援護射撃とステーブルコイン
自身もハイスキルのプログラマであり、ソフトウェア開発にまつわる高い洞察でも知られるジョエル・スポルスキ氏のエッセイに、こんな文章があります。
大企業のセールス・チームは援護射撃というものを理解している。彼らは顧客に言う、「OK、あなた方は私たちから買う必要はありません。最高のベンダーから買ってください。しかし(XML / SOAP / CDE / J2EE)をサポートしている製品を選んでください。そうしないとトランクに閉じこめられてしまいますから。」そして小さな会社がその顧客に売り込もうとすると、従順なCTOが「J2EEはあるのか?」とオウムのように繰り返すのを聞くことになる。
そして彼らはJ2EEで構築するために時間を無駄にしなければならなくなる、たとえそれが実際には売れないとしても、そして彼らに差別化の機会を与えないとしても。それはチェックボックス機能なのだ—あなたがそれを実装するのは、それを持っていると言うチェックボックスが必要だからであり、実際には誰も使わないし必要ともしない。そしてそれは援護射撃なのだ。
全文はwebで読めますが、ソフトウェア系の用語が多いので、業界にお勤めの方でもないと読みづらいかもしれません。
要点は単純明快です。
・大企業は、本質的では無いが戦略的な機能を、敢えて製品に盛り込む。
・零細企業は、戦略的な機能に追いつくために、無駄な努力を強いられる。
・結果として、零細企業は本質的な機能追求が困難になる。
ジョエルは、上記の戦略的な機能を援護射撃と呼びました。援護射撃に零細企業が対応している間に、大企業の本質的な機能開発を続けられるわけです。
ではどうすれば、零細企業は援護射撃を避けて勝機を見いだせるのか。それはそれで面白い話題かもしれませんが、本稿では深入りしないことにします。
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暗号通貨界隈では、ここにきて俄にステーブルコインなるものに注目が集まっているようです。他の暗号通貨やfiatとペグすることで、トークンやコインにスタビリティを持たせよう、という取り組みは以前からありました。最近になっての盛り上がりは、シニョリッジ・シェアへの注目からでしょうか。
経済の全てを暗号通貨だけで回すのは、人類にはまだ早すぎる。おそらく間違いないことでしょう。既存の何かと、価値が連動するような価値記録が存在することは、現存する諸々の問題をシンプルにし得るとも思います。
しかしながら、これは…特にシニョリッジ・シェアのような大掛かりなスマートコントラクトを動員してまで実現するスタビリティ要求は…既存の経済システム側による援護射撃の側面があったりはしないでしょうか?
「価格のボラリティが高すぎて決済通貨には使えない」
というのは暗号通貨に対して長年続いてきた否定的な意見の代表格ですが、相場が弱気になっている今、その声に飲まれようとしているようにも思えます。
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本稿の主張は、ステーブルコインを闇雲に否定するものではありません。実現方法が何であれ、有用性は確かに在るものと思います。某業者BOTも何か企んでいるようです。純粋に技術として面白いですし。
しかし、やたらと盛り上がっている背景に、相場の弱さからくる、大きなものに付け込まれそうな何かも感じています。
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