Someone to watch over me
ご近所に足の不自由なお子さんがいて、小さな頃からお父さんがずっと隣を歩いていた。
お父さんは伴走するのみ。
お子さんが転んでも手を貸さず、自力で起き上がるまで見守っていた。
毎日会うので、なんとなく顔見知りになり、お父さんと少しずつ話すようになった。
お子さんの名前はワタルくん。
ワタルくんは早産で生まれ、生まれつき足が弱いそうだ。
医師からは車椅子を勧められているそうだが、お父さんは首を横に振っている。
ワタルには気の毒ですが、私のわがままを押し付けているんですよ。
いつかは車椅子になるのかもしれません。
でも、あいつにはできる限り自分の足で歩いて生きてほしいんです。
本人もつらいし、私もつらいです。
妻には何のためにやってるのとよく言われます。
しかし、言葉にすると陳腐ですが、人生も社会もそんなにやさしくない。
あいつには歯を食いしばって、自分自身の力で起き上がることを教えたいんです。
親に出来るのは、となりで見守って、応援することぐらいですけど。
それからも、毎日親子を見かけた。
雨でも、雪でも。
やがて、ワタルくんの成長とともに、生活時間帯が変わったのか、親子をみかけなくなった。
昨日、数年ぶりにワタルくんを見た。
バスから降りてきた彼は、ワイシャツを着て、ネクタイを締めていた。
杖をついていたが、彼は変わらず自分の足で歩いていた。
『見守って、応援する』
誰かの力になるって、そういうことなんだろう。