大滝詠一『EACH TIME』の曲順・バージョン史
あまりX(旧twitter)では言ってないが、私は大滝詠一さんの音楽がめちゃくちゃ好きなのである。三ツ矢サイダー派を自称しているのも大滝さんが好きだからだ(わかる人だけ分かってください)。
ナイアガラーと胸を張れるほどちゃんと作品を揃えられているわけではないけれども(そんな金ない)、まあ今のところオリジナルアルバム全作と+αぐらいは揃えられている。
そんな私のようなにわかナイアガラーが、かつて一番最初にぶち当たる壁がこれだった。
『EACH TIME』って結局どれを買えばいいの?
2023年現在では配信・サブスクで音源を好きなだけ聴けるし、CDに関しても文字通り最終回答と言える"Final Complete" 30th Anniversery Editionが存在するのでそこまで悩まなくていい問題になっているが、それ以前の世界では『EACH TIME』のバージョン違いはかなり大きな関門だったのだ。
なにせ『EACH TIME』は1984年のオリジナルから2014年の"Final Complete"盤に至るまで、大滝氏がひたすら曲順を変え続け、さらに各曲のバージョンを差し替え続けたアルバムなのだ。その変更作業の細かさたるや凄まじく、「ファンを飽きさせない遊び心」で片づけるにはいささか偏執狂じみている。
この記事では実際にこのアルバムの曲順がどのように変わっていったか、そして収録曲にざっくりとどのような違いがあるのか(これは本当にざっくりと、なのであまり期待しないでほしい。例えばストリングスバージョンやプロモ盤収録バージョンなどはそもそも把握できないものも多いのでここでは触れない)を記していこうと思う。また、各バージョンの曲順・バージョンを出来るだけ再現したspotifyプレイリストも貼っているので、興味がある方は実際に聴いてみてほしい。サブスク・配信担当のスタッフたちの尽力によって、細かいバージョン違いもかなり網羅できるところまで来ている。それを実感しながら読んで/聴いていただくのも一興かと。ちなみにサブスクにある無印『EACH TIME』は2014年"Final Complete"盤の音源。
なお、収録曲の複雑怪奇で繊細なバージョン違いについては以下のブログ記事を大いに参考にさせていただきました。
一応ある程度のバージョン違いは一応把握しているつもりだけど、流石に現物を確認できているものも少ない(私が現物を持っているのは20th盤と30th"Final Complete"盤のみ)から、どれに何が入っているのかごっちゃになるのよ。
また、この記事は意図的にかなり緩い文体・内容にしている。私のようなナイアガラーとしてはまだまだ新参も新参、未聴作品も限りなく多く、この『EACH TIME』にしたって先に書いたように私はフィジカルは2バージョンしか持っていない。そんな私なりの距離感で書くことによって、何か…こう…敷居の高さというか…こう…なんか…それ系のやつが良い感じになることを期待しているという意図も少しあり。このナイアガラの泥沼世界に、みんなも足を踏み入れよう!…と思ってたんだけど、なんか書くこと多くて、気軽とは言い難いすごい長い記事になっちゃった。許して。
ちなみに私は『EACH TIME』だと恐らく誰もが好きであろう永遠の名曲「ペパーミント・ブルー」と、すげえ浮かれた「魔法の瞳」が好き。
特に「魔法の瞳」は他のメンツが真面目な顔をしている中、一人だけ楽しくふざけてる感があって勝手にめちゃくちゃシンパシーを抱いている。私もそういう人間なんで。「恋のナックルボール」も歌詞がそこまで浮かれてないだけでだいぶ「魔法の瞳」寄りの曲だと思うけど(もちろん好き)。
前置きが長くなった。それでは、『EACH TIME』の深淵に触れて頂こうと思う。
1984年オリジナル
これが原点たるオリジナル盤。
今となっては曲数が少なく感じるが、後のエディションでも同じようなポジションを飾る曲が既に似たような順番に置かれており、だいたいの骨子はもう完成している(当たり前か)。このオリジナルは当然ながら「A面とB面のあるレコードという媒体」を強く意識した曲順なのかなと思う。
なおオリジナルLPは同内容のカセットが発売されたほか、直後にリリースされた曲順も収録曲のバージョンもこのオリジナルと同一の「マスターサウンド・シリーズ」盤(当時のソニーが出していた、製造過程からレコードの素材にまでこだわって高音質を実現しました!という触れ込みの企画)も存在している。
オリジナルと完全に同内容のCDは、CDの初版にあたる品番35DH 78盤、そしてボックスセット『NIAGARA CD BOOK II』に収められたオリジナルに忠実なリマスター盤の二枚のみ。
「魔法の瞳」が1曲目
いつまで経ってもニワカ後追いナイアガラーである私の意見であることを念頭に置いてほしいんだけど、これはかなり意外というか、これ以降のエディションに慣れ親しんだ身としてはやや違和感がある。いや先述の通り『EACH TIME』の中でも「ペパーミント・ブルー」に次ぐぐらい大好きな曲なんだけど、流石に1曲目は「魔法の瞳」本人もプレッシャーだと思う。
ただプレイリストでこの曲順にして聴いてみるとこれはこれでアリかもしれない。あと当然だけど、オリジナルに慣れ親しんだ人はこれが一曲目じゃない方が違和感あるんだと思う。
ただ「魔法の瞳」始まりなのはこのオリジナル盤と関連したアイテム(カセット、マスターサウンド、35DH、『NIAGARA CD BOOK II』リマスター盤)以外だとオリジナルに準拠した内容に戻されたCD選書盤のみ、それ以外のエディションではすべて他の曲にその座を譲っているので、ほぼ「オリジナル盤が唯一」と言って良い状態。大滝氏本人もやっぱり違うかも…ってなったのかな…。
[追記]
2024年に発売された『EACH TIME VOX』のブックレット内に掲載されている2004年のインタビュー(初出はレコードコレクターズ誌)の中で、大滝氏は「魔法の瞳」が1曲目になった理由について、オリジナル盤収録の9曲、かつレコード、という前提で曲順を考えたところどうしても1曲目が決まらず、苦慮の末にこの曲を1曲目に置いたというニュアンスのことを話している。また後に『Complete EACH TIME』をリリースした際に「夏のペーパーバック」が1曲目になったことについても、「本来だったら<ペーパーバック>で始まるべきだった」という趣旨の発言をしている。
そのため、私の「大滝氏本人もやっぱり違うかも…ってなったのかな」という推測は割と合っていた、というかもっと複雑な事情で「魔法の瞳」1曲目という判断が下されていた、ということらしいですね、どうも。
「レイクサイド ストーリー」が大エンディングバージョン
かつてはこのオリジナルLP及び最初のCD盤でしか聴けず、後追いナイアガラーにとっては垂涎の的だったバージョン。
フェイドアウトしかけたところで再び旋律がグイっと戻ってきて「冬の幻」がフィナーレを迎える、非常に感動的なアレンジ。大滝氏がマスターテープをプレス工場に送る直前に「待った」をかけて急遽こちらのバージョンに変えた、という逸話も有名。
…なのだが、これ以降の「レイクサイド ストーリー」バージョン違い迷宮の遠因がこやつか…と思うとなかなか複雑な気持ちにもなる。
数多くの新参CD派ナイアガラーがこれを聴くために中古レコード店を駆けずり回って決して安くない35DH盤を探したり、『NIAGARA CD BOOK II』を買うべきかで悩んだりしたであろうこのバージョン、現在ではサブスク・配信で簡単に聴ける。素直に良い時代だなって思うよね。
1984年『EACH TIME SINGLE VOX』
シングルカットがなかった『EACH TIME』の収録曲を各面に1曲ずつ収録したクリアーヴァイナルの12インチシングル(五枚組)にして、一つのボックスに収めた5万セット限定生産アイテム。相変わらずやることが無茶ですね…。ちなみに各面1曲ずつ収録なのは音質を良くするため(レコードは外周が一番音が良く、また33回転より45回転の方が高音質)。
5万セット限定生産のレアアイテム、ちゃんと全編CD化されたのはボックスセット『NIAGARA CD BOOK II』の一部としてのみ、という状態だったが、現在では配信・サブスクで気軽に聴ける。素直に良い時代だなって思うよね。ちなみに配信版は『NIAGARA CD BOOK II』に収録されていたバージョンを基にしているため、ボーナストラックが幾つか追加されている。
今作に収められた別バージョン群がこの後のエディションで採用されることも多々あり、またここに収められたバージョンが後のエディションで製作される別バージョンの基となることも多いため、実は『EACH TIME』史を語るうえで非常に重要な作品(その重要な作品が割と最近までレアアイテムだったというのがなんともはや)。
流石にシングル5枚組のボックスセットという形態なので曲順の面で語ることは難しいけれども、こうして並べると「レイクサイド ストーリー」が最後じゃないのだなというのは割と意外性がある。「ペパーミント・ブルー」はインスト付きなので特別扱いにするとしても、A面「レイクサイド ストーリー」のB面が「ガラス壜の中の船」だし。
収録曲はだいたい別バージョン
ほぼ全曲が何かしらの形でオリジナルとは別バージョンとなっている。
冒頭からして楽器の構成が違う上に間奏のサックスがまるきり別テイクの「夏のペーパーバック」や後述の「レイクサイド ストーリー」といった、ぼーっと聴いていてもはっきりとした違いが分かるものもあるが、当然ながらはっきりとした差異はかなり微妙な箇所しかないものも多い。例えば「ガラス壜の中の船」。オリジナルとの違いは「よく聴くと最後のベースの余韻がフェイドアウトしない」。あと「銀色のジェット」は「最後のジェット音がオリジナルよりちょっと大きい」。奥が深すぎるぜ…。
とはいえ、これらはもちろん「実際のミックスには様々な細かいオリジナルとの違いがあり、その違いをはっきりと判別できるぐらい分かりやすく表れているのがこの箇所」というだけのことで、例えば「恋のナックルボール」はSEが大きめで各楽器の音が立ったガッツリ系のミックスになっているし、「ペパーミント・ブルー」なんかもオリジナルと音の広がりかたがけっこう違うのがサブスク上での聴き比べでも分かって頂けると思う。
なお「恋のナックルボール」には最後にSEの余韻とオリジナルでは聴けない大滝氏の「うん、まあわりあい良かったな」というつぶやきが追加されている。必聴。
「木の葉のスケッチ」がフェイドアウトせず、クラリネットのソロもオリジナルとは別テイク
実はフェイドアウトしない「木の葉のスケッチ」は(インストを除けば)現在では割とレアになっているアイテムにしか収録されていない。ちなみにフェイドアウトしないバージョンの中でも後述『complete EACH TIME』収録バージョンはクラリネットのソロがオリジナルバージョンと同じ、という違いがある。
なお、企画盤『SNOW TIME』収録のものはフェイドアウトしないうえにイントロが全バージョン唯一のアコーディオン始まりというここでしか聴けない激レアバージョン。
「魔法の瞳」がロングバージョン
なんと丸々一個ヴァースが追加された楽しいバージョン。
この曲のバージョン違いは(少なくとも私の聴感上で分かるレベルでは)実はこれだけなのだけれど、結構大胆な違いなので嬉しい。
「レイクサイド ストーリー」がフェイドアウトするバージョンに変わる
「レイクサイド ストーリー」バージョン違い迷宮開幕。
最後の「戻って来る」展開が削除されただけではなく、実はラストのサビのリフレインがオリジナルよりもかなり多いため、尺的にもオリジナルより20秒近く長いロングバージョンになっている。
「ペパーミント・ブルー」のインストを収録
これはこのボックス用のボーナストラック的な位置づけで、2014年"Final Complete"盤でアルバム全曲のインストを収めたディスクが付属するまではCD化されることもなかった。
1986年『Complete EACH TIME』
これ以降の『EACH TIME』の原点となる、ターニングポイント的エディション。特に「夏のペーパーバック」始まりや「レイクサイド ストーリー」からの「フィヨルドの少女」でアルバム終了、という流れはこの後のエディションでも繰り返し再現される。
なお、埋め込んだプレイリストでは一部音源がサブスクにない関係で代替音源で埋め合わせをしている。詳しくは以下の項で。
「Bachelor Girl」「フィヨルドの少女」追加
今作で最も重要なトピック。『EACH TIME』のアウトテイクで後にシングルリリースされた「フィヨルドの少女」と、『B-EACH TIME L-ONG』で先行披露されたのちに「フィヨルドの少女」シングル盤のB面を務めた「Bachelor Girl」がここでアルバムに合流。
後追いのリスナーが知る『EACH TIME』は文字通りここでいったんの完成(Complete)を見たと言って良いだろう。
CDとLPで収録曲のバージョンが違う
このエディションはLPとCDで内容が微妙に違うらしく、というのもCD盤は収録曲の大半で先項『EACH TIME SINGLE VOX』の音源を基にしたマスターテープを使っているようだ。
先述の「木の葉のスケッチ」や、最後の波音ふうのSEが若干カットされて尺が数秒ほど短くなっている「夏のペーパーバック」(これ以降VOXバージョンのアレンジがCDに入るときは大抵このバージョン)など若干の違いがある曲も散見されるが、それでも『EACH TIME SINGLE VOX』と”ほぼ”同じバージョンの曲を一気に聴くことができるCDは未だにこれと先述の『NIAGARA CD BOOK II』の中の『EACH TIME SINGLE VOX』リマスター盤ぐらいしかない。
また、先の「VOXとは若干の違いがある曲が散見される」という点は逆を返せば「この盤でしか聴けないバージョンもある」という意味であり(大きな変更があるバージョンの中では前述「木の葉のスケッチ」及び後述「恋のナックルボール」が該当)、故にこのエディションのCD盤は現在もあまり中古価格が下がっていない。さすがに一時期のプレミア価格状態は脱したが。
「恋のナックルボール」が短いバージョン
基本的には『EACH TIME SINGLE VOX』と同じだが、後半の「バンドゥビバンバンバン」のコーラスが少しカットされて曲が短くなっている。現物を所持していないので確認できないのだけれど、複数のサイトでそのように記述されているし、コアなナイアガラーの間では割と有名な話らしい。
なんで?と思ったらこのカットによって曲の末尾にSEの余韻+大滝氏の「まあわりあい良かったな」を追加してもオリジナルとだいたい同じ尺になるとかなんとか…。
このバージョンはサブスクにはないため、プレイリストではVOXの音源で代替した。
「レイクサイド ストーリー」、フェイドアウトの仕方がちょっと違うらしい
現物を所持していないので確認できないのだけれど、らしいです。リズム隊がフェイドアウトしはじめるタイミングが若干違うとのこと。しかもCDとLPでもちょっと違う(これについては次の1989年盤の項で後述)。
まだこの迷宮は始まったばかりだ。覚悟しろ。
このバージョンもサブスクにはないため、プレイリストではVOXの音源で代替した。
1989年盤
1989年リマスター盤。色々と衝撃が過ぎるエディション。ちなみにこのエディションは曲順こそ異様だが、何気に各曲のバージョン差し替えはあまりされていない。
曲順がとにかく特殊
「1969年のドラッグレース」が1曲目という、このエディションが最初で最後の波乱の幕開けだけでも相当に珍妙だが、「ペパーミント・ブルー」がめちゃくちゃ前半部に来ているし、前半部レギュラー組の「夏のペーパーバック」「木の葉のスケッチ」が揃って後半に配置されているし、いくら何でも無茶苦茶が過ぎる。しかも殆どの配置換えがこの一回きり。地味に「フィヨルドの少女」と「レイクサイド ストーリー」の順番が逆転しているのもこのエディションだけ。
違和感どころの話ではない。一体何を思ってこんな曲順にしたのか…?なにぶん私は素人なんで、一からアルバムの構造を見直してみたかった、みたいな絶対違う理由しか思いつかない。
記事のために作ったプレイリストで、実際にこの曲順で聴いてみた。まあ、これはこれで良いかもしれない…とも思うけど、正直な感想を言うと、いま何曲目を聴いているのか全くわからなくなって混乱する…。この盤で『EACH TIME』を初めて聴いた人、他のエディションに慣れるまですごい大変そう…。
ただ、「恋のナックルボール」や「銀色のジェット」が相変わらず中盤だったり、「Bachelor Girl」がこれ以降のエディションと同じ2曲目ポジションに就いていたりと、曲順が過激に変動しているぶん逆に「見えて」来るものもある。どのエディションでも必ずアルバムの中盤にある「銀色のジェット」って曲順の上では何気に『EACH TIME』の核なのかも。
「魔法の瞳」、クビ
な ん で ? 怒
こいつぁ許せないぜ…。
…冗談(あまり冗談でもない)はさておき、先の『Complete EACH TIME』ではVOX盤ロングバージョンの収録という恵まれた待遇だったのに、そこから一転この扱い。確かに「魔法の瞳」は曲にも歌詞にも「影」の部分が全くないトラックだから、『EACH TIME』の中ではやや浮き気味のトラックかもしれないよ?でもいきなりカットて…。
全体的にシリアスなトーンに支配されている『EACH TIME』にとって「魔法の瞳」は必要不可欠なトラックだと私は思っているので、これはけっこう抵抗ある。
っつーか個人的な思い入れを抜きにしてもオリジナルではトップを飾っていた曲がいきなり削除されてるの何気にとんでもないぞ。リアルタイムでこれ聴いてた人ってどう思ったんだろうな。
「ガラス瓶の中の船」、カット
私が個人的に好きということもあって「魔法の瞳」ばかりに言及してしまったが、これもかなり大胆な変更。…っていうか、いいの?
「魔法の瞳」はアルバムの中でも方向性が違うからカットしました、と言われたら(個人的な納得は別として)まあ理解できるところもあるが、アルバムの全体のトーンとも調和している極めてシリアスな空気感のこの曲がいきなりクビになっているのはかなり謎。
アレンジ上では確かにアルバムの中でも特にメロウかつサイケな空気があるため他とはやや一線を架しているかもしれないが…だからといっていきなり削除まで行くか…?一線を架してるとは言っても別にめっちゃ浮いているわけでもないしなあ…。リアルタイムでこれ聴いてた人ってどう思ったんだろうな(その2)。
よく考えたら録音にもミックスにもそれなりに時間を(そしてお金も)かけたであろう曲をバッサリカットしちゃうのヤバいな…と思うけど、それ以前に『EACH TIME』にはトラックだけ録ってそのまま歌も入れずに没になった曲が結構ある(本人曰く「20曲近く録音した」とか!)みたいだし、それ考えるともっとすごい話になるのか…。
でも「Bachelor Girl」「フィヨルドの少女」は据え置き
色々と訳の分からないことが起こっているエディションだが、この点に関しては遂にこの2曲が正式に『EACH TIME』入りした感があり、まるで自分のことのように嬉しい。と思ったのだが…(次項CD選書盤に続く)。
「レイクサイド ストーリー」が『Complete EACH TIME』LP盤のバージョンに差し替え
ここまで頻繁に使用されたVOXバージョンと尺は一緒なのだが、VOXバージョンでは「最後の方でリズム隊がフェイドアウトしてストリングスやボーカルといった上物だけが残った状態になり、しばらくしてからトラック全体もフェイドアウト」という形を取っていたのが、全てのトラックの音量が同時に小さくなっていく通常のフェイドアウト処理の形に改められた別バージョン。
この曲のフェイドアウトに異様にこだわっているのは一体何なんだ…しかも更に別のバージョンがこの後に控えているのである。まさに迷宮。
1991年CD選書盤
先の1989年版と負けず劣らずの問題作。一応全曲リマスターはされているけれどリミックスはほぼ無いらしく、殆どがオリジナルと同じバージョン。これと同内容のMDもある。
曲順・バージョンがほぼ全てオリジナル準拠に戻され、「魔法の瞳」「ガラス壜の中の船」が復帰
2曲ともおかえり!!!更にオリジナル盤準拠の曲順なので、約7年ぶりに「魔法の瞳」がトップバッターとなるカムバックにふさわしい待遇!やった~!!!!!
…と喜んでもいられない。何故なら…
内容をオリジナル準拠に戻した影響で「Bachelor Girl」「フィヨルドの少女」の2曲がカット
せっかく1989年盤で正式にレギュラー入りしたかと思われていた2曲が、僅か3年後のこのエディションでいきなりカットされる憂き目に遭ってしまう。さらにCD選書盤が長らく流通したため、その間この2曲はCDで聴くことが困難なレアトラックとなってしまった。そんなあ…。これ以降のエディションで回収されて本当によかった。
どうやら『A LONG VACATION』のCD選書盤のリマスターには大滝氏本人はほぼノータッチだったらしいという話と、今作のクレジット表記が『A LONG VACATION』CD選書盤と同じ(2作ともソニースタジオの笠井鉄平氏がリマスターを担当)という点を鑑みるに、これはレコード会社主導の再発だったためこのような内容になったのかな~とも推測できる…というかたちで話運びを進めようとしていたのだけれども…。
「レイクサイド ストーリー」はフェイドアウトバージョンのまま
唯一この盤がオリジナルと違うのがこの点という。これはどう捉えればいいんだろう。リマスターの作業を人に任せるような状況下にあっても色々と要請はしたのか、はたまた本人の意思はあまり関係ないもっと別の理由か…。
もし前者だった場合、このエディションがオリジナル準拠+「Bachelor Girl」「フィヨルドの少女」カットという形態になったことに対しても本人の意図が存在していたんだろうか。でもこの後のエディションには「Bachelor Girl」「フィヨルドの少女」の2曲は必ず入っていて、実際にはこのCD選書盤で撤回されたかに思われていた正式レギュラー入りが実現した形になっており、むしろこのCD選書盤だけがイレギュラーだったということが分かるので…よくわからん。
結局、この盤でオリジナルの曲順・内容に戻ったのって誰の意向だったんだろうか。謎だ…。
ここで再録を逃した結果、大エンディングバージョンを気軽に聴けるようになるまでは、このCD選書盤発売から30年後の2021年にサブスク解禁直後にリリースされた配信限定企画EP『夢で逢えたら EP』の出現まで待たなければいけない状態になってしまったのであった。「ここで大エンディングバージョンに戻しておけばあんな入手困難にならなかったのでは…」とも思う一方で、ここまでオリジナル準拠の内容のCD選書盤ですら大エンディングバージョンが選ばれなかったことによって、「一回フェイドアウトした旋律が戻って来る」瞬間の神秘性、意味性がより強固になった面もあると思う。
しかし…これは1989年盤でも同様だけど、大エンディングも「フィヨルドの少女」も無しでこの曲のフェイドアウトでアルバムが終わるの、相当心細い。
2004年"Final"20th Anniversary Edition
当時の決定版とも言える充実の内容で、「Final」の標榜は伊達ではない。"Final Complete" がリリースされる数年前、私がいろんな情報や価格面を考慮した末に選んで買った『EACH TIME』がこのエディションだったので非常に思い入れが深い。
曲順は『Complete EACH TIME』を基にしたベーシックな内容、と思いきや…「魔法の瞳」、また変なところに入ってるな…でも壮絶な「ペパーミント・ブルー」の後にこの曲でいったん弛緩してからの「レイクサイド ストーリー」、という流れは当時から結構好きだった。
なお、プレイリストでは「レイクサイド ストーリー」のみサブスクに収録バージョンがなかったので別のバージョンで代替した。詳しくは該当の項で。
「Bachelor Girl」「フィヨルドの少女」の2曲が復帰
おかえり!!!この盤から『EACH TIME』に慣れ親しんだ身としてはやっぱりこの2曲がないと物足りない。残る最後のエディションでもこの2曲はもちろん続投。返す返すもCD選書盤は何だったんだ。
「夏のペーパーバック」が新バージョン
オリジナルと同じベース入りのイントロだけど、間奏のサックスはVOXバージョンのテイク、という特殊バージョン。
これサブスクで聴けないんじゃないかと思ったんだけど、よく見たら『暑さのせい EP』で配信・サブスク救済されていた。『暑さのせい EP』は没後企画の中でも地味に秀逸な盤だと思っていたけど、こういう細かいバージョンをサブスクで聴けるようにする、という意味合いもあった作品なのだな…とリリースから2か月ぐらい経った今になって気付く。
「1969年のドラッグレース」がVOXバージョンに差し替え
この曲に関しては次の"Final Complete"盤でもこのバージョンで収められている。
「魔法の瞳」は『Complete EACH TIME』以来18年ぶりとなるロングバージョン収録
現在は配信・サブスクでロングバージョンが簡単に聴けるようになったとはいえ、CDでも入手が易しい盤にこのロングバージョンが入っているのは地味に嬉しい点。
初めて聴いたのがこのバージョンの方だったので、しばらくのあいだ"Final Complete"盤収録のオリジナルを聴いたときに、一瞬「なんかちょっと短い…?」と思っていた。
「レイクサイド ストーリー」がまたもやバージョン違い
恐れていた事態が発生。遂にやりやがった、サブスクに類似バージョンがほぼ無いバージョンの収録。「レイクサイド ストーリー」くん、確かに素晴らしい名曲なんだけどそういうところ本当にさあ…。
この20th盤に収録されているのは『SNOW TIME』で初披露となったバージョン。VOXバージョンと同じ「最後の方でリズム隊がフェイドアウトしてストリングスやボーカルといった上物だけが残った状態になり、しばらくしてからトラック全体もフェイドアウト」という形式になっているが、フェイドアウトのタイミングが非常に早いため全体の尺がとても短く、「レイクサイド ストーリー」史上最短の5分13秒という尺になっている。いわばショートバージョン。
今回の作業に際して気付いたけど、これたぶん大エンディングバージョンの「戻って来る」展開の部分だけを削除したバージョンだ。リスナーを翻弄する罪な曲すぎる…。
あとこの記事の作業をしていて、『SNOW TIME』がサブスクにないってことに今更気付いた。「夏のリビエラ」さえ企画盤で拾っちゃったらめぼしいバージョン違いは「木の葉のスケッチ」とこれぐらいしかない『SNOW TIME』をサブスクに入れる意義は薄いって言われたらそうなのかもしれないけど…後半に入ってるFJORD7のインスト、結構好きなんだけどな。
仕方ないのでプレイリストにはフェイドアウトの仕方が似ているVOXバージョンを収録して茶を濁した。曲の尺的には真逆なんだけど。
ボーナストラック3曲追加
この20th盤は『EACH TIME』史上唯一となるボーナストラックの追加がある。
特に「恋のナックルボール (1st Recording Version)」はCDでは未だにこの盤と『NIAGARA CD BOOK II』に収められている企画盤『Niagara Rarities Special』でしか聴けないレアトラックなので、CDで大滝氏の作品を聴きたい方にとってこの20th盤は心強い存在ではないだろうか。
以下、ボートラ3曲を個別に説明。
Cider '83
『Niagara CM Special』の幾つかのエディションに既に収録されていた既出音源。
お馴染み三ツ矢サイダーのCMソングシリーズの最後の曲。「サイダー'73」から10周年ということで大滝氏の方から逆オファーを出したとか。現在は『Best Always』でも聴くことができる(しかもそっちはロングバージョン)。
サブスク・配信ではいつの間にかサブスク解禁されていた『Niagara Rarities Special』に30秒バージョンが、配信限定の企画盤『Singles & more』にロングバージョンが収録されている。
恋のナックルボール (1st Recording Version)
ここが初出、正真正銘の未発表音源。
70年代ナイアガラ的な悪ノリが弾ける楽しく華やかなトラックだったアルバム収録バージョンから一転、ロック調のシンプルなアレンジになっていてかなり印象が違う…というかこれはもはやほぼ別曲。シンセを用いたと思しきキッチュな音も時折入るとはいえ、アルバムバージョンで各所に織り込まれていた野球の試合を再現したSE群も一切入らず、アルバムバージョンで印象的だった応援歌のフレーズを派手にぶっこむ展開もないため、全体的にかなり抑制されたトーンで貫かれている。
こちらのバージョンもかなり良い。…良いけど、いくらなんでもビフォーアフターに落差がありすぎる。一体どうやってここからド派手なお祭り騒ぎを演じるアルバム収録バージョンに辿り着いたんだ。
なお、サブスクでは配信限定の企画盤『Singles & more』に再録され、その後に『Niagara Rarities Special』もサブスク解禁されたため、この二つの企画盤で音源が思いっ切り重複しているっていう。
マルチスコープ
大滝詠一のプロデュースワークを集めた企画盤『大滝詠一 SONG BOOK II』に「ゆらりろ」というタイトルで収録されていた曲を改題したもので、よってこれも既出音源。作詞は伊藤アキラ。
大滝氏本人も認めるSE爆盛りソング。「魔法の瞳」「恋のナックルボール」の続編的な内容で、曲調的には「魔法の瞳」が近い。短いながら濃厚な曲で、私はじめて聴いたときからこの曲大好きなんだよな~。
この曲もサブスクでは「恋のナックルボール (1st Recording Version)」と同じ経緯で二つの企画盤に収録されて重複している。
ちなみにこれ、もともとはNHK教育(現Eテレ)の番組「マルチ・スコープ」のために製作された曲。NHKの公式に番組の動画があった。
これ見て初めて知ったけど、実際に番組で流れていたオリジナルバージョンはSEが殆ど入ってないのか…アルバム収録版を聴くと物足りなさ過ぎる。
2014年"Final Complete" 30th Anniversery Edition
大滝氏の遺作となった「最終回答」盤。生前の本人によって作られた最後の作品だからか、サブスクでもこれが正式な『EACH TIME』として登録されている。
20th盤と同じく、『Complete EACH TIME』を基にしたベーシックな曲順…と思いきやなんか「魔法の瞳」の位置がまた動いてるし、ここまでのエディションでは必ず前半部~中盤部にいた「恋のナックルボール」がここにきていきなり「ペパーミント・ブルー」と「レイクサイド ストーリー」の間という最後半部に収まる、割とハチャメチャな曲順に。
それでも文字通りの最終回答なだけあって、曲順も全てのバージョン差し替えもなんとなくしっくりくるから恐ろしい。私は曲順に関してはこのエディションが一番好き。
「夏のペーパーバック」が『Complete EACH TIME』と同じVOX版を基にしたバージョンに差し替え
このバージョンが登板するのは『Complete EACH TIME』以来実に22年ぶり。
「1969年のドラッグレース」だけでなく「ガラス壜の中の船」もVOXバージョンに差し替え
この”Final Complete”はどちらかと言えば細かい差し替えが多い印象で、これもそう。
とはいえ「魔法の瞳」は20thのロングバージョンからオリジナルに戻されているし、最後の最後まで細かく手を入れまくっているな…。
「レイクサイド ストーリー」はフェイドアウトのまま
流石に新バージョンではないが、やはり大エンディングバージョンはここでも収録されず。
この最終回答となる"Final Complete"盤で選ばれたのが大エンディングバージョンではなく、サビのリフレインが延々と続きながら消えていく、全てのバージョンの中で一番長い尺のフェイドアウトバージョンBだったことは、偶然にしてはあまりにも出来過ぎていて少し感傷的な気持ちになる。
こうして長らく続いた「レイクサイド ストーリー」のバージョン違い迷宮もここでやっと”Final”を迎えた…
…はずだったのだが…
2014年"Final Complete" 30th Anniversery Edition付属インスト盤"EACH TIME TRACKS"
上記"Final Complete"盤に付属する、『EACH TIME』史上初の完全インスト盤。『EACH TIME Single VOX』に収録されていた「ペパーミント・ブルー」がこれにて初CD化…と思いきや、最後の最後でとんでもないものをぶん投げてくるヤバいエディションだった。
残念ながらサブスク配信はない。気になった方は"Final Complete"盤を買おう!
「夏のペーパーバック」はオリジナルバージョンのインストに差し替え
いきなり1曲目の時点でもう既に「単なるDisc1のインスト盤」じゃなくなってるっていう。逆にVOX版のインストは恐らく未発表。
まあこの点はオリジナル盤のインスト盤という意味合いが強いのかな、と思ったら…
「木の葉のスケッチ」が突然の新バージョン
なんで!?『Complete EACH TIME』と同じくフェイドアウトしない+オリジナルのクラリネットソロというバージョンのインスト…と思いきや、途中からクラリネットのソロがVOXバージョンのものに変わるというあまりにもトリッキーなバージョン。どういうことなの…。
インストバージョンってだけでもう十分バージョン違い足り得るのに、そこに更にバージョン違いの重ね掛けをしてくる『EACH TIME』、ヤバすぎる。そして…
「レイクサイド ストーリー」が全バージョンの中で唯一フェイドアウトしないバージョン
やっぱりラスボスはこいつだった「レイクサイド ストーリー」。
フェイドアウト処理が一切施されていないバージョンがここでいきなり登場。そんなことある!?最初に聴いたときは感傷通り越して普通に驚いたのを覚えてる。「レイクサイド ストーリー」と言えば「フェイドアウトの違いが細かい曲」と思っていたのに、まさか最後の最後でフェイドアウトそのものをかなぐり捨てて来るとは思わんじゃん…。
複雑怪奇な『EACH TIME』を象徴する曲がこの「レイクサイド ストーリー」であることは間違いないだろう。だろうけど…ここまでやる???
ちなみに私は「20th盤も手元にあるから、やろうと思えば20th盤の「レイクサイド ストーリー」とこのインスト版を使ってうまく編集して大エンディングバージョンを作れるのでは…」と思ったこともあったけど、まあ今なら配信とサブスクに普通に大エンディングバージョンあるからそんなややこしいことせずに普通にそっち聴けばいいんだよな(というか多分思ったようにはうまく行かない)。素直に良い時代だなって思うよね。
まとめて思ったこと
「レイクサイド ストーリー」はやっぱりヤバい
最後のインストバージョンの項でも書いたけど、やはり「レイクサイド ストーリー」はこの複雑な推移を辿っているアルバムを象徴する存在だろう。
なにせ収録曲の中でバージョンがたぶん一番多くて、しかもその多数のバージョンをエディション毎に細かくとっかえひっかえしているので改めて纏めてみると相当複雑なことになっている。挙句の果てに『SNOW TIME』がサブスク未解禁なので20th盤は正確なプレイリストを制作できない事態にまでなった(『Complete』でも同様の事態は発生しているが、こちらはVOXの音源のあくまで微妙なバリエーションなので実像をまあまあ把握できるプレイリストには出来たはず。「恋のナックルボール」のショートバージョンがないのが心残りだけど)。
最後の最後にフェイドアウトしないインストバージョンをお出しになるというところに至っては壮絶。そしてそこまでしても生前は絶対に再発されなかった大エンディングバージョン…。
最初に『EACH TIME』について調べ始めたときに一番混乱したのが「レイクサイド ストーリー」のバージョン違いについての部分だったし、この記事書いてて一番大変だったのも「レイクサイド ストーリー」の箇所だった。この曲単体でちょっとした”沼”が発生しているのが凄まじい。湖の曲だけど。
「レイクサイド ストーリー」迷宮の全貌をインターネット登場以前に把握していたマニアの人たちは本当にすごいと思う…。
1989年盤、浮き過ぎている
こうやって並べて見てみると1989年盤の特殊っぷりは突出しすぎている。
これだけ歴史が長いアルバムだと時折曲が足したり引かれたりされてはいるが、それは「Bachelor Girl」「フィヨルドの少女」の途中合流組と20th盤のボーナストラックに限った話。流石にオリジナル盤に収録されていた楽曲をバッサリいった(しかも2曲も)のはこのエディションだけである。
ここまでガッツリ曲順に手を加え、更に音源にリマスターも施していながら、楽曲そのものにはほとんど手を加えておらずバージョン違いが「レイクサイド ストーリー」ぐらいしかない(このバージョン自体も『Complete EACH TIME』のLP盤に収録されていた既出のもの)のもかなり謎。
そういえば『A LONG VACATION』で唯一「さらばシベリア鉄道」が収録曲からカットされて9曲入りになったのも1989年リマスター盤だった。もしかしてこの頃ってなんかあったんだろうか…?
CD選書盤も謎
なんでここで急にオリジナル準拠仕様だったんだろうか…。その割には「レイクサイド ストーリー」はフェイドアウトするバージョンが選ばれてるし…うーん。
これに関しては考えれば考えるほど分からなくなる。「CD選書という企画がそういうものだから?」というふうにも考えたけど、他作のCD選書に近いスリムケース仕様の再発はふつうにボーナストラックとか追加されているので、必ずオリジナル準拠にしなければいけなかったって感じでもなさそうだしなあ…。
初心者が聴くべきCDは20th "Final"盤と30th "Final Complete"盤の二枚だが、それ以前にサブスクや配信を駆使した方がいいと思う
これはまあほぼ間違いない結論かなと。現在はサブスクや配信でレアなバージョンを簡単に聴いたり入手できたりするので、その恩恵を最大限に駆使するべき。そもそもこの記事自体がその恩恵によって支えられていることは疑いようもないわけで。素直に良い時代だなって思うよね。
CDで行きたい人は、やはり私と同じように入手が易しいうえにバージョン違いが詰まった20th "Final"盤と大滝氏本人による最終回答であるところの30th "Final Complete"盤の二枚を選んだ方がいいと思う。この二つではっきりと違いの分かりやすいバージョンはまあまあ網羅できる(出来ないのは「レイクサイド ストーリー」の大エンディングと「恋のナックルボール」のVOXバージョンぐらい?)し、『EACH TIME』の醍醐味であるバージョン違いの面白さはだいぶ把握できる。また"Final Complete"盤はインスト盤で他のバージョン違いも聴けるのが強いし、そのインスト盤はサブスクにないというのも大きい。
まあ、音質とかマスタリングとか入れたらまた違う話になってくるんだろうけど、正直そこに関しては私もついていけてない領域なので…。
そして記事を書いていて浮かんだ、最大の疑問。
"VOX"はどこまで拾うつもりなの?そして"VOX"はどのバージョンを基にするの?
恐らくアルバムのリリース40周年を迎える来年の3月には『A LONG VACATION』『NIAGARA TRIANGLE VOL.2』と同じ形式の、最新リマスター音源やLP、未発表テイクを詰め込んだ豪華"VOX"が出ると思うのだけれど、一体この複雑怪奇なアルバムのどこからどこまでを網羅するつもりなのだろう。全バージョンを網羅しようとするとロンバケの時のCD4枚+ブルーレイ1枚じゃ全く追っつかなくなる気がする(というかこれは「ロンバケ」が大滝氏の作品としては珍しい、殆ど別バージョンのないアルバムだから出来たことだと思う)のだけど…。
バージョン違いの面で言うなら少なくとも『EACH TIME SINGLE VOX』辺りは入っていてほしい(ただサブスクにもあるので回収されないかなあ?)と個人的には思うけど、でもそうなると最も解禁を熱望されているアウトテイク群はどうなる?(少なくとも曲数的にロンバケの時みたいにアウトテイク含むセッション音源を1枚のCDに収めるのは無理じゃね?)という話にもなるわけで。
そしてVOXの核たる『40周年記念盤』はどのバージョンを基にするのだろうか。
普通に考えたら大エンディングバージョン「レイクサイド ストーリー」入りのオリジナルを再発!…という企画で行きそうなところだけど、そうなると今度は”え、「Bachelor Girl」「フィヨルドの少女」の2曲はどうなるの?”ともなるわけで。この2曲は大滝氏が最後に手掛けた"Final Complete"盤にも収録されていて、まさか今更CD選書盤のようにカットするわけにも行かないのではないか。かといって「フィヨルドの少女」入りなら大エンディングはやや蛇足な気もする。こういうときの曲順もあの人がいれば考えてくれたんでしょうけど、残念ながらあの人は2013年末から”長い休暇”を取ってましてね…。
これを書いている2023年11月現在まだリリース予告は出ていないわけですが、本当に…どうするんだろう。企画する人たち、諸作業に忙殺されてるんじゃないだろうか…と余計な心配をしたくなる。
※2024年3月追記:実際VOXがどうなったかについてはこちらの記事を参照
以上です。
めちゃくちゃ長くなっちゃったけど書きたいことはそれなりに書けたので、”まあわりあい良かったな”。
おまけ。
これはヘッダに使った写真で、私が持っている20th盤と30th "Final Complete"盤の歌詞カードを並べて撮ったものなんですが、どっちがどっちの歌詞カードか分かりますか?
正解は、右の色が濃い方が"Final Complete"盤。並べてみたら印刷も色調もはっきりと違って驚いた。ブックレットの中の文字の印刷も結構違う。