CAPSULEアルバム全作紹介 pt.1 初期三作編
先日、中田ヤスタカとこしじまとしこによる音楽ユニットCAPSULEのアルバムが全作ストリーミング解禁された。これまでCAPSULEのアルバムはなぜか『WAVE RUNNER』しかストリーミング配信されていなかったため、ここで一気に充実が図られた形。『rewind BEST』二作以外は全作CDで持ってるけど、いや~それでもこれは嬉しい。何が嬉しいって「非公式動画しかないから音源紹介リンク張れない…」が無くなるのが嬉しい。あまりに嬉しいので全作紹介記事を書くことにした。
まずこの記事では2001年から2003年にかけて1stからの三作について書く。この時期は作品間の作風の変動がかなり激しい。よくcapsuleは初期と現在で路線が全然違う、と言われがちだが、実はラウンジポップ路線とエレクトロ路線は急激に変化したわけではなく作品ごとに少しずつ作風が変化する形で移行している。しかしこの三作、とりわけ1stから2ndへの変化はかなり急激で、改めて聴くとかなり驚かされる。
なお、『CUTIE CINEMA REPLAY』からの作品はYAMAHA内に自主レーベル「contemode」を構えてリリースされている。
1st 『ハイカラガール』
2001年(もう20年以上前!)にリリースされた1stアルバム。
今の中田ヤスタカ作品しか知らない人が聴くと一番驚くのがこの作品ではないだろうか。タイトルからもわかる通り、「和」っぽい音階を多用したゴリッゴリのJ-POPなのである。
当時のJ-POPのトレンドだったのか幾つかの曲ではラウンジポップ風味のアレンジも散見されるが、「東京喫茶」以外は音色の選び方や歌メロが完全にJ-POP(しかも和風)であるため2nd以降の本格的なそれとはかなり様相が違い、あくまで「風味」の域といった趣。
後の作品でも多用される日本音階はともかく、「歌メロが激しく上下する、J-POPらしいアレンジの曲」という今作収録曲の作風はこれ以降の作品には一切登場しないものなので貴重。
特にすごいのが「写真」で、節々には辛うじて後の作品への片鱗が見えるものの、それ以上にアレンジ・歌メロからあまりにも強い90年代J-POPの匂いが放たれるサビが強烈。
ベッタベタなボサノバ「真夜中の電話」やサビで日本音階を大胆に使ったデビュー曲「さくら」もこれ以降では聴けないタイプの楽曲。
また終曲「さくら」の後には長い空白があり、トラックの末尾には隠しトラックとしてタイトル曲「ハイカラガール」が収録されているが、こうした「J-POPのアルバムでたまにある仕掛け」がcapsuleで行われたのも今作が最初で最後である。
それでもメロディの「節」には後の作品に繋がるものが用意されており、とりわけアレンジを変えればperfumeが歌っていそうな「神様の歌声」と2nd以降の路線を先取りした今作で唯一の本格的な渋谷系ラウンジポップであるシングル「東京喫茶」(よく聴くとサビの歌にオートチューンがかかっているのも重要)の2曲はこれ以降の路線との繋がりを強く感じる曲に仕上がっている。
また僅か1分のインストながらファンの間では隠れた人気がある「サムライロジック」は中田のエレクトロ方面のセンスが炸裂したチップチューンになっている。
なおインスト曲「うつつ」「電気十露盤」では既にハウス/クラブミュージックへのトライも行われているが、どちらも”J-POPのアルバムに入っているそれ路線のインスト”といった様相の曲で、あくまで「トライ」の色が強い。
…ただしじつはこの2曲は若干シティポップっぽい雰囲気を醸し出しており、そこに『メトロパルス』との共通点を見出すことも可能…か?
そんなこんなで2023年の今聴けばちゃんと中田ヤスタカ作品として楽しめる作品には仕上がっているが、その一方でヤスタカワークスをかなり聴き込んだ人とそうでない人ではかなり印象が変わるのではないのだろうか。
やはりガチファンとそれ以外で受け取り方が違ってくる作品であるということには注意が必要。少なくともperfumeなどのプロデュースワークからcapsuleに入ろうとしていきなりこれを聴いたら困惑するのは間違いない。
とはいえここがcapsuleの原点であることには変わりなく(原点になる作品がこれ一作きりの作風というのもなかなか珍しいが…)、中田ヤスタカの音楽が少しでも好きな人は一度触れるべき作品でもあるだろう。ファンからの人気もかなり高い。
今作の中でもひときわ異様な完成度を誇るエキゾチックで美しいバラード「恋ノ花」は、後にきゃりーぱみゅぱみゅがカバーしている。トラックは中田によるリメイクで、perfume等に近いハウス調のアレンジが聴ける。
また、実は「うつつ」はヤスタカが全編の音楽を担当した同名の映画「うつつ」のテーマ曲のリアレンジ版(実際には映画は2002年公開なのでこちらの方がリリースが先なのだが、公式サイトのアルバム紹介でも「リアレンジ版」と記述してある。恐らく映画製作のスケジュールの都合上、映画で使われた音源の方が先に完成していたと思われる)。
映画そのものはDVD化もされていて容易に視聴可能だが、残念ながらサントラ盤はリリースされていない。
2nd 『CUTIE CINEMA REPLAY』
前作から2年、一体何があったのか?あまりにも大胆な路線変更が図られた2003年リリースの2ndアルバム。
当時親交の深かったアーティスト・ボーカリストを大量にゲストとして招いた構成はPizzicato Five『さえらジャポン』のオマージュか。なお、一時期のcapsuleでは恒例となっていた、アルバム収録曲を収めた先行12インチシングルのリリースは今作から行われた。
なお、各種ベスト盤に収録曲が一切選曲されていない作品(『capsule rewind BEST-2 2005-2001』には「music controller」が選曲されたものの、同作に収録されたのはシングルバージョンなので今作からは実質選曲が無かった)でもある。
渋谷系からの影響をモロに出したオシャレ系ラウンジポップが全編に亘って展開される。しかも異様なまでのハイテンション。
Sonic Coaster Popを招いた「キャンディーキューティー」やSylvia55とコラボした「おでかけ GO!GO!」なぞあまりにもテンションが高すぎて、少し疲れているときに聴いたら多分曲に置き去りにされるだろう。それ以外もtrattoriaレーベルからリリースされていそうなしっとり系ラウンジ「sweet time replay」、ぶっ飛んだ渋谷系ポップ「プラスチックガール」(先行シングル)などなど、どれを聴いても前作からのあまりの激変ぶりに驚愕。
サブ&まみのアコーディオンをフィーチャーしたトラックの上で突然フランス語講座が展開する「french lesson」やほた~るの~ひ~か~り~でアルバムを締めるor閉める「close」等渋谷系らしいキョーレツな遊び心も挟み込まれ、更にEeLのウィスパーボイスを効果的に用いた「fashion fashion」にて前作で軽くチャレンジしていたクラブミュージックへの本格的な追求も開始。
総じて路線変更が大胆過ぎる。
前作を聴いてファンになった!という人も当時いただろうけど、2年後にこれ聴いた時どう思ったんだろうか…?「東京喫茶」という伏線はあったとはいえ…。
その中にあって、前作で多用されたエキゾチックな要素をより突き詰めたうえで今作で本格的に示されたクラブミュージックへの興味と融合させた、先行シングル曲のリアレンジバージョン「music controller - piconova-mix」は現在に至る軌跡を示したトラックでかなりの重要曲。後にperfume等で多用されるアレンジ手法のひな型がこの時点で既に完成していることに驚かされる。
そして中田の特徴の一つでもある、こしじまが作詞したのかと疑うほどにガーリーな世界観の歌詞は、この作品の辺りから表出し始めたものである。
更には今作辺りから「都会への憧憬」を「SF的な世界観」へと変換する内容の詞が散見され、それは後に”SF三部作”へと繋がっていく。
そしてこのラウンジポップ路線がここから数年続いたことによって、盟友のハヤシベトモノリらと共に「ネオ渋谷系」なる謎めいたジャンルの中核を担わされるにまで至ることとなる…のですがそれについてはたぶんこの記事で書ききれないぐらい長くなるので別のサイト等を参照してください。
総じてユニットの歴史を俯瞰するうえではそれなりに重要な作品ではある。
ただ…全体的にぶっ飛んでいて強烈な作品なので、初心者にはちょっと勧め辛い。ピチカート・ファイヴを初めて聴くって人に『さえらジャポン』は貸さないよね…っていう。
3rd 『phony phonic』
なんと前作から僅か8か月でリリースされた3rdアルバム。
中田の創作スピードの速さは既にこの頃から発揮されていたようだ。前作ほどの多さではないにしろ、今作でも数組のゲストを招いている。
基本的には前作と同じラウンジポップ路線なのだけれど、全体的にハイテンションだった前作と比べるとボサノバ等を軸にしたアレンジの曲が多く、しっとりと落ち着いた質感に仕上がっている。例えば「プラスチックガール」「キャンディーキューティー」のようなハイテンポな曲は殆ど収録されていない。
(邦楽史上最もアンダーレイテッドされているユニットのひとつであるところの)COPTER4016882をフィーチャーした「cosmic tone cooking」は前作からの路線を辛うじて引き継いでいるが、テンポはグッと抑えられている。いわばラウンジポップとしての機能性をより前面に出した作品と言えるだろう。
初期作三作の中では後の活動に繋がる要素が一番多い作品ではないだろうか。
特にボサノバ路線の秀曲「weekend in my ROOM」ではクラブミュージックへの追求をさらに深めたトラック(この曲は12インチシングルで初めてextended mixが製作された楽曲でもある)もさることながら、前作ではあくまで「プラスチックガール」のサビにて”プラスチック”感を演出するための演出として使用されていたオートチューンが、ここではアレンジの一要素として本格的に用いられている。また「swing 54321」はジャジーなアレンジが印象的な本格派ハウスであり、少しずつ次なる変化へと動き出しているのが分かる。
そして「idol fancy」(先行12インチのメイン曲)「反重力旅行」の歌詞には次なる”SF三部作”への伏線も張られている。
このアルバムの中から特筆すべき収録曲を選ぶなら先述の「weekend in my ROOM」、そして「idol fancy」だろう。
次作から”SF三部作”が始まり、capsuleは本格的にエレクトロ/クラブミュージック路線へと歩みを勧めることになる。それを知ったうえで聴く「idol fancy」の「刹那」感たるや凄まじいものがある。
J-POP路線の1st、ハイテンションな渋谷系ポップを押し進めた2nd、そしてラウンジポップとしての機能性を重視した今作という初期三枚の集大成的な楽曲と言えるだろう。SFっぽいフレーズを挟み込みつつ、夢見がちな女子の何気ない所感を書き綴った歌詞も圧巻。
メロディワークに関してはどれもアレンジを変えればperfumeやきゃりーぱみゅぱみゅへの提供曲として使えそうなものばかりで、エレクトロ・クラブミュージック路線の作品しか聴いたことが無い人でもすっと聴ける曲が多いと思われる。
なのでcapsuleの”SF三部作”以前の初期作を聴いたことが無いので聴いてみたい、という人には今作が一番お勧め。
アルバムの2曲目という重要なポジションを飾る名曲「RGB」はきゃりーぱみゅぱみゅがライブでカバーしている。
残念ながら音源化はされていないが、ライブDVD『ドキドキワクワクぱみゅぱみゅレボリューションランド2012 in キラキラ武道館』で視聴可能。2020年にはyoutubeの公式チャンネルで映像が公開されたこともある。トラックは恐らく原曲のインストをそのまま使用している。
なお「RGB」はベスト盤『capsule rewind BEST-2 2005-2001』にも選曲されている。ヤスタカとしても自信作なのかもしれない。
つづく。