鬼滅の刃考察
はじめに
遊郭編のアニメでどっぷり鬼滅にハマり、原作の奥行きに感動して色々考察した内容を記録しておきます。コーヒーブレイクにどうぞ。
ナンバリングしていますが、通し番号という意味以上のものはありません。ですが、上から順につらつらと書いたため、途中から読むと意味が分かりづらい箇所がありそうです。
※本考察の二次利用や引用についてはページ最下段をご確認ください。
s1.竈門家について
◆無惨は竈門家=縁壱&うた夫妻の家だと知っていて襲ったのか?
答えは恐らくNOです。以下推論。
まず、縁壱が”うた”の家(のちの竈門家)に住み始めたのは鬼狩りになる前です。
「私と”うた”は一緒に暮らすことにした」→”うた”と子供が殺され「私は鬼狩りとなった」(186話)
この時点ではまだ無惨は縁壱を知らないと考えるのが自然でしょう。
”うた”とお腹の子供を襲った鬼は無惨の支配下にあったでしょうが、か弱い妊婦なので特に記憶に残ることも無かったと思われます。
無惨と縁壱が出会うのは、縁壱が鬼狩りになった後なので、この時殺した妊婦=”うた”と縁壱を結びつける情報を持っていたとは考えづらいでしょう。
また、”うた”が殺されてから無惨と出会うまで、縁壱は”うた”と暮らした家に住んでいません。
竈門家の場所は縁壱が”うた”と暮らしていた家と同じ場所
人が住まないあばら家となっていた所に竈門家の人がやってきて住み始め(190話コソコソ)
とあり、”うた”と子供が死んだ後に鬼狩りとなった縁壱は、あばら家となる程度の期間この家を離れていたと考えられます。
そして鬼舞辻無惨と対峙し取り逃がしたために鬼殺隊を追われた後、
鬼殺隊を追われた縁壱が”うた”と暮らしていた家へふらふらと帰っていた時に、鬼に襲われて逃げ惑う炭吉と臨月のすやこを見つけて助けた(190話コソコソ)
とあります。
よって、無惨と遭遇した時点では、縁壱は”うた”との家に住んでおらず
且つ
「鬼の始祖を見つけた」「出会った瞬間に私はこの男を倒す為に生まれてきたのだとわかった」(186話)
「鬼の始祖鬼舞辻無惨はもう私が死ぬまで姿を現さないだろうとも言った」(187話)
とあるように鬼舞辻無惨とは一度しか会っていないため、無惨が「竈門家=縁壱と”うた”の家」だと把握していた可能性は殆ど無いと思われます。
また、禰󠄀豆子の回想の中の無惨が
「この程度の血の注入で死ぬとは、太陽を克服する鬼などそうそう作れたものではないな」(196話)
と回想しており、大正竈門家を襲ったのは鬼舞辻無惨本人であり、仮にここが天敵である縁壱が住んでいた家だと知っていたら、家やその周辺をもっと探っていたと思われます。
そして、この時もし注意深く探していたら、”うた”が埋められたところにある青い彼岸花にも気付いたかもしれません。
さらに、黒死牟の回想で
「日の呼吸の型を知る剣士も、お前(縁壱)の死後あの方(無惨)と私で徹底して殺し尽くした」(178話)
とあり、仮に炭吉と縁壱の交流を無惨が把握していたら、とうの昔に襲撃し殺し尽くしていたはずです。炭吉はあの耳飾りをしている訳ですし。
”うた”と共に縁壱の子を殺してしまったことで、鬼の能力を用いて血縁や体質から日の呼吸の縁者を見つけることもできなくなりました。
大正時代では、第一話「残酷」の夜で三郎爺さんが炭治郎を自宅に留めたため、耳飾りをした炭治郎との邂逅が生じず、無惨が竈門家と縁壱を結びつけて気付くチャンスはありませんでした。
以上の事から、無惨は竈門家=縁壱&うた夫妻の住んでいた家だとは知らずに竈門一家を襲った可能性が高いと思われます。
◆竈門家と無惨と鬼狩り
鬼滅の刃という物語全体を通して言えることですが、人の縁が符牒となって因果を繰り返す物語構成になっています。竈門家の場合は鬼と鬼狩りとの邂逅を繰り返しています。
うた家族が住んでいたが、うたを残して全員流行病で死んだ(186話)
↓
縁壱とうたが家族になるが、うたと腹の子が鬼に殺される(186話)
十日ほど後、炎の呼吸の剣士と共に妻子を弔い、その後鬼狩りになる
↓
・あばら屋になっていた所に竈門家の人が住み始めた(190話コソコソ)
※挿絵から”竈門家”とは炭吉とすやこのこと
・兄の厳勝も鬼狩りに加わる(186話)
・”それから間もなく”無惨と邂逅(186話)、鬼の珠世を見逃す
↓
縁壱が鬼殺隊を追われる
↓
鬼に襲われた炭吉と臨月のすやこを”鬼殺隊を追われた縁壱”が助ける(190話コソコソ)
↓
炭吉が縁壱の日の呼吸と耳飾りを”繋ぐ”(192話)
↓
黒死牟を打ち損なったまま縁壱が死ぬ(174話)
↓
(長い月日)
↓
鬼(無惨)に襲われた禰󠄀豆子と炭治郎が鬼狩り(義勇)に出会う(1話)
義勇が鬼の禰󠄀豆子を見逃す
↓
炭治郎が鬼殺隊に入隊(8話)
↓
義勇が炭治郎によって錆兎との約束を思い出す(131話)
↓
記憶の遺伝により十三番目の型を炭治郎が会得(193話)
↓
縁壱が無惨につけた傷が出現(194話)
これを無惨側から竈門家の場所のみに注目して見ると、
無惨支配下の鬼がうたと腹の子を殺す(186話)
↓
無惨支配下の鬼が炭吉と臨月のすやこを襲う(190話コソコソ)
↓
無惨が葵枝・竹雄・花子・茂・六太を殺し禰󠄀豆子を鬼にする(1話/196話)
となり、無惨は竈門家のある場所と三回接点があります。
しかしここに
・青い彼岸花が咲いていること
・縁壱が住んだこと
はついぞ知らないままだったことになります。
2.ヒノカミ神楽=日の呼吸である根拠
絶えたはずの日の呼吸を知る者は無惨と黒死牟(巌勝)です。
黒死牟「何故おまえ(縁壱)の呼吸は残っている」(178話)
無惨「あの化け物(縁壱)と同じ呼吸を使うことができた」(201話)
とあります。
ただし黒死牟は炭治郎と直接会ったことはありません。
対する無惨は炭治郎と直接対峙した結果として炭治郎の使うヒノカミ神楽を「あの化け物と同じ呼吸」と言っていますのでヒノカミ神楽=日の呼吸であることは間違いないでしょう。
猗窩座戦までは炭治郎自身が「ヒノカミ神楽」と思って技を出していますが遺伝した記憶の中で縁壱の型を視た後は
カナヲを助けた時の技は「ヒノカミ神楽 輝輝恩光」(191話)
十三の型に気付いた後は「日の呼吸 円舞」(192話)
このように炭治郎が考える呼称が変化しており、
炭治郎の中でもヒノカミ神楽=日の呼吸である確信ができたと分かります。
3.日本の神話との関連性など(徒然)
※3に結論はありません。思いつきをただ並べただけです。読み飛ばし推奨
冨岡義勇の導きで天狗面の鱗滝左近次に弟子入りした炭治郎が選別を通過するまでの描写にはいくつか古事記や日本書紀を彷彿とさせるものがあります。
また、鬼滅の刃本編を通してモチーフとして利用されていたと考えられる部分もいくつかピックアップします。
一刀石伝説と炭治郎の岩を斬る修行の共通性についてはこちらの記事が詳しいため割愛します。鱗滝・錆兎・真菰の考察も充実していますので是非リンクからご覧になってみてください。
・鱗滝左近次
天狗といえば古事記では猿田彦命(さるたひこのかみ)です。天孫降臨の際、瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)を道案内した国津神です。
・錆兎
古事記と関連づけようとすると、名前からは因幡の白兎が思い浮かびます。稲羽の素菟と表されることもあり、この場合の「素」はなにものにも染まっていないという意味があるとも言われ、錆兎の白い羽織も連想されます。
因幡の白兎伝説の解釈の一つに、和邇軍との戦いを示しているというものがあります。最後の一人に敗れて皮を剥がれるというものです。
錆兎も藤襲山で殆どの鬼を一人で倒したのに最後の手鬼にやられています。
また古事記とは関係のない余談ですが、
錆兎の父の形見である派手な格子柄の着物は明治大正時代の市井の男性が着るとは思えません。吉兆柄である亀甲を用いた大きな柄で歌舞伎役者のようです。
錆兎の”宍色”の髪は額面通り捉えると”肌色(肉色)の髪”という意味になりますが、”ししいろ”という読みに注目して”獅子”の暗喩と考え、歌舞伎の演目「連獅子」を連想するのは飛躍しすぎでしょうか。
連獅子は獅子の父が子を谷底に突き落とす故事を中心とした演目です。
歌舞伎では赤は若者の色です。そのため赤髪の獅子が子供で白髪が親です。
錆兎の赤系統の髪色と鱗滝さんの白髪がそれとなく連獅子っぽいような気がしてきます。
錆兎の着物、天狗・狐・ひょっとこ等のお面、半天狗や笛鬼の意匠など、ところどころ日本の古典芸術を彷彿とさせるものが多いように感じます。
・真菰
真菰は古来から神事に使われてきた植物で、地上を踏めない天上の神々が唯一足を下ろせるのが真菰だと言われています。
炭治郎が依代となり縁壱の最強の御技である日の呼吸を”降ろす”と考えると実に意味深な名前だと思います。真菰の発言は、”全集中の呼吸”について真をついており、炭治郎が常中を獲得した後であれば、理解できたと思われます。
「”全集中の呼吸”はね、身体中の血の巡りと心臓の鼓動を早くするの そしたらすごく体温が上がって 人間のまま鬼のように強くなれるの」(5話)
真菰のこの発言は、物語の核心でもあります。のちに、痣を出す条件にも繋がってきます。
「その時の心拍数は二百を超えていたと思います さらに体は燃えるように熱く 体温の数字は三十九度以上になっていたはずです」(129話)
かなり早い段階で、全集中の呼吸の極意に気付き言語化できており、錆兎との稽古内容などを適切に解説して伝える役目を担っている真菰は、炭治郎に”呼吸”という神下ろしの手段を伝える重要な役目を担っていると言えるでしょう。
・炭治郎
鬼滅の刃が連載開始する前のタイトル候補を吾峠先生が上げている中で、
・鬼狩りカグツチ(おにがりカグツチ)
・炭のカグツチ(すみのカグツチ)
上記2タイトルに「カグツチ」と付いています。
古事記に出てくる火の神です。生まれてくる時に母イザナミの隠部に火傷ができてしまい、それが原因でイザナミが死去したため、起こった父イザナギに十拳剣”天之尾羽張(あめのおはばり)”で首を落とされ殺されます。
この際、この十拳剣から落ちたカグツチの血からは火・雷・刀に関連する神々が生まれます。そのうちの一人が有名な建御雷神(たけみかづち)です。
炭治郎の親友が善逸であり、善逸が編み出した技が火雷神(ほのいかづちのかみ)という名であることも関連を感じます。
・冨岡義勇
神産み神話では、イザナギイザナミの間には岩→水→風の順に子供が生まれます。最後の戦いでの生き残りに思いを馳せてしまう組み合わせです。また、基本となる呼吸が水・炎・岩・風・雷であることとも関連がありそうです。
4.青い彼岸花の謎
まず原作およびファンブックでの言及箇所は以下です。
・炭治郎の走馬灯に彼岸花がある(39話)
・「鬼舞辻無惨を鬼にしたのは平安時代の善良な医者」(127話)
・無惨は”青い彼岸花”が鬼化を起こすと思っている(127話)
・炭治郎の母である葵枝が幼少期の炭治郎に”青い彼岸花”を見せる(FB2)
・青い彼岸花の咲いている場所にはうたが埋葬されている(FB2)
・青い彼岸花は全く咲かない年もある。咲いても数十分(FB2)
・伊之助の子孫が枯らしたので絶滅した?(FB2,205話)
・未知の成分が含まれる(FB2)
青い彼岸花が本当に鬼化を引き起こすかどうかは明言されていませんが、以下理由でその可能性はあると思います。
・自分を鬼化させた薬を特定する過程で無惨が”青い彼岸花”を重要だと考えている
・縁壱の子を孕んだ”うた”が埋葬された場所から生えた
ただし”青い彼岸花”が鬼化の原因である証拠は作中で示されていません。
◆”うた”という女性と縁壱の子
”うた”は縁壱の妻で、亡くなった時に”縁壱の子”を宿していました。
縁壱は鬼滅の史実上では”初めて呼吸を会得した剣士”です。
縁壱「呼吸が使える者はいなかったので私は教えた」(186話)
呼吸とは、
真菰「人間のまま鬼のように強くなれる」(5話)
とあり、その呼吸を会得している縁壱の強さは作品全体を通して描かれる通りです。
縁壱が呼吸を会得したタイミングですが、
巌勝「縁壱には生き物の体が透けて見える」(177話)
巌勝「生まれつきの痣と同じく生まれつきの特殊な視覚」(177話)
とあり、生来の資質によりかなり早い段階で会得したと思われます。
よって鬼のような強さを
無惨:善良な医者の治療により獲得
縁壱:生来の資質により獲得
と考えると、縁壱の資質は”うた”の腹の子に遺伝していた可能性があり、”うた”と子が眠る場所から青い彼岸花が咲いた事と関係がありそうです。
◆青い彼岸花の薬効
さて現実では彼岸花は漢方としても使われています。
彼岸花は有史以前に中国から日本に伝来してきたことが分かっています。
漢方は五世紀頃に中国から日本に入ってきており、平安時代には漢方の知識と彼岸花の両方が揃っていたことになります。
彼岸花および同科の植物はアルカロイドを含み鎮咳去痰や鎮痛の薬効があります。
鬼滅世界の平安時代において、”青い彼岸花”と呼ばれているということは”彼岸花”と見た目が似ている植物であったと考えられ、それが彼岸花と同科であるか否かに関わらず、善良な医者は彼岸花と近い薬効を期待して使用した可能性が想起されます。
残念ながら”善良な医者”は127話にしか登場しないためどのような人物だったかは分かりませんが、もし鬼化を知らずに彼岸花と似た薬効を期待して”青い彼岸花”を使ったとしたら、言葉通り”善良な”医者だったと考えても矛盾しません。
◆葵枝という名前
人が走馬灯を見る理由は〜(中略)〜経験や記憶の中から迫り来る”死”を回避する方法を探している(39話)
このコマの炭治郎の走馬灯に彼岸花がある事実は興味深いです。
FB2の記載と合わせても、これが母・葵枝が炭治郎に見せた”青い彼岸花”である可能性はありそうです。
葵枝という名前に入っている”葵(あおい)”はアオイ科の植物の総称ですが、古くはフユアオイをさしていたと言われています。フユアオイは向日性(太陽の方を向く性質)があります。
炭治郎は赫灼の子(9話)
竈門家はヒノカミ神楽を継いできた(40話)
ところで”葵枝(きえ)”という名前は、明治時代後期の女性の名前としては珍しいものです。
明治時代はまだ庶民にまで広く教育が行き渡っておらず、特に女性は漢字が読める必要性が無いと考えられていた時代でした。
そのためカタカナで書かれた名前が多かったのです。
ただし、梅の意味で”ウメ””ムメ””うめ””むめ”等と名付けた場合、のちに戸籍名を”梅”と変えた例はあったと考えられます。
よって”葵”の意味で”あおい””アオイ”と名付けていたなら、のちに戸籍名を”葵”とすることはありえたと思いますが、葵枝という名では”葵”という字を”き”と読んでおり現代でも難読の部類に入るでしょうから、当時の庶民にとって馴染み深い漢字および読みだったとは考えづらいです。
上流階級では女性であっても漢字を使った名前や珍しい名前が存在しましたが、炭焼きである炭十郎に嫁入りをした葵枝が上流階級の出であるとは考えづらく、炭十郎と同じく庶民の出であると考えると違和感のある名前です。
一方、葵枝さんよりだいぶん若い蝶屋敷の娘”きよ・すみ・なほ”は、明治時代に既に存在している名前です。
葵枝さんの名前が原作で言及されているのは、
炭治郎「俺は炭十郎と葵枝の息子です」(9話)
と炭治郎が鋼鐵塚に伝える場面のみです。
この一場面にしか出てこない名前をここまで凝って付けているのは恣意的なものを感じます。
これに原作中の事実である、
・葵枝さんが炭治郎に”青い彼岸花”を見せていた
・”青い彼岸花”は鬼化の薬の原料(かもしれない)
・”うた”とその腹の子が埋葬されたところに咲いている
を合わせて考えると、神崎”アオイ”と伊之助の子孫が”青い彼岸花”を枯らせたという流れにも因縁を感じます。
アオイは薬学に精通した蟲柱・胡蝶しのぶの元で怪我人の治療や回復訓練などの任に就いていました。しのぶは藤の花の毒を使って鬼を殺しています。
アオイは薬学および植物の専門知識に触れられる環境にありました。
205話で描かれたアオイと伊之助の子孫である嘴平青葉が植物学者であることにも繋がりそうです。
(スピンオフ小説において、アオイが看護婦の役割もこなしていたこと、伊之助が山の植物に詳しいことが書かれていますが、原作者が確実に監修している原作漫画およびFBの原作者記述部分から考察していくため省いています)
(これでもし善良な医者の子孫がアオイand/or伊之助だったら因縁どころではないのですが)
もしくは、神崎アオイという名前は高尾山などに自生する「カンアオイ」から来ているかもしれません。
もしくは葵枝という名前は「帰依(きえ)」から来ているのかもしれません。
鬼滅の刃は全編を通して仏教を想起する展開や語句が良く出てきます。
(例えば吾峠先生がコメントで使われた「報恩謝徳」は寺社で使用機会が多い単語ではないでしょうか。)
帰依の意味は、
とあります。
同じ”葵”という字が示唆される女性が二人、炭治郎の母・葵枝と伊之助の妻となる神崎アオイという重要な人物であることは何らかの意図を持って命名されたのではないかと思います。
5.時透(継国)家と煉獄家から推測される黒死牟の裏切り
血統について考えてみます。
鬼滅の刃の中で戦国時代から続く”家”が物語の本筋に関わってくるのは、
・竈門家
・継国→時透家(血が繋がっているという意味の矢印)
・煉獄家
・産屋敷家
上記四家系です。
竈門家以外は少なくとも戦国時代からの因縁の家系であり、無惨にとっては遭遇しながら何もしないということは考えづらい相手です。
それぞれの家との因縁と関係性について掘り下げてみます。
◆竈門家→現代に存続
縁壱が住んでいた家に炭吉・すやこ夫妻が住み始める(190話コソコソ)
↓
鬼(無惨)襲撃で禰󠄀豆子と炭治郎のみが生き残る(1話)
↓
炭治郎とカナヲ、禰󠄀豆子と善逸の子孫がそれぞれ存在(205話)
まず鬼の能力として、
無惨「血の種類や病気、遺伝子など人間に分からないことは判別できるが」(74話)
というものがあります。
無惨は
太陽を克服できる体質のものを探す(127話)
そのために
体質や血質が今まで鬼にしてきた人たちと異なる人(FB1)
を探して鬼にしています。
また強い鬼も欲しいため、
今まで上弦になれた鬼たちと類似した体質の人(FB1)
も鬼にしています。
以上を考えると、竈門禰󠄀豆子は
・体質や血質が今まで鬼にしてきた人たちと異なる人
・今まで上弦になれた鬼たちと類似した体質の人
だったので血を注がれた可能性があります。
しかし「竈門家について」で考察した通り、無惨は竈門家が縁壱と関係がある家だとは知らないと考えられるため、無惨と禰󠄀豆子の出会い自体は偶然だったと考えられます。
ただし、浅草で無惨は癇癪を起こした勢いで道行く女に細胞が壊れる程度の血を注いでいます。(14話/無惨の癇癪・幻惑の血の香り)
そのため、条件に当てはまらなくともイライラしたので血を注いだ可能性は残ります。
◆時透家→断絶した可能性が高い
無一郎の母が肺炎になり父が薬草を取りに行き死亡、母も死亡(118話)
↓
産屋敷あまねが時透家を訪問(118話)
↓
鬼の襲撃で兄の有一郎が死亡、無一郎が天涯孤独になる(118話)
↓
黒死牟との戦いで無一郎が死亡(179話)
始まりの呼吸の剣士の子孫を探しているということは、始まりの剣士の形質が何らかの形で”遺伝”する可能性に産屋敷家は気付いていたのかもしれません。
産屋敷家が時透家を見つけたのに対し、
無惨は手下の鬼が有一郎を殺し、ただの人間である無一郎に返り討ちにあったにも関わらず、時透家自体はノーマークであったようです。何かしら情報の共有があれば黒死牟の血縁であると分かった可能性がありますが、手下の脳内をハックできても常時全ての情報を処理できるわけでは無いのかもしれません。
もしくは、人間が日輪刀を使わずに鬼を殺したことにあまり注目せず、無視した可能性もあります。
悲鳴嶼、不死川は入隊前に鬼に襲われ、返り討ちにしていますが、無惨がその事実を把握した様子が作中に見られないためです。
さて、記憶を失くした無一郎はたった二ヶ月で柱になるなど類稀な才能を見せます。記憶が無い状態(持っている知識が引き出せない状態)でこれだけ強いということは何らかの体質が遺伝していそうです。
無一郎の父が炭治郎と同じ赤い瞳を持っていたのは、
鋼鐵塚「火仕事をする家はそういう子(赫灼の子)が生まれると縁起が良いって喜ぶ」(9話)
とあることから、鬼滅の世界では血筋とはあまり関係なく一定の確率で赤い瞳の子が生まれると解釈できそうです。
無一郎は縁壱および巌勝と血の繋がりがあったために黒死牟(巌勝)に鬼に誘われることになります。
無一郎と邂逅して初めて、黒死牟は無一郎が自分の子孫であると気付いたように見えます。やはり、無惨サイドは時透家のことを把握していなかったと考えるのが自然でしょう。
※杣人と炭焼きについての考察も記事があげられたら良いな(自分メモ)
◆煉獄家→現代に存続
炎柱・煉獄杏寿郎が猗窩座との戦いで死亡(66話)
↓
弟の千寿郎および元炎柱の槇寿郎が生き残り(204話)現代に子孫が存在(205話)
煉獄家と思われる人物が縁壱および巌勝の回想に出てきており、少なくとも戦国時代には存在していました。
日の呼吸に関する記述を書物に残しており、かつ基本の呼吸である「水・炎・風・岩・雷」の一角であり唯一血統で柱を継承している家です。
にも関わらず煉獄家が無惨に狙われていないのは不思議です。
仮に黒死牟(巌勝)が鬼狩りだった時代にはまだ炎柱が血縁で継承をしていなかったとしても、人間の時の記憶を有している黒死牟が鬼狩りを追う中で煉獄家について全く情報収集できなかったとしたらあまりにも迂闊と言わざるを得ません。
しかし実際に煉獄家は無惨に狙われず生家が残っていますし、炎柱の書は代々受け継がれています。
血縁ですので、過去に煉獄家に連なる炎柱と遭遇している鬼であれば一目で煉獄の家の人間かどうか分かるはずですが、猗窩座が杏寿郎と戦ったにも関わらず、その後も煉獄家が襲撃されることはありませんでした。
炭治郎が杏寿郎の生家に行く時には要が案内しており(67話)、刀鍛冶の里のように隠されてすらいません。
日の呼吸以外は、気に留めてすらいなかったと考えるべきかもしれませんが、黒死牟は過去の記憶を持ち、武士道精神を携えたまま鬼になっており、家を襲撃することに抵抗感があったかもしれないと考えると、一層の悲哀を感じます。
しかし、無惨は十二鬼月に、柱を殺すように命じていたはずです。※後述
◆産屋敷家→現代に存続
耀哉「我が一族唯一の汚点であるお前(無惨)」(97話)
とあるように、無惨は産屋敷家と血縁関係にあります。
無惨は産屋敷家を探していますが、その理由は単純に鬼狩りの頭領だからだと思われます。
”青い彼岸花”によって鬼化が為されたことを証明するために、産屋敷家の人間の血や肉体は役に立つ可能性があるのですが、136話でせっかく産屋敷家を訪れたにも関わらず、産屋敷家の人間に血を注いでみようとは思わなかったようです。
薬を使った自分と、薬を使っていない子孫の体質を比較することすら、していないかもしれません。
無惨「これでもう青い彼岸花を探す必要もない」(127話)
この発言から、無惨は青い彼岸花自体を探してはいたようですが、成分や効能を調べていた訳ではなさそうです。珠世のように、血を集めて成分分析を行うことも、無惨の立場であればより容易いのですが、試験管を弄る描写はあったものの、何をしていたのかははっきりしません。
禰󠄀豆子が太陽を克服したので、その禰󠄀豆子を喰えば太陽を克服できると考えたからです。
太陽を克服した鬼は、無惨の話が正しければ無惨が鬼になって以降一度も現れなかったはずです。喰えば太陽を克服できるとしても、念の為に青い彼岸花も探し続けるというプランは無惨には無いように見えます。
そもそも”青い彼岸花”というものが鬼化の真の原因だったかどうかは無惨の主観以外に原作で一度も言及がありません。
太陽を克服した禰󠄀豆子が現れた途端、禰󠄀豆子さえ手に入れれば不滅の存在になれると思い込んでしまったとしたら、かなり安直な性格だと考えられます。
まとめると、
・竈門家:家のある場所が三度も鬼に襲撃されたが、縁壱が住んでいた家であることを無惨が把握していなかった可能性が高い
・時透家:黒死牟に一目で血縁と見破られる(165話)も、なぜか無惨には捕捉されていなかった模様
・煉獄家:代々家系の者が炎柱なのに何故か無惨に捕捉されていない
・産屋敷家:お館様の予想通り無惨に見つかる(136話)
◆産屋敷耀哉は無惨に鎌をかけているか
耀哉「君は知らないかもしれないが君と私は同じ血筋なんだよ」(137話)
これは無惨に鎌をかけたセリフである可能性があります。
この時点で耀哉が
鬼は
「血の種類や病気、遺伝子など人間に分からないことは判別できる」(74話)
ことを知らない可能性は低いでしょう。なぜなら、
・珠世が既に産屋敷陣営に付いている
・無惨が首の弱点を克服している可能性に気付いている(139話)
・柱では悲鳴嶼だけに無惨迎撃の戦術を伝えている(139話)
・珠世は悲鳴嶼に首を取る合図を出す=耀哉の戦術を把握(139話)
これらの流れ及び鬼殺隊頭領として鬼の能力を把握してきた事実からも、無惨が自分を一目見て血縁であると気付けるだろう事は既に知っていたと考えるのが妥当です。
にも関わらず「君は知らないかもしれない」と言った理由は以下の目的が考えられます。
・話を長引かせるための方策
・挑発
・無惨が万が一気付いてなかった場合に気付かせる目的
など
耀哉の発言は全て、
・自分を囮にして無惨に致命傷を与える
・柱を集結させる時間を稼ぐ
・無惨の首を斬っても死なずに持久戦になった場合を想定し、一秒でも長く無惨を留めておく
これらを考慮した上でなされていますので、なるべく長い時間を稼ぐために無惨に興味を持ってもらえる話ならば何でも話したと考えられます。
また、
無惨は屋敷にいる人数が把握でき(137話)自分への殺意も分かりますが(138話)、137話時点では産屋敷家に来た時点で仕掛けられていたはずの爆薬にも集結しつつある柱に気付いていません。
このことから、耀哉は自分に注視してもらえればそれだけ無惨の索敵能力を狭められる(柱に気付かせない)と考えて、
・あえて挑発していた
可能性があると思います。
既に知っていることを、お前は知らないだろうと言われることは無惨の神経を逆撫でして視野を狭くできたと思われます。
◆黒死牟(巌勝)が無惨を裏切っていた可能性
※黒死牟(巌勝)は、あえて煉獄家を襲撃しないようコントロールしていた可能性はないでしょうか。
柱とは、鬼から見れば他の人間とは一線を画して一目瞭然の存在であり、食べればより強くなれると推察されます。
「此方からは柱程実力の有る者以外人間など視ただけでは殆ど違いが分からない」(74話)
女や稀血は鬼にとって栄養価が高いように、強さを得た柱もまた、栄養価が高いのではないでしょうか。特に煉獄家は代々炎柱を継承する家系です。柱と成るに足る、何らかの形質が遺伝していれば、鬼にとって栄養価が高い存在である可能性があるでしょう。
「稀血一人で五十人!百人!人を喰ったのと同じくらいの栄養がある」(24話)
「女は腹の中で赤ん坊を育てられるぐらい栄養分を持っているんだから女を沢山食べた方が早く強くなれるって」(157話)
強さを追い求める黒死牟にとって、代々炎柱を引き継ぐ家の者が、全く気に
ならなかったとは考えづらく、もし煉獄家の存在を知っていれば、そして無惨の忠実なパートナーであれば、報告するのではないでしょうか。
堕姫ですら柱を7人喰っており、黒死牟はその何倍も喰ったはずで、その間に炎柱に遭遇したことがあれば、あの特異な髪色から、血統が続いている可能性に気付けたとも考えられます。仮に鬼殺隊を抜けた時には煉獄家が炎柱を血縁で継承していなかったとしても、途中で気付く機会はあったはずです。
もし偶然にも全く炎柱に遭遇しなかったとしても、猗窩座が杏寿郎を殺した時のことが共有されていれば、煉獄の家系が続いていることに気付けるのではないでしょうか。
とはいえ、
・無惨(もしくは猗窩座)から黒死牟への杏寿郎に関する情報共有なし
・偶然にも戦国時代から一度も煉獄家の者と遭遇していない
・かつ厳勝脱退時に煉獄家がまだ血統で柱を引き継いでいない
という全ての条件を満たせば、黒死牟が煉獄家を知らない可能性はまだ残ります。また、
「産屋敷一族を未だに葬っていない。”青い彼岸花”はどうした?」(98話)
上記の無惨発言から、無惨自体は柱を追うことまではしておらず、あくまでターゲットは”産屋敷一族”と”青い彼岸花”であり、仮に黒死牟が煉獄家について報告していたとしても、優先順位が低いため無視されていた可能性も考えられるかもしれませんが、ちょっと苦しい気がします。
煉獄家ならば産屋敷一族の住む屋敷について何か知っているかもしれない、と考えるのではないでしょうか。襲わない理由を探す方がもはや難しいように感じられます。
そのため、黒死牟は何らかの理由で煉獄家を襲わなかった=無惨を裏切っていた可能性があるのではないかと考えます。
そして、その”何らかの理由”は、黒死牟が胸に秘めた唯一つ、天才・縁壱に関することであり、日本一の侍となって辿り着く場所へ往くために必要なことだったのではないでしょうか。
これは憶測ですが、卑怯なこと、姑息なこと、日本一の侍に相応しくないことを、黒死牟は避けてきたのではないでしょうか。
日の呼吸を知る者を殺すことには大義名分があれど、日の呼吸を知らない者、特に女子供を殺して家を断絶させることには、抵抗があった可能性はないでしょうか。自分自身の子孫を気にかける程度には、家というものに重きを置いているように見えます。
煉獄家は全く隠れておらず、鬼殺隊にいたことのある黒死牟であれば、見分けがついたはずの血統であり、その煉獄家が残り続けたことに、何らかの意図を感じてしまいます。
6.産屋敷家の因果
産屋敷家について、もう少し考察したいと思います。
産屋敷耀哉・あまねには5人の子、ひなき・にちか・輝利哉・くいな・かなたがいます。
ひなき(姉)・にちか(姉):炭治郎が呼ばれた柱合会議に参加していた。両親と共に爆死。
輝利哉:産屋敷家98代目当主。当主を引き継いだ時点で8歳。
くいな(妹):輝利哉にビンタする子
かなた(妹):最終戦別で玄弥に殴られる
名前について、ひなきとにちかが歌う「ひとつとや」からの着想で、
ひなき=ひい(長女)
にちか=に(次女)
を指すとも考えられそうですが、くいな、かなたには繋がりません。
くいなは、夏の季語「水鶏(くいな)」ではないかと考えます。平安の頃から歌に詠まれる「水鶏叩く」とビンタが繋がるのではないでしょうか。
くいなが夏の季語であることから、5つ子の生まれは夏頃かもしれません。
にちかも、日日花(にちにちか)ならば晩夏の花です。
昔の日本では、死にやすい男児が大人になれるように、数え7つ頃まで(7つまでは神のうち)女児の格好をさせて育てる願掛けが一部の地域や家で行われていました。(FBによると、産屋敷家ではさらにそれを13歳まで行っていたようです)
最終戦別の頃にはまだ7歳で、夏頃に誕生日を迎えて8歳になったのかもしれません。
(大正時代初期はまだ、個人の誕生日を祝う習慣は庶民に根付いていなかったと考えられていますが、天皇誕生日は「天長節」として8世紀頃から祝われてきました。また戦争のための徴兵では誕生”日”が発育測定に有効であったため、庶民の誕生日も記録するようになりました)
妹かなたは、最終話で出てくる竈門カナタと名前の読みが同じです。
人の想いこそが永遠であり不滅、という、耀哉の思想から、かなた=彼方、なのかもしれません。あらためて子供たちの名前を並べると、
ひなき
にちか
輝利哉
くいな
かなた
「ひに輝くかなた」が見える、というのは穿ち過ぎでしょうか。
あまねの旧姓「神籬」が神の依代という意味であること、
竈門家には日の呼吸の型が「神楽(神下ろし)」として伝わったこと、
「剣を振るう時 縁壱さんは人ではなく精霊のように見えた」(192話)
「正しい呼吸ができれば炭治郎もずっと舞える」(192話)
呼吸を使い、鬼のように強くなることは、ある種の神下ろしと言えるのかもしれません。神を下ろすための手段は呼吸であり、神が降りるための舞台装置として産屋敷一族が存在しているようです。
本編204話にて鬼殺隊を輝利哉が解散させ、その輝利哉に、”欲しくてやまない言葉”を義勇がかけて、輝利哉と妹たちが涙を流すシーンは産屋敷家の因果を象徴しているのではないでしょうか。
「あの方はいつもその時人が欲しくてやまない言葉をかけてくださる人だった」(139話)
主要人物であるにも関わらず、耀哉から義勇に言葉をかけたシーンは本編には存在しません。しかし、千年の戦いを終わらせるきっかけとなる竈門兄妹を連れてきた義勇が、最後に産屋敷の当主を宿命から解放する役割を担ったことは、人の縁が符牒となって因果を繰り返す物語構成となっている鬼滅の刃において、象徴的なエピソードの一つだと思います。
鬼舞辻無惨の初動ミスについて(余談)
無惨はこれまでの考察から、
・感情的な思考や、直情的な行動が見られる
・自尊心が高く、他者を信用しない
・計画性が無い
といった特徴が見られます。
原作中の表現としては、
「顔色が悪い」と言われた事に逆上して癇癪を起こし、道行く女に細胞が壊れる程度の血を注ぐ(14話/無惨の癇癪・幻惑の血の香り)
批判や指示を嫌い、少しでも気に入らないことがあると暴力を振るう
殆どの植物は日照時間が生育条件にあるのだが、人間の協力者ではなく鬼の配下に”青い彼岸花”の探索指示を出している
といったあたりから上記特徴が窺えます。
その特徴ゆえに、
・炭治郎の耳飾りが縁壱のものと似ていることに気付きながら、その場で炭治郎を殺さなかった
・矢琶羽と朱紗丸が失敗した後、能動的な追跡をやめてしまった
という大きな初動ミスをしています。
耳飾りを引き継いだ者が鬼殺隊にいる重要度を見誤ったことは、無惨敗北の大きなファクターでしょう。
その後も、猗窩座を無限列車に派遣した際に、杏寿郎ではなく炭治郎を先に殺すよう指示していれば、そこで日の呼吸は絶え、無惨勝利に大きく近づいたはずでした。
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