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クライオニクスと人体冷凍保存という用語についての解説

今回の記事は、「クライオニクス(Cryonics)」という用語と「人体冷凍保存」という用語の関連性についての解説です。
 
現在の日本国内では、「クライオニクス(Cryonics)」の訳語として「人体冷凍保存」という造語が使用されることが多々あるのですが、最初に結論を書いてしまいますと、これは完全に間違いで「誤訳」となります。それでは、なぜ「誤訳になるのか」の詳細について、順を追って説明したいと思います。
 
まず「Cryonics」という単語は「Cryo」と「ics」という要素に分割できます。
 
このうち、「Cryo」は「低温」を意味していて、例えば「Cryobiology」は「低温生物学」、「Cryometer」は「低温用温度計」となります。
 
次に「ics」ですが、これは「技術」「学問」を意味する接尾辞で、例えば「Tactics」は「戦術」、「Electronics」は「電子工学」、「Economics」は「経済学」となります。
 
このような点から「Cryonics」の直訳は、「低温技術」や「低温学」となります。「人体冷凍保存」という用語を構成している「人体」や「保存」という要素は含まれていません。また「Cryonics」という用語の本質は、「技術」にありますが、「人体冷凍保存」という用語の本質は「保存」にあります。つまり、少なくとも「人体冷凍保存術」のように「術」を付けて表現しないと完全に誤訳となります。

それでは、「Cryonics」の訳語として、「直訳」である「低温技術」や「低温学」を使用するのが正しいのかというと、実際に「Cryonics」が意味する範囲に対して「低温技術」や「低温学」では、広すぎる範囲を意味しています。
 
上記のような点と、実際に「Cryonics」が意味する範囲を考慮して『まんがでわかる クライオニクス論』では、「生体凍結保存技術」という用語を採用しています。
 
「人体」ではなく「生体」としましたのは、海外では「ヒト」だけでなく「ペット」が凍結保存される例もあり、このまま「人体冷凍保存」という用語が定着してしまうと、未来の日本では「ネコが人体(?)冷凍保存で凍結保存される」という事態にも、にゃりかねません(にゃんということでしょう)。
 
また、これは別の観点ですが、「人体冷凍保存」という用語では、いかにもイメージが悪く、凍結された人体が冷凍倉庫に並んでいるだけのような、ホラー的な感じになってしまいます。
 
結論としては、このような点を踏まえて、間違った用語を拡散しないためにも「人体冷凍保存」という誤訳の使用を避けて、単にカタカナで「クライオニクス」と表記するのが適切であるように思えます。
 
また、日本語訳も併記するのであれば、「クライオニクス(生体凍結保存技術)」や、「クライオニクス(延命を目的とした生体凍結保存技術)」のように表記するのが良いでしょう。
 
多少長くなりましたが、今回の記事は以上です!
 
更に詳しい情報を知りたいという方は、Wixの『クライオニクスと未来』というサイト内にある『クライオニクスとは何か?』のページも参照してください!


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