REflection(レの鏡)Ⅱ 〜そもそも長音階って何なの?〜
この記事では、「”レ”を中心として見てみることで、長音階(ドレミファソラシド)の意味が鮮やかに浮かび上がってくる!」という話を厳密さを一旦置いておいてわかりやすく説明します。
1.そもそも長音階って何なの?
前回の記事「REflection Ⅰ 〜長音階のもうひとつの解釈〜」では、長音階(ドレミファソラシド)を円環状に並べ、「レを中心に」して見ると線対称になるという事実を紹介した。
しかし、あくまで線対称になったというだけで、「そもそも長音階がどういうものなのか」、「なぜその七音なのか」といった根本的な疑問にはまだ答えられていない。
この疑問を解くために、レを中心にしてより深く12人の登場人物の相関図を探ってみたい。
2.五度円
半音円と対になる表記法に五度円(Circle of Fifth, Cycle of Fifth=五度圏とも。)というものがある。
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Circle_of_fifths_deluxe_4.svg
Just plain Bill [CC BY-SA 3.0]
これは和声法(コード進行の理論)や転調法(キー移行の理論)の解説によく使われる図で、右回りに音程を五度(周波数3/2倍)ずつ変化させていくものである。(このように12音全てを一定の音程間隔で時計上に並べる方法は、半音円と五度円しかない。)
五度円がどういった意味を持つのかの説明は煩雑なのでここでは省くが、隣同士が常に最安定の響きとなるように音を連ねていったリングと思ってもらって差し支えない。
3.これも60˚回してみよう
これを60˚回転させて「レ軸五度円」(re-oriented circle of fifth)を描いてみよう。その上で長音階「d-r-m-f-s-l-t-(d)」を結ぶとどうなるだろうか。
前回記事の「レ軸半音円」の上ではこれは左右対称な7角形となったが、
(筆者作成。ta,fi…といった聞きなれない音節は、ハンガリー式の読み方で、臨時記号付きの音名を指している。tiのフラットがta、faのシャープがfi…など。この記事ではあまりこれらのことは気にせず、12音中のドレミ…以外のことかな、程度で読み進めてください。)
このようにレ軸五度円の上では歪んだ7芒星となる。しかし左右対称であることは変わらない。
長音階の構成音である(幹音=Natural Notes)は水平の中心軸fa,tiを含む上半分の領域に、そしてそれ以外の音(変化音=Accidental Notes)は下半分に集まる。
レ軸五度円の中では、メジャースケールは左右対称のみならず、上半分にうまく収まるという図形的性質を持っている。
つまり、reから上下に5度ずつ飛んでいった時、ちょうど左右に3こずつ飛んだ時長音階の登場人物が出揃う。中心reに、それと”共鳴的に親密”な6個を加えた7音の並び、それが長音階なのだ(とも解釈できる)。
4. 長音階よりもピュアな「ペンタトニックスケール」
さて、音楽の世界には、7音からなる長音階よりもピュアな音階がある。
faとtiを取り去った、つまり「d,r,m,s,l」の5音で構成される、「メジャーペンタトニックスケール」というものだ。
民謡などで使われる素朴で質実な音階であり、上を向いて歩こう、Amazing Grace、Love Phantomといった素直で強いメロディーメイキングに貢献する。
ドレミソラの順番でこのメジャーペンタトニックスケールの線を結ぶとどうなるだろうか。
この音階はこのような五芒星になる。
5. まとめ
長音階は上半分に集まった。メジャーペンタトニックは、それよりさらにr側に集まった。これはレ軸五度円においてr側がより「プリミティブ」な響きに対応することを示している。
メジャーペンタトニック、長音階、半音階を、それぞれ音列の順通りに”レ軸五度円”の上で結んでみると、下の図のようになる。
(筆者作成)
メジャーペンタトニックの五芒星、長音階の七芒星、そして半音階の正十二芒星、上から下へと、素朴(primitive)な音階から徐々に変化音(accidental notes)を含んだ複合的(complex)なスケールへと向かっていく様が見てとれる。
シンプルで原初的な5音音階から複雑な12音の半音階へと、
音楽はレ軸に沿って、re側から遠ざかるように色彩を帯びていく。
その途中に現れる7音の音階、それが長音階であり、
それを僕たちは「基本の音階」として教わっていたのだ。
次回予告
ここまでで、長音階が12音の中でどういう位置付けにあるのか、少し見えてきました。
次回以降このマガジンは、この構造を図式的に理解していたと言われるハンガリー出身の作曲家、バルトーク・ベーラ(Bartók Bela, 1881-1945)の物語へと移っていきます。
ただ、音楽に関するゆるい雑談記事も混ぜていく予定なので、気軽にフォローのほどお願いいたします。