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ドリア旋法のコラール/ジャン・アラン

あまり聴かれる機会が無いが好きな曲のひとつに、フランスの作曲家ジャン・アラン(Jehan Alain, 1911-1940)が書いた「ドリア旋法のコラール」というパイプオルガンのための小品がある。

「Lent et très lié (ゆっくりと、とてもなめらかに)」と指示されたこの曲は大きく分けて4つの段落に分かれ、その全てが同一のフレーズを共有している。

各段落ごとに転調が起こる。それらは歩いて階段を登るような有機的なものではなく、エスカレーターで強制的に次のフロアに運ばれるような、冷ややかな高揚感だ。

画像1 "Choral Dorien" 冒頭部
第10小節までが第一段落。12/4と拍子表記がある第11小節が、転調するためのつなぎであり第ニ段落の始まりでもある 出典:imslp

4つのフロアを結ぶエスカレーターの長さが異なるのも巧妙だ。

各段落の主音はそれぞれE(ミ)、G(ソ)、H(シ)、E(ミ)である、それぞれをつなぐエスカレーターの長さは3半音(短三度)、4半音(長三度)、5半音(完全四度)と、じょじょに広がっていく。つまり上昇の度合いじたいが上昇していくのである。

画像2 4つの段落の調性とその関係を示す

同時にこれら四つの主音をならべればEを根音とする短和音をなしていることに気づく。最終的に第四段落でまたEに戻る。ただし朴訥とした第一段落と異なり、ここではとても静謐な高音域で、全くおなじテーマが奏される。総じて、この曲はぐるりと回り道をするが、あくまでEの音楽なのだ。

叙情的とも無感動とも断定できない、水のようなたった一つの旋律が、フォルマリスティックに、しかし最低限の音量/音高/音質変化を伴ってくりかえされる。この小品を聞いていると浜辺で波の寄せて引くのを眺めているようだ。波に大小、形の違いあれどあくまで海の一部であることと、この曲は似ている。

メカニックを好みオルガンと同じくらいオートバイの扱いにも長けた。偵察として戦地に赴き最期はオートバイを乗り捨て交戦した。若干29歳の偉大な感性は戦禍によって断ち切られた。


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