ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープスのウラ(an annex of While My Guitar Gently Weeps)
マッカートニーが自分たちの音楽について語るドキュメンタリー動画がリリースされている(ディズニーチャンネル マッカートニー1,2,3)。
ジョージやジョンとの出会いから初期、中盤終盤のビートルズ、ウィングスなどの独立時代など、音楽づくりについて語るものだ。時に演奏を交えて、あるいは当時のフィルムも登場する。対談形式で、「伝説のプロデューサー」リック・ルービンが相手役となって話を進める。
作曲法から演奏法、音作り、編集のエピソードから影響をうけたアーティストの話など。秘話あり、率直な言及ありで、ファン必見だ。また世紀のメロディーメーカーといわれるマッカートニーの作曲法、制作方法が実際のヒット曲をケースにリアルに語られるのである。
まだエピソード3を見ている途中だが、印象に残った話を二つあげたい。
ひとつめは、ジョージの名曲、ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープスでポールが行ったベースのアレンジについて(この曲は、ジョージとマッカートニーの不和を扱ったとして有名だが)。
悲しいメロディーの曲の背後に、別の曲が併存しているという話。相手役のルービンがポールの目の前で曲を鳴らしながらコンソールをいじってみせる。アコースティックギターとジョージの歌を消してポールのベースだけに注目すると、激しいハードロックが響いてくる。逆にベースを消してギターと歌だけにすると静かで悲しい、聞き慣れた曲となる。ベースだけのシーンではその場でポールが即興でハードロックな歌を歌うというおまけつきだ。
こういう組み立てを聞いて、楽曲全体を聞き直すと、まさに対立するふたつのサウンドが見事に一体化しているマジックを確認できる。
ぜひこのパート、エピソード1の終盤、を聞いていただきたい。指摘したルービンが、性格がま反対に違う楽曲をミックスさせていると語っている。ビートルズの楽曲が時を超えて色褪せない理由の一つだろう。
もうひとつは、エピソード2からだが、ポールは楽譜が読めないし、書くこともできないと語っている。では、どうやって作曲してきたかというと、彼はサウンドは紙ではなく頭の中にあると語る。具体的には、例えばピアノ前に座り、こどもの頃から慣れ親しんだ和音を弾き、その組み合わせをベース(土台)にして、リズムを継ぎ足し、メロディーを加えていく。まさに音楽の現場の即興で作られているのだった。遊びも重要なモティーフであり、随所に遊ぶことが曲作りの重要なプロセスになっている。
和音の進行を決めた瞬間にポールが口ずさむメロディーがどれも聞かせられるスグレモノ(当然であるが)で、天性のメロディーメーカーとしての彼の才能に圧倒される。
和音の進行も見事だが、その段階は意外とシンプルだ。そこからの継ぎ足し、リズム、シンコペーション、メロディなどの付加が創造的なのだ。演奏仲間やプロデューサーとの共創も素晴らしい。
クラシックをやっている人の話を聞くと、楽譜はとても大事で、楽譜があるから古典時代の名曲が今日も楽しむことができるということだが、もちろん楽譜作りと即興は必ずしも同居できないわけではないだろうが、ポールの才能は全く別の在り方で、それもとてもひきつけられる。彼こそがまさに現代の吟遊詩人なのだった。
またこの映像はポールが影響を受けた同時代のミュージシャンが当時の映像で出てくる。60年代、70年代のディスコグラフィーになっている。
『マッカートニー 3,2,1』レビュー:ポール・マッカートニーがリック・ルービンに明かす、名曲誕生のプロセス - Real Sound|リアルサウンド