COPTER4016882『KILLER PULSE』
"ネオ渋谷系"という潮流を覚えている人が、今一体どれぐらいいるのか。EXITのことじゃないですよ。
…とぶち上げたはいいものの、私もそんなに詳しいわけじゃない。
そもそも私がその潮流の存在を知ったのも2007~2009年頃、つまりはcapsule切欠の後追いであり、ムーブメントは既に終わりかけていた。
それに初期capsuleは好きではあったものの、あの特有のピーキーさにはそこまでシンパシーを抱いていなかったので、そのピーキーさがcapsuleよりも色濃いと想定される関連レーベルや関連ミュージシャンを積極的に漁る、ということはしなかった(なんせレーベル名からして「ウサギチャンレコーズ」だったりするので)。
Plus-Tech Squeeze Boxの『cartooom!』は大好きだったけど。
そんな自分でもcapsule主催のcontemodeのコンピはちゃんと聴いたし、contemodeの所属ミュージシャンの作品はある程度探した記憶がある。と言ってもcontemodeのリリースはその殆どがヤスタカワークスなのだけれど。
それはさておきcontemodeのコンピは二作ともかなりの傑作なのでお勧め。中古価格もかなり安いはず。運が良ければ100円とか50円で買えるだろう。コスパの面でとにかく最強なので今すぐ探すべき。
第1弾も第2弾も素晴らしい(※)のだけれど、とりわけ第2弾はメンツも収録曲も最強。謎多きユニットEther22の恐らく唯一の単独名義楽曲「Skywalker」、別のコンピの収録曲の再録ながら抜群にハマっているPlus-Tech Squeeze Boxの名曲「kitchen shock→」、異常な存在感を見せる吉田哲人&ラブ・サウンズによる「キーファー・サザーランドみたいな奴」など、必携と言えるトラックが大量に積載されている。
その中で最も重要なのが、COPTER4016882の「Polly's Flying Hat」だ。この曲はどこにも再録されておらず、ここでしか聴けない。
パーティーの雑踏から漏れ聞こえる口笛で始まるこの曲の魅力を、果たしてどのように文字で表せばいいのか私には見当もつかない。
サンプリングの的確さと曲展開に合わせたメリハリが素晴らしいアレンジのクオリティに触れればいいのか。それともその流れるような曲展開の見事さについて書けばいいのか。聴き手のノスタルジーを掻き乱すメロディワークについて書けばいいのか。
いや、この曲に於いて、どれか一つの要素を殊更に取り上げるのは間違っている。そうした要素が混然一体になっているからこそ、この曲は素晴らしい。だから何を書けばいいのかわからなくなるのである。
えーっと、長ったらしくてウザい前置きをだらだらと垂れ流してきたけれども、要するに(どこが「要して」いるんだ)私はCOPTER4016882が好きなのだ。昔は「覚えづらいな…」と思っていたこのやたら覚えづらいユニット名ですら、今では彼らの普通じゃない音楽性を見事に象徴しているように思えて、とても愛おしく感じる。
このユニットの魅力に初めて気付いたのは、学生の頃に地元の中古CD店でたまたま見付けたアルバム『perfect joke』に収録されている「FALL」を聴いた時だったと思う。
浮遊感あるメロディワーク、ラウンジポップにハウスの感触を取り入れたアレンジ、そして曲全体を俯瞰で眺た瞬間にこそ発揮される圧倒的なキャッチーさ。いま聴いても、何を取り上げても一切の隙のない完璧な曲だと思う。こんなものを学生時代に浴びせられたのだからたまらない。
しかし彼らのCDは何故かやたら見つけづらく、結局、数年間は「FALL」と先述の「Polly's Flying Hat」を何度も聴く、というような触れ方をしていた記憶がある。
その数年後ぐらいに大分遅れて『2D2D』を入手。
過去の作品よりもエレクトロ色を強めた内容ではあるが、元々ハウスの要素を取り入れることの多いユニットだったのでそこまでの違和感はなかったし、何よりもそのセンスは健在で感動した。
とりわけ「like a star」という曲は構成が見事…というか完璧のひとことで強い感銘を受けた。あ、あとSTARDUST「Music Sounds Better With You」をモロに引用した「lights」のサンプリングセンスにも。この記事書くにあたって再聴してみたけれどアルバム全編本当に完璧でどうしようと思った。
私はこのユニットのことを、日本で最も過小評価されているユニットの一つだと思っている。
不幸なことに、ユニットのブレーンであるukai氏が今何をやっているのか全く不明な状態になってしまっている。どうやら2010年ぐらいまではutrecht等の別のユニット等で活動していたようだけれど、2022年の今は検索してもほとんど情報が出て来ない状態だ。この状況も過小評価っぷりに拍車をかけていると思う。
そんな状況なので、先日TLに流れてきた”海外の日本音楽マニアが製作した「日本の名盤リスト」”の中で『perfect joke』が紹介されているのを見て、とても感動してしまった。絶対に再評価されて欲しい。
で、先のバズツイートをきっかけにspotifyでCOPTER4016882を検索してみたら、なんとcontemode参加以前にBad News Recordsからリリースされた2枚のアルバムが配信されていた…!
2枚とも聴いたことが無かったので感動のあまりTLで大騒ぎを演じた。しかし結局ストリーミングで聴いたらCDが欲しくなって、速攻でそのうちの1枚を調達してしまったのだった(なんかオークションサイトでは高騰の予感も漂っていたので。ちゃんとお店で探せばもっと安く入手できるのかもしれないけどね)。それが『KILLER PULSE』。
キラーパルスという言葉をアルバムの表題に選ぶ攻撃的なセンスからしてもう「完璧」の予感が満ちているが、果たして、contemodeからリリースされた傑作2枚と全く引けを取らない、恐るべき名盤である。10曲で30分未満というサイズ感は、むしろ内容の濃密さをよく表していると思う。
一応このユニットの区分けは「渋谷系」となっているし、間違いなく「ネオ渋谷系」の潮流の中にいたユニットだが、改めてこのユニットのことを渋谷系に当て嵌めすぎるのも微妙な気がするというか。
いや、勿論この空気感は間違いなく「渋谷系以降」なのだけれど、やっぱりサンプリングのセンスが他の同系統のミュージシャンのそれよりも、遥かにかっ飛んでいる。それは渋谷系というよりは、その源流となった90年代の海外オルタナティブ・シーンのセンスに近いと思う。
そのセンスと異様さが最も発揮されたのが、9曲目の「サイケデリックパスワード」だろう。ラウンジポップを標榜するアルバムに収録されている曲のイントロが般若心経のサンプリングで始まるなんて、本当にあり得ない!しかも後半ではラウンジポップと般若心経を、済ました顔で同時走行させてみせる。なんてことだ。これを才能と言わずになんと言う?
このままだらだらと何かを書いていると冷静さを欠いてしまう予感しかないので、収録曲から特に好きな曲を選んで言及する、という一般的な形に落ち着かせよう。私がこのアルバムで特に感銘を受けたのが6曲目「この気持ち」と10曲目「BEACH」の2曲だ。
「この気持ち」(この曲はタイトルからして素晴らしい!)はピアノのリフを軸にしたどこか切ないポップソング。
とてもキャッチーで、初めて聴いた時から「10年ぐらい前からこの曲好きだったんだよな」と錯覚させるメロディ。間奏でバカみたいな音量の低音が鳴ったり突然語りが挿入されたり、といった捻くれた要素。その全てが完璧にキマっている。このユニットの魅力が見事に凝縮されていて、何度聴いてもフレッシュ。
そして「BEACH」。
アルバムのラストを飾る、少しテンポを落として素敵なメロディをじっくり聴かせる曲なのだけれど、その最後、突然にシューゲイザーから叙情性と感傷だけを取り出したようなアウトロが流れ出す。
好き放題やりまくっているアルバムの最後をこのアウトロで締めるのは、もう、なんか…ズルい。ここには気心の知れた友達と夜通しバカをやって遊んだ後に、避けようもなく訪れるあまりにも静かな夜明けのような、虚無交じりの切なさが充満していて、それに触れる度に心が震えるのを感じる。
書きたいことは他にも山ほどあるが、私はやはりCOPTER4016882の音楽の魅力を、文字で表しきれる気がしない。
何度も書いてきたように、このユニットの音楽はそれを構成するアレンジやメロディ、歌詞(今回の文章の中では歌詞に全く言及できなかったんだけど、実はここもスゴい)といった一つ一つの要素も素晴らしいのだけれど、それらを一つの曲として、あるいは一つのアルバムとして俯瞰した際に見える全景にこそ圧倒される、そういう性質を持っているからだ。極論を言ってしまえば、これは聴かなきゃわからない。
いや、本当に再評価されて欲しい。少なくとも今の過小評価っぷりは改められるべき。1stの『MICKPHONE』も早く見つけないと…。
余談。
7曲目「フィール ザ パルス」の終盤でかなり唐突にぶち込まれる、管楽器系の音色で鳴らされるシンセリフは、後にcontemodeからリリースされたアルバムに収録されている、とある曲で再登場します。
(※)ここでは文章の趣旨に添わせる形で存在に触れるだけの形にしたけれども、第一弾の方も中田ヤスタカによる別名義”東京リズムシフト”の唯一の楽曲が収録されていたり、恐らく他に再録されていないPlus-Tech Squeeze Boxの楽曲「シンメトリー」が収録されていたりとかなり重要な内容なのでやはりマスト。COPTER4016882「Little Kikky」も、アルバム『perfect joke』収録版とイントロがちょっと違う別バージョン。