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『SWAN SONG』感想

 どうもです。

 今回は、2005年7月29日にLe.Chocolatより発売された『SWAN SONG』の感想になります。10年以上前の作品で、パッケージ版(2008年発売の廉価版)買ったもんだから、最後まで動いてくれるか少し心配でしたが何も問題無くクリアするまでプレイできました。

 テーマソングが流れるPVがあるんですけど、公式のがリンク貼れなかったので、もしご興味ある方は調べてみてください。むっちゃ良いです。自分は鬱要素のある作品探してる時期に今作を見つけ、音楽に心掴まれて購入に至ったのですけど、その位には良いです。

 では感想に移りますが、大きく2つ、"受け取ったメッセージ"と"雑感"について書こうかなと。BAD END含め分岐は幾つかありましたが、事細かく感想書けそうになかったので、今回はコンパクトに(※こっからネタバレ全開なんで自己責任でお願いします。)



1.受け取ったメッセージ

 正直に言うと、作品を通して何か一つメッセージ性を見出すのはかなり難しい作品でした。何というか文章とかキャラとかが出してくれる表面的なモノから、根底の奥深くにあるモノを掴もうとしに行くとかなり距離があって、何を語ろうと、提示しようとしてくれているんだろう、って考えると簡単には視えてこないなって云う作品で。多分、意図的だと思うんだけれど。

 作中でも色んな角度で良いなぁって思う処があったので、一つにまとめるのが難しい。なので、きっと一般的な作品よりも色んな受け取り方があって良さそうな気はしています。自分もいくつかある中で、一番強く感じた事を元に今回は書いていければなと思います。初めに簡潔にまとめたものを提示しておくと、以下の通りです。

 「正しさ」の正体と、その限界を通した「心の通わせ方」

 「正しさ」について書きたいな、って云うのはすぐに浮かんだんですが、ちょっとありきたりでまとまり切らなかった処で、ヒントを得たのが公式サイトにあるショートストーリー『プレ・スワンソング』でした。これを読んんで、「心の通わせ方」に繋げられそうだなと。作中の前日譚みたいなものですが、結構良かったので未読の方は是非。

 まず「正しさ」の正体についてですが、それは自分の中にしかないって事だと思います。自分が想う「正しさ」について考え、理解して、それを頼りに生き抜く事。それが「正しさ」の正体だったと思います。作中では、色んな人間が色んな立場でこれが「正しい」とぶつかり合う様をこれでもかと魅せつけられます。法律やルール、常識が通用しなくなった極限状態の世界になったからこそ、人間そのものが持つ「正しさ」がより際立って問われていました。今作は大規模の地震が起きて物語が始まりますが、この地震の様に予想もしなかった、壊滅的被害をもたらす事象を「ブラックスワン」と云う事もありますね(スワンがタイトルと掛けられているのかは微妙w)。

 この「ブラックスワン」は、全ての白鳥は白色と信じられていたけど、黒いスワンが発見された事により、鳥類学者の常識が大きく覆された事に因んで付いた用語ですが、今の世の中にある多くの「正しさ」は意外とあっけなく覆されてしまうものなのかもしれません。いざそうなった時に、本当に頼れる「正しさ」は何処にあるか。すると、やはり自分の中にしかないのかなと。それを強く示してくれたのは尼子司でした。今作、群像劇ではあったけど、主人公はやはり彼だったと思います。Normal ENDで確信しました。

 父親に見放され、拠り所を失くし、ピアノも満足に弾けなくなくなってしまった彼。オマケに災害に見舞われ、世界に対しての内なる怒りの様なモノが何度も見え隠れしていました。彼はそんな闘志を死ぬ間際まで燃やし続け、最後まで決して諦めなかった訳です。絶対に自分の生き方は間違っていない、負けを認めてしまったらそこで自分が正しく生きてる事にはならないと想っていたんだと思います。

 んで、この自分は間違っていない、って云う考え方は「正しさ」を証明する際には色んな立場の人間がいる時には重要な考え方だと思ってて。自分は合っている!じゃなくて、自分は間違っていない!なんですよね。「正しさ」を証明する時には、反例が無い事を示した方が手っ取り早くて、否定的なモノの方が肯定的なモノよりも、間違いに対してはタフなんです。

 今、正しいと信じてるものが、後々間違いとわかる場合はあるんですけど、間違いだとわかりきってるものが、後でやっぱり正しかった、なんてことはそう簡単には無い訳です。前者のパターンとして乃木妙子の物語がよく描かれていたかなと。間違いだとわかったら、またそこで反省して向き合い直せばいいんです。ところで、彼女が一番ヒロイン感ありましたね(笑)

 また、対立していた田能村さんと鍬形さんについても自身が正しいと行動していたのは確か。田能村さんは自分には厳しいけど、他人には甘くて、「正しさ」から目を背けてしまう時があって。鍬形さんも最後は「自分が間違ったとは思っていないんですよ」と言ってて、それはその通りで良かったんですけど、司とは違い負けてしまった。では間違っていないのに、何に負けたのか、それは「正しさ」の限界だったと思います。限界があると云う事実と向き合う事を止め、解ろうとする事、解って貰おうとする事を諦め、「正しさ」のみを追求してしまった彼は人の気持ちを次第に理解できず、心を通わせる事ができなくなってしまいました。

 「正しさ」と云うモノはそれぞれの中にある以上、多種多様でやっぱり全てを共有するには限界がある訳です。どうしても踏み入れられない、踏み入られたくない領域がある。でもそれを知ったり、耳を傾けたり、示してみたりを諦めてはいけなくて。"限界"をネガティブに捉えるのではなく、前向きに捉える。その「わからなさ」即ち限界に想いを馳せるとき、その関係性の中にこそ生まれるのが「心」なのかなと思います。それをよく描いていたのが、あろえと云う存在を通したコミュニケーションでした。あろえの姉、雲雀や司の接し方がそうです。「正しさ」の間にも共有できるものが必ずあって、それを頼りに「心」を通わせていく。

 ともすると、あろえはきっと、この「正しさ」の限界を象徴していた様な気がします。不確実で真に理解し合う事はできなくて、どうしても限界はあるよって云う。だけど、その限界を最期の最後まで司は見捨てはしなかった訳です、希望はあるはずだと。「正しさ」を意図も容易く壊し、神などいないと言われてる様なあの世界に対して、歪な見た目ながらも修復されたキリスト像を天高く魅せつけて。それぞれの「正しさ」を持つ2人が心を通わせた事を世界に対して証明している様でした。後述しますが、NORMAL ENDは本当に感動しました。

 一方で、この限界を勝手に作り、殻に閉じこもっていた存在としては柚香が象徴的でした。でも彼女は奥底でそんな自分が嫌で変わりたいって気持ちもあって。自身の「正しさ」に触れようとしていました。それが見出せて救いを感じたのがTRUE ENDですね。夏に咲くのが正しく思える向日葵が光と歩み、雪溶けに寄り添って咲くのは、真に正しい事なんて世界には存在しない事を象徴している様にも想えます。そして少しでも彼女が持つ正しさに対する恐怖が解けたのなら、司との関係もより縮まる様な気がしました。

 そうして、今度は逆に「心の通わせ方」を通して、自身の「正しさ」をアップデートしていけたら素敵だよなって思います。これに少し関連して、司の名言を残してこの章は〆たいなと思います。長くなりましたが、何か少しでも感じ取って頂けたり、考えのヒントになっていたりしたら、幸いです。

「最高の演奏っていうのは、心の中にしかないはずの美しいものがたくさん外にあふれ出て、そこらじゅうの何もかもを輝かせて、それは本当に、最高で、とんでもなく素晴らしいものなんだ」



2.雑感

 まず、プレイして良かった。これだけは間違いなく言えます。ノーマルエンドを迎えた時に心からそう思った。テーマソングが流れて強制オートモードになってから圧倒的だったんですよね、感動の波の押し寄せ方が。音楽と文章と声とCGが全部綺麗に融合している感じもそうだけど、司のずっと芯にあった”負けを認めてはいけない”って気持ちが前面に出ていて、それに感情移入したと云うか、ぶっ刺さってボロボロに泣いてしまった。勢いがあったから最初は自分でも何で泣いてるかわからなかったんですけど、多分そうだったと想う。余韻としてもジーンとくる感じは凄い好みで、少しずつ色々と考えさせられてしまう作品だったと思います。

 ラスト、NORMAL ENDで感動できたのは、終始心理描写が素晴らしかったからだと思います。物凄い小説的な文体で、人物の内面、考え方が解像度高く描かれていて凄かった。序盤こそ重苦しい雰囲気も相まってその文章を読み進めるのには手こずったんですけど、キャラ毎に愛着が持てる様になってからは読むスピードは上がった気がします。群像劇なのもあって、どんな人物なのか掴めないと物語を読んでいけないのもありますし。因みに司とあろえが好きです。

 ただ、問題?としては、人間が持つドス黒い処までも解像度高く淡々と描くもんだから、精神的負担もかなりあったこと。端的に言ってしんどかった。自分が物語を一歩引いて読むより、登場人物に感情移入しながら読み進めていくタイプの人間なので尚更(笑) ノベルゲームの形はとっているけれど、画面に表示される文章の長さは固定されてないし、キャラ絵はカットインで入ってくるし、CGも効果的なモノは少なく(イラスト自体は好み)、音楽もここぞと云う時だけで無音のシーンの方が多め。なので、本当に電子書籍を読んでる気分で、ここはかなり好みが別れるなと思った。自分は好きでも嫌いでもないかな…ただ精神的に余裕がある時じゃないと中々にしんどい(笑) その分だけ、感動等も大きいのは確かだと思うのだけれど。

 そんな文章を書かれた、今作のシナリオライターである瀬戸口廉也さんの作品に触れるのは今作が初だったのですが、他にも触れてみたい作品はいくつかあるので、今の内に尺的には手頃な今作で慣れて良かったなとは思います。長々としたモノローグは少し苦手ですが、たまーに笑える文章を挟む処はかなり好きです(笑) 次やるなら『キラ☆キラ』がかなり気になっています。第二文芸部の曲は既に好きで聴いているので。



 とゆーことで、感想は以上になります。
しんどいので、もう一回やる事は多分ないと思うけど、もう一回やらなくても済む位には深い感動を刻んでくれた作品でした。改めて制作に関わった皆さん、本当にありがとうございました。

 ではまた!

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