インターネット広告のプライバシー問題はweb3が解決する説
web3によって何が実現可能になるのかを妄想する日々を過ごしています。
インターネット広告のお話。
Google, Metaをも悩ませるCookie規制
現代のインターネット広告はGoogle, Metaといった巨大企業が支配しています。ユーザーの行動データを溜め込み、そのビッグデータを大いに活用した広告配信は費用対効果が高く、広告主やパブリッシャーに選ばれ続けています。
ユーザーの意向を無視して。
しかし2018年のGDPR施行によってプライバシー保護のための規制が強まり、データを独占した圧倒的優位な立場が脅かされています。Cookieをはじめとする個人識別子の使用の制限が進み、これまで可能だったターゲティング配信が難しくなってきています。
広告ビジネスを収益の柱にしていないAppleは、自社の持つ iOS や Safari においてプライバシー保護を体現していきます。この動きに大きな影響を受けたMeta(当時Facebook)は、New York Times、Wall Street Journal、Washington Postといった大手新聞にAppleを批判する一面広告を打つほどの対立関係になります。
Privacy Sandboxの難航
広告ビジネスが大きな収益源でありながら、Android や Chrome といったプラットフォームを持つGoogleは、どちらに付くというわけでなく、テクノロジーで解決を図っています。
Googleは2019年8月にCookieレスでトラッキングと計測を可能にするための新しいブラウザAPI規格であるPrivacy Sandboxを発表します。また2021年3月にPrivacy Sandboxを利用したFLoC(Federated Learning of Cohorts)と呼ばれる技術を発表しました。似たような行動特性を持つブラウザをコホートという単位に分類し、個人ベースではなくコホートベースでターゲティング配信することで、個人を管理していないという主張をするものです。
しかしながら、FLoCはユーザーを特定できてしまう可能性があったり、この取り組みが独禁法に違反する可能性がある等の批判が高まり、2022年1月に開発を中止します。代わりにTopicsという技術の開発をはじめました。Topicsはユーザーの趣味嗜好(トピック)を、サーバーではなくデバイス上に3週間だけ保存し、ユーザーのトピックに応じた広告を配信するというものです。FLocはユーザーを30,000種類以上のカテゴリーに分類できたが、Topicsでは350種類程度とのこと。プライバシー保護を強めるために、TopicsはFLoCより精度が低く、広告パフォーマンスが下がりそうなことが伺えます。
Googleは2020年1月に、ChromeのサードパーティーCookieの完全ブロックを2年以内に実装すると発表しましたが、こういった紆余曲折もあり大幅な延期をしています。
打倒Chrome -> 新興勢力Brave
Googleがプライバシー保護 と 効率的な広告配信の落とし所を探すのに難航している中、2019年11月に Brave という打倒Chromeを謳う振興勢力のブラウザが誕生しました。web3ブラウザとも呼ばれています。
Braveはプライバシーを重視し、あらゆるトラッキングを防ぎ、あらゆる広告のブロッキングを標準装備しています。広告を表示しない分、データ通信量を減らし、chromeより3倍速いと謳っています。
ちなみにyoutubeもBraveで開くと、あの煩わしい広告が出ません。
Braveの特徴はそれだけでなく、独自の広告配信システムを持っています。Google等のアドネットワークから配信される広告をブロックする一方で、Braveから広告を流すことができるのです。ユーザーは各自が許可した量の広告を受信し、対価としてBATという暗号資産を受け取ります。
Braveは本当に三方良しか
Braveは広告主が支払った広告料を、ユーザー・パブリッシャー・Braveの3者に分配するというエコシステムを構築しています。
Braveの広告配信システムもGoogleのTopicsと同じ用にユーザーデータをデバイス上に保管し、Brave社が個人の趣味嗜好を特定できない形でユーザーにマッチした広告を配信するロジックを持っています。
ユーザーはプライバシーが守られ、パブリッシャーはユーザーへ不快感の少ない広告を提供し、広告主は狙った層のユーザーに向けて配信ができます。
一見、三方良しのエコシステムに見えますが、ターゲティング全盛の時代と比較した場合、広告パフォーマンスが落ちることは避けられません。なぜなら、デバイス上でのみデータを保持するということは、デバイスを跨いだユーザーの名寄せができないこと、高負荷なAI処理ができないこと、データの保持期間が保証されないこと等のビハインドがあるからです。
プライバシーを守ることと引き換えに広告パフォーマンスを妥協して、広告主やパブリッシャーにしわ寄せが起きるのです。
ブロックチェーンを介した広告配信
ここからは私の提言(妄想)です。
昨今のインターネット広告のプライバシー問題は「個人の趣味嗜好データを企業が独占することはよろしくない」という主張が発端で、GoogleやBraveは「私達はユーザーの趣味嗜好データを管理しません。各自のデバイスが管理します。」という解決策を提示しています。
いわば「ユーザーの趣味嗜好データを誰が管理するか問題」と言えるわけですが、このユーザーの趣味嗜好データの管理をブロックチェーンに任せたらどうなるしょうか。
ブロックチェーンは中央管理者不在で機能するネットワークです。ユーザーの趣味嗜好データをスマートコントラクト内に隠蔽し、そのデータを閲覧可能な人間を作らないことが可能です。
1. ユーザーのコンテンツ閲覧履歴をスマートコントラクトの中に蓄積する
2. 広告主は、ターゲットを指定して広告配信するようスマートコントラクトに命令する
3. スマートコントラクトから、ターゲティングされたユーザーに広告を配信する
これでリターゲティングも、オーディエンスターゲティングも、フリークエンシーコントロールも思いのままです。Cookie規制によってできなくなったドメインを跨いだコンバージョン計測も可能になります。
すべてのデータの行き来が記録されるブロックチェーンでは、どの広告が誰に配信されたか追跡できそうなものですが、ミキシングサービスの技術を使えばこれも隠蔽できます。ミキシングサービスは、誰から誰にデータが渡ったかを隠蔽する技術で、暗号資産のマネーロンダリング等に利用されています。
前提として、「インターネットユーザーの大半がウォレットを所有している状態」が必要となります。現状難しく感じますが、web3が目指す世界とはそういうもので、これから出てくるweb3サービスによって実現する可能性があります。Braveのシェアが伸びれば実現も早いかもしれません。
web3の世界 = 誰もがウォレット使用している世界 が到来すれば、こうした「人が管理しない方が良いもの」をブロックチェーンに移譲していけるのではないでしょうか。