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ロシア、制裁回避のため暗号資産の活用を試験へ

  • ロシアで、暗号資産を用いた国際決済の試験が開始となる。

  • ロシアの幹部指導者らの最近の発言からは、今回の法律の目的が暗号資産を用いて制裁に対抗することであると示唆されている。

  • この法律は、ロシア中央銀行に「実験的」体制を監督する権限を与えている。

ロシアは9月第1週より、国際的な制裁を回避する一環として、暗号資産(仮想通貨)による国際決済の試験を開始するが、政策・法律を専門とする複数の専門家はCoinDeskに対して、この試みがうまくいかないかもしれないと語った。

ロシア国内での通常の決済に暗号資産を法定通貨として使用することは現状、禁止されているが、7月末に可決されてからウラジミール・プーチン(Vladimir Putin)大統領が即座に署名した法律は、これを解除するものではなく、暗号資産を用いた国際決済を許可するものである。

法律では当該取引のルールが規定されていないため、こうした決済がどのように許可されるかは不明である。代わりに、ロシアの中央銀行には「実験的な」体制を監督する権限が与えられると専門家は述べた。

ロシア経済は、ウクライナ侵攻後に米国および他の国々が課した一連の制裁により大きな打撃を受けている。

ロシアは2022年2月にウクライナに侵攻して以来、米国、英国、欧州連合(EU)、オーストラリア、カナダ、日本から1万6500件の制裁に直面している。

「ロシア政府がこうした法案を可決したのは、西側諸国の制裁を回避するロシアの戦略が進化しながら続くことを示している」とブロックチェーン分析会社チェイナリシス(Chainalysis)の調査ディレクター、ヴァレリー・ケネディ(Valerie Kennedy)氏はCoinDeskに語った。

EUは、ロシアの外貨準備高の約半分、3000億ユーロ(約48.3兆円、1ユーロ=161円換算)相当が凍結されたと明かしている。これにはロシアの銀行システムの資産の70%が含まれる。一部のロシアの銀行は、銀行間メッセージングシステムである国際銀行間金融通信協会(SWIFT)から切断された。

「ロシアがSWIFTシステムを介して米ドルとユーロを回避することは困難であり、二次制裁のリスクが高まっている」と同氏は付け加えた。二次制裁は、制裁対象国と第三者が貿易を行うことを阻止するために設けられる罰則である。

法律面からみると

9月1日の法律施行までの数日間に、いくつかの詳細が明らかになった。

CoinDeskでは、この法律の写しをグーグル翻訳を用いて読み解いていった。そこには「ロシア連邦におけるデジタル通貨の流通中、実験的な法制度プログラムにより特別な規制が確立される可能性がある」と書かれていた。その制度はまだ準備段階にあり、中央銀行は最終決定の前に、国内の利害関係者からの提案や提言を検討する。

「私たちを含め、一部のプレーヤーはすでに独自の提案を出している」と、規制当局と緊密に連携してきた暗号資産のワンストップショップであるキック・エコシステム(Kick Ecosystem)の創業者兼CEOアンティ・ダニレフスキー(Anti Danilevski)氏は述べる。「中央銀行はその提案が自身の見解に合致するかどうか決定するだろう。非常に迅速に事が進められていることから、それほど時間はかからないだろう。」

ブルームバーグ(Bloomberg)は、ロシアは決済の試験時にルーブルと暗号資産を両替するために自国の決済カードシステムを使用する予定であると報じた。このシステムが選ばれたのは、銀行間決済などの機能のためのインフラがすでに備わっており、中央銀行によって完全に規制されているためである。試験が成功すれば、ロシアは来年、モスクワ証券取引所とサンクトペテルブルク通貨取引所に暗号資産プラットフォームの設置を許可するかもしれないと、続けて報じられている。

モスクワの私法研究センターの准教授イヴァン・チュプルノフ(Ivan Chuprunov)氏は、制度の「正確なパラメータは不明」であり、まだ公表されていないものの、「中央銀行は今後数週間で何らかの指針を公表する可能性が高い」と述べた。

この法律はまた、中央銀行がこうした試験の監督方法をいつでも変更できるようにしているようだ。

この法律では、規定により、連邦法の一部を「除外または変更」できるとされている。「認可された組織を通じて外国貿易活動を実施する際のデジタル通貨」との取引に関連している。

この制度は「中央銀行だけが承認する」ため、「より柔軟なもの」であるとチュプルノフ氏は述べた。「取引所が1つだけになるのか、どの通貨が取引されるのか、参加者が取引アクセスをどのように得るのかは、まだまだ未知数だ」。

また、この法律では、暗号資産を扱う企業や暗号資産を扱いたい企業に現在どのような規則が適用されるかは明確に規定されていない。なぜなら、中央銀行がどの企業が実験に参加するかを決定するからである。

この法律ではその正確な目的は規定されていないが、ロシアの幹部指導者らの最近の発言からは、制裁に対抗するために暗号資産を使用することが示唆されている。

2024年7月17日、経済問題を検討する会議でプーチン大統領が、ロシアは「この機会を逃すべきではない」とし、「国際決済の手段として世界でますます使用されている」暗号資産についての「法的枠組み」を速やかに構築すべきだと述べている。

その後、法案の起草者の1人が、ロシアは暗号資産を「主に制裁を回避するためのツール」と見なしていると述べ、続いて中央銀行総裁のエルビラ・ナビウリナ(Elvira Nabiullina)氏は最近モスクワで行われたイベントにおいて、それが暗号資産に対する「姿勢を軟化させた」理由だと発言した。

中央集権的な管理

ロシアがこの新しい法律をどのように利用して統制を強化し、制裁を克服するかについては不確実性が残っている。

この実験的制度は、中央銀行にいつでもあらゆる規則を制定し、試験に参加する企業を自由に選択できる権限を与えるため、世界初の試みとなる。

「ロシア中央銀行にデジタル通貨取引の電子プラットフォームを作成し、活動を監視する権限を与えることは、管理を中央集権化する」と、研究機関RANDの政策研究員補佐ジム・ミニャーノ(Jim Mignano)氏は述べた。

この法律はこのようにダイナミックな規則の制定を認めているため、地政学的要因や新たな制裁によってロシア政府と中央銀行が折を見て法律を変更することになるか予測を立てるのは困難である。

「私は18年以上ロシアの法律を扱ってきたが、法案に『実験的』という文言があった記憶がない」と、ロシアを含む独立国家共同体(CIS)に関連する国際取引についての助言業務を専門とする法律事務所CISロンドンのマネージングパートナー、スベトラーナ・ロンドン(Svetlana London)氏は述べた。 「字面だけから、それが具体的にどのように機能するかを読み解くのはかなり困難だ。」

ダニレフスキー氏は、この法律はロシア中央銀行に実験的な法制度(ELR)を発表する権限を与えているが、現在の形ではELRは「効果的に機能しない」ため、「実施」には「大幅な改良」が必要だと述べた。

そして、ロシアがこの法律をどう実施するかについて明らかにするか否かという疑問が浮上する。先月のモスクワのイベントでナビウリナ総裁の隣に座っていたロシアで2番目の大手銀行VTBのアンドレイ・コスティン(Andrei Kostin)総裁は、このような法律の実施は「国家機密」にすべきだと提案した。なぜなら、現在「米国大使館のどこか」で誰かが我々の発言をすべて記録し、西側諸国が「非常に」迅速に対応できるようにしているからだ。

西側諸国も「新たな一手」か

ミニャーノ氏はCoinDeskに対し、ロシアが制裁をうまく回避すれば「より積極的な執行措置や新たな形の制裁が促される可能性がある」と語った。

こうした増大する脅威の1つが二次制裁だ。

先月、法案が可決された後、ナビウリナ氏はロイター通信(Reuters)に対し、「二次制裁のリスクは高まっている。輸入の支払いが困難になり、さまざまな商品に影響する」と語った。

「暗号資産は従来の金融システムの外で存在し、移動することが可能かもしれないが、その活動は追跡可能であり、西側諸国の政府は新しい革新的な方法で取引を追跡し、調査することができる」とブロックチェーン分析会社TRM Labsの欧州中東アジア担当上級政策顧問イザベラ・チェイス(Isabella Chase)氏は述べた。

流動性の問題

今回の法律の意図とは反して、暗号資産を通じて外国の者が関りを持つかどうかは疑わしいと専門家は見ている。

ケネディ氏はまた、暗号資産市場には「暗号資産の価格を暴落させたり、ブロックチェーン監視者の注目を集めたりすることなく」そのような脱税を「大規模に」サポートするだけの流動性がなく、そのような脱税は「他の形態のマネーロンダリングのように見える」と示唆している。つまり、少量の暗号資産が「徐々にキャッシュアウトポイントに移動される」ということだ。

ミニャーノ氏は、この問題でロシアは「さらなる取り組み」を求められるかもしれないと述べた。ロシアは暗号資産建ての取引に参加するために「相手方に経済的または政治的なインセンティブ」を提供する必要があるかもしれないと同氏は語った。

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