2017年の音楽、30選 (その3)
前回から、さらに四十男3人で語り合う。最終回。
【11〜30曲目(+1)】➡︎ ◎LONELY NIGHTS/tofubeats ◎Low/Phantom Thrett ◎Lily/ヤなことそっとミュート ◎優しくしないで'95 (feat. 曽我部恵一)/MGF ◎POETRY & FLOWERS/bonobos ◎Loud Asymmetry/ゆくえしれずつれづれ ◎応答せよ [Vocal:やくしまるえつこ]/MONDO GROSSO ◎Every Single Thing/HOMESHAKE ◎月曜日の朝、スカートを切られた/欅坂46 ◎This is love/小西真奈美 ◎Crazy You/プリンス
▼全30曲(+1)のプレイリストはこちら
21. LONELY NIGHTS/tofubeats
【選者:キド】
キド:アルバムとしてもいいんだけど、一曲選ぶとこれだな。曲のムードとタイトルは『ECDのロンリーガール』を思い出す。あれはもちろん重要な曲だけど、歌詞は賞味期限が切れてる。97年当時はコギャル&ブルセラブームにみんな動揺してたんだけど、今は若い女の子のことを誰も心配してないからね。
モリアツ:このtofubeatsのアルバムは2017年を代表する盤だと思う。個人や狭いコミュニティにしか興味を向けない音楽が多い中で、世界や現在に対する批評的な目線を持ってるのが頼もしい、というか。
キド:ネットの投稿者から、いつのにかJ-POP期待の新人プロデューサーみたいになってたんだけど、わかりやすいカタにハマるのではなく自分の立ち位置を示した感じだね。この曲では客演があるけど、基本的には自分の言葉を自分で歌ってる。27歳のやつに「まだ踊り足りない」って歌われちゃうと、オジサンとしては立つ瀬がない(笑)
22. Low/Phantom Thrett
【選者:モリアツ】
モリアツ:西海岸のエクスペリメンタル系ヒップホップ。
メジャーリリースがなくても、個人的にシンパシーを感じるアーティストってやっぱり世界中にたくさんいて、今回は、ずっとウォッチしている人のニューアルバムから一曲チョイスしてみた。
https://phantomthrett.bandcamp.com
ワンダ:そんな感じの出自なんですね。初聴時に音響系って単語が脳裏をよぎりましたが、あながち遠くもないのか……。
モリアツ:Jディラ以降のリズムの揺れというか、これは上物とのズレを狙ったポリリズム的な構成で、ちょっとサイケ/プログレ感すらある。
キド:メロディとかリフのはっきりしてないインスト曲、好きなものもあるけど、年間トップ10に入れるかというと入れないから、興味あるね。
モリアツ:自分でラップしたり、歌ったりもする人なんだよ。そしたらこっちの方が好きかもね。
キド:人の声が入ると「個」として認識できるのが不思議だな。このラップ曲はリズムはシンプルだね。おれもこっちが好み。
ワンダ:これは良いですね。でもインストの方も、リストに入れてたら定期的に聴きそうな心地よさが。
23. Lily/ヤなことそっとミュート
【選者:ワンダ】
キド:これ一聴して好きだった。公式サイトもカッコいい。
http://yanakotosottomute.com/#member
モリアツ:ロック! ふむ。「ヤなことだらけの日常をそっとミュートしても何も解決しないんだけど、とりあえずロックサウンドに切ないメロディーを乗せて歌ってみる事にする」。4人組のアイドルグループなのね。
ワンダ:ヤなミュー(略称)はグループ名がまず良いです。あとサビのあたりの邦楽的な疾走感は意外と癖になる。邦ロックとか聴くんならこっち(アイドル)聴いてた方がいいです、個人的には。
キド:方法論はPerfume、BABYMETALと同じなんだけど、音楽ジャンル的にこれは好みだなぁ。
ワンダ:話題にしたら割とすぐメンバーからいいねがつく、ってのもポイント高め(僕、このパターン多いですね)。
キド:シューゲイザーとも違うし、やっぱいつかの日本のロックなんだろうなー。
ワンダ:そう、「おれはこのロックをいつか聴いてた」って感覚。アイドルっていうフィルターを通すことで、こっちの方がむしろすんなり聞ける。
モリアツ:サウンドプロダクション的にもそれほどハイファイじゃなくて、ラフな感じ。はっきり言ってしまうと、文化祭感がある。。。で、そこに郷愁を感じる!
キド:ビデオはどうでしょね? まだメンバーを認識してない段階だけど、一見してスター性が足りないのはわかる(笑)。そのあたりもPerfume、BABYMETALを思い出させる、という点で期待がかかる!
ワンダ:曲もオーソドックスではあるんですよね。わかりやすい尖り度は少ない。けどまあ、このグループ結構好きです(笑)
モリアツ:公式サイトのフォトショップアー写、キドさん好きそうね。
キド:好きだね。まずセンター街じゃないのがすごくいい(笑)
モリアツ:Wavyと棲み分け。
キド:渋谷はもうウェイ系のひとにあげちゃった方がいいのかな。
24. 優しくしないで'95 (feat. 曽我部恵一)/MGF
【選者:キド】
キド:曽我部恵一レーベル出身、良ルックスの3MCということで、タイトルとは逆にむしろ厳しく評価されそうなんだけど、どう?
モリアツ:まず個人的に曽我部にいい感情を持ってなくて、ビハインドから評価が始まるのよ(笑)
ワンダ:そこは同じなんですが……でもこの曲は一聴した感じ、好きです。タイトルに反してサウンドは優しいのが、歌詞にもあるように「出口のないモラトリアム」って感じで。
キド:去年出たアルバムに収録された、曽我部恵一が参加してないバージョンは『優しくしないで'94』。タイトル通り94~96年あたりの日本のヒップホップ感があって、巧すぎないラップと、作り込み過ぎてないトラックが今はむしろ安心できる。
ワンダ:若いんですよね? 94年とか95年を選ぶ感覚ってなんなのかな。
キド:それこそ生まれ年だったりね。今23〜24歳だから、全然あり得る。
モリアツ:親世代からの影響とかもあるかもね。アルバム聴くと結構いいトラックもあるね! これ(↓『lifeaquatic』)とか。
キド:本人たちがどこまで意識的にトラック作りにまで関わってるかちょっとわからないけどね。多少なりとも、大人の入れ知恵はあるだろうな。
モリアツ:あ、トラック自前じゃないのかな……。もしそうだったら、やっぱ減点かも。ファッション誌でモデルやるようなイケメンMCに嫉妬……してるわけじゃないから!
25. POETRY & FLOWERS/bonobos
【選者:モリアツ】
モリアツ:ええと、bonobos。昔はですね、ああ、フィッシュマンズフォロワーか(ため息)……くらいにしか思ってなくて。でも去年くらいだっけ? キドさんに新譜教えてもらって聴いてみたら「へー!」って感心したんだよね。
ワンダ:この曲はフィッシュマンズって感じそんなしないですね。
キド:長く活動してて、もうフィッシュマンズとは関係ない、シティポップリバイバルの文脈にいたの。
モリアツ:で、さらにこの曲はニューチャプターに呼応した感じというか、和声もリズムも凝ったことやってて。音楽的な「豊かさ」を目指して突き進もうとしている姿勢に、とても好感を持ったナー。
ワンダ:継続は力なり、を体現してるわけなんですね。メンバーの写真に同年代的な親近感を覚えます。
キド:実際、ワンダと同世代だよね。同じアルバムのこの曲は初期のリメイクで、よりフィッシュマンズらしさがある。バンドにifはないけれど、このバンドの今を聴くと、佐藤伸治が生きてフィッシュマンズを続けていたら…… 的な可能性も感じる。
モリアツ:佐藤伸治はもっとサイケデリックな方面に進んだであろう気もするなあ。軽妙なシティポップや、テクニカルなジャズには行かなかったんじゃないかな。
キド:うん、後期の延長ではなくて、中期からの分岐というか……。まあ、比較したいわけではなくて、bonobosはbonobosで別のいいバンドだと思うね。
ワンダ:一方に若い子達がやってるオンタイムな面白い音楽がありつつ、こういう世代の、積み重ねてきつつのアップデートされた音楽がありつつ。その境界は曖昧なんでしょうけど、この鼎談を通じて、なんとなく見えてくるような。
26. Loud Asymmetry/ゆくえしれずつれづれ
【選者:ワンダ】
ワンダ:この系統の、ラウドロックつうんですかね、はあまり聞かんのですが、アイドルになるとむしろ聞けるという(笑)。
キド:公式サイトが「ヤなミュー」と似てる。
http://yukueshirezutsurezure.com
ワンダ: https://youtu.be/h1H1JiTdq4s
別の曲のライブ映像↑なんですが、どうやらデス声は自分たちでやってるそうで。最初は男性が出してるんかなーとナチュラルに思ってましたが、確かめるためにもライブが観たくなります。
キド:逆にデス声だけが個性かもしれない(笑)。
ワンダ:他の曲のタイトルとか見ると、厨二感高く、ビジュアル系の系譜も感じる。
モリアツ:Bisとか、あの辺の界隈とファン層はかぶるのかな? それかホルモン好きのお兄さんとか?
ワンダ:V系まで好きかどうかで割と分かれるかもですね。僕は元々V系(の厨二感)嫌いじゃないので、アリです。
キド:マキシマムザホルモンは思い出すよね。あとおれもV系は好きだけど、V系のバンギャが好きじゃないの(笑)。全く相手にしてくれなさそうで……。
ワンダ:ああ(笑)。
キド:この子たちはアイドルというより、ステージに上がったV系のバンギャに見えちゃうというね。不埒な目で音楽を見すぎかな。
ワンダ:アイドルの場合、武器としての個性を最初に付与するのは概ねプロデュース側だったりしますが、そもそもメンバーは元々音楽的素養で集めるわけではないことが大半。で、付与された武器をやりきろうとする点において、実は似たようなジャンルのバンドとかより入れ込んでやっちゃう。そのあたりが物語性のソースにもなったりするんですよね。
キド:物語性のソース! なるほどね。あ、もうひとつ言うと、このジャンルって歌唱力求められるでしょ? たとえばBABYMETALはボーカルの子が歌うまいじゃない。
ワンダ:あ、BABY METALの子はうまいですね。実はその子、とある元・乃木坂46メンバーの妹だったりします。これ豆。
モリアツ:知らんかった!
27. 応答せよ [Vocal:やくしまるえつこ]/MONDO GROSSO
【選者:キド】
キド:ふたりとは違って、やくしまるえつこ今まで全然ピンと来なかったんだけど、初めてビンビン来たの。嫌いなレーベル専属だった女優を、初めて別レーベルの監督が撮ったAVの新鮮さみたいな。
ワンダ:AVの喩えだと理解しやすい(笑)
モリアツ:この曲は、完全にやくしまるえつこありきの当て書きで音作ってるよね。やくしまるえつこは声も歌詞も記名性高いんだけど、客演時にはプロフェッショナルに徹するところもあって。そのあたり、椎名林檎に近い感じになってきてる。
キド:ちなみにモンド・グロッソについても、これまでの女性シンガーを起用した曲はピンと来なかったんだよね。おれとしてはもう結婚してほしい、この2人に(笑)
モリアツ:大沢先生の女性関係はそっとしておいてあげたい。タブラのリズムも、モジュレーションのかかったシンセも気持ちよくて、さすがだなーとは思う。
キド:ロリ声とパーカッションと密室感のあるシンセサイザー。音の構成要素が中期のハイポジみたいでね。そこがよかったのかも。
28. Every Single Thing/HOMESHAKE
【選者:モリアツ】
モリアツ:まずはこちらのPVをご覧いただきたい。
https://www.youtube.com/watch?v=0aOzT11GMKM
キド:アジアなんだ? 太極拳ぽいダンス、あとロケーションがいいね。どういうグループ?
モリアツ:カナダ発。マック・デマルコバンドのギタリストだったピーター・セイガーのソロプロジェクト。これが2ndだったかな?
キド:あ、じゃあこのふたりはメンバーではない?
モリアツ:これはダンサーだろうね。PVのロケ地は台北。男女間のコミュニケーション不全を描いた歌詞と相まって、このダンス(コレオ)はグッとくる。
キド:ああ、動きがシンクロしてないんだ……なるほどね。
ワンダ:ちょっと懐かしいインディーポップ感が。これ良いなあ。
モリアツ:アルバムもコンパクト、というかプライベート感のある切なさ系ポップが満載の良盤だよ。
キドさんはこっちの曲のほうが好きかもね。宅録R&Bみたいで、ちょっとスティービー感まである。
キド:確かにストライク(笑)。やっぱり最近は音が多過ぎ、音圧高過ぎかもね。こういう穴あきチーズみたいな音像が疲れなくていいよ。
ワンダ:夜ずっと聴いてられる感じが。もし学生の頃だったら、こんな曲流しながらタバコ吸いつつ、テレホタイムにICQしてると思います(笑)。
キド:ICQ!
29. 月曜日の朝、スカートを切られた/欅坂46
【選者:ワンダ】
ワンダ: https://youtu.be/j89r0SNk9hs
2017年のベストオブ中二曲ですね。欅坂46はデビュー当時から好きなのですが、この曲、サウンドでいうと、そこそこ変で。ストレートに行くとAメロのバックは歪みのギターが目立って良いんですが、それよりもどこか長閑なカントリー風のバッキングの方が目立つ、とか。
モリアツ:長渕的なハミングでのイントロ。
キド:確かに! 「死んでしまいたいほど」という長渕フレーズも出てくる。
ワンダ:んでそこに秋元康のベタっとした歌詞が乗って。特にBメロからサビの展開、僕はアガりますね。この曲は歌詞の内容で叩かれてましたが。
キド:楽曲は歌詞を聞かせるためのもので、音楽的に何か新しいことをやろうとはしてなさそう。
ワンダ:まず、スカートを切られたという歌詞が性犯罪を助長する、と。そして、嘘に慣れろ、とか、私は悲鳴なんてあげない、て歌詞が、女性のエンパワーメントを阻害してる! ミソジニストでアベ友の秋元康は許せん! みたいなことらしいです。
モリアツ:「悲鳴なんかあげない」という勇気のあり方と意思表示の歌なんだと思うけど。まあ2018年早々に浜ちゃん黒塗りの件とかあって。誰に何をどこまで配慮すべきか? ということに皆が意識的になっていく年になりそう。
キド:悲鳴はあげないけど、こうして歌にして問題提起してるだろうというね(笑)。
ワンダ:欅坂はなぜかサヨクからもウヨクからも叩かれてたりしますが、職業作詞家としての秋元康が時代に沿っていった的な話だけで、どっちでもないんですけどね。
モリアツ:詩作でいうと、暗喩なし、全てを直接的に表現する、ってのは意図的なんだろうね。若者の、ややたどたどしい思考回路をトレースするような方法論かと後から気づいた。
ワンダ:この曲はデビュー曲の『サイレントマジョリティー』の前日譚で、悲鳴をあげずとも意思は秘める若者が次の曲で声をあげ出す、みたいなストーリー展開で。まあ、知らん人はそんなん知らんのですが(笑)。
モリアツ:ほほー。
キド:ほぼストレートな歌詞なんだけど、「誰もが何かを切られながら生きてる」というフレーズがキメになってはいるね。
ワンダ:音楽的な革新ならアイドルソングでも他にあるし、アイドル以外ならなおさら。でも、物語を作る / 消費する / 消費されるという関係を考えるには多分いま面白いグループのひとつですね。
キド:演者と表現とトータルで判断すべき商品だから、ましてや歌詞だけ取り沙汰するのはナンセンスなんだろうね。
ワンダ:なので、「あんたは私の何を知る?」という歌詞もあるんですよ。若者の、メンバーの、秋元康の心の声。
30. This is love/小西真奈美
【選者:キド】
キド:突如ラップでのシングルリリース。しかも作詞作曲。これは驚いたよね。若いアイドルラッパーがまだ他人にリリック書いてもらったりしてる状況で、こりゃえれぇことだよと。
ワンダ:「えれぇメンツをなめんじゃねえ」の強さよ。アイドルなり女優なりの自作曲っておおむねオーソドックスな、「良質なポップスに仕上がっている」みたいな落とし所が多い中で、これか……! という。
モリアツ:現所属事務所名を絡めたパンチライン!なんというか、芸能界でよっぽどイヤなことがあったんだろうなあ……というリリックで。でも、誰かの毒牙にかかったわけじゃなくて、自分から嬉々としてこういう表現を選び取った喜びに溢れてて。そういうとこは素直にイイんじゃないかと。
キド:「38~39歳女性の自作ラップ」というだけでも凄みがあるのに。
モリアツ:小西真奈美、とにかくこれは多くの人に聴いてほしい。2017年一番の衝撃作、だったかもしれない。
31. Crazy You/プリンス
【選者:モリアツ】
モリアツ:プリンスの楽曲が配信開始になったのは、2017年のビッグリリースだったと思うのですよ。(あとECM音源も配信開始になって、うぉーっ! ってなったけども。)
ワンダ:(リターン・トゥ・フォーエヴァー……!) あれ、プリンスの音源ってそもそも配信されてなかったんですか?
キド:プリンスは配信もやったりやめたりだし、そもそもリマスターすら出してなかったんだよ。これはファーストアルバムの曲だよね。
モリアツ:そう。78年で、当時19歳か。プリンスの中から1曲……と考えた時に、たまたまこの曲の気分だったの。
キド:ファーストアルバムを聴くと、ただただ驚くよね。ほとんどスタイルが完成されてるし、40年前の音じゃない。
モリアツ:そうやって遡って聴ける恩恵を噛みしめたいところ。
この曲はアコースティックな雰囲気の佳曲。フリーソウルの文脈でも再評価されてたよね。
ワンダ:締め括りとして聴いてしまいますね。
キド:プリンスの歌は、いわゆるイイ声では全然ないと思うんだけど、どの曲でもビシッとハマって聴こえるのがいつも不思議。
モリアツ: まあ、みなさんプリンス聴きましょうよ、というおハナシでした。キドさんおすすめプリンス曲は……?
キド:今夜はコレ。2011年。
モリアツ:かっけえ。
キド:プリンスはとにかく作品数が多くて、しかも後期のものは入手困難だったりするので、Apple Musicで全カタログが揃うといいな、と思いながら時々検索してる。
(2018年1月9日 収録)
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