【突撃!隣のCTO】エンジニアとして生きるならアンテナを張り続けること 株式会社ネクイノ CTO・宮田 延昌さん Vol.11
様々なCTOにキャリアや原体験、これからの野望などをインタビューする、techcareer magazine(テックキャリアマガジン)とのコラボレーション企画「突撃!隣のCTO」。
今回は婦人科領域に特化したオンライン診察プラットフォーム「スマルナ」を運営する株式会社ネクイノ のCTO 宮田さんにお話をうかがいました。捨てられたPCの部品を集め、新しくPCを作り出す好奇心・探究心の強さ、思い描いていたビジョンと現実のギャップから独立を決意した20代、そんな宮田さんの自ら切り開くキャリアに迫ります!
※お話内容や経歴等は全て取材時のものです。
■プロフィール:宮田 延昌(みやた のぶあき)さん
ネクイノの取締役CTO。大手SIerからキャリアをスタートし、関西学院大学MBAを経て、独立。医療業界のサービス構築や、国立大学が主導する地域イノベーション推進に従事。大学院時代の先輩であるネクイノ代表 石井が語った「本気で医療の課題を解決したい」という熱い想いに共感し、ネクイノのCTOとしてジョイン。「スマルナ」や「メディコネクト」など医療DX推進に取り組んでいる。
■ネットで知識自慢をされた悔しさをバネに、ITの世界にのめり込む
―なぜエンジニアの世界に入り、CTOになったのか、志した原体験から現在に至るまでを教えてください
大きく2つあります。1つめは高校生の頃にWindows98を触ったことが、コンピュータとの出会いであり、エンジニアの世界に入ったきっかけです。
初めはHTMLで遊ぶことからスタートし、ブラウジングをしているうちに、アンダーグラウンドな世界にはまり、興味を持ち始めました。
Windowsメッセンジャーというチャットツールがあり、そこで知識自慢をされたんです。当時だと「世界最強リンク集」や「宇宙最強リンク集」というものがあり、若気のいたりでその世界観を知りたいとか、そういうものにかっこよさを覚えたんですよね(笑)。それから、ただ興味の向くままにいろんなものを調べていました。例えば、「串(プロキシ)ってなんだ?」とか、小さな疑問をどんどん調べていくうちにITの世界にのめり込んでいきました。
そして2つめのきっかけは、自分が身に着けたITの知識がビジネスとして成立するとわかった体験です。
高校生のうちから独学でHTMLやCSSを触っているうちに、大学生になった頃には本格的に扱えるようになっていました。私個人のHPを作っており、知り合いからもHPの作成を頼まれるようになって、お小遣いをもらっていましたね。自分がやっていることはお金になるんだと気付きました。
それから、捨てられているPCを拾い、使える部品を集めて作ったPCを、人に譲ってお小遣いをもらったりもしていました。HP作成をはじめ、知識があればビジネスとして成立するんだとわかり、将来エンジニアになりたいと思うようになりました。
―大学卒業後は、どのようなお仕事に就かれたのでしょうか?
大学卒業後は大手SIer企業に就職し、製薬業界向けのシステムを作っていました。コンサルタントや一連の開発、上流から下流までと幅広く体験しました。客先にも出るようになって知ったのが、藁にもすがる思いで我々に依頼してくださっているお客様がいるということ。現場が本当に困っていて、やっとの思いで役員にシステム導入を認めてもらっているのです。そのような経験を経て、この人のために課題解決をしなければ!と強く思いました。
とはいえ、発注する側は要望が不明確なことが多いです。その人が抱えている本当の課題を突き詰めなければ、課題の解決はできません。まず業務内容を理解し、課題を整理しました。本当の課題を突き詰めた上で要件に落とし込み開発をして、いざシステムを納品すると、「これこそが僕が求めていたものだ」とお客さんが喜んでくれるんです。この体験から、エンジニアリングに対する考え方が「エンジニアリングでお金が稼げる」から「課題解決ができる」にシフトした瞬間でした。課題解決を成し遂げることこそが本当のエンジニアリングだとSIer時代に学びましたし、その考えは今にも活きています。
―SIerのあとはどのような仕事をされていたのですか?
当時の私はわがままでとがっていたというのもあり、SIerを経て独立しました。SIerのときに感じていたことは、課題解決をするにあたり、会社側の制限が大きくかかるということです。当時クラウドが出はじめて、それを使えば低コストで導入できるにも関わらず、自社のクラウドを導入しなければいけないという制約がありました。
SIerという選択肢では根本的な課題解決ができないと感じていたことに加え、自分でプロダクトを作りたいという思いがあったので、会社を飛び出しました。
独立後は自社サービスの開発や、前社のご縁でコンサルなどをやっている時に、ネクイノの代表石井に声をかけられました。というのも、石井はMBA時代の先輩でした。
初めは業務委託のような感じで手伝っており、オンライン診療に面白みを感じました。今までは院内の情報共有システムなど、医療機関の業務改善にフォーカスした開発をしていたのですが、ネクイノで改善する内容は “医療体験と空間” だったんですね。つまり、患者さんと医療機関の両面の想いに焦点をあてる必要がある。しかし、この二者は目的に齟齬があると感じました。例えば、患者さんは単純に薬が欲しくて病院に来ているのに対し、医師は患者さんの将来までみすえて診察をするので、患者さんの要望に対して提供されるサービスに大きなミスマッチが生じてしまう。こういったミスマッチは二者間の知識の差から生じていて、お互いが見ている景色が大きく異なっています。こういった患者さんと医療従事者の間にある根本的な課題を解決しなければ!と、気がついたらネクイノにジョインしていました。
―SIer時代の文化やお作法があるかと思うのですがそれは簡単に抜けきれたのですか?それとも何かきっかけがあったのでしょうか?
独立後の環境の変化に伴い、考え方も変わりました。環境の変化というのは、組織にいる場合、失敗をした時の最大のリスクは上司からの叱責、しかし独立して失敗をした時の最大のリスクは死です。独立後に「明日は死ぬかも...」と考えた瞬間がありました。
時間をかけてきちんと手順をふめば良いプロダクトが作れるかもしれませんが、「明日死ぬかも」という状況でそんな悠長なことは言っていられません。
―MBAでネクイノの代表と出会っていたということですが、MBAに入るきっかけはなんだったのでしょうか?
経営を学びたいのはもちろん、「様々な業界の人と関わりを持ちたい」という気持ちが強かったです。MBAは異業種で構成されたチームで何かを成し遂げる場面が多く、そのコミュニティにいれば、さまざまな刺激を受けられるし、ネットワークもできる。加えて、学びを活かせる土台ができるのではないかと思いました。
MBAで得た知識はスタートアップ当初には活きませんでした。しかしグロースするにあたって、MBAの知識とネットワークが活きてきました。体系的に学んでおくと、実際に組織が大きくなったときに、「これはあのときの組織論の話だな」などと繋がります。会社が成長する中で、やってきて良かったと思うことはたくさんあります。
―ネクイノではどのようなことをされていたのですか?
入社した2018年当時は「スマ診」という様々な疾患を取り扱うオンライン診察サービスを開発していました。対応している疾患の種類が、インフルエンザの予防や、AGAの治療、花粉症の治療と、ターゲットが幅広くありました。こうしてオンライン診察の検証をしていく中で、本命であった婦人科領域のサービスをスタートすることになります。婦人科には大きな課題があることがわかっていました。オンライン診療との親和性が高い領域なんです。現在は、婦人科領域に特化したオンライン診察プラットフォームとして「スマルナ」をメインに開発や運営をしています。
―婦人科の課題というと何があるのでしょうか?
物理的・心理的な面で、医者に行きづらいというのが大きな課題です。2018年当時のデータですが、出生率94万件に対し、人工中絶数が年間約17万件。相当数不幸な妊娠が起こっているというのを目の当たりにしました。
世界のピルの使用率に関しては、先進諸国の40%に対し、日本は3.5%と圧倒的に少ないです。先進諸国は薬局でピルを売っていたり、国によっては無料で配っています。一方日本では、物理的・心理的に婦人科に行きにくいという課題があります。婦人科自体、数も多くありませんし、性に関わることは相談しにくい風潮です。また、ピルに対しても“避妊薬”という偏見があります。
オンライン診療との親和性が高いということに関して、オンラインの世界には気軽さがありますし、相談がしやすいです。婦人科の中でもこういった領域こそ、オンラインにするべきだと感じました。
■「スマルナ」に続く次のサービスを
―技術責任者として今取り組んでること、これから取り組みたいことを教えてください
技術責任者として取り組んでいることは、婦人科領域に特化したオンライン診察プラットフォーム「スマルナ」の展開です。スマルナに付随して、第2,第3の柱となるサービスの開発に取り組んでいます。
また、個人として取り組みたいことは、社外への発信です。今まで内向きの視点でプロダクト開発や組織づくりをしていましたが、社外への情報発信などの取り組みは積極的ではありませんでした。ですから、会社としての技術力をPRしたり、他社CTOやエンジニアの方々と交流を深めたりしたいです。
―だから今回のインタビューに協力いただけたのですね!ありがとうございます。では取締役として取り組んでいること、これから取り組みたいことを教えてください
組織としてうまく機能するようなチームづくりに取り組んでいます。
創業当初は自分ひとりで開発していたのですが、今では正社員のエンジニアで7~8人。業務委託を合わせると全体で40名規模の組織になっています。組織を作るにあたって、仕事を人に任せることも必要になりました。人に任せる仕組みをつくるために、自分がやらないことを決めています。
これから取り組みたいことは、権限委譲することです。サラリーマン時代、やりたいことがあっても裁量権が与えられていない、立場上関与できる限界が決められている、ということに違和感を感じていました。もちろん権限と責任は一組ですので、責任がとれないような権限移譲をすることはできませんが、ネクイノのミッションの実現に向けてバリューとして発揮してもらえるところは、どんどんお願いしています。
■エンジニアとして生きていくにはアンテナを張り続けること
―宮田さんが考える、これからあるべき技術者(エンジニア)像を教えてください
問題の本質を探るエンジニアです。“上流” に入り込まないと、課題は見えないと思っています。目的やゴールに落とし込んだ提案ができれば、工数をかけずに課題解決ができるはずです。
エンジニアとして技術スキルだけを高めたいという人ももちろんいると思いますし、それもエンジニアとしての道だと思います。ただ、死ぬ気で技術力を身につけていく覚悟なしに技術力だけで勝負していくのはリスキーだと考えています。なぜなら、現在日本のエンジニアは世界的に見て優秀だと思いますが、その最中、発展途上国のエンジニアはITの世界に夢をいだき、死ぬ気で技術力を磨いています。彼らが技術力を身につけ言葉の壁を越えてきたら、一気に仕事を奪われかねません。だからこそ、技術力はもちろん、エンジニアリングの原点である解決する力を身につけておくべきだと思います。上流に関わる、つまり問題の本質を探るエンジニアが、社会にとって必要だと考えます。
―エンジニアが身につけておくと良いことはなんですか?
興味を持ったらまずは調べて、実際に触ってみて試行錯誤する、その繰り返しが技術力を高めると思っています。常にアンテナを張って、楽しみながら新しいものをキャッチアップしていく習慣がある人は、伸びると思いますね。
■課題解決に全力コミット:「できる!」と言い切るリーダーに
―宮田さんの「信念」「価値観」「大切にしていること」を教えてください
エンジニアとしてのエグゼキューションを大切にしています。大企業の場合、技術への投資が充分にできる一方で、イノベーションのジレンマが働き、サービスに新しい技術を取り入れることが中々できません。一方スタートアップだと、技術選定は自由にできるものの、資金供給がない場合、早期に収益化をしなければ、会社は簡単に潰れてしまいます。会社の事情で投資や裁量に制限が課せられますが、技術が未来を創ることは言わずもがなです。だからこそスピードと低コスト優先でサービス開発をし、確実に成果をだして次の機会へつなげ、未来づくりを一歩一歩進めることを大事にしています。
―これからの目標や野望を教えてください
私たちネクイノが掲げている「世界中の医療空間と体験をReDesign(サイテイギ)する」というミッション。この「サイテイギ」というのがとても難しく、これを達成したい、「サイテイギ」屋さんになりたいというのが、私の野望です。「サイテイギ」は壊すだけじゃなくて、作らねばなりません。「医療のここの領域がAIと相性いいのでAI化しました」とか「人による運用の一部を自動化しました」とか、部分最適であればすぐにでも出来ることは多いです。しかし、医療業界の社会課題を解決していこうとすると、部分最適では実現できないのが現実です。「 “医療体験” ってなんだっけ?」という源流から、「サイテイギ」を実現していき、10年後の当たり前を作っていきたいです。
―最後に読者へお知らせしたいことがあったら、教えてください
「医療業界は大変そうだから」と敬遠されがちです。しかし、まだまだ課題が山積みな業界だからこそ、課題を1つ解決すると未来を大きく創り変えることができます。わたしたちと一緒に、医療業界が抱える課題にチャレンジし、未来を創りませんか?挑戦したい方をお待ちしています!
■取材を終えて
windows98でオンラインチャットをしていた時に「俺はこんな裏口サイトを知っているんだぜ」とマウントをとられたことをきっかけに、ITの世界にのめり込んだ宮田さん。気になったことは何でも調べる、実際に触ってみるという強い探究心と行動力に感銘を受けました。エンジニアに限らず、探究心と行動力を持って日々の業務と向き合うことが成長への近道だと感じています。
日本が抱える性に対する課題が深刻であること、大変共感いたしました。不幸な妊娠や性に対する偏見を、スマルナが解決してくれることと思います!
(取材・執筆:techcareer magazine)