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TRN V10 Pro【レビュー】
軽自動車と同じ値段でガンダム(盾・バルカン付属なし)が売ってたみたいなやつ
ベリリウムメッキDD、チタンメッキDD、BA×2の合計4発のドライバーを搭載し、なおかつそれぞれが良い仕事をしている
ただドライバー数を稼いで数字をよく見せただけの機種も多いが、この機種は必要な分をしっかりと詰め込んだ印象
そんな豪華で丁寧な仕様でありながら、なんと記事作成時の価格で2350円だ
どうしても一個だけでコスパの良いものを探しているならこれ
付属品はコストカットしまくりで買い足しは必要な部分もあるが、それ込みでも安い
TRN Conchのケーブルやイヤーピースが余っていたら、それを移植するだけで万単位のイヤホンが比較対象になりうるモンスターが完成する
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音質
寒色系と暖色系のイヤホン、両方耳に突っ込みました
スッキリした音を寒色系と表現し、厚みのある音を暖色系と表現することがあるが、このイヤホンには両方存在している
それらがゴチャ付いてしまったり、スピード感が損なわれることはない
ステーキにメロンの甘いところを乗せて食べるという邪道行為ではなく
ステーキの食後に、メロンの甘いところだけをお出しされたような整理された音
「ドンシャリ」でも「かまぼこ」でもなく「ドンかまぼこシャリ」という感じ
ほんの少しだけシャリは弱いのだが、刺さりがちな部分を緩和した故なので悪印象はない
分離感は非常に良く、やけにクッキリ別れている部分も多いが、調和が取れていて気持ち良く聞かせてくれる
ただし、定位感や距離感はモニター系等には負けるので、ゲームやASMRには向かない
しかし、価格を考えれば十分過ぎる程のそれは備えていて、可能な限り予算を抑える目的ならこれで満足するのもアリ
背面は結構大胆に開放されていて、遮音性はやや低く音漏れはしてしまう
それが悪い反響を抑制していて好印象だが、特別広い感じではなく、程よいサイズ感の空間で音に包まれる感じ
例えば1万以下のイヤホンは大げさに言うと「高:80点 中:100点 低:60点」みたいな評価をされがちだが、このイヤホンは「高:90点 中:90点 低:90点」のような評価が出来る
確かに特定の領域を完璧にというのは無理なのだが、全体的に良いので、尖った良さを持つイヤホンより音楽を楽しみやすい
低音がボーカルを隠したり、高音が悪く出しゃばってしまったりはなく、満遍なく良い
だがフラットとはまた違った元気な印象がある
高音
刺さりがちなシャラシャラキラキラ系の高音はやや抑制されているが、ピアノや鉄琴やシンセ等の高い領域は量感を持ち、豊かに鳴る
だがそれと同時に爽やかさも存在していた
BAドライバー数が少ないと「さ行」の歯擦音が鬱陶しいことも多く、中高域で鳴っていたはずの女性ボーカルが超高域に踏み込んでしまい、余韻を台無しにしてしまうことがある
しかしこれにはそれがなく、瑞々しく仕上がっている様子
存在感があると同時に、悪い主張をしない良質な高音
中音
「高低域の存在感に負けないにはどうするか?」
「ならば中音域も存在感を強くすればいい」
というのを、複数ドライバーで達成できている
超ボーカル特化の機種には劣るものの、低音も高音も良く出ているのに、ボーカルは全然邪魔されていないというのは本当に心地よい
派手な曲でも穏やかな曲でもしっとり濃密に鳴ってくれる
ボーカルに近い帯域の楽器とも調和が取れていて、非常に聞き心地が良い
低音
きっちりと締まりつつ粒立ちが良く、温かみも量感もたっぷりな印象
かなり強く出ているのだがボーカルや高音を邪魔せず、結果それが独特の印象を生んでいる
重低音
壮大に広がって空間を演出
広すぎず狭すぎず、飲み込まれるような印象があるが優しい
変にボワボワとはせず、苦しいとかくどいみたいな悪い印象を残さず、縁の下の力持ちとして機能している
用途
とにかく音楽用として隙がなく、派手な曲は全てが喧嘩せず仲良く鳴るし
大人しい曲は余裕が生まれるのか、よりボーカルの質感が増す
ゲーム用途やASMRではやはり1万クラスのモニター系に負けるが、そこまで悪いわけでもない
解像感自体は高いので聞き苦しくなく、イヤホンに1万円はかけられないという場合にはそれらに使用してもいい
装着感
ドライバー数はやや多いものの、小粒で筐体がよく耳に当たり、重量が分散されるので装着感が軽くて良い
筆者は、デフォルトで装着されているMサイズのT-EAR TIPSが耳に合うタイプ
痒みもなく圧迫感が弱いのに低音がしっかり出る感じでありつつ、高解像度サウンドを得られる
なのでどうしてもサイズが合わなかったら、T-EAR TIPSを買い足すか他のイヤホンから奪ってくることをオススメする
シリコンが薄いので中高音に寄っているようで、低音もしっかり出るのに装着感が抜群に良いという代物なので、様々なイヤホンの音質向上が狙える
音質以外のエトセトラ
付属品
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記事冒頭の画像の再掲になるが、これが全て
装着済でクリアなイヤピは最高グレード品だが、他のサイズは少なく白っぽい安物というパワープレイでコストカット
T-EAR TIPSはワンペア換算でだいたい300円のものなので、装着済みのMサイズが合ったらラッキー
ケーブルは質感こそ悪いものの、音質はそこまで悪くない
タッチノイズや取り回しさえ気にしないのならそのまま使えてしまうし、黒と銅線のマーブルが渋いようにも見える
ケーブルを梱包材だと思っているTRN
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2000円クラスであっても、ブリスターか何かで筐体だけでも保護するのは当たり前だが、本体にコストをつぎ込むためそれすらも削減
ケーブルとイヤピを緩衝材として利用するパワープレイで、ハードな輸送に耐えている
残念ながら、彼らは品質が高いとは言えない
愉快な付属品として生まれたのではなく、緩衝材のまま一生を終える可能性が高い
ビルドクオリティ
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フェイスプレートのメッキが安っぽいなど、音質に影響を与えにくい部分は徹底的にコストカットが見られる
だがよく考えて欲しい
安っぽいのではなく安いのだ
しかし、接着面が極端に荒れていたり、内部の配線が大暴れして見苦しいといった雰囲気はないので価格に対して丁寧な感じ
金属製ノズルを採用していたり、質感の良いこれまた金属製のフィルター等、音質に影響しやすい範囲はコストをかけている
どんな人にオススメ?
買ってそのままでも使えないことはないので、低価格イヤホンでいいやつが欲しいという需要を満たせるし
ちょっといいケーブル(JSHiFi-Warrior)とか、ワンペア数百円以上の医療用グレードシリコンイヤピを買い足して、ちょっとリッチに仕上げても5000円行くか行かないか
1DDや1DD+複数BAしか持っていないという場合、それとはまた別の面白さが感じられるはず
1万円以上のイヤホン初めて買うかどうかで悩んでいるようならV10 Proを選んで、残りの予算をリケーブル、イヤピ、DACに割り当てると幸せになれるかも
総評
「いやなんでこんなに安いんだよ!」とキレたくなった
コストカットはかなり多いが、筐体は価格に対して豪華な構成で音のクオリティが高すぎる
不足に感じる領域が少なく、こっちが足りないあっちが足りないみたいなケチが付きにくい
これが市場から消える日が来るまでに、同価格帯でこれと似たような方向性の上位互換が出ないかもしれないと思うと怖さすらあるレベル
予備にもう一個買っておくのをすぐに決めた