3月18日CSUN始まる キックオフとキーノートスピーチ
17日夜のキックオフパーティ
CSUN開始前夜は、いつも通りのキックオフパーティだった。ワイン一杯と軽いおつまみ。なつかしい人に会える。HarryもSandyもMikeもいる。いつもの顔ぶれにも会えるが、知らない人の方が圧倒的に多い。ま、毎年5000人が参加しているのだから、どんどん新顔が出てくるのが当たり前なのだ。むしろ、新しい企業、行政、大学、研究機関が増え、それも欧米だけでなく、アジア、オセアニア、南米からも多くの参加者がどんどん増えているのは、すごいことである。国内からメールで連絡を取り合っていたメンバーにも、ここでようやく会えた。ツアーを組むほどではないけれど、事前に、かつ会場で横につながって情報共有する。人によっては、ホテルもフライトも併せてしまう。で、最後に日本からの参加者で宴会をする!これが、今のツアーパターンだ。もちろんセッション中もいろいろ情報交換をするし、関係者数名で晩御飯に行ったりする。こういったゆる~いタイプのツアーの方が、お互い疲れなくていいのかもしれない。ま、かつての、女子大生30名!とか、60名、アクセシブルバス2台、車いす6名!とかの時代を懐かしくも思うけど。
Haben Girmaのキーノートスピーチにしびれる
18日の朝は早い。8時にキーノートスピーチが始まる。そう思って早めに会場についたのに、なんだか入り口でぼんやりしていたら、会場が満席になっていて焦った!会場係が空いている席をなんとか探して一人ずつ割り当てていく。後ろの方ではあったけど、文字起こしの情報保障がちゃんとしていたので助かる。CSUNでは毎回、この正確無比な文字起こしが各セッションで受けられる。
今年のキーノートは、盲ろうのHaben Girma氏である。見えなくなってから聞こえなくなったパターンのようだ。点字が読めて、かつしゃべることが可能だ。情報入手の手段としての点字のピンディスプレイ、情報発信の手段としての声がある。ささやくような、かぼそい声ではあるが、却ってそれが彼女の魅力になっていた。テーマは‘Disabled People Drive Innovation‘ 「障害者が革新を引き起こす」というものだ。
盲ろう者として初のハーバード大法科卒業生、オバマ大統領を始め、多くの世界のリーダーが、彼女に会うことを望んだ。(日本人の政治家は誰もいなさそうだが。。)
日本でも、24年のNHKの朝ドラ「虎に翼」は、日本で初めて弁護士になった三淵さんの人生だが、Habenの人生も、映画になりそうだ。彼女は賢く、ユーモアにあふれ、そして何より、チャーミングである。あらゆることにチャレンジする。今回のキーノートの中では、最初に入った大学のカフェテリアでの闘いが面白かった。メニューが毎日、ワープロで張り出されるのだが、彼女はそれを見ることが出来ない。誰かに声で伝えてもらうこともできない。やみくもにお皿を選んでも、なんかいまいちのランチになってしまう。で、彼女はカフェテリアの責任者に訴える。デジタルで読めるようにしてください、と。最初は渋られた。面倒な、と思ったのだろう。だが彼女はあきらめない。闘い続ける。長い時間をかけて、大学側を説得し、やっとメニューがメールで送られ、点字ピンでも読めるようになった!
彼女のこのときのセリフが傑作だ。「人生は美味しいものになりました。」会場が大いに沸いたのは当然だ。このメニューのデジタル化は、彼女だけでなく、視覚障害者を始めとする多くの人に利益をもたらした。事前にランチのメニューがわかっていれば、ディナーの計画が立てやすくなることもある。子どもの給食メニューを親が事前に知っていれば、例えばカレーがダブることがないのと同じようなものかも。(ちょっと違うか・・)
彼女の伝記は、「ハーベン ハーバード大学法科大学院初の盲ろう女子学生の物語」として明石書店から日本語訳が出版されている。私は帰国後に読んだがなかなかスリリングだ。アフリカ系アメリカ人としての自分のルーツへの思い。どうやってあの華麗なダンスステップを習得したか。マリの学校建設のボランティアに参加したいと15歳で思ったとき、どうやって心配する両親を説得したか。Webサイトを「場所」であるとして、ADAの中で情報保障を行うように変えた有名な判決があるが、彼女がその際にも弁護士として関わっていたことも知った。いま、ADA違反として年間5000件近い訴訟が起こされ、企業などのサイトがアクセシブルに変わっていっているが、この先鞭をつけたチームに彼女もいたのだ。当事者が動いて世界を変えて行く。まさに、イノベーションを起こすひとであった。東大の盲ろうの研究者、福島智先生がこの本の推薦文を書いている。いつかは日本でも、盲ろうの弁護士が出る日を待ちたい。
10時20分から怒涛のセッション開始
10時20分から、毎度のことながら怒涛のセッションが始まる。だが知っている企業の研究者の発表を探していればよかった頃と、状況は完全に変わってしまった。もうIBMもMSも、大きな部屋を確保したりはしない。大口のスポンサーではあるが、もはや支援技術やユニバーサルデザインの旗手ではないからだ。GoogleやAmazonは健在だが、アクセシビリティの専門企業が大きな部屋を確保してたくさん人を集めている。そして目立つのは、これまでアクセシビリティやインクルージョンに、それほど取り組んできたわけではない一般企業の発表だ。銀行や保険会社や小売り業の人が、わが社のDEIAは、と、高らかに宣言する。同様に、全米各地の大学のUDへの取り組みも目立つ。アクセシビリティ分野に新規参入してくるベンチャーも多い。
だから、もう企業名や人名では探せなくなる。CSUNサイトの検索エンジンも、全文検索できるようになってほしいとつくづく思う。今回も、面白そうな題名なので行ってみたら「はずれ・・・」というのもいくつかあった。そして、後からサイトの資料を見て、「これに行くべきだった!」と地団太を踏むのも山のようにあった。アブストラクトだけでは実像がわからないのだ。
ま、セッションは全部で400近くあるのだし、大半が15個ほど同時並行で進むのだから、宝の山を前にしても、目指すものにたどり着けない場合もあって当然かもしれない。ツアーを組んでいた頃は、そのためにみんなで手分けして参加セッションの情報共有を行っていたわけなのだから。独りで受けられるセッション数には限りがあり、英語力と理解力と、時差と疲れの問題もあって、なんだか10分の1も宝にアクセスできないのがわかるだけに悔しい。
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