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『G線上の魔王』感想

 どうもです。

 今回は、2008年5月29日にAKABEiSOFT2(あかべぇそふとつぅ)より発売された『G線上の魔王』の感想になります。パッケージの通常版を買いましたが、特に問題無く最後までプレイできました。

 キッカケは名作と評判高かった事、メインヒロインの声がかわしまりのさんだった事、友人からの勧め、など色々。積みゲーまだ十本ちょいあるんですけど、また一つプレイできて良かったですわ。

 では感想に移りますが、”今作から受け取ったメッセージ”を書いて、その後、ヒロイン毎の感想を軽く書く形式でいきます。メインとしてハル√まで一本道の章立て構成で、途中他ヒロインエンドの分岐構造な為です(※こっからネタバレ全開なんで自己責任でお願いします。)



1.受け取ったメッセージ

 正直に言うとメッセージ性として強く響いたものは無くて少し悩みました。でも純粋に書き残しておきたいと想った事はあったので、それも踏まえて今作で強く感じた事を書いていきます。簡潔に書くと以下の通りです。

人間誰しも悪魔的な感情や一面を持ってしまうもので、
同時にその醜さから目を逸らす事はできない、と云う事。

 当たり前と云えば当たり前ですが、これを綺麗事で揉み消す事もなく、これを人間本来の姿とし、そこから純愛を説いた処に胸を打たれました。

 誰かを支配したい、恨んでやりたい、怒りをぶつけたい、滅茶苦茶にしてやりたい、これらの「悪」とも云える感情をそのまま「悪」としたり、正義の対極にあるものとして否定したりせず、最後には人が持つ良心からそれも生まれたものかもしれないと事実を突きつけ、可能性を見出させる処が良い意味で厭らしく、憎いなと。これはどの√でも共通して感じました。
 
 中でも顕著で衝撃的だったのはやはり浅井権三の最期。直接的な言葉を投げかけるのではなく、彼が京介を庇ったのではないかと思わせる事実だけを突きつける。これが本当に良かったです。
 あのシーンで思う処は色々あるのですが、呆気なくやられていいはずがない彼がその選択を取った点からも、”苦渋の選択”で京介を庇ったとしか考えられないんですよね。頭の冴える彼ですから、園山組の組長としてのメンツを保ちつつ、京介を生かしつつ、魔王を捕える事は不可能と悟ったとしか考えられない。その上で、自身がブレないまま最期も迎えるならこれしかないと想ったのでしょう。強くてカッコいいパパリン結構好きよ。

 そんな権三の最期の姿を糧とし、「おれは、あの浅井権三の息子だ。」と自らを奮い立たせる京介のシーンもかなり好きで。言葉としても、以下の言葉が今作で一番心に残っております。

 人を最後の最後まで奮い立たせてくれるもの、それはいつだって怒りだ。

ー『G線上の魔王』第5章

やはり、ここでも事実としては「怒り」を持って来ているんですよね。「怒り」は表面的に「悪」と捉えられがちだと思いますが、本当に好きじゃないと怒るエネルギーすら湧いてこない、やっぱりこの「怒り」の背景には父親への想いがある。それを人の良心と言わずとして何と言うのか。人間の悪魔的な部分を以て、改めて善い処を思い知らされる感じが良かったです。

 で、そう考えると恭平もきっと同じだと思いたくなるんですよね。そもそも極論言えば、彼が父の釈放の為に動かず母の元で京介と3人で暮らしていればこの物語は始まっていなかった様に思います。だけれど、彼は父を救う事を決め、母は京介に任せた。これも権三の選択同様、どちらかしか選択できなかったのが現実。”彼一人では”両方を守る事はできなかった。ここで、父親を救おうとする姿は「善い」はずなのに、捉え方を変えると母と京介を見捨てたとも言える行動で「悪」となる。表裏一体と云うか、どちらも良心から生まれたものであるからこそ、人は「悪」を持たされるんだなと。

  だけれど、ここで守らなかった選択を残酷だの、悪だの言われたとしても、自分で守ると決めたものを徹底的に守り貫く。それがブレない限りは良心を持ち合わせていると言えるし、そんな人にこそ上っ面や綺麗事ではない本当に純粋な気持ちが生まれるんだと思います。そして、それを”純愛”と呼ぶのかもしれません。どんなに歪な関係であったり、理解されない行動であったりして痛みを伴っても、ただ一つその純愛さえ在れば、人は人足り得るし、命を懸けて生きている事になるんじゃないかと。

 受け取ったメッセージとしては、以上になります。キャッチコピーである、「―命をかけた、純愛―」がずっと頭から離れなくてこじつけな部分もありますが、何か少しでも感じ取って頂けたり、考えのヒントになってたりしたら、幸いです。



2.美輪 椿姫

 「悪」に手を付けるとやっぱり少し楽になる。けど、その代わりに元々あった感情含め自分そのものが次第に薄れていくもんだから、それまで以上に切なくなったり、そんな自分に嫌気が差してきたりする。それがよく解る物語だったのかなと。物事を殆ど知らない彼女の人物像からすると、一度それに気付かされる点は成長として良かったとも言える。ただ結局何事もそうだけど、手を出したら自身でコントロールできないとダメなんよなと。

 椿姫は本当に”こんな子絶対いないわ!”っていう、嘘も通じないよくできすぎた子で(むっちゃ褒めてる)、そこが魅力的でした。だからこそ、嫉妬心が生まれたり、怒りっぽくなって、「悪」に染まっていく彼女を見ていると此方も少し辛かった。無理すんな…椿姫…って感じで。確かに人間味が増してきてはいるんですけどね(笑) 何と云うか、全くもって似合わない、違和感の方が勝ってしまう感じでした。「~なのでした〇」って言ってる椿姫の方が椿姫らしい。

 勿論、彼女にもドス黒い感情が無い訳では無い。けど、それで胸が苦しくなったり、その所為で誰かが苦しんだりする位なら、初めからそうならない良い道を突き通さないと!って想える子なんだよなと。純粋な気持ちがドス黒感情を覆い隠す程クソデカい感じ。今作で一番の鋼メンタルの持ち主だと思います。家族像や長女としての姿からも十分それが窺えました。家族から京介に変わっても、”ずっと一緒に暮らしていたい”が彼女の持つ純愛として変わらずあったと思います。マメな性格で家庭的な処がポイント高いですね。ずっと日記もつけて、椿姫は椿姫のままでいてください。



3.浅井 花音

 花音の母親が「悪」っぽく描かれている物語でしたが、それを「悪」とし遠ざけるのではなく、寧ろ近づけて唯一の理解者となるまでの物語だったのかなと。「悪」は理解できるものであり、赦す事だってできると。難しいのは誰がどう見ても絶対に後者なんです。それを成し遂げて溜まりに溜まった感情を演技に乗せ選手としても人としても強くなった彼女。今作で一番好きな物語でした。病室で母親に想いをぶつけるシーンで泣いた。

 彼女はメンタルが弱いのも自覚しているし、苦しみを誰かに共有したくて堪らない自分がいるのもわかっている。けれど、その悔しさや苦しさに対して、憎んだり怒ったりする事にエネルギーを使う事を避けてきた。その背景には”自分に負けてられない”って想いが強くあったと思うんです。負けず嫌いの血を引いているのも勿論ある。それだけでなく、今の自分が居るのはこれまで貰った感謝や感動のお蔭だから、それを蔑ろにする様な自分にだけは絶対に負けたくなかった訳です。なので、弱い自分を封じ込めて強く強くあろうとする姿が本当に健気と云うか、何度も胸を打たれました。こーゆー子、無条件で好きになってしまう。

 賢い上に、周りの感情の機微に敏感で。愛に飢えている自覚もあっただろうから強がってはいるけれど、辛かっただろうなと。それでも負けちゃダメだとこの子は何度自分を奮い立たせたのだろうと想うと泣けて仕方がなかった。母親はこんな人だけど、こんな人だからこそ、私だけが傍に居てあげられる唯一の存在で、”ずっと傍で支えてあげられる様に強く生きたい”と、それが彼女の持つ純愛だったのかなと。こおろぎさとみさんの声もとても良かったです。幼さと力強さを兼ね備えた泣きを誘う声だと思います。



4.白鳥 水羽

 不自由のない環境や、頼りになる人がいる現状に甘えてばかりいる事は「悪」かもしれない。けれど、その当たり前の様に甘んじてきた生活に感謝し、自らも働きかけができる様になればそれは「悪」じゃなくなる。そんな物語だったのかなと。甘える事は決して悪くない、甘え方にも真っ当な?甘え方があるもんです(笑) ユキと水羽、お互いがお互いにとって掛け替えのない存在であると解る物語でもありました。

 ユキに頼らなければ、好きな人に近づく事もできず、”ありがとう”もまともに言えない様な子でしたが、京介達にも甘えられる様になって、やっぱり甘える事が彼女の会話と云うか、心の開き方だったんだと思います。ですが、彼女の失踪をキッカケに負い目の様なモノを感じて、甘える事を止め、ユキの様な振る舞いを魅せる様に。一気に3年経って、いや立派になりすぎん⁈って少し驚いたんですけど、根っこは変わらず甘えん坊で安心しました。同情に罪悪感は付き物で正直仕方がない一面もあると思うんです。それでも一度向き合った処が立派で、姉のお蔭だったと気付けて良かったなと。

 そんな自覚に伴って甘えが依存ではなく、ちゃんと愛情になったのは彼女が1人でも強く生きて、姉さんが帰って来れる様にっていう想いが背景にあったはずで。”ありがとう”と、恩返しも込められた想いが彼女の持つ純愛だったのかなと。再会のシーンは叙情的で素敵でした。絶対に泣かない様な人が泣くとやっぱり胸に来るものがある。あと、天然なのかアホな子なのかわからないけれど、「子どもの頃は…」シリーズが好き(笑)



5.宇佐美 ハル

 復讐心は「悪」なのか…。でも、この復讐心が無かったら彼女は京介に対して純粋な愛を貫いていなかったかもしれない。だとしたらこの「悪」にもやはり意味があったのではと思わせられる憎くも美しい物語だったなと思います。恋愛感情にしても復讐心にしても、純粋である事に変わりはなかったからこそ、どちらも根に強く持っていたのが宇佐美ハルでした。
 
 本音が中々視えてこなくて、ワザとなのかどうなのかもわからない子で、京介に対しても疑っている様な言動を見せていました。けど、内心では誰よりもずっと京介の事を信頼していたと判明する。ヒントもあったので解ってはいたけれど、京介が助けにくるシーンは良かったです。ずっと嫌われる事を恐れ、気づいて欲しくないはずなのに、本音としては気付いて欲しかった彼女。そんな複雑な乙女心でありながらも、誤魔化し切れてない部分は所々でありました。純粋だから誤魔化しが利かないんじゃなくて、誤魔化しが利かない感情こそが純粋とも云えます。

 そして、彼女がヴァイオリンを弾けなくなってしまった呪いと、兄の意志を継いで魔王の呪いを引き受けた京介の姿は勇者であり、魔王でした。”魔王を倒した勇者はやがて次の魔王となる”って訳ですね。全てを背負った京介ですが、2人が間違ってなかった事を証明するには確かにあの選択しか無かったのかもしれません。そして、そんな選択をした京介を間違いじゃなかったと証明し救ってあげる為に、ハルは只々諦めずに京介との子供を育てて来たんだなと。2人の”約束”とも云える純愛の形は何度も変わりましたが、最後は2人の純愛が一つになった様でした。

 ハルはちょっと変人で残念系だけど、そこにも純粋無垢な感じがあるから次第に可愛く想えてしまう不思議な子でした。頭が切れるの自分でも解ってる一方で、弱気になったり冷静さを欠いたりする一面もちゃんとあって、やっぱ女の子なんだなってドキっとさせてくれる処も良かったです。頼れる事なら頼りたいんだろうなっていう。後はもうかわしまりのさんの御声が大好きです。表現の振れ幅が広いのと、涙声がズルいんですわ。



6.さいごに

 まとめになります。

 感動はしたけど、涙流す程刺さったかと云うとそうではなかった。が率直な感想です。5章以降の展開力、テンポの良さで物語に引き込む力には目を見張るものがあって、実際睡眠を削ってでも読み進めてしまいました。ただ、多分こうなるんだろうな…って感じる時が度々あって、その予想内に収まってしまいあんまし感情が昂らなかった部分がありました。展開が読めていても、感情移入度合や相性、音楽等の演出なども含めて感動が迫ってくる作品があるのも知っているので、ここは自分とは相性が悪く、適性を持ち合わせていなかったのかなと。少し悔しくもあります(笑) でも、唯一泣けてしまった、花音√だけはかなり気に入っています。

 キャラについてはどの子も魅力的で良かったです。ヒロインは上述した通りで、親友ポジである栄一も「ぬりいぃぃんだよっ!」って急に熱くなる処や、実は情に厚い処が好きでした。会話も笑えるのが少しですが、あって退屈な時間はほぼ無かったです。

 イラストは可もなく不可もなくと言った感じですかね。一つ言えば、CGイラストより、立ち絵の方が好きかもしれません。権三の怒った時の立ち絵とか迫力凄いです(笑) あとはどのキャラも笑顔が安心できる感じが出ていて好きですね。

 音楽はクラシックメインで作品の雰囲気に忠実でよく合っていたと思います。気も散ることなく、物語を読み進めていくことができました。好みで言うとそこまでで、1曲がもう少し長めだと良かったなと。どの曲も短くて、同じフレーズが繰り返し流れるので飽きる部分があるっちゃありました。

 とゆーことで、感想は以上になります。
るーすぼーい先生の物語に初めて触れたんですが、もの凄く丁寧で優しい文章で綺麗な物語を描かれる方だなと。内容云々以前に抜群に読みやすい文章と云うのは強力な武器で、きっと頭も良く真面目な方なんだろうなと勝手に想っております(笑) 改めて制作に関わった皆さん、本当にありがとうございました。『車輪の国、向日葵の少女』や『ぼくの一人戦争』も気になってはいるので、また機会があれば触れたいと思います。

 ではまた!



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