根絶された「おとり」物件
私が不動産業界に入った約20年前、不動産情報誌でめぼしい物件を見つけたお客さまが業者の店舗を訪れると、その時点で物件はもう借り手が決まっていた、という状況は少なからずありました。
当時はまだインターネットが普及しはじめたばかりで、主流は賃貸不動産の情報誌。月刊誌の場合、本が出てから次の本で情報が更新されるまで1カ月間の間隔があり、その間で情報が古くなってしまうことは避けられませんでした。
また、契約を結んだ物件については速やかに掲載停止の手続きを取り、情報の正確性を維持するというルールも、業界全体で徹底されているとは言えませんでした。
これらは「結果的に」物件の情報が古くなってしまった状況ですが、それより前、とくに大都市圏では、あまりに好条件で存在するとは思えない物件が、いわば「おとり」として不動産情報誌に掲載されることもあったと聞いています。
一方、この時代にネットで理想の条件に合う物件を見つけて不動産業者に電話した人が、「その物件はもうありません」と告げられることはまずないでしょう。以前とは比較にならないほど、業界全体でコンプライアンスの意識が高まっているためです。
不動産ポータルサイトには登録した情報が即時に反映されることから、「次の出版日までに修正すればいい」などと悠長なことは言っていられません。万一、掲載されている物件がすでに契約済だったり、実在しなかったりする場合、利用者から苦情を聞いたサイトの運営企業から問い合わせが入ります。同業他社が通報することもあります。
きちんとした対応ができなかったり、同様の事態が繰り返されたりするようなら、掲載を一定期間停止される可能性もあります。ネットで部屋を探すのが当たり前になっているこの時代、掲載停止は事実上の「営業停止」となります。
このため、不動産業者側も、掲載情報が実際の物件の情報と合致し、契約した物件の情報をすぐにサイトから抹消するよう、細心の注意を払っています。
不動産情報誌の内容が正確でないというかつての状態が、部屋を探す人、借りる人にとり不利だったのはいうまでもありません。まじめに商売している業者、大家さんが損を強いられることもあったはずです。
スピーディーに正確な情報を共有できる、ネットを使った現在のしくみが普及するのは、歴史の必然だったのかもしれません。