【突撃!隣のCTO】AIを使って、人々の “良い体験” を増やす 株式会社Algoage CTO・安田洋介さん Vol.12
様々なCTOにキャリアや原体験、これからの野望などをインタビューする、techcareer magazine(テックキャリアマガジン)とのコラボレーション企画「突撃!隣のCTO」。
今回はAI技術を用いて迅速な課題解決を提供する株式会社AlgoageのCTO安田さんにお話を伺いました。大学からエンジニアを志した安田さん。シリコンバレーでスタートアップ企業に携わり、帰国後に起業と疾走感あふれるキャリアを描いています。そんな安田さんの過去・現在・未来を紐解きます。海外進出を目指しているエンジニアの方、起業を迷っているエンジニアの方、必見です!
※お話内容や経歴等は全て取材時のものです。
■プロフィール:安田 洋介さん
東京大学で機械学習、自然言語処理を専攻。卒業後、シリコンバレーのデータ分析ツールを開発するスタートアップの創業に、データサイエンティストとして参画。帰国後、AIコンサルタントを経て株式会社Algoageを創業。
技術の進化、社会の動向を見据え、事業の方向性決定と組織マネジメントを行っている。
■ソフトウェアで革新を起こせるビジネスが生き残る
ーなぜエンジニアの世界に入りCTOになったのか、エンジニアを志した原体験を教えてください
プログラミングを始めたのは大学2年の時でした。もともと、小学校から高校までサッカーをやっていたのですが、大学では、これまでとは違ったことをしたいと思い、学生の海外インターンを支援する団体に所属しました。
その活動の中で社会人や起業家の方との接点が増え、ビジネスに触れる機会が増えました。もともとはビジネスというと、とにかくお金を稼ぐ手段というイメージがありました。しかしソーシャルビジネスという、社会価値の最大化(例えば、貧困を解消するなど)をビジネスという手段で実現する方法もあるということを知り、あくまで社会に価値を生み出す上で、ビジネスという仕組みがものすごくパワフルであると気づきました。
そこで、大学1年の春休みに知り合った、ITの起業家の方に「インターンしてみたい」ということを伝えると、快く受け入れてくれました。インターンをしている過程で、ビジネスの中でソフトウェアテクノロジーがビジネス上重要な役割を果たしていることを知りました。さらに、今後その流れが加速しそうだと思い、プログラミングを本格的に始めようと決意しました。その起業家の方に、プログラミングを学ぶならアルバイトやインターンで受け入れてくれる企業を探し、仕事としてやった方が良いと言われて始めたのがエンジニアとしてのスタートでした。
また、高校時代に養老孟司の ”唯脳論” という本を読んだことがきっかけで、脳のメカニズムや、知能とはなにかということに強い関心を持っていました。そして、私が大学1, 2年生の頃、 “グノシー” という個々人の興味に基づいたニュースをAIで伝えてくれるというサービスが話題になっていました。そこで、機械学習、AIといった技術が活用されていることを知り、専攻を決めました。機械学習、AIを活かしたサービスを自分でも作りたいという思いで、エンジニアとしてのアルバイトや、大学での勉強にのめり込んで行きました。
最先端のソフトウェアを活用したサービスやビジネスが世界で最も進んでいるエリアとして、シリコンバレーがあるということを知り、そこで修行してみたいと思っていました。ちょうどその時、大学留学のみならずインターンなどでの留学も支援してくれる奨学金制度で候補者を募集していました。その選考が通り、1年ほどシリコンバレーのスタートアップの立ち上げに携わることが出来ました。それを通じて、シリコンバレーではソフトウェアによって多くの革新が起きていると実感し、日本でも革新を起こさなければ世界から取り残されると感じました。
帰国後は次のステップを探しながら、しばらくフリーランスとして活動していました。同じく、ソフトウェア開発、機械学習の経験を積んでいた大学時代の友人である大野(共同創業者)と、次のステップをどうするか意見交換していたところ、機械学習の社会的ニーズがものすごく高まってきているし、今が起業のチャンスだよねということで意見が一致し、2018年にAlgoageの創業を決意しました。
そうして、しばらく事業とサービスの開発を進めていました。2年ほどして、当時開発していた技術の活用方法を探索している際に、当時DMMのCTOだった松本さんという方とお会いする機会がありました。そこで、自社プロダクトの活用法などを議論させていただいたり、大学の先輩として経営相談に乗っていただいたりしている過程で、グループに入らないかとのオファーをいただきました。そして、2020年にDMM社とのM&Aがあり、引き続き子会社の役員として経営をしています。
ーシリコンバレーの留学ではどのようなことをしていたのですか?
実は、始めからやることがしっかり決まっていたわけではなく、現地で具体的にやることを見つけようというプランで見切り発車でした。同じ留学支援プログラムの友人づてで紹介してもらったエンジニアの方が、起業するタイミングだったので、その創業に誘われる形でスタートアップの立ち上げに関わる事になりました。
もともと私は、日本でウェブ、モバイルアプリの開発、そして機械学習を用いた開発経験もあったので、そのプロダクトとスキルの相性がよく、誘っていただけました。データサイエンティストとしての役割がメインでしたが、5人目のメンバーだったこともあり、開発はもとより、どんな機能をつけるべきか、ユーザーのヒアリング、更には資本政策の議論など、スタートアップ立ち上げに伴う幅広い経験を積むことが出来ました。
留学を経験して気づいたことは、海外に出ていくために必要なエンジニアリングスキルのハードルは多くの日本人が思っているより高くないということです。私もシリコンバレーに留学する以前は、天才たちがゴロゴロいて、相当なエンジニアリングスキルがないとやっていけないのではないかと思っていました。しかし、実際に飛び込んでみると、平均的なエンジニアのスキルレベルは、あまり変わらないという印象を受けました。お互いの知識をリスペクトし、自分がわからないことを相手から引き出して事業やサービスを前に進める力など、スキル以外で日本との違いを感じることが多かったです。語学に関しても、シリコンバレーにはノンネイティブが多くとても寛容なので、英語が流暢である必要はあまりないと感じました。もし、語学やエンジニアリングスキルに自信がないという理由で海外進出に気後れしているようであれば非常にもったいないと思うので、ぜひ勇気を出して一歩踏み出してみてほしいです。
ースタートアップ経験後に創業されていますが、大企業に就職するという選択肢はなかったのですか?
大企業は視野に入れていませんでした。というのも、“配属ガチャ” という言葉があるように、配属先やどの上司につくかが運に任されていて、自分の成長に大きなインパクトを与える環境を運に任せるのは嫌だと、個人的に思っていたからです。加えて、小さい組織でPDCAを高速で回していきたいという考えもありました。
僕自身、0→1が得意ということもあり、スタートアップで働く方が性に合っていると感じていました。かといってスタートアップへのメンバーとしての参画はシリコンバレーで経験したので、同じことをやっても意味がないという考えもありました。そのため、同じような考えを持っていた大野と「起業するのがベストだね」と、2人で起業を決意しました。
ーもとから学ぶ意欲や探究心が強かったのですか?
昔から探究心は強かったように思います。というのも、私は最寄り駅まで車で2時間という北海道の超田舎で生まれました。近所に大きな塾などはなく、進学校を目指す同級生もいませんでした。ただ私自身、知的好奇心が強く興味がある対象も幅広かったため、学校での勉強も楽しみながら、興味あることを自走して学ぶようになりました。そういった育ちをしたせいか、PCなど、目の前に知的好奇心をくすぐるものがあるとついつい触って、原理や面白い遊び方を探索してしまいますね。それがプログラミングにはまった一つの要因だと思います。
しかし高校では寮に住み、スマートフォンを始めとしたデジタル機器が全て禁止という、デジタルから隔絶された環境で過ごしました。その時期にもっと自由にPCに触れていれば更に技術を深く学べたかもしれないという残念さはあります。しかし、スポーツや勉強に打ち込んだことで、幅広い面での成長が出来ました。具体的に言うと、部活でキャプテンとして打ち込んでいたサッカーからは、チームで目標を目指すことの難しさと楽しさを学び、勉強については数理系はもちろん、あまり受験ではインパクトのない倫理とかをかなり勉強しました。もはやセンター試験では倫理が一番得意科目になっていましたね(笑)。
個人的には、倫理って善い人生を歩むための知恵が詰まった科目なので、マイナーなのが不思議なくらいです。それから、住んでいた寮では、1年目に30人部屋で生活するのですが、そのカオスな経験のおかげで自分の度量が広がった気がします(笑)。
目指すタイプによりますが、昨今のエンジニアは、技術一辺倒より幅広く知識やスキルを得ている方がトータルでの価値を生み出しやすいと感じています。なので、多少遠回りでも、知識や経験の幅を狭めずに積み上げていくことは大事だと思っています。
ただ、大学に進学して自分のPCを手に入れてからは解き放たれたように、PCの活用とプログラミングにズブズブとハマっていき、暇さえあればパソコンに向かっているような時期もありました。ある程度エンジニアとして下地がしっかりしている人は、一定そういう期間がある人が多いなと思っています。一見、さっき述べたことと矛盾しているようですが、実際それを成立させている優れたエンジニアは多く、広くも深くも突き進めるラーニングアニマルであることが重要なのかなと思ってます。
■できなくてあたりまえ、全部できる人なんていない
ー大変だったエピソードはありますか?
プログラミングのアルバイトは放任主義だったので、始めたばかりの頃はやり方が全然わからなくて大変でした。スキルがある人ならすぐに終わる内容でも、私は1~2日かけており、周りから皮肉を言われたこともありました。しかしアルバイトを通して、自分ができることの幅が広がると信じて、それをモチベーションに頑張りました。
またシリコンバレーのスタートアップでは、帰国後1年ほどリモートワークで参画していたので、朝起きたらバグレポートがたくさん出ていたり、寝ようと思った頃にシステムが正常に動いていないとの報告が来たり、精神的に辛かったです。他のメンバーはシリコンバレーで開発しているので、“自分だけ日本に取り残されている感” もありましたね。
ただ、自分にできないこと、知らないことがあるという事実に対してマイナスに受け止めることはないですね。「無知の知」というソクラテスの言葉にあるように、自分が成すべきことに対して無知な部分があることはむしろ当たり前で、常に「できるだけ早くキャッチアップしながら学ぶしかない」というマインドセットです。このマインドセットは自分の大きな強みだと思いますし、身につけるには自分の認識を変えるだけなので、おすすめです。
ー会社として、CTOとして現在取り組んでいることを教えてください
会社として現在取り組んでいることは3つあり、1つ目は自社プロダクト。技術的にもビジネス的にも現在検証を進めている段階です。具体的にはゲーム向けの改善を機械学習がやってくれるというもので、通知を最適化していくというところから初めています。
2つ目は、ゲーム制作における裏側の作業の自動化です。キャラクター選定など、いわゆる裏側の作業は人の手でやっているのが現状なので、機械学習によって自動化していくという事業をつくろうという構想があります。
3つ目は、DX化の推進です。他の企業と幅広く提携して、業務で使えるDX推進のようなソフトウェアを提供しています。その規模拡大をしていきたいと考えています。
CTOとして取り組んでいることは、技術者の採用育成と、技術のリサーチ、技術ドリブンな事業機会の探索です。機械学習でできることの幅が広がっているので、技術ドリブンな領域にビジネスチャンスがあるのではないかと考えています。
ー調査というのは、どの程度最新の情報を調査するのですか?
学会の有名な論文を読んだり、海外のスタートアップ企業をリサーチすることが多いですね。社内に論文を読めるエンジニアが多くいるので、それは弊社の強みだと自負しています。
特に機械学習分野ではアカデミックな進捗がビジネスにインパクトを与えるサイクルが早いので、ウォッチしていくことはすごく大事だと感じます。
ーエンジニアリング組織規模はどのくらいですか?
現在はフルタイムで10名強。今年は倍にしたいですね。
システムアーキテクチャをつくれる人や、システムに強い人を仲間にしたいです。それから、プログラミングやビジネスに関する勉強をしたい学生を、インターン生として受け入れて育成していきたいですね。社内で人材を育成する仕組みがうまく回っているのは、弊社の大きな強みです。自分の過去の体験から、田舎の学生でもハンディキャップが生まれないよう、平等に学べる取り組みも視野に入れています。
■大切なことは、わからないことを学びながら進める力
ー安田さんが考える、これからあるべきエンジニア像を教えてください。
僕が考える、これからあるべきエンジニア像は3つあります。
1つ目は、学習意欲があり、学習速度が早いエンジニアです。エンジニアリングは日々変化していくので、キャッチアップすることは大事です。例えば、なにか実現したいことがあったとして、予めそれに関する知識を持っているとは限らないですよね。ですから、知識がなくても学びながら進められる力は必要です。先程も言及しましたが、「無知の知」があって、知らないということを謙虚に受け入れながらも、知りたいという強い渇望に突き動かされている人が理想ですね。前程も言及しましたが、ラーニングアニマルというのがよく表している言葉だと思います。
2つ目は、領域横断的にやれるエンジニアです。幅広く手を出すことに抵抗がある人は伸び悩む傾向にあると感じています。例えば縦にだけ深堀りしても、社会が変化して、その軸自体がだめになることもあります。また、縦に深掘るにしても、どこかで領域をまたいだ知識が必要になることが多く、その際に領域をまたげないと、縦方向にも伸び悩みます。ですから、領域の垣根なく成長していけることはとても重要だと考えています。
3つ目は、ユーザーが何を求めているのかわかるエンジニアです。どんな人が、どんな理由で使うのかが正しく設定されていなければ、良いソフトウェアを作ることはできません。必ずしも、大多数の人が求めているものを理解する必要はないですが、開発しているものがターゲットとしている人のニーズを正しく理解し、それを満たすために作っているものがどうあるべきかを考えられる力は、今後エンジニアの評価を左右する大きな要因になると思います。
ーユーザーのニーズがわかるというのは、姿勢の問題ですか?それとも習慣化すればできるようになるスキルの問題ですか?
私は姿勢だと思います。具体的にユーザーを想像しているか、いかにユーザー目線で物事を考えられるか、という姿勢が大切です。
人のニーズ、気持ちの理解は、得意不得意が分かれるところだと思います。しかし経験上、マネージャーがフィードバックをしたり、良い質問を投げかけると、意識が変わる可能性は高く、マネジメントでそういった意識を引き出せる力、仕組みも非常に重要です。
■AIの力で人々の良い体験を増やす世界を目指して
ー安田さんが大切にしていることはなんですか?
抽象的ではありますが、“エネルギーが満ちている社会にすること” です。
エネルギーが満ちている社会というのは、物理的な意味ではなく、いきいきと社会がまわっている状態という感覚的な意味合いです。その状態にするために重要なことは、ソフトウェアと人の繋がりだと考えます。
人がやりたくない仕事で時間を消耗しているのはエネルギーのロスです。それをどうやったらより良い循環に繋げられるかが自分の中でのミッションです。したがって、ソフトウェアの活用で、人々がやりがいのあることに、いきいきと取り組めている社会を、個人的にも、Algoageでも目指しています。
ーこれからの目標・野望を教えてください
目先の目標で言うと2つあります。
1つ目は、人間の活動を最大限コンピューターが支える状態をつくることです。例えば、人間が機械的にやっている仕事から開放し、その人にとって良いものや良い体験を早い段階で見つけてあげることです。そのためにAIの力を使い、人の有意義な活動を加速させていきたいです。
2つ目は、田舎と都会で得られるチャンスのギャップをなくすことです。まだどうすれば解決できるのか答えは出せていませんが、田舎にいてもハンディキャップなしにチャンスが得られる世界をつくりたいです。
野望で言うと、イーロン・マスクのように、壮大で大きなインパクトをもたらす挑戦がしたいです。彼は、事業としてもエキサイティングですし、自分の知的好奇心も満たされているだろうし、人類の長期的未来を見据えた社会貢献をしています。そういった生き方をしたいですね。
■取材を終えて
大学生でエンジニアの世界に飛び込み、アルバイトで実力をつけ、シリコンバレーのスタートアップに参画、という安田さんのスピード感・行動力に圧倒されました。また、幼少期には、書店が近くに無いなど勉強に対するハンディキャップがありながら、独学で知識を得ようとする前向きな姿勢に感銘を受けました。
イーロン・マスクがブレイン・マシン・インターフェースの事業をやっていることに対し「自分もやりたかったんですよね。先にやられた~って感じです(笑)。」とお話していた安田さんが、どんなインパクを出すのか、今後の活動に注目です!
(取材・執筆:techcareer magazine)