宮かぐやを演じている実写映画が話題になっているときには、「なんかやってんなぁ」としか思っていなかった。これは、特に見たいものがなかったから見るに至った。
 「恋愛は、好きになった方が負け」という主題に沿って、2人の駆け引きを描いた赤坂アカ原作の作品だ。語りによる実況という第三者の解説が逐一入るのだが、「文学作品」ではなく「娯楽的作品」と言えるかもしれない。

 この作品には色々なパロディが出てくるが、個人的には文化祭の時の、『科捜研の女』(沢口靖子・主演のテレビ朝日系ドラマ)のパロディが好きだ。


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