【第32章】レッドクィーン理論・競争すべきはライバルではなく自社のビジョン
本章では「レッドクィーン理論」を紹介する。レッドクィーン理論はまだ若い理論で研究の厚みは薄いものの、トップ学術誌に次々と発表がされ始めている点で注目に値する。加えて、企業の「共進化のメカニズム」を解き明かして上で「これは望ましい進化なのか」を投げかけている。これは日本企業がこれまで陥ってきた「共進化の罠」のメカニズムを明快に提示するものであり、筆者は紹介をしている。
企業間の生存競争を共進化をもたらす
生物進化学では、捕食関係にあえう生物種同士が競い合って進化し合う循環を「レッドクィーン効果」と呼ぶ。
キツネがウサギを捕食するために追いかけている場面を想像いただきたい。ウサギは捕まって食べられないように、必死になって逃げる。キツネはウサギを食べられないと餓死するから、必死に追いかける。ウサギは速いものが生き残り進化を続け、キツネを追いかけるのが速いものが残り進化を遂げる中で、互いに進化をしていく。
この共進化の循環は永久に続いていくこの視点を企業進化に応用したのが、このスライドの図にある考え方だ。
A企業とB企業の2社があった時、A企業がサーチによる新しいサービスの開発により差別化を図ると一時的にはリードするが、B企業もすぐに追随してきまた別のサービス開発を提供することで、逆にリードする。その繰り返しにより「競争の中に身を置くことで、企業が成功する可能性するを高められる(かもしれない)」というのがスタンフォード大学のウィリアム・バーネット教授の考えである。
確かに日本企業では自動車業界は厳しいグローバル環境にさらされることで、進化を遂げてきた一方で、国内のサービス業は外資系企業から見ると参入障壁が高い守られた環境で、結果的に生産性を低い状態を続いていたためグローバルに展開することなく、成長が停滞していたと言える。
ただ、この競争環境を良いことづくめなのかというとそうでもないのが、笹井欽の「新レッドクィーン理論」としてある。
切磋琢磨がガラパゴス化を生む
この主張は「長い間激しい競争にさらされた企業ほど、その領域に生き残ることは出来るが、他領域に参入した時にはむしろ失敗しやすい」というものだ。これは「競争そのものが自己目的化することで、競合相手だけをベンチマークするようになり、別の競争環境に適応できる力を失うからだ」というのがこの主張である。
事例として「ガラケー」すなわち携帯電話はまさにこれに該当するのではないか、1990年当時はシャープ、NEC、富士通、パナソニック。ソニー、京セラなどが、互いにベンチマークしながらレッドクィーン競争を繰り広げていた。そこで基準になったのは「カメラ」「ディスプレイ」「ワンセグ」「防水」などの細かなスペック競争であり、過剰な品質競争に陥っていた。しかい2000年代にスマートフォンの台頭により、環境が一変し、これまでと異なるUI、UXを提供するスマートフォンでは、サムスン電子、アップル、ファーウェイなどの新興メーカーがシェアを伸ばし、日本企業で生き残ったのは、ソニー、京セラだけとなった。
大変化の時代において、競争はすべきは自社のビジョンだ
日本でイノベーターとして知られる経営者のパネルディスカッションに筆者が参加した際、経営者が口を揃えて言っていたのが「自分は同業ライバルとの競争にまったく興味がない」ということだ。業界にライバルは存在にするのに「自分は競合他社をいっさい意識しない」と口を揃えていう。
これはまさに「共進化のスパイラル」に陥らないために大事な考え方である。
では、経営者にとって「競争相手はいないのか」と質問すると、それも口を揃えて「自分のビジョン」と答える。
例えばジンズ創業経営者の田中仁時氏は「世界中の人たちに眼鏡をかけさせる」という壮大なビジョンを掲げており。「どうすれば視力の良い人も含めて、世界中の人に眼鏡をかけさせられるか」と意識しているので、ライバルを意識しておらず、常に新たな市場を探索しているのだ。
この発想から、人の眼球の動きを感知するセンサーに着目し、その人の疲労度、精神状態、病気の兆候を把握できるようにすることで、スポーツ活動に役立てる商品なども生まれてきている。
逆説的だが、会社を成長させるためには、企業の目的は「他社との競争」になってはならないのだ。