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法から見たDAOの有用性とその課題

みなさんお久しぶりです。
柳瀬将です。

今回はDAO法的側面について書いていきたいと思います。
The LAOというDAOに携わっている法律家であるAaron Wrightの記事を参照しました。

まだ議論が深まっていない分野ではあるのでコメントをお待ちしています。

また、法律に関与されないことこそがブロックチェーンの魅力であるとする人がいることも理解でき、筆者としては非難する趣旨ではありませんが、こちらの記事は「DAOを法律の下で運営したいという人」を対象にしたものとなっているのでご了承ください。

DAOとは?

DAOとは、Decentrized Autonomous Organization の略です。
日本語では自律分散組織と訳されます。
簡単に説明すると「スマートコントラクトをベースとして組織の行為をトークンホルダーの合意により決定する組織」のことです。
2022年6月現在様々なDAOがありますが何をもってDAOとするかについては議論があります。
というのもその人が前提とする信条によってDAOの説明が変わってくるからです。
トークンを発行する組織をDAOとする人もいればコアメンバーの存在すら認めない人もいます。

少し古いですが、イーサリアムの共同創設者であるVitalik Buterinは、DAOについて、
「定義の重要な部分は、DAOが何でなく、何がDAOではなく、代わりにDO(Decentraized Organizations)、DA(Decentrized Automation)、または自動化されたエージェント/ AIのいずれかであることに焦点を当てることです。」
として説明しています。
他との違いでDAOが決まるということです。
ここでは深入りしませんが詳しくは下記の記事に書かれていますのでご参照ください。

この記事では、「スマートコントラクトを使った、複数人が意思決定に参与する、特定の人物がいなくなったとしても存続可能な組織」として議論していきたいと思います。

法律面における有用性

 投票

DAOには定時株主総会はありません。
何かをしたいと思ったときに提案をすれば足りるのです。
いつでも提案できるということは、構成員の提案に対するハードルを下げることとなり、組織としてはより様々な意見を反映させることができます。

株式会社では株主総会にかかるコストは多大なものとなっています。
総会や議案の通知、委任状の確認、弁護士費用など様々なコストが存在します。
もっとも、DAOならブロックチェーンというデジタル上のものであるためそれらのコストを削減できます。

また、DAOでは通常投票が公開されていることが多いです。
例えばsnapshotを使用されたことがある方はご存じの通り、どのアドレスがどこに投票したかがわかります。
誰が何に投票したかなどの事後的な監査についても、従来であれば第三者に頼らざるを得なかったものが、公開されることで組織に関係する人だけでなく一般人も監査可能になるのです。
そのため、誤った意思決定を行う潜在的なリスクを減少させることとなります。


 ガバナンス


現在、日本ではコーポレートガバナンスコードのの遵守が求められています。
このコーポレートガバナンスコード遵守のために多大なコストがかけられているのです。
また、コーポレートガバナンスコードを遵守するステージになかったとしても組織の運営にコストがかかっています。
もっとも、スマートコントラクトを使うことで事前に、ルールに反した行動をとりえない設計にしてしまうことができるのです。
したがって、事後的にルールに反しているかを監査する必要が減ります。
これにより、コンプライアンス遵守が叫ばれている中で組織としては増え続けるガバナンスに割くべきコストを下げることができるのです。

また、規制する官庁としても増え続ける組織を継続的に監査し続けるのは不可能といえます。
そんな中、組織設立段階で一定のルールを守るように設計してしまえば官庁としても継続的監査のコストを削減することができるのです。


 恣意的運用の排除

上記2つの帰結として、DAOにより恣意的運用の排除が容易になります。DAOには代表取締役は存在しません。
取締役も存在せず、株式会社より所有と経営が近づいているのです。
したがって、少数者による組織の恣意的運用のリスクを低減させることができます。
たしかに、コアメンバーがリーダーシップを発揮している様子は散見されますが、リーダーシップの発揮は直ちに恣意的運用につながるとは限りません。
また、恣意的運用を行おうと思っても、トークンホルダーによる投票によらねばならず、投票にかけないで裏でこっそり恣意的運用を行おうとしても、事前の制度設計により勝手な行為を行うことを制限できるからです。
このようにして少数者による恣意的運用が排除できます。

課題

 有限責任の有無

株式会社等の法人を設立する利点の一つに有限責任性があります。
有限責任とは、会社の債権者が会社に対して債務を追及しても、株主は自身が出資した限度でのみ責任を負うことです。
仮に、有限責任が認められない場合、債権者は株主に対しても無限に責任を追及することが可能となり、株主には「自身が出資した以上の損失を負うリスク」が存在することになります。
かかるリスクの下では誰も出資しなくなってしまうため、法は有限責任という形で出資者を保護しているのです。

もっとも、DAOは米国法上「General Partnership」としてみなされる可能性が高く、「General Partnership」は無限責任を負うためDAOも無限責任を負うおそれがあります。
たしかに、日本法だとDAOは「権利能力なき社団」として整理する意見が存在し、「権利能力なき社団」は判例により有限責任が認められるため、日本法上DAOには有限責任が認められる可能性があります。
そうだとしても、日本で作られたDAOであっても米国での活動があると判断された場合米国民が参加している場合は、米国法上では無限責任となりえるのです。

クリプトの世界の責任を現実世界で追及できるかという事実上の執行の問題はありますが、法的責任の面ではリスクが存在します。

 分散型ガバナンスのリスク

スマートコントラクトが意思決定のプロセスを合理化したとしても、「合意に達するという作業」にはなおコストがかかります。
直接民主主義的なアプローチをとることで、参加者は意思決定のための情報収集をし続けなければなりません。
もっとも、情報収集には時間がかかり複雑であるため参加者の継続的な意思決定を困難にさせるのです。
その点で、意思決定のための継続的な情報収集を取締役のみに限定する株式会社に劣ります。

かかるデメリットに対応するために様々な施策が行われています。
一部では構成員がある提案をどれだけ長く支持したかに基づいて意思決定の重要性を決めています。以下のリンクで詳細が記載されています。

これにより投票に参加し続けるインセンティブが存在することとなるのです。
また、継続的な投票ではなく、DAOをアルゴリズムにより管理し、DAOに参加するかの意思決定のみ参加者に求めるというものも考えられます。

 トークンの法的性質

Aaron Wrightは、
「トークンに様々な権利を結びつけることができるため、米国証券法上で規制されるべき『証券』にあたるか定かでなく、仮に『証券』に当たるとしても『株式』といえるかは定かでなく、どちらかというと負債や商品に近いとも思えるが、必ずしもそれらに当たるとは言えない」
と述べています。

小規模ではなくガバナンストークンのリスティングも視野に入れているようなDAOである場合、現状日本ではMakerが暗号資産として上場しているように、DAOのガバナンストークンは「暗号資産」として整理される可能性が高いです。
そのため、DAO自身がトークンを発行する場合暗号資産交換業の登録が必要になります。
ただ、暗号資産交換業の登録は厳格な手続きの上でなされているため時間がかかります。
それに加え、発行する組織形態にもよりますが、トークンの期末課税があります。
そのため日本でのトークン発行は、コストの面で魅力的なものとは言えません。
なお、DAOのトークンを無償で付与する場合、トークンが暗号資産に当たるとしても適法に付与できます。

かといって、日本人に向けて売らなければそれで足りるかと聞かれるとそうではありません。

前述のように米国法上の「証券」にあたるおそれがある場合、米国民にむけてトークンを販売しているとされた場合、米国法に違反するおそれがあります。
そのため「証券」にあたらないようなトークンを作る必要があります。
どのようなトークンが米国法の「証券」に当たるかの記事を過去に書いたのでよかったら参照してください。

このようにDAOであってもトークンにどのような機能を持たせるかのトークン設計が大事になってくるのです。

まとめ

以上のようにDAOには良い面もあるのですが、残念ながら課題もあります。
ただ、課題があるからと言ってDAOは直ちに使用するに堪えないと判断するのは時期尚早であり、現在、様々なDAOを補助するツールが作成されています。

株式会社には株式会社の良さがあり、DAOにはDAOの良さがあるのです。
どっちかが取って代わるのではなく、様々な組織が法の下で併存する社会があってもいいのではないでしょうか。

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