最新刊”パルプクトゥルフ”の魅力を徹底解説!
文:内山靖二郎/アーカム・メンバーズ
イラスト:フィファ・フィンズドティエ、ローマン・エンツォフ
●なにができるの?
ソースブック“新クトゥルフ神話TRPG パルプクトゥルフ(以下、“パルプクトゥルフ”と表記)”は“新クトゥルフ神話TRPG”の新たなトーンを提案するソースブックです。
「パルプ」らしい派手な活劇が楽しめるよう、新たに追加されたルール。
“新クトゥルフ神話TRPG クトゥルフ2020”のように「パルプ」の1930年代のアメリカという時代を舞台としてプレイするための手厚いガイド。
“新クトゥルフ神話TRPG マレウス・モンストロルム”のように、新たに追加された魅力的な敵役(ヴィラン)やパルプモンスターのデータ。
そして、とても挑戦しがいのあるボリュームたっぷりのシナリオが4本。
これら全部がまとめられ、このソースブック一冊で「パルプ」という魅力的なトーンのゲームを開始できてしまう、それが“パルプクトゥルフ”なのです!
●パルプとは
さて、何度も繰り返されるキーワード「パルプ」とはなんでしょう?
もともとそれは安価な木材パルプ紙に印刷された大衆向け雑誌の「パルプ誌」から来ています。
20世紀初頭のアメリカでは、次々とパルプ誌が創刊されて、冒険、ロマンス、アクション、ミステリー、そしてホラーを題材とした刺激的な小説がどんどん発表されました。そんな安価で手に入るハラハラドキドキの娯楽は、たくさんの人に受け入れられ、今のメディアにも受け継がれています。
つまり、「パルプ」とは特定の物語ジャンルを表す言葉ではなく、そんな安価な出版形式が実現した大衆向けエンターテイメント全般を指したものなのです。
ハードボイルドな刑事、超人的な主人公、魅力的な女性、悪の権化たる敵役、マッドサイエンティスト、悪魔崇拝者、失われた恐竜世界、制御不能な超科学、醜悪な怪物、それらすべてが「パルプ」らしいと言えるのです。
とはいえ、全体的な「パルプ」のイメージとしては……派手な活劇、冒険、陰謀の要素が強いでしょう。
勇敢な主人公がスリルに満ちた苦難に立ち向かい、時には悪党の陰謀によってピンチに陥る。
しかし、最終的には主人公の大活躍で勝利を得る!
そんな物語に挑むプレイヤーキャラクターのことは、「探索者」ではなく「ヒーロー」と呼ぶことになります。
“パルプクトゥルフ”では、従来の“新クトゥルフ神話TRPG”に比べて、より活劇のような物語を楽しむようになっているのです。
ちなみに、かのH. P. ラヴクラフトが寄稿していた雑誌『ウィアード・テイルズ』も、この時代のパルプ誌です。
実は「パルプ」と「クトゥルフ神話」は切っても切れぬ関係だったのです!
●パルプはパルプだけじゃない?
そんなソースブック“パルプクトゥルフ”ですが、楽しみ方はパルプ風の物語にとどまることはありません。
これまでのソースブックと変わりなく、キーパーが思うように、使いやすいように“パルプクトゥルフ”を活用できるのです。
例えば、従来の“新クトゥルフ神話TRPG”のシナリオに、“パルプクトゥルフ”のヒーローで挑んでもらうことは、ソースブック内でも提案されているほどです。これまで逃げるしかなかった武装したカルティスト集団にも、ヒーローであれば正面から立ち向かえるでしょう。
探索者でプレイするのと、ヒーローでプレイするのとでは、同じシナリオでもかなり違う体験を提供できるはずです。キーパーにとってはおなじみのシナリオでも、“パルプクトゥルフ”で遊ぶことで新鮮な気持ちで楽しめ、シナリオの別の魅力に気づけるかも?
また、“パルプクトゥルフ”では舞台背景として1930年代アメリカを紹介していますが、これはパルプ誌の全盛期が1930年代アメリカだったからです。当然、この時代とパルプは相性が良いでしょうが、だからといってキーパーはそれに縛られる必要はありません。あなたがヒーローに活躍してもらいたい時代があるのなら“パルプクトゥルフ”のヒーローをどこの時代、どこの舞台に登場させてもよいのです。
現代日本、現代アメリカ、大正や昭和の日本、それどころか未来でも、どんな時代にでもヒーローはいるはずです!
“パルプクトゥルフ”には、いろいろな新しいルールが追加されました。キーパーはこれらのルールの一部をピックアップして、自分のプレイグループの“新クトゥルフ神話TRPG”に採用してみるのも面白いでしょう。
そうすることで探索者はタフになったり、一風変わった特技を得たりすることができます。
従来の“新クトゥルフ神話TRPG”で、ちょっとだけ探索者に過酷な冒険に挑戦してもらいたいとき、または探索者に新たな個性を提供したいとき、そんなときも“パルプクトゥルフ”は参考となるはずです。
もちろん“新クトゥルフ神話TRPG”に“パルプクトゥルフ”のルールを導入するときは、事前に参加するプレイヤーには告知しておきましょう。そうでないとプレイヤーも驚いてしまいますからね。
●探索者?ヒーロー?
ここからはもっと“パルプクトゥルフ”のルールに踏み込んで紹介していきましょう。
前述したように“パルプクトゥルフ”では、プレイヤーキャラクターの呼称は「探索者」から「ヒーロー」になりました。
そんな呼び名にふさわしく、普通の“新クトゥルフ神話TRPG”の探索者に比べると、ヒーローたちはかなりタフになっています。とは言え、探索者の作成に関するルールのほとんどは従来の“新クトゥルフ神話TRPG”の延長線上にあるので、経験者であればほとんどひっかかることなく新たなヒーローを作成できるでしょう。心配無用です。
では、探索者からヒーローとなって、どんなところが変わったのか……いくつか紹介していきましょう。
○耐久力
ヒーローの耐久力は従来の探索者の倍になりました。実にシンプルかつ効果的な修正点ですね。これだけでもう十分にヒーローはタフです。
さらに、あとでも紹介しますが幸運ポイントに関する新しいルールを駆使することで、もっとヒーローはタフになります。おそらくヒーローが耐久力を失うことで死亡するのは、よほど不運(幸運ポイントが尽きた)なときだけでしょう。
もちろん、そんなヒーローであろうと怒れる邪神を前にしては無力です。そこは“パルプクトゥルフ”であっても変わりありません(クトゥルフ信者の方安心してください!)。
ただ、そんな邪神に踏みつぶされても、幸運なヒーローならばぎりぎり生き延びるチャンスがあります。あきれるほどに“パルプクトゥルフ”のヒーローはタフなのです!
○パルプアーキタイプ
ヒーローはキャラクターのコンセプトをさらに明確にする「パルプアーキタイプ」を持つようになりました。
例えば、「このヒーローの職業は“刑事”で、パルプアーキタイプは“ハードボイルド”だ」といった具合です。
これまでプレイヤーがハードボイルドだと設定しても、それは雰囲気だけで探索者の能力に差異はなかったですよね。正義漢の刑事でも、無鉄砲者の刑事でも、実際のところデータは変わりありません。
ところが“パルプクトゥルフ”では、選んだパルプアーキタイプによって、それにふさわしい能力値と技能が優遇されるようになりました。例えば、さっきの例のハードボイルドなら、以下のような優遇を受けることになります。
ハードボイルドのタフさを再現するために、まずCONの能力値が高くなるようになっていますね。なんと最低でもCON 70が約束されています。これはすごい!
また、いかにもハードボイルドが持っていそうな技能に100ポイント割り振れるようになっています。
このおかげでより優秀な探索者が作成できるのもうれしいですが、アーキタイプのおかげでキャラクター性がよりつかみやすくなったのも大きな利点です。自己紹介のとき「ボクのヒーローは“ハードボイルド”の“刑事”だよ」と自己紹介すれば、周りもあなたのヒーローがどんな人物なのかすぐにイメージできるはず。これはキーパーにとっても、一緒に冒険する仲間にとっても、ありがたいことです。
そんなパルプアーキタイプですが、なんと22種類も用意されています!
ハードボイルドのほかにも、冒険家、正義漢、肉体派といった、いかにもパルプ誌の主人公らしいものから、悪漢、享楽家、ハーレクインといったむしろ敵役にふさわしいような変わり種まであって、きっとあなた好みのパルプアーキタイプが見つかることでしょう。
○タレント
ヒーローのすごさは、能力値や技能の底上げにとどまりません。パルプ誌の主人公らしい並外れた力として、さらにヒーローには「パルプタレント」という恩恵や強化が2つ与えられます。
特定の技能を使用するときボーナス・ダイスを受け取れたり、戦闘において特定の行動がデメリットなしで行なえたり、幸運ポイントを費やすことで特別な効果を得たりと、その効果はいろいろです。
そんなパルプタレントは40種類も用意されており、どのタレント2つを組み合わせて持っているかで、そのヒーローならではの個性が付け加えられるわけです。
このパルプタレントですが、実のところ「特別に強くなれる!」というほどのものではありません(強いものもありますが)。ただ、ここぞというときにほかの人にはない特別な力を発揮すれば、よりヒーローは個性を光らせられるでしょう。
実際のプレイのとき、自分のヒーローのパルプタレントが役立つと、きっとあなたもドヤ顔してしまうはずですよ!
○パルプの職業はこんなに多彩
パルプ誌の物語では、いろいろな職業や立場の主人公が活躍するものです。そんなパルプらしさを再現するため、“パルプクトゥルフ”では、圧倒されるほど多彩な職業が用意されています。
そして、これらの職業は普通の“新クトゥルフ神話TRPG”にも簡単に流用できます。探索者の職業のバリエーションを欲しているプレイヤーにとってはありがたいのでは?
アスリート/医師/エクソシスト/エンジニア/エンターテイナー/お抱えドライバー/オカルティスト/押し込み強盗/街娼(がいしょう)/科学者/学生、インターン/活動家/カルト指導者/看護師/女性犯罪者(ガン・モール)/ギャングスター(ボス)/ギャングスター(チンピラ)/ギャンブラー/教授/銀行強盗/組合活動家/刑事/芸術家/考古学者/公選職/殺し屋/詐欺師/作家/士官/司書/自然保護官(レンジャー)/執事/写真家/巡査/賞金稼ぎ/私立探偵/紳士、淑女/水兵/ストリート・パンク/スパイ/聖職者/探検家/探偵社調査員/超心理学者/ディレッタント/伝道者/トライブ・メンバー/逃がし屋/バーテンダー/ウエートレス/俳優(映画)/俳優(舞台とラジオ)/犯罪者/ヒコーキ野郎/秘書/兵士/報道記者/放浪者/ホーボー/ボクサー/レスラー/ミュージシャン/メカニック/猛獣ハンター/用心棒/ヨギ/リポーター/連邦職員/労働者/渡り労働者
●パルプらしいルール
“パルプクトゥルフ”にはヒーローの創造に関するルール以外も、まだまだ物語が「パルプ」らしくなるようなルールが追加されています。
中でも注目したいのは従来の“新クトゥルフ神話TRPG”では選択ルールだった「幸運を消費する」が、“パルプクトゥルフ”では常用のルールに格上げされたことでしょう。
これは幸運ポイントを消費することでロールの結果を変更できる、プレイヤーにとってはとてもありがたいルールです。ただ、“パルプクトゥルフ”では、幸運ポイントを消費して得られる効果はそれだけにとどまりません!
例えば……
幸運ポイントを消費することで、耐久力を回復したり。
銃器のファンブルの効果を打ち消したり。
正気度喪失の量を半減させたり。
いろいろな場面、とくにヒーローがピンチに陥ったとき、幸運ポイントを消費することで乗り切ることができるようになりました。
ただし、油断しないでください。
そんな効果を得るために必要な幸運ポイントの量は、案外と多いのです。幸運ポイントは回復できるチャンスの少ない貴重なリソースです。油断していたら、あっという間に幸運が尽きて、いざというとき困ることになるでしょう。
決して、幸運ポイントのおかげでゲームが「ぬるく」なったわけではありません。
むしろ、ヒーローは正気度ポイントと同じように、幸運ポイントの減少にも注意せねばなりません。正気度と幸運、どちらが先に尽きるのか……ハラハラドキドキも2倍になったのです!
●パルプの正気度
さて、そんな幸運ポイントと同じか、それ以上に大事なのは、みなさんにもおなじみの正気度ポイントですね。
安心してください(?)。
“パルプクトゥルフ”でも、〈正気度〉ロールのルールは健在です。こちらはあまり大きな変更はされておらず、ヒーローであっても恐ろしいモノを目撃すれば、やっぱり狂気に陥ることもあります。
ただ、どんな狂気に陥るかについては、パルプらしい症状をまとめた特別な「狂気の発作」表が用意されています。
「狂気の発作」表にある症状の一つを紹介すると――
どうでしょう?
恐怖におびえるというより、周りからしてみれば「またあいつの悪いクセが出た……」といった感じですね。たとえ狂気の中であってもヒーローの豪胆さを表しているようで、どんなふうにロールプレイしようかワクワクさせられます。
“パルプクトゥルフ”の「狂気の発作」表を使えば、おぞましい怪物と遭遇したあとの狂気によるハプニングもこれまでの“新クトゥルフ神話TRPG”とは違った展開となることでしょう。
たとえ狂気の中でもパルプらしさは失われないのです!
●パルプらしい新たな力
ここまでの紹介したルールだけでも、ヒーローは十分にパルプらしい活躍ができるでしょう。
ですが、“パルプクトゥルフ”は大胆な提案として、魔術、超能力、ウィアード・サイエンスといった、さらなる可能性をもヒーローに与えてくれています!
これらのパワーはすべてのヒーローが無条件で得られるものはないのですが、逆を言えば条件さえ合えば「こんなトンデモパワーが!?」といったものが与えられるのです。
“パルプクトゥルフ”のサービス精神には脱帽するしかありません。
○パルプ魔術
従来の“新クトゥルフ神話TRPG”でも、探索者は呪文を習得して使用することができました。ただ、習得するには長い時間が必要であり、危険なキャスティング・ロールに挑戦する必要がありました。
一方“パルプクトゥルフ”では、呪文の習得する時間が短くなりました。魔道書を一晩研究すれば呪文は習得できるといった感覚です。遺跡に向かう寝台列車内で、ヒーローが古代の文献から邪悪を封じる呪文を習得する……そんなインスタントに脅威への対抗手段が得られる。それもまたパルプらしい展開です。
また細かい話ではありますが、ヒーローの耐久力が倍増したおかげで、キャスティング・ロールの失敗でマジック・ポイントが足りなくなったとき、代わりに耐久力でコストを支払うことが容易になりました。従来の“新クトゥルフ神話TRPG”ですと、たまに探索者のマジック・ポイントと耐久力を合わせてもコストに足りなくて絶体絶命に陥ることもありましたが、タフなヒーローであれば血を流しながらも呪文を唱えきることができます。実は、ヒーローと呪文は相性が良かったのです!
○超能力
超能力――これは気になっている人も多いのではないでしょうか?
“パルプクトゥルフ”では、超能力は〈目星〉や〈聞き耳〉のような技能と同じような扱いとなっています。
例えば、「ボクの聖職者のヒーローは〈サイコメトリー〉が30%あるよ」といった具合です。
ヒーローはそれぞれの超能力に応じたコスト(マジック・ポイントなど)を支払った上で、超能力の技能ロールをして成功すれば、ふさわしい効果が得られるようになります。超能力者といっても、自由自在に能力を発揮できるわけではありません。コストとダイスロールの成功が必要であり、たとえ超能力者のヒーローといえど、そこまで強力な存在ではありません。
それでも従来の“新クトゥルフ神話TRPG”では考えられなかった一風変わった方法で情報を得たり、難題を解決できたりするのは魅力的です。きっと超能力はヒーローの際だった個性となるでしょう。
なお、さすがの“パルプクトゥルフ”でも超能力は選択ルールとなっており、導入する前にキーパーは一考すべきものとなっています。
○ウィアード・サイエンス
広くは認知されていない奇妙な科学、ウィアード・サイエンスによって生み出された道具(ガジェット)を所持して、ヒーローは冒険に役立てることができます。
例えば、どこかの名探偵が蝶ネクタイに仕込んでいるような声帯模写装置や、ゴーストをバスターする職業の人が持っていそうなゴースト探知機など、現代の科学技術でも再現できないような奇妙なガジェットが“パルプクトゥルフ”には掲載されています。
このガジェット、ヒーロー自身が制作するのはなかなか大変なのですが、依頼人の発明家から提供されるなど(実験台にされているだけ?)すれば、容易に物語に登場させることができます。苦労の割りに見返りの少ない正義のヒーローに、そんな発明品をご褒美としてプレゼントしてもよいでしょう。
そんな奇妙なガジェットを持っているだけでも、ヒーローの個性がまた一つ増えるはずです。
●パルプの敵役
これまで強くなったヒーローの紹介ばかりしてきましたが、もちろん“パルプクトゥルフ”ではそんなヒーローの前に立ちはだかる敵もたっぷり紹介されています。
○ヴィラン
魅力的なヒーローのライバルには、魅力的な悪役が必要です。それがヴィランたちです。
彼ら、彼女らは一見したところ普通の人間のように見えますが、その背景、思想、正体はクトゥルフ神話に深く関わるもので、単なる悪役ではなく、しっかりと「クトゥルフ作品」らしさを秘めたキャラクターたちとなっています。
どのヴィランをとっても事件の黒幕にふさわしい一癖ある存在で、きっとキーパーのパルプのイメージを広げてくれるはず。また、ヴィランはヒーローと同じように特別なタレントを持っており、いざ対決したとき予想外の力を示してヒーローを驚かせることでしょう。
○パルプモンスター
“パルプクトゥルフ”では、ヴィランに並んでティラノサウルス・レックスや巨大ロボットといった、一部の人にはたまらないモンスター(?)のデータも掲載されています。
このデータを見るだけで新しいシナリオのアイデアが浮かんでくるキーパーもいるのではないでしょうか?
○下っ端(モーク)
強力な敵がいる一方で、カルティストの手下や町のチンピラなど、ヒーローにとってはとるに足らないような敵NPCについては「下っ端(モーク)」という分類がされるようになりました。
この下っ端はルール的にも普通のNPCとは違っていて、耐久力が半分以下になると自動的に行動不能になってしまいます。ヒーローは耐久力が倍増しているのに対し、下っ端の耐久力は半分にされたというわけです。
おかげで下っ端はとにかくもろいです。ヒーローの攻撃でバタバタと倒され、さらにヒーローの応戦でもバタバタと倒されます。それこそ「群がる雑魚どもをちぎっては投げ、ちぎっては投げ」といった、おおよそ“新クトゥルフ神話TRPG”ではありえなかった、パルプらしい爽快な光景が繰り広げられます。
しかも、このルールのおかげでヒーローは下っ端の息の根を止めるまでダメージを与える必要がなくなり、大量殺人をせずに済むようになりました。この「下っ端」のルールには、ヒーローの罪悪感を減らす効果もあるのです!
○ヒーローとヴィランの組織
“パルプクトゥルフ”には個人だけでなく、組織のデータも充実しています。
ヒーローの助けとなってくれる組織、そしてヒーローの敵となるヴィランの組織、どちらも紹介されており、物語の奥行きを持たせてくれる舞台装置となってくれています。
ときにはヒーローの情報提供者となったり、時には異なる正義がぶつかり合ってヒーローの邪魔となったり、いろいろな活用の仕方があるでしょう。
●パルプ全盛の1930年代
前述したように、パルプ誌の全盛期は1930年代のアメリカでした。
“パルプクトゥルフ”では「1930年代」と題して、まるまる一章を割いて1930年代のアメリカの状況をくわしく解説してくれています。
史実でも1920年代から1930年代にかけて、アメリカは大きな変化を遂げました。これまで1920年代については勉強してきたというキーパーも、この“パルプクトゥルフ”を読めば、1920年代から1930年代にかけての、アメリカを取り巻く状況の変化や、社会の雰囲気の違いに気づくことでしょう。歴史の教科書では語られないような、一般の人々の日常生活に関わるニッチな部分の解説もあり、ヒーローが歩き回る町の空気を演出するのに必ず役立つはずです。
ヒーローとなって派手な冒険をするソースブックとしてのみならず、1930年代のアメリカを舞台とした“新クトゥルフ神話TRPG”をプレイするときにも、この“パルプクトゥルフ”の記述は貴重な資料となるでしょう。一読の価値ありですよ!
●パルプのシナリオ
“パルプクトゥルフ”では、4本のバリエーション豊富なシナリオが用意されています。
○崩壊装置/The Disintegrator
物質を分解し完全に破壊する「崩壊装置」がオークションで売りに出されるという。ヒーローたちは情報の真偽と、装置の危険性を確認すべく、オークション会場のホテルに向かう。
このシナリオは“パルプクトゥルフ”の入門に位置しており、パルプのいわゆる「お約束」をゲームに盛り込むお手本にもなっています。まだパルプの世界に馴染んでいないプレイヤーにとって、これからのスリルに満ちた物語に飛び込む心構えをするのにふさわしいシナリオでしょう。
○ハリケーンを待ちながら/Waiting for the Hurricane
ヒーローたちがやってきた海辺の素敵なホテル。ところが、ちょうどそんな海辺の町にハリケーンが襲来します。
そして、そんなハリケーンに乗じて、この町でよからぬことをたくらむ者たちの気配が……ヒーローたちは悪党の陰謀を阻止できるでしょうか?
話の筋は一本道で迷うところはなく、ヒーローが悪党の陰謀を打ち砕く、いかにもパルプらしい活劇を気持ちよく楽しめるシナリオです。“パルプクトゥルフ”のルールを理解したら、次にプレイするのにお勧めです。
○パンドラの箱/Pandora's Box
とある大都市で「パンドラの箱」と呼ばれる謎の品がきっかけとなり、3つの事件が起きます。よその土地から来たヒーローは、慣れない都会での調査に苦労しながらも、街にはびこるギャングたちと対決します。
このシナリオは非線形シナリオの要素があって、多くの個性的なNPCたちとの関わりに重点が置かれるものです。“パルプクトゥルフ”に少し慣れてから挑戦するとよいでしょう。
○中国行きの遅い船/A Slow Boat to China
ヒーローたちが豪華客船の旅を満喫していたところ、船内で奇妙な失踪事件が発生。ヒーローは謎の解明に立ち上がります。
このシナリオでは、ゲーム内時間で約2週間をかけてゆったりと状況が変化していくため、プレイヤーも腰を据えて船旅を楽しみ、同時に事件の調査も進めていくスタイルのシナリオです。
英題の「A SLOW BOAT TO CHINA」は「たっぷり時間がある」ことを例える言葉で、このシナリオの遊び方と重ねた意味となっています。面白いですね。
●終わりに
“新クトゥルフ神話TRPG”に新たなトーンをもたらすソースブック“パルプクトゥルフ”の魅力をお伝えしました。
パルプらしい冒険とスリルに満ちた物語を楽しむのはもちろん、キーパーにとっては頼もしいツールボックスとしても活躍します。
“新クトゥルフ神話TRPG”の可能性を広げる“パルプクトゥルフ”は、誰にとっても買って後悔のない一冊となるでしょう。
おわり