【突撃!隣のCTO】開発を離れることで、手に入れた景色 アソビュー株式会社CTO・江部隼矢さん Vol.13
様々なCTOにキャリアや原体験、これからの野望などをインタビューする、techcareer magazine(テックキャリアマガジン)とのコラボレーション企画「突撃!隣のCTO」。
今回は休日の遊びを予約できるサイト「アソビュー!」を運営する、アソビュー株式会社CTOの江部さんにお話を伺いました。元々エンジニアを目指していたわけではないという江部さん。どのような経験を通して今のお仕事に辿り着いたのか、過去・現在・未来に迫ります。インタビューではCTOに必要な経営目線についても語っていただいたので、技術以外のスキルを磨きたいという方も必見です!
※お話内容や経歴等は全て取材時のものです。
■プロフィール:江部 隼矢さん
取締役執行役員CTO。
豪・スインバーン工科大学情報技術学科卒。2008年フューチャーアーキテクト株式会社入社。大手企業向け案件を中心に、サービス・技術共に多様な分野での開発を経験。2012年4月、カタリズム株式会社(現:アソビュー株式会社)参画。取締役CTOに就任。
■小学生時代の体験がプログラミングを学ぶきっかけに
―エンジニアを志したきっかけはなにかありますか?
正直、エンジニアを目指そうと思ったことはないんですよ。
ただ小学生の頃からなんとなく、コンピュータに触れる機会がありました。私は大阪の団地生まれなのですが、そこに住む友人の自宅にパソコンがあり、しょっちゅうPCゲームで遊んでいたんです。8inchフロッピーディスクを入れるタイプの、今となっては化石のようなパソコンです(笑)。
遊んでいるうちに、自分もパソコンが欲しくなり、親にねだって買ってもらいました。
当時私は野球をやっていたのですが、パソコンを買ってもらえる条件が、野球をやめることでした。きっと、大会の送迎とか大変だったんでしょうね...。
手に入れてからは、パソコンと向き合う時間が増えましたね。パソコンのアプリケーションで遊んでるうちにどんどん興味を持ち、もっと学びたいと思うようになりました。
―中高生になってからプログラミングをするようになったのでしょうか?
中高生の頃は、本格的にはプログラミングをやっていませんでした。今思うと、それを学ぶきっかけや方法がわからなかったのだと思います。高校生のときは、「人と違うことがしたい!」という想いから、オーストラリアへ留学しました。
高校3年のときに帰国し、学んだ英語を活かしたいという思いもあって、オーストラリアの大学に進学しました。
本格的にプログラミングを始めたのは大学生からです。もともと、ビジネス系の学部に進んだのですが、コンピュータを扱える学部の方が面白そうだなと考えていました。ある時、居候していた、情報系の学部の友人がプログラミングをしているのを見て、「そういえば俺、こういうことが好きだったな...」と思い出したんですよ。そこでコンピュータサイエンスの学部に編入して、プログラミングを学びました。小学生のときの原体験が、「コンピュータは得意だ」という認識をもたせていたような気がします。
■大手SIer企業でエンジニアとしての体幹を鍛える
―大学卒業後はどのようなキャリアをスタートしたのでしょうか?
大学卒業後は帰国し、大学時代に学んだプログラミングが活かせると思い、IT系の企業を目指していました。新卒で入社したのがフューチャーアーキテクト株式会社です。なぜその企業だったのかという理由が2つありまして、1つ目はITコンサルティングを提供していて、企業の本質的な課題に向き合えると思ったから。2つ目は、コンサルティングだけを提供しているのではなく、コンサルティング〜開発〜運用まで一貫して遂行できるという、企業としての能力の高さが非常に魅力的に感じたからです。
大学の卒業が7月だったので、入社前にアルバイトとして働き、大手不動産チェーンのプロジェクトにアサインされました。物件オーナー向けシステムの開発に携わり、HTMLを始めとしたデザインの修正や、ビジネスロジック変更による改修をしていました。
正社員として入社した後は、大手流通小売業者向けの販売管理システムやECサイトの決済システムの作成、高校生向けの学習アプリの開発を経験しました。
―PMやコンサルというよりはコードを書くことが多かったのでしょうか?
そうですね。フューチャーアーキテクトはITコンサルの会社で、私はエンジニアとしてコードをたくさん書きました。
Web系のグランドデザインから開発まで、一気通貫したサービスを開発を経験し、非常にありがたい環境だったと感じています。
■「自分で企画したサービスを作りたい」とアソビューにジョイン
―大手企業からスタートアップに転職するのは当時だとかなりチャレンジングだと思います。アソビューに入社したきっかけを教えてください
フューチャーアーキテクトでエンジニアとしての経験を積んでいくうちに、自分で企画して0からサービスを作りたいと考えるようになりました。ただ、特に行動を起こすわけでもなく、ぼんやりと自分でサービスを作りたいと思っている時期が続いていたんです。そんな時、中学の同級生の山野(アソビュー現代表)が起業したことをFacebookで知りました。
当時はFacebookが流行り始めた頃で、偶然山野とも接点を持ちました。
山野が起業した会社は、当時カタリズムという名前で人材紹介をしており、「将来は旅行系のWebサービスを運営したいと考えている。その時は手伝ってほしい。」と誘われ、友人としてサービスの開発を手伝いました。
しかし、お手伝い程度の関わり方ではコミット感がなく、またサービスもビジネスとして軌道に乗りませんでした。しっかり開発に携わらないと結果がでないと考え、会社を辞めてアソビューにCTOとして正式にジョインしました。
おっしゃる通り大手企業からスタートアップに転職したことはチャレンジングだと思います。アソビューにジョインして実感したことは、完璧すぎてもいけないということ。マーク・ザッカーバーグの格言「Done is better than perfect.(完璧を目指すよりまず終わらせろ)」です。スタートアップはスピードが命ですから、完璧に仕上げるよりも、クイックに作ってサイクルをまわすことが重要だと気づきました。
―アソビューで取り組んでいたことを教えてください
始めの1,2年は私が1人で開発をしており、代表の山野は1人で営業をしていました。2ヶ月ほどでasoview! のファーストバージョンをリリースし、データを登録する仕組みなどを徐々に作っていきます。そしてメンバーが増え、彼らが使うCMSや予約管理システムなどを作っていきました。そうして2,3年かけてasoview!の核となる部分が完成します。
状況がめまぐるしく変わっていったので、当時のことは正確には覚えていません(笑)。
―エンジニアリング・チームは大きくなっていったのでしょうか?
asoview! の核ができてから開発メンバーも徐々に増えたので、私はチームリーダーとして開発チームの組織作りに力を入れました。徐々に当時作っていたシステムが技術的に古くなり、それを新しくしながらプロダクト開発も進めなくてはいけないという問題が立ちはだかりました。自分たちだけでは解決が難しいと判断し、技術顧問にも参画してもらいました。
その後は、予算配分を始めとした管理会計も大きな課題になっていたので、会社の経営管理・組織管理に比重を置き、コードを書くことはほとんどなくなりました。
■一度CTOを離れたことで得たビジネスサイドの視点
―マネジメントの役割が大きくなっていくなかで、どのようにマネジメントスキルを磨いていったのでしょうか?
それは非常に悩みましたね...。自分の役割をアップデートしなければなりませんが、社内にロールモデルがいるわけではありません。エンジニアからマネージャになった時期は、他社のCTOに話を聞きに行ったりしていました。
自分の考え方に大きな変化をもたらしたのは、一度CTOの職を離れたことです。現在、トラストバンクのCTOである山崎賢さんとCTOの職を交代した時期がありました。私は、当時進めていた海外事業の事業部長となります。山崎さんがトラストバンクに転職したタイミングで、私は再度CTOに戻りました。しばらくは、海外事業とCTOを兼任していました。
一度ビジネスサイドを担当したことで、経営に対する考え方の解像度が上がりました。自分の考え方をアップデートするきっかけとなった体験でしたね。
―具体的にどのようなアップデートがあったのでしょうか?
長期的に効率の良い開発をするだけではなく、短期的な開発でPDCAを回していかなければならない場面が、往々にしてあると気付かされました。
事業計画を実現する際に、“どのようにプロダクトを開発していくか”というのは“手段”です。口ではそう言うのですが、実感は持っていませんでした。エンジニアは比較的、“長期的に効率の良いやりかたをしたい”という考えを持っていて、場当たり的な対応はしたくないわけですよ。それはもちろん必要な考え方だけど、それだけではうまくいかない部分もあると学びましたね。
■asoview! をスケールさせるためのアプローチをとる
―技術責任者としてこれから取り組みたいことを教えてください
CTOとして取り組まねばならないことは、短期的な事業成長と長期的なシステム開発の最適化を同時に取り組むことです。
サービスをリリースして9年が経ち、事業成長に合わせてシステムの開発を積み上げていったのですが、技術的負債や拡張性の無さが課題にあります。今後の事業成長を見据えたときに、それらを解消しなければなりません。レジャープラットフォームとして取り扱う遊びも増えていくので、チャネルの幅を広げ、商品を多様化していきたいです。
―経営陣として取り組みたいことを教えてください
CTOとして取り組みたいことと重なる部分がありますが、asoview!を成長させたいと思っています。そのために大きな投資と思い切ったチャレンジをしたいですね。それを実行に移すために、経営体質を変えていく必要もあります。少ないチャンスをものにできるようにしたいです。
■エンジニアはつくれて当たり前、重要なことは価値提供するためにどう考えて動くか
―江部さんが考える、これからあるべきエンジニア像を教えてください
技術を使ってどのような価値が生み出せるのかを考えられるエンジニアです。つくれるエンジニアはたくさんいるので、利用者に対する価値提供を軸に考えることができるエンジニアが必要だと考えます。
ビジネスとして、 顧客に価値提供するためには、自分たちのやりたいことをやっているだけでは実現できません。自分たちがやれる範囲ではなく、ビジネスとして価値提供をするためにどのように行動すべきか、アウトプットすべきか、考えることが重要です。
―どうやったらそれが身につくのでしょうか
自分たちのやっている事業に興味を持つことが重要だと思います。ビジネス上の構造や、携わっているサービスが今後どのような戦略で事業成長するのかなど。弊社も含め、最近のスタートアップ企業だと、それらがメンバーに開示されています。そういうものに興味を持ち、疑問に思ったことをぶつけて解消していくことが重要ではないでしょうか。
弊社の場合、エンジニアが意識的にゲストインタビューをしています。利用者からフィードバックをもらうことで、自分たちがしている価値提供は実際にどうなのかを知るいいきっかけになっています。
―江部さんが大切にしていること、信念・価値観を教えてください
稲盛和夫さんの言葉「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」を大切にしており、私自身の座右の銘でもあります。何か大きなことを成し遂げるときに、最初から悲観的だと何もできません。だからこそ、構想段階は楽観的でいいんです。計画をするときには悲観的に、そして実行イメージが湧く計画を立てる。一度決めた計画は楽観的に実行する。決めた計画に対して悲観的になっていると精神衛生上よくないし、実行イメージが持てません。楽しく楽観的に、「失敗しても死なないじゃん」という気持ちで、物事に取り組んでいます。
―これからの目標・野望がありましたら教えてください
多くの人にアソビュー!を使ってもらうことです。目標は、2025年までに海外の人も含めてユニークユーザー4,000万人を達成したいです。野心的な目標ですが、達成するために邁進していきたいと思っています。
―最後にお知らせしたいことがあったら教えてください
弊社では、共にプロダクトを開発する仲間を募集中です!特にJavaエンジニア、AWSエンジニアを積極的に採用していますので、ご興味のある方は下記採用ページを御覧ください。
ぜひ私達と一緒にasoview!を通して、ワクワクをすべての人に届けましょう!
取材を終えて
エンジニアを志したきっかけをお伺いしたとき「エンジニアを目指したことはない」という第一声に驚きました(笑)。
「考えるより行動」派だったからこそのキャリアだと思いますし、自身のスキルアップの為に他社のCTOに話を聞きに行ったというエピソードもそこから来ているものだと感じました。今後江部さんがどのように組織・事業を拡大していくのか、目が離せません!
(取材・執筆:techcareer magazine)