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株価25倍の衝撃──マイクロストラテジーが変えた“ビットコイン企業”の新常識
マイクロストラテジーによるビットコイン投資の系譜
はじめに
近年、暗号資産(仮想通貨)といえば個人投資家や一部企業が投機的に手を出すもの、という印象を持っている方も多いかもしれません。しかしアメリカのビジネスインテリジェンス企業、マイクロストラテジー(MicroStrategy)は、そうした「企業による仮想通貨投資」の常識を覆す形でビットコイン(BTC)に巨額の資金を投入し、大成功を収めてきました。
本記事では、なぜマイクロストラテジーがこれほどまでにビットコイン投資で成功し得たのか、その経緯や手法、財務への影響、そして今後のリスクと展望についてまとめます。私自身もビットコインがまだそこまで注目されていない時期に少額投資をしていたので、つい熱中して情報を追いかけた経験があります。この記事では、そうした個人的な体験もほんの少しだけ挟みつつ、できるだけ分かりやすく深掘りしていきたいと思います。
1. マイクロストラテジーのビットコイン購入の経緯
2020年8月、ビットコイン購入開始
マイクロストラテジーは、約30年にわたりソフトウェア事業を手がけてきましたが、2020年までは世間的な知名度もそれほど高くはなく、ウォール街からも「地味な企業」という扱いでした。しかし2020年8月、同社は企業として史上初めて、「ビットコインを主要な財務準備資産(Primary Treasury Reserve Asset)に採用する」と宣言し、市場からは驚きをもって迎えられます。
最初の購入額は約2億5千万ドルで、ビットコインを21,454BTC取得。これは当時のビットコイン価格にして1BTCあたり11,000ドル前後です。背景には、新型コロナウイルスによる経済危機や前例のない金融緩和によるインフレへの懸念があり、「現金をただ持っていると価値が目減りする」という強い危機感があったそうです。
さらなる買い増しと「主要財務資産」への格上げ
初回購入の1ヵ月後、同社はすぐに追加購入を実行。2020年9月には1億75百万ドルで16,796BTCを新たに買い増し、累計38,250BTCとなりました。そのタイミングで、「これからはビットコインを主要な財務準備資産とし、余剰資金はビットコインに投じる」と正式に決めたのです。
私自身もこのニュースを知ったときは、「企業がそんな大金をビットコインにつぎ込むなんて正気なのか?」と驚きました。個人投資ならともかく、上場企業がここまで強気に動く例は前例がなかったからです。
2. 投資戦略と資金調達の手法
現金・転換社債・株式増資をフル活用
マイクロストラテジーはビットコインを取得するために、多彩な資金源を使いました。最初は手元にあった現金を使い、それ以降は転換社債やシニア社債の発行、株式増資などを積極的に行います。金利が極端に低かったタイミングを巧みに利用し、たとえば年利0〜0.75%程度の転換社債を何度も発行して数十億ドルを調達したのです。調達した資金はほぼすべてビットコインの追加購入に充てられました。
これってやり方としてはかなり大胆ですよね。日本企業のIR資料を眺める限りだと、通常はせいぜい社債や銀行借り入れで安定資産(国債や預金など)に振り向けるのが“お行儀のいい”企業の姿というイメージ。ところがマイクロストラテジーは調達したお金をほぼビットコイン一択で突っ込む。これは賛否両論が起きてもおかしくないです。
なぜビットコインなのか?
同社がいわゆる株式や債券、金などの伝統的な資産ではなく、ビットコインを選んだ大きな理由は、「インフレヘッジとしての優位性」と「長期的に成長するデジタル資産」という確信でした。
ビットコインは発行上限2,100万BTCという希少性が明確に設定されており、インフレによる価値希釈を受けにくい。さらに世界的に認知度と需要が高まり続ければ、いずれ「デジタルゴールド」としての地位を確立するという期待があったわけですね。
CEOのマイケル・セイラー氏は、大学生のころからインターネットやモバイル技術の将来性を的確に読み解いていた人物とも言われ、今回は金融・通貨の世界で「デジタル化が加速する」流れを見据え、早めにビットコインを押さえておくべきだと考えたようです。
3. マイクロストラテジーの財務への影響
保有ビットコインの時価は天文学的数字に
2020年8月に約2億5千万ドルで始まったビットコイン投資は、その後、追加購入と価格上昇が重なり、いまや総取得額は160億ドル超、保有枚数は30万〜40万BTC超規模といわれます。2024年末頃には、ビットコインの時価評価で300億ドル超相当にも達した、という試算がメディアで報じられました。
企業が現金ではなくビットコインをこれだけ持っている――しかも単なる短期投機ではなく、本気で長期保有している――というのはやはり異例中の異例です。
株価が数年間で25倍に急騰
同社の株価は、ビットコイン投資が明るみに出て以降、一気に急騰しました。一時は新規に買う個人投資家が「ビットコインETFの代わり」としてマイクロストラテジー株を買い集めたこともあり、アメリカ上場企業の中でもトップクラスのパフォーマンスを記録。結果、時価総額はもともと10億ドル程度だったのが、ピーク時には一時1,000億ドル近くに迫ることもあったとか。
ただし株価はビットコイン価格に強く連動するようになり、ビットコインが下がれば同社株も下がるというハイボラティリティな状態になっています。2022年に暗号資産市場が大きく冷え込んだ時期には、株価が半分近くに下落したことも。いわば「ビットコイン相場と運命を共にする」企業になったわけです。
会計上の減損リスク
米国会計基準ではビットコインを「無形資産」として扱うため、時価が下がった場合に減損損失を計上しなければいけませんが、逆に上がったときは未実現利益として計上できません。よって、ビットコイン価格が急騰して含み益が大きく出ていても、会計上は赤字のように見える四半期もあったのです。
同社も実際に、億単位の減損損失を何度も計上し「決算赤字」に見えることがありました。けれどマーケットはその会計上の赤字にあまり動じず、「ビットコインの含み益に注目」して株を買う投資家が多かった印象です。
4. 市場の評価と専門家の見方
投資家からの熱烈な支持
賛否はあるものの、株価高騰が示すように、「マイクロストラテジー=ビットコインの代替ETF」と考えて大いに買い込んだ投資家は少なくありません。CEOのマイケル・セイラー氏はTwitter(現X)などでビットコイン擁護派として頻繁に発言し、一躍暗号資産業界のカリスマ的存在に。ビットコイン強気派アナリストのトム・リー氏などは同社の戦略を高く評価し、「企業としてリスクを取る姿勢が偉大だ」と称賛しています。
懐疑的・批判的な見方
一方で、ウォール街や学界の一部には強い警戒感を示す声もあります。著名空売り投資家のジム・チェイノス氏や、テスラなどを批判してきたCitron Researchなどは、同社の株を空売りし、
「結局はビットコイン価格がすべて。本業のソフトウェア事業には大した価値がない」
と冷ややかに指摘します。
学界の専門家からも「上場企業がここまで財務をビットコインに集中させるのは教科書的には常軌を逸している」との厳しい意見がありました。実際、過剰なレバレッジ(借入金)を抱えている点も不安視されています。
5. 投資成功を支えた要因
以上をまとめると、マイクロストラテジーの成功は「偶然の幸運」だけではなく、いくつかの要素が重なった結果と言えます。
市場タイミングの妙
2020年夏に初めて大量購入した時期は、ちょうどビットコインが長い低迷期から脱し、歴史的なブル(強気)相場に入る手前でした。安い価格で買い増せたことで、2021年のビットコイン爆騰にうまく乗れた。CEOの強いリーダーシップとビジョン
マイケル・セイラー氏は「モバイル革命」などを先見し、成功経験がある人物。コロナ危機によるインフレ懸念を先読みし、大胆な意志決定を社内外に貫き通した。レバレッジと低金利を最大限活用
転換社債をほぼゼロ金利で発行できたのは、2020〜2021年の特異な金融環境も追い風になりました。株式や社債発行でうまく資金を集めてはビットコインを買い増し、資産規模を倍々に拡大する好循環が生まれた。HODL(長期保有)戦略の徹底
途中でビットコインが急落しても、狼狽売りせずに買い支える姿勢を貫きました。これにより、「長期的にビットコイン価値を信じている企業」という印象を市場に与え、一定の支持を得られた。先行者メリットとブランディング
「上場企業で初めてビットコインを財務戦略の核心に据えた」というインパクトが大きく、メディアの注目度が急上昇。知名度も株価も上がり、まさに“先に動いた者”の特権を得たといえます。
6. リスクと今後の展望
潜むリスク
価格変動リスク
ビットコインのボラティリティ(変動幅)の大きさは周知のとおり。下落局面では、レバレッジをかけた投資が返済リスクや追加担保の問題を引き起こす可能性があります。レバレッジと株式希薄化
低金利環境が終わりつつある中、これからも同じように調達できるかは不透明。新たに株式発行をすると、既存株主の価値が希薄化する点も指摘されています。規制・会計の変化
暗号資産市場に対して世界各国が一層の規制をかける事態があれば、同社にとって負担増・リスク増となるでしょう。ただし、今後暗号資産会計が公正価値評価に移行すれば減損会計の問題は緩和される見通しです。
今後のビジョン
マイクロストラテジーは、さらなる買い増し方針を明言しています。将来的にはビットコインを担保とした金融サービス事業など、新たなビジネス拡大も見据えているようです。また、同社の社名が「マイクロストラテジー」から「ストラテジー」に変更されたこともつい最近のニュースです。
おわりに
マイクロストラテジーのケースは、企業が自らの資本をビットコインに“オールイン”するような戦略を取った極端な一例ともいえます。まるで投機に近い側面もありますが、一方でコロナ禍以降の金融緩和下でインフレが進む中、ビットコインの上昇局面を見事に捉えて大成功を収めたのは事実。
私自身、2020年にビットコインを買ったときはやはり迷いもありました。が、「インフレがもし来たら現金を寝かせておくリスクが高い」というのは肌感覚で同意できた部分でもあり、今振り返ると同社が大規模に踏み切ったのも理屈としては理解できます。
しかしながら、この戦略は「ビットコインの長期的な上昇」を前提にした高リスク・高リターンの賭けとも言えます。一度歯車が逆回転し始めると、レバレッジによる巨額の返済負担などで窮地に陥る危険性も無視できません。
今後、ビットコインがどこまで広く受け入れられ、価格がどう推移するのか――それはマイクロストラテジーの存亡にも直結する問題になっています。将来的には、同社の取り組みが「企業財務の新たな常識」を確立するのか、それとも「壮大な賭けの結末」として語られるのか。今はまだ誰にも確信が持てない段階でしょう。
いずれにせよ、一つの企業が世界的にインパクトを与え、暗号資産の認知度・信用度に大きく貢献したことは間違いありません。私もセイラー氏の発信を追いかけながら、ビットコインの歴史がどこへ向かうのか、これからも注目していこうと思います。
参考文献・関連情報
MicroStrategy社公式プレスリリース
CoinDesk、Cointelegraph等の海外暗号資産メディア記事
Coinbase Bytesニュースレター
米国会計基準に関する専門家のコメント など
(上記を中心に公表情報や専門家の分析を取りまとめました)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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※投資に関する内容はあくまで企業事例や個人経験の共有であり、特定の投資や銘柄を推奨するものではありません。投資は自己責任で行ってください。