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続・大滝詠一『EACH TIME』の曲順・バージョン史 ~40th関連アイテム出たよ編~

 昨年、こんな記事を書きまして。

 投稿直後はリアクションが少なかったこの記事、じわじわと(ときには驚くような方から)リアクションを頂き、なかなか嬉しい限りなのですが。
 皆さんご存じの通り、記事の最後に触れた40th Anniversary関連アイテム諸々が出ました。

 
この記事はとりあえず40th関連のアイテムの諸々を速報的に書く内容になる。
 先の記事と同じように、あくまで曲順や商品仕様、「バージョン」に限った内容で、マスタリングなど込み入ったレベルの話はあまりしない記事になる。そこだけ了承してもろて…と言いたいところなのだけれど、なにぶん書くことが多いアイテムなので、結局それなりの長さの記事になると思う。
 なった。
 許して。

 前置きはここら辺で切り上げて、早速行ってみましょうか。


2024年 40th Anniversary Edition

Disc1
1. SHUFFLE OFF
2. 夏のペーパーバック
3. Bachelor Girl
4. マルチスコープ
5. 木の葉のスケッチ
6. 恋のナックルボール
7. 銀色のジェット
8. 1969年のドラッグレース
9. ガラス壜の中の船
10. ペパーミント・ブルー
11. 魔法の瞳
12. レイクサイド ストーリー
13. フィヨルドの少女

全曲別バージョン。公式のトラックリストには全曲に括弧書きで「40th Anniversary Version」と付記してある。

Disc2
1. 井上大輔ラジオトーク (1984年4月)
2. EACH TIME Special Edit
3. 恋のナックルボール (1st Recording Version)
4. Cider '83 (Broadcast Mix)
5. Cider '83 (15sec)

※上記はCD盤の内容。
 LP盤は曲順も内容も完全オリジナル準拠の別内容となっている(「フィヨルドの少女」「Bachelor Girl」の2曲は7インチシングルの復刻版を同封して対処)。
 またサブスクなど配信ではDisc2は配信されていない。

 大滝氏の遺志を継いだスタッフが全力を出した結果、どえらい内容に…。

LP盤は完全オリジナル準拠仕様

 このエディションはCDとLPで完全に別物になっていて、LP盤は緑のカラーレコードで曲順、内容ともにオリジナルに完全に準拠した再発になっている。
 追加トラックであるところの「フィヨルドの少女」「Bachelor Girl」の2曲もシングルを復刻した7インチ盤を同封して対処する徹底っぷり。個人的にはこの「フィヨルドバチェラーの追加組は7インチを同封して対処」というのはかなり秀逸な落としどころだと思った。
 私はLPは買わなかったし、公式には銘打たれていないので正確なことは言えないが、この徹底っぷりだと余程のことがない限り「レイクサイド ストーリー」も大エンディングなのでは。

 というわけで、これ以降はCD盤の内容を下敷きにしています。

ボーナストラックを収録したdisc2が付属

 ロンバケの40thと同じく、ボートラを別ディスクに分離した仕様。
 内容は井上大輔氏のラジオ番組に出演した際の様子の未編集フルサイズ音源、大滝氏本人が制作した未発表エディット音源「EACH TIME Special Edit」(『EACH TIME』収録曲とそのストリングス版が交互に流れる内容)、20thに収録された「恋のナックルボール (1st Recording Version)」「Cider '83」の初出バージョン2種。
「恋のナックルボール (1st Recording Version)」は何気に20th以来20年ぶりの登板。

曲順は20th準拠

 後述の追加曲2曲を除けば、曲順は2004年の20th Anniversary Editionとほぼ同一…というか、追加曲以外は全く一緒の曲順になっている。
 実はこれについてはリリース告知時のプレスにかなり興味深い文言がある。

大きな注目を集める[収録曲順]は、ほぼ楽曲が完成した順番に収録されることになっている。

引用:PR TIMES - 大滝詠一[曲順未完のアルバム]、『EACH TIME』発売40周年記念盤の収録曲第1弾が遂に公開! 未発表曲に加え、初出となるミックス違い音源も収録!! https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000003968.000013546.html(太字強調は筆者によるもの)

 つまり、この40thとほぼ同じ20thの曲順は、『Complete』以降の収録楽曲が”完成した順番に並べられる”形に直されていたことになる(ボーナストラックを除く)。
 だとすると、この情報が明かされるまではかなり突飛に見えていた20thの「魔法の瞳」の移動に、実はとても大きな意味があったことに。『EACH TIME』、深すぎる…。

未発表曲「SHUFFLE OFF」追加

 今回のいちばんわかりやすい”目玉”は恐らくこれ。アルバムリリース前にラジオ番組で「収録予定楽曲」としてオンエアされたものの収録されず、多くのナイアガラーが音源化を夢見た幻の曲が遂にお披露目。
 事前に語り継がれていた風評通りこの曲はボーカルを乗せるところまで辿り着けなかったらしく、ボーカル無しのインストとして収録されている。
 曲の方はと言えば、「君は天然色」ラインを狙ったと思しき非常にキャッチーな内容。転調を多用した展開やキメの爆音といったフックが多数配された、インスト状態で聴いてもかなり迫力のある秀曲。
『EACH TIME』への収録を諦めたにしても、ここまで完成度が高いトラックが出来ているならばシングルか何かにしたり提供曲に回したりすれば良かったのでは、と思うのだが、そんなに歌メロがうまく乗らなかったのだろうか…?VOX収録の『Sessions』で聴ける仮歌もかなり自信なさげだしなあ…。

 ちなみにタイトル「SHUFFLE OFF」「服を脱ぎ捨てる」だとか「責任を転嫁する」といったような意味だが、実はもう一つ大きな意味合いがあり、「the mortal coil」を付け加えると「騒々しいこの世を去って往生する」という意味合いの言葉になる(元はシェイクスピアが書いた戯曲のセリフらしい)。

「マルチスコープ」が本編に追加

 20th以来20年ぶりとなる収録で、更にボートラではなく本編組み込みの大出世。賛否あるけど個人的にはこの曲めちゃくちゃ好きなので素直に嬉しい。
 今回が初音源化となる、恐らく番組のオープニング用に製作されたモノミックス。既存のバージョンよりもSEの盛り具合が少し控えめ。

というか全曲別バージョン

 やりやがったよ。ほぼ全曲が何らかの形で既存音源とは異なる、というバージョン違い祭り状態。ここまでバージョン違いが爆盛なのはこれ以外だと『SINGLE VOX』ぐらいでは?
「"VOX"はどのバージョンを基にするの?」という私ののんきな質問への回答は「新バージョンを作るんだよ!!!!!!!!!!」でした…。
 恐らく全員が気になっているであろう「これら別バージョンは誰が作ったのか?」については、クレジット見る限りではマスタリングエンジニアしか表記がない=このエディションにはミックスを担当したエンジニアが存在しないっぽいので、どれも大滝氏本人が何らかのタイミングで作ったミックスなんじゃないかと推測される。
 VOXのブックレットには今作にまつわる大量のマスターテープやカセットテープ類の写真が掲載されており、これらのどれかに今回収録されたバージョンがあるのではないだろうか。いや断言が出来る材料がないのでわかんないけど。

追記:このバージョン群がいつ作られたのかについての追加情報

「40thのバージョンがいつ作られたのか」に関しては、今作発売後にRolling Stone誌のweb版に掲載された、ラジオ番組「J-POP LEGEND CAFE」の書き起こし記事ふたつ詳細が何となくわかる記述が幾つか見受けられる。発言者は全て大滝氏没後のナイアガラ作品へのかかわりも深い能地祐子氏。

 これらの記事の中にある記述―「事務所のスタッフたちが50本近いマスターテープをすべて確認するという作業をまずやった」「<ペパーミントブルー>のストリングス付きバージョンは今回初披露」―を勘案すると、やはり40th収録バージョンは大滝氏が生前に何らかのタイミングで作っていたものである、という結論でほぼ確定ではないか。少なくとも私はそのように推測しています。
 それにしても50本近いマスターテープを全部ひっくり返して確認ってエラい事しとるな…。

高橋が独断と偏見で選んだ、特にすごいバージョン違い

・Bachelor Girl
 今まで『B-EACH TIME L-ONG』でしか聴けなかったフェイドアウトなし完奏版、かつイントロが他のバージョンと同じ雷の音+歌始まりになっているもの。
 私は機会を逃し続けて『B-EACH TIME L-ONG』を未入手のまま今まで来たので、この曲をちゃんと最後まで聴けることに普通に驚いてしまった。

・木の葉のスケッチ
 長い!!!!!
 思わず「いや長いって!」とCDプレーヤーに突っ込んでしまった。
 地味にイントロもこれまで『SNOW TIME』でしか聴けなかったレアなアコーディオン仕様になっている。

・恋のナックルボール
 アウトロの「バンドゥビバンバンバン」が終盤何回か欠落しているかなりの怪バージョン。どういうことなんだ…。
 最後は『SINGLE VOX』『Complete』と同じ、大滝氏の「まあわりあい良かったな」付き。これは期待してたので嬉しい。

・ペパーミント・ブルー
 イントロに素晴らしいストリングスパートが追加。
 ちなみにプロモ盤に入っていたバージョンではこのストリングスパートからそのまま歌い出しに繋がっていたらしいが、ここではストリングスパート終了後に改めてイントロ付きの通常バージョンが始まる構成になっている。

・魔法の瞳
 「目が合う度に~」の前にもハープの短いフレーズがくっついていてイントロが長い。本編も『SINGLE VOX』と20thと『CD BOOK II』のみで聴けていたロングバージョンになっているので、とってもロングバージョンと化している。
 この曲にバージョン増えたの嬉しい。私は『EACH TIME』でこの曲が一番好きなので。

・フィヨルドの少女
 多分このエディションで一番ガラッと変わっているバージョン。
 全体のアレンジ・ミックスが『SNOW TIME』収録の「FIORD [哀愁のフィヨルドの少女]」に近くなっていて、ボーカルは恐らくほぼ別テイク。
 ちなみにイントロは「FIORD [哀愁のフィヨルドの少女]」とも微妙に違う(ドラムが入っている)。
 このエディションの目玉となるバージョンの一つなんじゃないかなあ。

・恋のナックルボール (1st Recording Version)
 いやボートラも別バージョンなんかい!

 アウトロにリズム隊の演奏だけが続く未発表のパートがくっ付いているため、20thに入っていたバージョンよりかなり(具体的に言うと18秒ぐらい)長い。
 それにしても「SHUFFLE OFF」といいこれといい、『EACH TIME』って初期構想の段階ではかなりはっきりと「グルーヴ」を前面に押し出すつもりだったのか…?

 これらの曲は特にわかりやすく違いがあるというだけで、他の曲も細かい違いがある。…と書きたいところなのですが、2曲ほど違いが分からない曲があったので、こちらに関してはより詳しい人による解析結果を待ちたいと思う所存。

 そして気になるあの曲は…。

「レイクサイドストーリー」はフェイドアウトしない大エンディングバージョン

 もちろん初出バージョンだぞ「レイクサイド ストーリー」。
 
ここでは30thに付属するインスト盤に収められていた「フェイドアウトしない大エンディング」のトラックに歌を乗せたようなバージョンが採用されている。
 オリジナルの「戻って来る」バージョンは今回も採用ならず。しかしこの後に「フィヨルドの少女」が続くことを考えると、フェイドアウトじゃないエンディングがあって、なおかつ余韻を引きずり過ぎないこのバージョンの選択は一番良いバランスなんじゃないかなと。
 色々言われてはいるけど、没後企画に於いてちゃんとセンスのあるスタッフに恵まれている大滝氏は割と幸運なケースだと思う。

EACH TIME VOX

40th Anniversary Edition
※Disc1、Disc2ともに通常盤と同内容。

EACH TIME Sessions
1. 夏のペーパーバック (Take 1)
2. SHUFFLE OFF (Take 2)
3. Bachelor Girl (Take 1)
4. マルチスコープ (Take 2)
5. 恋のナックルボール (1st Recording Version) (Take 1)
6. 木の葉のスケッチ (Take 1)
7. ペパーミント・ブルー (Take 1)
8. レイクサイド ストーリー (Take 1)
9. 魔法の瞳 (Take 1)
10. ガラス壜の中の船 (Take 1)
11. 銀色のジェット (Take 1)
12. 夏のペーパーバック (2nd Recording Version) (Take 1)
13. フィヨルドの少女 (Take 2)
14. オーロラに消えた恋 (Take 1)
15. 雪のツンドラ (Take 1)
16. 恋のナックルボール (Take 1)

Blu-ray Disc

・40th Anniversary Music Video

EACH TIME THE MOVIE
ペパーミント・ブルー

・特典映像 [Original Music Video]
ペパーミント・ブルー (1984)
フィヨルドの少女 (1985)
EACH TIME TV-CM (1984)

・5.1chサラウンド音源
1. マルチスコープ
2. 夏のペーパーバック
3. Bachelor Girl
4. 魔法の瞳
5. 木の葉のスケッチ
6. 恋のナックルボール
7. 銀色のジェット
8. 1969年のドラッグレース
9. ガラス壜の中の船
10. ペパーミント・ブルー
11. レイクサイド ストーリー
12. フィヨルドの少女

・EACH TIME 1984 Original Mix
※オリジナルと同一。

・EACH TIME SINGLE VOX
※『SINGLE VOX』オリジナルと同一。

・EACH TIME Singles + Rarities
1. Bachelor Girl
2. フィヨルドの少女
3. 哀愁のフィヨルドの少女 / Fiord 7
4. Cider '83
5. Cider '83 (Broadcast Mix)
6. Cider '83 (15sec)
7. ペパーミント・ブルー (Promotion Version)
8. 恋のナックルボール (1st Recording Version)
9. マルチスコープ

・EACH TIME Karaoke
1. 夏のパーパーバック
2. ペパーミント・ブルー
3. 木の葉のスケッチ
4. ガラス壜の中の船
5. 銀色のジェット
6. レイクサイド ストーリー
7. 1969年のドラッグレース
8. 恋のナックルボール
9. 魔法の瞳
10. Bachelor Girl
11. フィヨルドの少女
12. Cider '83 Track Only (Tracks only)
13. Cider '83 Track Only (Tracks only, featuring Strings)
14. 恋のナックルボール (1st Recording Version

※すべてハイレゾリマスタリング音源。

LP
A-1. SHUFFLE OFF
A-2. 夏のペーパーバック
A-3. Bachelor Girl
B-1. マルチスコープ
B-2. 木の葉のスケッチ
B-3. 恋のナックルボール
B-4. 銀色のジェット
C-1. 1969年のドラッグレース
C-2. ガラス壜の中の船
C-3. ペパーミント・ブルー
D-1. 魔法の瞳
D-2. レイクサイド ストーリー
D-3. フィヨルドの少女

※通常のLPとは違い、40th Anniversary Editionの内容をアナログ化したものになっている。33回転LP2枚組。

他に大判ブックレットとポスターやステッカーなどのグッズが付属。

40th Anniversary Editionと同時発売されたボックス。

『EACH TIME Sessions』が付属

 ロンバケなどのVOXと同じセッション音源蔵出し企画なのだけれど、今までで一番資料性が高い内容に仕上がっているのではないだろうか。
 ほぼすべてのテイクにハミング的な仮歌が含まれており、また曲前・曲後の大滝氏の雑談がかなり長めに収録されている。
 仮歌は曲によって完成度がまちまちで、ほぼ音源版と同じメロディをなぞっているものもあれば全く違う歌メロがつけられているものもある。「トラックを作ってから歌メロを作っている」という作曲方法を実感できるなかなかヤバい内容。
 また、ストリングスをオーバーダビングする前は仮歌でストリングスのメロディラインを入れていたっぽいことも伺えて興味深い。
 雑談類はレコーディングがどのような空気感で進められていたのかが分かって貴重。
 
特に別のレコーディングで起きた出来事についてユーモアたっぷりに毒づく様子や、バンドのミスを辛辣に指摘しスタジオの空気が若干ピリついている様子からは様々なエピソードで語られている「大滝氏の厳しさ」が垣間見えて生々しい。
 ただ、それと同じぐらい和気あいあいと話してもいて聴いていて普通に楽しい。個人的には大滝氏の指摘に斎藤ノブ氏がダジャレで返す様子が収められているのにウケた。
 曲はどれもストリングスや管楽器類がダビングされる前の極めて生々しい音像になっていて、なおかつところどころ完成版とは異なる箇所もあり非常に面白い。
 特に衝撃的なのが「マルチスコープ (Take2)」
「恋のナックルボール」の「バンドゥビバンバンバン」は元々ここにあったフレーズだったのか…!フレーズもアレンジに似通っていたこの2曲が正真正銘の兄弟的存在であったことが分かってめちゃくちゃ驚いてしまった。それ以外の箇所も殆ど別曲と化しており、マニアは一聴の価値あり。
 謎に半音下がっている「夏のペーパーバック (2nd Recording Version) (Take1)」も面白い。
 ただ、実物を聴く前はロンバケのSessionsのように後々サブスク解禁されるかな~と思ってたんだけど、ロンバケのそれと比べるとかなりマニアックな内容なので…どうだろう。

Blu-layディスクが付属

 恐らく物理的な制約で入れられなかったであろう1984年オリジナル版や『SINGLE VOX』、カラオケ音源はこちらに入っている。
 …よく見ると5.1ch mixとカラオケ音源の曲順がなんか違うんですけれど…。
 前者は『Complete』の冒頭に「マルチスコープ」が追加された曲順。
 後者は「ペパーミント・ブルー」がいきなり2曲目に来ていたり、「レイクサイド ストーリー」が中盤にあったり、「Bachelor Girl」がラストの一つ前にあったりと、怪奇極まりないマジで謎の完全新規曲順。
 
一筋縄で行かなさ過ぎるだろ『EACH TIME』…。

 映像の方は…申し訳ないですが、まだ見ていないので詳細を割愛させてください…。

付属LPは単独販売とは別物

 VOX付属のLPはオリジナル準拠の40th通常盤のLPとは違い、40th Anniversary版の内容をアナログ化したものになっている。
 33回転LP2枚組。
 またジャケットは発売延期前の1983年に製作されていた没ジャケットのデザインを採用している。ガラステーブルの上に置かれているテレビを描いたイラストをメインにしたデザインで、実際に世に出たジャケットとはかなり趣が異なる。

ブックレットが付属

 ロンバケVOXの時とは異なり、資料集の趣が強い内容。
 これは音源ではないので本来この記事では取り上げないものなのだけれど、ブックレットに載っている資料の中にこの記事的に言及を避けることができないものがあり。
 それが大滝氏本人が残した「曲順の構想メモ」。
 発売されたばかりの商品のネタバレになるので詳しく書くことは避けるが、かなり初期のものと思われるメモではもっと曲が入る予定だったことが伺えたり(このメモは仮タイトルの数々も見ることが出来て興味深い)、他のメモでは「1969年のドラッグレース」締めというなかなか衝撃的な構想が記されていたり、「ペパーミント・ブルー」は割と後の方まで前半に置く予定だったことが分かったり、「フィヨルドの少女」を中盤に置く構想が何個もあったり…これはとにかく凄い。超一級の資料。
 そして何よりも、その構想の多さには大滝氏の苦心の跡が見て取れる。再発の度に曲順が変わっていた理由の一端を伺うことが出来て生々しい。

個人的に思ったこと

 思った事です。

ロンバケの40th盤及びVOXと比べるとめちゃくちゃマニアック

 一番思ったことはこれ。
 40th Anniversary盤そのものも、VOXの追加要素も、ロンバケの時のそれと比べるとかなりマニア向けの内容に振り切っている。
 これは『EACH TIME』という作品の持つ性質が、ロンバケと比べると非常に入り組んだ複雑なものになっているせいだろう。そもそも前回の記事からして「EACH TIMEって結局どれを買えばいいの?」で困惑した過去の経験から着想を得て書いたわけで。『EACH TIME』の複雑さは大滝氏がこの世を去ったとて変わらず、寧ろより深まったまである。
 そうした複雑なバックグラウンドが素直に反映されると、このようなマニアックな性質が強いパッケージが出来上がるのは避けようがないのかな~と。

やっぱ全エディション・全バージョンの網羅は無理

 そりゃ網羅できたらよかったんだろうけど…まあ無理だよね~!!!!!
 
そんなことしていたらCDが何枚あっても足りないし、Blu-layを駆使しても限界があるだろうことは想像に難くない。冷静に考えて、フェイドアウトがちょっと違うだけの「レイクサイド ストーリー」が延々と並ぶdiscとかあるんだろうな、と想像すると普通に無理あるもんな…。
 Blu-layを使ってオリジナル盤と『SINGLE VOX』をちゃんと収めただけでも良く頑張った方だと思う。

賛否ありそうだけど個人的には割と賛

 この項は他の項と比べると感情の吐露の趣が強いので、太字強調は無しで行きましょう。

 そもそも没後企画とはどうしても「墓を暴く」ことに近いネガティブな性質を必ず持つもので、常に賛否が付いて回る。ただ、個人的には没後企画一発目が『DEBUT AGAIN』という好企画だったのでナイアガラのスタッフには割と信頼感があって、どの企画もそこまでの悪印象はない。
 以上を踏まえた上で個人的な意見を書くと、結構意欲的で悪くないんじゃないかな、と思う。全曲別バージョンというのはかなり挑戦的だけれども、私はそこにある新しい『EACH TIME』を作ろう、という大きな気概を素直に買いたい気持ちが強い。
 そんな私でも『Sessions』の仮歌を聴いた時は一瞬「これ聴いて大丈夫なのかな…」と戸惑ったものの、その後のトラックの雑談パートの多さを聴いていくにつれて「ああ、これは『EACH TIME』という作品の実像を伝えるためのアイテムなのだな」と感情の落としどころを見つけることが出来たのでちゃんと楽しむことが出来た。
 これは私がこれからも「後追い」の域を脱することができない、ということを理解しているからかもしれない。
 大滝氏がこの世を去った今、全ての人々は追想と残された音源と資料と証言のみで作品の実像を追いかけるしかなくなった。
 とりわけ、存命の時期から作品を聴いていたとはいえ世代的に間違いなく後追いとなる私(たち)は、リアルタイムで大滝氏を追いかけていた人たちの追想で「当時」を想像することしかできない。まさに「景色だけが変わり未来は過去になる」。通り過ぎた場所には戻れない。未来に取り残された私たちは、未来に取り残された者なりの方法で実像に近づかなければならないのだ(実像に近づくことを望むならば)。
 とはいえ、色々言い繕ったところで、「ちょっと罪悪感を抱いていても、聴いた事のない音源を聴きたいという欲求に逆らうのはムズい」というだけの話な気もする。
 でも、私が持ち、また私以外の人々も持っているであろうその欲求をあまり否定したくない思いも強い。「レイクサイド ストーリー」の項でも書いたように、一定のセンスのあるスタッフに没後企画を作ってもらえているぶん幸福ではあるよな、と思うし。
 というわけで、単なる焼き直しの再発よりは全然好印象です。あくまで私は、ですけど。

とはいえ最初の『EACH TIME』にはあまり向いていない

 とまあ色々書いたけど、マニアックな内容であることは間違いないし、結局は没後企画であることも含めると、これはやはり「ボーナスステージ」的な存在であることは否定できない。公式が「Alternative EACH TIME」を銘打っているのもそれを自覚してのことだと思うし。内容的にも他のエディションを聴いてから聴く方が色々わかりやすいと思う。
 なので初心者の方は他のエディションを聴いた後で聴きましょう。
 
前回の記事でも書いたことの要約を最後に書くと、現在はストリーミングや配信を駆使するのが吉。
 CD盤で聴きたいという人
は、20thと30thを最初に聴くのがお勧めです。