フットボールとレイシズムと希望
はじめに(もしくは言い訳)
映画について書いていく、と自己紹介で書きながら、しかし映画を全く見れていなかった。言い訳をさせてもらうと、サッカー(フットボールと本当は書きたいけれど、わかりやすくサッカーと書く)のヨーロッパリーグ、チャンピオンズリーグを観て、そして今朝までEURO(UEFA欧州選手権)を観ていたからだ。
幼少期をロンドンで過ごした私にとって、サッカー観戦はかけがえのない趣味である。選手の名前や経歴、戦略などは、正直わかっていない。でも、物心ついた時から、私はイングランドを心から応援している。
イギリスとサッカー
ヨーロッパは国同士で戦争を繰り返してきた。植民地化し、そして独立し、今現在でも資源や土地を争う地域もある。国単位では収まっていても、国民間では劣等感があったり、優越感や見下しがあったりする。普段なりを潜めているそれは、スポーツで姿を現す。
特にイギリスのサッカーは、それを丸裸にする。イギリスには、未だに階級がある。生まれが違えば、住むところも、通う学校も違う。そして、サッカーは労働者のスポーツだ。パブで騒いで、ビールを飲んで、なりふり構わずに応援する。ノーサイドだなんて上品なことは考えない。賭けもするし、自国へのロイヤリティもある。We must be No.1! そういう文化だった。少しずつ、変わってきてはいるけれど。(私が子どものころは、まだフーリガンがいて、代表戦が荒れたときは外に出るなと言われていた。今はかつて程の暴動はないようだ)
EURO2020とは
ヨーロッパには2つの偉大なサッカーの大会がある。
1つはヨーロッパにあるクラブチームのNo.1を決めるチャンピオンズリーグ。これは毎年開催される、スターたちがしのぎを削る祭典。
もう1つはヨーロッパで最強の国を決める、EURO。これは4年に1度開催される。本来は昨年開催の予定だったが、コロナの影響で今年になった。
EUROでは最高のことも最低のことも起きる。最高なのはチームが勝つこと。そして最低なのはチームが負けること。でも、イングランドを応援する私にとって、負けることよりも最低なことが2つ起きた。実際は2つに留まらないけれど、象徴的な2つのことを紹介する。
EURO2020で起きたこと
決勝トーナメント1回戦 対ドイツ
グループリーグでも最も過酷だった死の組Fを、3位でなんとか抜けた強豪ドイツに、イングランドは2-0で勝利を収めた。それだけならば、ただのハッピーな話だったのだが、試合終了後、最低なことが起きた。敗戦によって泣いてしまったドイツ人の少女が中継で流れると、それをスクショしたツイートが拡散された。そこには、少女に対して酷い発言が並んだ。その中には、彼女がドイツを応援していることと、ナチスを絡めたものもあった。
応援していたチームが負けて、悲しんでいる様子をあざ笑うツイートは、みるみる拡散され、多くの批判を受けた。
決勝 対イタリア
最強の組織力で迫ってきたイタリア。イングランドはルーク・ショーがEURO史上最速の1分57秒で1点を決めるが、後半イタリアのコーナーキックから失点。当初抑えていたイタリアの組織的な動きを後半は制御できず、そのまま延長線へ。しかし、それでも勝敗はつかず、試合はPK戦へと突入した。
イングランドのゴールキーパー、ピックフォードがレジェンド・ジョルジーニョを止めるというファインセーブを見せるも、ラッシュフォード、サンチョ、サカがネットを揺らすことができず、結果はイタリアの優勝となった。
サッカー発祥の国にして、EUROを制覇したことのないイングランドにとって、この決勝での敗退は大きなショックだった。とても、残念な結果だ。
ところが、もっと残念なことが起きてしまう。PKを外したラッシュフォード、サカは黒人であり、サンチョはラテン系なのだが、彼らのSNSに人種差別的な書き込みが相次いだ。サッカー協会が即座に非難文を掲載したが、その勢いはあまりにも酷いものだった。
事実は定かではないが、イングランドサポーターがイタリアサポーターに暴行を行った、というニュースまで飛び出す始末だ。
愛するイングランド
こういうことが起こるたび、心が痛む。「これだからイングランドは好きになれない」「こういうサポーターがいるから、イングランドは応援できない」、そういう書き込みを見る。
一部の最低最悪な人間たちのせいで、我らが最高のチームが批難される。彼らは素晴らしい働きをした。白いユニフォームにあらゆるものを捧げ、献身的に、積極的に、国を背負って戦った。なのに、酷い人間たちが最低な方法でスポットライトを奪っていく。
決して、多くの人ではない。声と態度がやらたと大きい不届き者が、善良なサポーターを覆ってしまう。そんな人ばかりではないのに。少なくとも、私の周りにはそんな人はいなかった。
結果はとても残念だった。とても、とても、残念だった。でも彼らは素晴らしかった。ここまで、素晴らしい旅に連れ出してくれた。特に19歳のアーセナルのStarboyサカは、このEUROの中で驚くほどのプレーを見せてくれた。ラッシュフォードもサンチョもまだ若い。来年のW杯がすこぶる楽しみだ。
レイシズムと希望
海外に行くと、差別的な行為を受けることがある。残念ながら、事実だ。
最近のサッカー周りだと、フランス代表のグリーズマンとデンベレの、日本での発言も問題になっている。(個人的には差別的な意図はあまり感じなくて、ただホテルのスタッフに対してリスペクトのない、クソガキムーブって印象だけど)
でも、前述のドイツの女の子の惨状を知って、クラウドファンディングが立ち上がった。イギリスに居るやつが全員最低な人間ではないことを知ってもらうためのクラファンは、当初予定の8万円を大きく超えて、550万円が集まった。少女とその両親の意向で、そのお金はユニセフへと寄付される予定だ。
ラッシュフォード、サンチョ、サカのコメント欄に書き込まれた最低のコメントを押し流すため、ポジティブな書き込みをするよう、真のサポーターたちが呼びかけた。その結果、今彼らのコメント欄は差別的な発言を覆い尽くすようにポジティブなコメントで溢れている。
長らく続くレイシズムがすぐに消えることはない。サッカーでは差別に反対し、お互いにリスペクトをする活動として、試合前に片足を付く時間が設けられている。その間にブーイングをする輩はまだいるし、敵国の国家をかき消そうとする愚か者がいる。
でも、少しずつよくなっている。そう思いたい。これまでは仕方がないと見過ごされてきたことに、声を上げる人が増えた。各国のサッカー協会も、見てみぬふりをしなくなった。RESPECTの言葉が、ゆっくりとではあるけれど、染み込んでいる。そう、信じたい。
サッカーは人生だ。いろんな思いが、試合には乗っかっている。だからこそ、この素晴らしいスポーツを美しいものにしていきたい。応援する国をサポーターひっくるめて愛したい。愛せるものになってほしいし、いちサポーターとしてそういうものにしていきたい。
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