
自由度の高い自社ECサイト「ヘッドレスコマース」のメリット・デメリットまとめ
ECサイトを立ち上げる時、どうしても
カートの仕様上できない or 難しい
表示速度が遅くなってしまいがち
追加のランニングコストが重たい
というケースに直面することが多々あります。

もちろん既存のカートシステムで解決できる内容であれば、既存機能を使うのがベストです。しかし、往々にして難しいご要望が存在します。
弊社ではそういった場合に『ヘッドレスコマース』という仕組みを紹介する機会が増えてきました。
ヘッドレスコマースやその元となっているAPIベースのECサイトや付随するアプリ構築を活用をすれば、
遅くなりがちなECサイトのページ速度を爆速にしたり
特定の商品を購入した人や任意のタイミングでクーポンを配布したり
外部のCRMツールやマーケティングツールと自由に連携したり
といった、様々な恩恵を得ることができます。

今回はそんなヘッドレスコマースの『メリット・デメリット』を元ECコンサルタント・現技術者・(弱小)経営者という立場の私目線でお話しさせていただきます。
※私は基本的にヘッドレスコマースやヘッドレスCMSを推奨している側なので、大なり小なり贔屓目な内容であることはご承知ください。
ヘッドレスコマースとは
「ヘッドレスコマース」は「APIを通じてデータをやり取りし、フロントエンド(表示部分)を自由に開発できるECシステム」です。
この説明では「???」となると思いますので、順に解説していきます。
※用語解説系は文字だけだと伝わりづらい(上に長ったらしい)ので、難しそうだな~と思った方は飛ばしてください。
カートシステム(ショッピングカート)とは
EC運営者、特に経営者の中にはそもそも「ショッピングカートシステム」に詳しくない方もいると思いますので、まずはカートについて説明します。
通常、ECサイトを立ち上げる際は「カートシステム(通称「カート」)」と呼ばれる決済・在庫・注文等を管理するシステムを利用します。
代表的なところでは
Shopify
ECForce
BASE
カラーミーショップ
等がありますね。

もしこのカートシステムを使わない場合、決済機能や顧客DBを始め多くの基幹システムをゼロから作ることになります。
見積もったことはありませんが、仮にそれらの基幹システムをゼロから作った場合は雑に考えても数千万円はかかるでしょう。
ECサイトを立ち上げるたびにそんなコストはかけてられないので、既に普及しているカートサービスを利用するのが一般的です。
カートシステムとヘッドレスコマースの違いは?
ヘッドレスコマースは「API経由で情報をやり取りする画面が存在しないカートシステム」であり、その違いは文字通り「画面が存在するか否か」です。
多くのカートシステムでは
商品一覧画面
マイページ画面
注文履歴画面
等々のユーザー画面も同時に提供していますが、ヘッドレスコマースはこれらの画面が存在しません。

代わりに商品・在庫・注文情報といったデータをAPI経由で取得し、それらのデータを整形してユーザー画面を表示するのがヘッドレスコマースです。
この時点では「API?なにそれ、スゴそう」くらいの理解で構いません。後述する使い方を見れば理解が進むと思います。
ヘッドレスコマースが活躍できる事例
ヘッドレスコマースがどういうシーンで活用できるのか?をざっくりまとめてみました。
弊社が実際に提案した内容を整理した想定ケース
「こういう使い方もできるよね」という想定ケース
をご紹介します。
😖ブログを作りたいけど、カートのブログ機能が使いづらい…
商品特性を伝えたり検索流入を狙ったりする上で、ブログ立ち上げるケースは少なくないでしょう。
もちろんカートシステム内でブログ機能を提供しているケースも多いですが、さすがに本格的な記事管理システムと比較すると機能は限定的。
そのため、外部のブログシステム(例えばWordPress)と連携したい…という要望は非常に多いです。

ヘッドレスコマースではAPI経由で情報を受け取り、整形して表示します。
これはブログでも同様であり、カート機能とブログ機能は基本的に干渉しません。
結果、ヘッドレスコマースは外部ツールと共存しやすい特性があります。
WordPressとShopifyをそれぞれの管理画面で運用し、表示は1サイトに…ということも可能です。

その他、
X(Twitter)やインスタの埋込
カートシステムとは別に運用しているメルマガとの連携
オーダーメイド機能や割引シミュレーションのような機能
も自由に連携・開発・埋込することが可能になります。
😖購入した商品別や購入回数別、購入日別ででクーポンを送りたい…
特別なユーザー体験を提供したい場合、カートシステムの従来機能だけでは賄えないケースも多いです。

もちろんShopifyのように有料課金のアプリで補ったり、ECForceのように頻繁に機能が追加されるカートシステムであれば使い方次第でなんとかなるケースもあります。
しかし残念ながら、現実では何とかならないケースもあります。むしろ理想とちょっとズレるケースのほうが多いでしょう。
APIを使ったヘッドレスコマースの場合、単にECサイトの見た目を構築するだけでなく独自機能を作れます。

この独自機能はカートシステムに必ずしも依存しなくて良いため
サブスクとは別に購入回数に応じてクーポンを配布
毎月◯のつく日に割引を適用
顧客の性別や年齢、家族構成別にセット商品をサジェスト
等々、理想の施策が現実になるかもしれません。
「APIを利用して機能を開発」はShopifyのアプリをShopifyに依存せず自力開発するのと同等です。機能によってはアプリで実装するよりもコストが抑えられるケースもあります。
弊社でお見積もりした中には「Shopifyアプリの維持コスト」と「初期開発コスト」を天秤にかけて長期的にかなり安くなる…というケースも数件ありました。
😖予約販売やオーダーメイドをもっと充実させたい…
カスタマイズ性がある注文やリードタイムが特殊な注文を実装したいケースでも、ヘッドレスコマースは活躍します。
例えば
注文時にカスタマイズ内容を柔軟に指定したい
予約販売で在庫がなくても注文を受け付けたい
数カ月後のお届けのように際限なくカスタマイズできる注文を実装したい
といった要望は、通常のカートシステムでは実現が難しいケースが多いです。

もちろん、カートシステムのアプリやカスタマイズ機能で対応できる場合もありますが…細かい仕様や独自の受注フローを実現しようとすると限界あります。
ヘッドレスコマースならAPIを活用して独自の注文フローを構築できるため、より幅広いお客さんの受け入れやユニークな施策による話題性向上も狙えるでしょう。
例えば
在庫状況に応じた納期の自動計算
柔軟なセット商品を使った自動割引
顧客ごとの過去のオーダー履歴に基づいたおすすめ提案
独自の診断システムと組み合わせたフルオーダーメイド化
といったユニークな機能も実装可能です。
実際使ってるところは?
ざっと調べた限り、日本でよく耳にする企業では下記が見つかりました。
この辺りは実際に使っているかどうか?を重視されている方はご自身でお調べ頂いたほうが早いと思います。
コアラマットレス
Shopifyのヘッドレスコマースを使われているそうです。
Nike
Amazonのヘッドレスコマースシステムを使われているそうです。
各立場から見たメリット・デメリット
さて、本題です。
ヘッドレスコマースのメリット・デメリットを
経営・マーケティング = 売上や経費に関わる人
運用者 = 日常的に管理画面を操作する人
開発者 = サイトやバックエンドを作る人
に分けてお伝えします。

経営・マーケティング面のメリット
・独自のマーケティング施策ができる
・外部マーケティングツールが連携できる
・表示速度が早く、ユーザー体験が向上する
・(追加アプリで発生する)ランニングコストが削減できる可能性がある
・特定のシステムに依存しなくて良い
つまり「やりたいことが実現でき、パフォーマンスも上がる」です。
特にECサイトはページ速度が遅くなりがちなサイト形式です。有名なAmazonの表示速度と売上の件を参照するなら、パフォーマンスの向上は売上に直結します。

中でも外部ツールの連携、例えばブログやメルマガ、その他CRMツールとの連携はEC運営で必ず取り入れたいものの筆頭でしょう。
また、機能と見た目が分離しているため、機能にあたるカートを引っ越しする場合でも見た目はそのまま引き継ぐことができるのもメリットになります。
経営・マーケティング面のデメリット
・実装コストがかかる
・保守管理費用が余計に発生する可能性がある
・スタートまで時間がかかる
やりたいことが実現できる反面、コストの増加はトレードオフ。
仕様やデザイン次第ですが、サイト全体をヘッドレスコマース化する場合、数百万〜数千万かかることもあります。

ただ、ヘッドレスコマースの良いところは必ずしもサイト全体で実装する必要はないということ。
CRMツールにデータを送信し、メルマガのパーソナライズを行う
商品ページに「〇分前に購入されました」の通知を表示する
アプリを使わずに人気ランキングをまとめて表示する
といったように一部機能でのみAPIを利用してコストを抑えることも可能なので、やりたいこと vs 予算の勝負ですね。
運用者目線のメリット
・使い慣れた管理画面で運用できる
・セキュリティの心配が少し減る
例えば
記事管理画面をWordPressで操作できる
メルマガをスタンドの管理画面で操作できる
といったように、今まで使っているツールをそのまま利用できるというメリットが最も大きいでしょう。

また、管理画面と表示画面が分離されているため、ユーザー画面から管理画面が特定できないというセキュリティ上のメリットがあります。
…ですが正直、この立場の方がヘッドレスコマースの効果を最も実感しづらいと思います。
運用者目線のデメリット
・運用者側で見た目や挙動の変更がしづらい
・プレビュー機能がない(実装していない場合)
ヘッドフルなカートシステムでは管理画面で↓が用意されている場合、ユーザー画面に変更を加えることができます。
管理画面からCSSを入力する
アプリを入れる
しかし、ヘッドレス化した場合は「コンテンツ」のみが影響範囲。
いくらCSSを記入しようがプラグインを入れようが、基本的にはヘッドレス化されている範囲に変更を加えることはできません。(用意されていれば別です)

本来、運用者がそのような変更を加えることは避けるべき…という前提なので、これはデメリットにならないかもしれませんが…
また、「プレビュー画面」を別途用意する必要があるのも一つのデメリットになるでしょう。これはヘッドレスCMSでもよく挙げられるデメリットです。
開発者目線のメリット
・好きな言語で書ける
・ローカル環境が用意しやすい
・Gitでソース管理しやすい
「好きな言語で書ける」がおそらく最大のメリットでしょう。
従来のECカートではliquidやPHP等、カート側で指定された言語で書く必要があり、開発者によっては慣れていない言語で書く必要が往々にしてあったと思います。
しかし、ヘッドレスコマースならこの言語の制約がある程度外れます。

実際にはTypeScriptやPHP等で書く場合が多い…かなと思いますが、極論HTML/CSSでECサイトを作ることも可能になります。
(あくまで極論です。セキュリティや書きやすさを考えるなら、HTML/CSSのみの実装はむしろ難易度を上げるだけなのでやめましょう)
弊社の場合、ほとんどはNextjsやNuxtで作ります。バックエンドではHonoを使うケースが多いです。(TypeScriptで型共通化するのはすごく楽で、ほとんどのカートでnpmパッケージが用意されているのもGoodです)
また、これらのAPIベースのヘッドレスコマースはローカルの開発環境が整っている場合も多く、開発↔︎本番環境も環境変数を変えるだけで良いことが多いのは楽なポイントですね。
開発者目線のデメリット
・カートがよしなにやってくれていた機能も実装する必要がある
・カート独自のAPI仕様をキャッチアップする必要がある
・サーバー管理も必要になる
・セキュリティに気をつけて
通常のカートであれば勝手に作ってくれていたマイページや購入履歴、注文画面等も作る必要があります。
他にもWebhookを受け取るためのAPIを作ったり、場合によってはcron処理をするための仕組みを構築する必要もあるでしょう。
カートシステムがどこまでやってくれるのか
自分はどこまで実装しなければいけないのか
実装しなければいけないとして、それはどうすれば実現できるか
といった、より広範な知識が求められます。

また、言うまでもないことですがセキュリティは重要です。
ECサイトは個人情報の取り扱いがシビアなため、セキュリティには特に注意を払いましょう。
ヘッドレスコマースを使わない方が良いケース
と、ここまでヘッドレスコマースの良い点ばかりを挙げましたが、次のようなケースでは「ヘッドレス」という概念は忘れて良いと思います。
とにかく安く作りたい場合

ECサイト全体を安く作りたい場合、ヘッドレスコマースは選択肢に入りません。
例えばShopifyの有料テーマは数万円程度です。しかし、残念ながらそれと同等のコストでECサイトは作れません。
ケースバイケースですが、仮にゼロからShopifyを使ってECサイトを立ち上げる場合…
無料テーマ
<<<<< 有料テーマ(数万円)
<<<< 有料テーマ+カスタマイズ(十数万~数十万円)
<<<< ゼロからテーマを作る(数十万~数百万)
<= ヘッドレスコマース(百数万~数百万)
初期費用はざっくり上記のようになるでしょうか。
(デザインや機能によって大幅に差が出るので数字部分はあまり参考になりませんね)

「ECサイトを数万円~十数万円程度で立ち上げたい」
といった初期コストが最も重要な場合、ヘッドレスコマースという選択肢は除外しましょう。
※もちろん既存のテーマで十分な施策ができないという訳ではありません。既存テーマでも十分な売上創出は可能です。
開発できる人がいない場合
開発・保守する人材や対応可能なシステム会社に頼れない場合もヘッドレスコマースは避けた方が良いでしょう。
これは詳しく話すまでもありませんね。
運用者が独自にサイトをいじりたい場合
「運用者目線でのデメリット」でも挙げましたが、ヘッドレスコマース形式で作ったECサイトでは管理画面からユーザー画面に対して影響を与えることができる範囲は基本的にコンテンツのみです。

例えば運用者が
カウントダウンタイマーを入れたい!
文字のスタイルを変更したい!
追加の入力フィールドを作りたい!
と思ったとしても管理画面側からは変更できず、開発者側に変更を依頼する必要があります。
このように運用者が突発的に自力で変更を加えたい、かつそれが頻繁に起こりそうなケースではヘッドレスコマースは避けた方が良いでしょう。
前提として、セキュリティや影響範囲を理解している開発者でない運用者がこのような変更を加えることは避けるべきです。気をつけてください。
ヘッドレスコマースの作り方
基本的には開発会社に頼んでください
ヘッドレスコマースはまだまだ新しい形式&自由に開発できる仕様上、非エンジニアでも気軽に使える!みたいな仕組みではありません。
セキュリティ面はもちろん、採用するアーキテクチャの判断も含めて比較的広範な知識が必要になります。

AIを使ってコード生成すれば知識ゼロでも…!みたいなレベルでもありません。素直に開発できる技術者や開発会社に頼みましょう。
弊社にご依頼いただくなら問い合わせフォームかX(Twitter)までご連絡ください。「ヘッドレスとか考えるのやめましょう」も含めて最適な提案をさせていただきます。
自力で実装したいならまずは公式ドキュメントを読みましょう
結論、これしかありません。外部APIを使うということは、どんなに優れた技術者でも公式ドキュメントを手放せません。
公式ドキュメントを読んでわからない(または書いてあることが実践・実装できない)のであれば、素直に自力での実装を諦めましょう。
最後に
ヘッドレスコマースはまだ新しい技術であり、
どんな施策に活かせるのか?
具体的にどんな数値改善ができるのか?
予算感はどの程度か?
は本Noteではイメージしづらいと思います。おそらくGoogleで調べたり、AIに聞いたりしても同じでしょう。
もし興味があれば
ヘッドレスコマースでの実装が適切かどうか
どういう箇所で使えるか
等々をお話させていただくことできますので、気軽にDMをお送りください。
長文にも関わらず、最後までお読みいただきありがとうございました。