『フェイクドキュメンタリーQ』全作レビュー6・「Q6:目的地」
Q6:目的地 - Bivouac
動画タイトル:動画配信者が辿り着いてしまった最悪の目的地
シリーズの折り返し地点にして異色作。
アウトドア系youtuberのKanaさんが、SNSで公開するために撮影していた登山映像。しかしKanaさんは道を間違えてしまい遭難、目的地であったはずの山小屋に辿り着けないまま夜になってしまう。
アウトドア経験が豊富なKanaさんは手慣れた様子で野営をするが、その途中である恐ろしい出来事が起き…という内容の映像が流され、登山に慣れているはずのKanaさんが何故遭難してしまったのか、その理由のようなものが最後に明かされて終了する。
恐らく「フェイクドキュメンタリーQ」随一の異色作である。
というのも、この回は心霊DVDに収められている映像のそれに近い…というよりは、殆どそういったものに収録されている映像と同等の内容・構成になっているのだ。終盤ではっきり入る不可解な音声を敢えてリプレイせずにスルーする構成も、かなり「心霊モノ」的な要素がある。
また、撮影者のKanaさんが無事に帰還したことがナレーションで語られるのもこのシリーズにしては若干珍しい要素で、この回はとにかく最初から最後まで心霊ドキュメンタリー然としている。
つまり、一つのホラー作品として非常にクオリティが高い一方で、このシリーズならではの異様さがあまり感じられないのだ。
かなり大胆な、それでいて語弊がありそうな言い切りをしてしまうと、この回のみは何かしらの心霊DVDに収録されていた映像のうち、ものすごく完成度が高いものを選んで流しました、と言われても納得できる。
映像をちゃんと見返すと、道中にKanaさんが不気味な体験をする場所へ導くような「なにか」がさりげなく配されている映像、そして「Kanaさんがあの場所に導かれた理由」「あの場所に現れたものの意味合い」の二点が一切説明されない辺りは「フェイクドキュメンタリーQ」的だが、それにしたって全体の構成があまりにもシンプル過ぎる。
前回のQ5「鏡の家」は心霊ドキュメンタリー的構成が映像の中のあまりにも大きな異変に対して言及しないことによって「語らない」部分への不信感を掻き立てる役割を果たしていたが、この回にはそういった仕掛けもない。
最も、先述したように今回の映像の完成度は非常に高く、この回が他と比べて劣っているということでは断じてない。
しかし、こうしてシリーズの全作を、全体の流れを汲みながら文章に書き記そうとすると、下手に難解な回よりもよほど解釈に困る回だ。
一方で、様々な志向の恐怖を取り揃えた「フェイクドキュメンタリーQ」の中にこの一編が放り込まれると、むしろそうした「いかにも心霊ドキュメンタリー」的な構成が不気味に”立って”くるのが面白い。逆に「この映像にも何かがあるんじゃないか?」という疑念が掻き立てられてしまうのだ。
実際、この回のコメント欄では、多くの視聴者が映像をつぶさにチェックして見つけた違和感のある部分のタイムスタンプを書き込んだり、他の回との関連性についての自らの考察を綴ったりしている様子を見ることができる。
もしかしたらコメント欄に書きこまれたこれらの発見や考察はただの思い過ごしや考え過ぎなのかもしれない。しかし作り手がこれらの発見や考察が正解なのか不正解なのか、という答えを出すことは恐らくない。
それどころか作り手は視聴者を翻弄するがごとく、映像の中で彼岸花を意味ありげに何回も映してみせる。
先ほど私は「この回の映像にはQ5のような大きな仕掛けはない」という旨の文章を書いた。しかしよく考えたら、これは私が気付いていないだけなのかもしれない、と不意に思った。
そんな可能性が頭に過ぎる時点で、私はこの作品に大分やられているのかもしれない。
そんな私がこの回で一番気になる点は、「目的地」という、大半を視聴者の想像に任しているこの回の中で、割とクリティカルな部分をはっきりと明言している表題である。
あの場所は、誰の、そして何のための目的地なのだろうか。
…って締めようと思ったら公式が動画公開時に全く同じ問いかけをしていたよ。