2017年の音楽、30選 (その1)
四十男3人で語り合う、2017年の30曲、第1回。
【1〜10曲目】➡︎ ◎What Is This (feat. Rosie Lowe)/Machinedrum ◎K.I.K.E/Scarf & the SuspenderS ◎Happy Hour/ウィーザー ◎Yours/レヴィン・カリ ◎Highlight/chelmico ◎PASSION/ReN ◎ロードムービー/東郷 清丸 ◎ビッチと会う (feat. Weny Dacillo, Pablo Blasta & JP THE WAVY) /DJ CHARI & DJ TATSUKI ◎Paris/ザ・チェインスモーカーズ ◎Chronic Sunshine/Cosmo Pyke
観念して月額980円の定額音楽配信サービス・Apple Musicに加入した結果、かつてないほど様々な新曲を聴いた1年だった──。モリアツ、キド、ワンダの3人で各自10曲ずつ選び、語り合った。
▼全30曲(+1)のプレイリストはこちら
01. What Is This (feat. Rosie Lowe)/Machinedrum
【選者:モリアツ】
モリアツ:これは今年、本当によく聴いた1曲。アブストラクトかつビート強度が高いトラックに一聴してヤラれたんだけど、ヴォーカル入りのポップミュージックとしての完成度もなかなかのもの。
ワンダ:あー、これは中毒性ありそうな。ちょっと00年代ぽいかも?
モリアツ:そうそう。ゼロ年代にメアク・レコーズつうのがあって。当時、「IDM」と呼ばれるシーンがあったのね。その界隈から出てきた才能なんだけども。
キド:懐かしのNinja Tuneからのリリース。金属的なビートがそれっぽいかね。
モリアツ:中の人のトラヴィス・スチュアートは、鬼才・天才的な扱いをされる事が多いんだけど、初期エイフェックスからの影響も公言してて、こう、アラフォーの自分と波長が合う感じがあるわん。
キド:ああ、エイフェックス・ツインみたくもあるのか。パッと聴きイマドキの曲なんだけど、随所に出自がうかがえる。
モリアツ:ちなみに、IDMってのは“インテリジェント・ダンス・ミュージック”(笑)。昔、デイブ・ムステインが自分たちの音楽を“インテレクチュアル・スラッシュメタル”って言ってたのを思い出した。
ワンダ:エイフェックスだと考えると納得。聴きやすさというか確かにアラフォーに優しい。2017年的な曲でありつつも、随所に流されないぞ、みたいな意思を感じて良いですね。
02. K.I.K.E/Scarf & the SuspenderS
【選者:ワンダ】
ワンダ:Apple Musicのオススメ的なやつで聴いたんですが、一聴して、良いじゃん、若人が衒いなくシャレオツミュージックやるのって勢いあんな、と。
キド:アシッドジャズっぽい。ここでも90年代がリバイバルされてる印象。
モリアツ:一方で若者の生演奏回帰、というのを感じる。
ワンダ:最近、90年代特集みたいなのもちらほら見るし、リバイバル対象なんですよね、たぶん。若者的には新鮮、アラフォーにも親和性ある90年代。
モリアツ:出身が気になるな。どこなんでしょ?
キド:Apple Musicの解説文によると……
東京を拠点とするヒップホップ・バンド。(中略)この「K.I.K.E」はグルーヴィーなウッド・ベースが印象的なScarf & the SuspenderSのアンセムとも言えるキラーな1曲。ジャジーかつアーバンな雰囲気を湛えながらも、スピーディーに展開していくバンド・サウンドに滑らかなフロウが乗っかる様はまるで韻シストのよう。
だって。
モリアツ:ただ本人たち、90'sリバイバルだとはつゆほども思ってないだろうねえ。でもおっさんの耳にはそう聴こえる、という。
キド:やっぱ2017年の音。ジャズを演奏できるプレーヤーがラッパーの価値を理解するには時間がかかったんだな。
モリアツ:ビデオも見てみたんだけど、フロアよりではなく、プレイヤー寄りの匂いがすごくしたなあ。
ワンダ:リバイバルというか、ちゃんと「アップデート」されてる。
だからかな?「ジャジーかつアーバン」みたいな使い古された言葉の感じでカッコつけても別に良いんだなと思えた曲でしたね。
03. Happy Hour/ウィーザー
【選者:キド】
キド:10カ月ぶり11枚目のアルバム。10曲35分でほぼ全部いい感じなんだけど、タイトル含めてコレかな。「ハッピーアワー」って、どうしても飲み屋のサービス時間帯を思い出す。笑わせようとしてると思うんだけど。
モリアツ:歌い出しから歌詞をチェックしたくなる。
キド:「まるでステージのスティービー・レイ・ヴォーンみたいな俺」だもん。
ワンダ:昔のウィーザーのイメージが強かったので、聴いた時ちょっと面食らいました。
キド:EDMみたい。ディストーションギターが入ってないもんね。
モリアツ:誤解を恐れずに言えば、軽い。ペラっと感がある。
キド:1994年の「Buddy Holly」の時点でペラかったけどね(笑)
ワンダ:グランジが流行った頃、メタルバンドが無理矢理グランジに寄せてダメになるみたいなのありましたけど、そういうダメ感はないですね。
キド:相変わらず人気あるし、「ずっと変わらない」という立ち位置でやってもよさそうなバンドなのに、時代に対応していってる態度がよかった。しかも無理してる感がない。
モリアツ:泣きが少ないかなー。リヴァース・クオモが参加したRACの曲も面白かった。
キド:それもよかったね。バンドサウンドから離れたのは、課外活動のフィードバックもあったのかも。
04. Yours/レヴィン・カリ
【選者:モリアツ】
キド:音の少なさがすごく好み。
ワンダ:これはどういった人なんでしょう?
モリアツ:プレイボーイ・カルティにフィーチャーされたりしてたシンガー。それほど詳細知らないんだけど、実力派の香りがプンプンする。
ワンダ:ほほう。途中までちょっともっさりしてるけど2:30くらいから印象変わりますね。
キド:うん。味変(アジヘン)する(笑)
モリアツ:そうそう、付け足したかのようなトラップ展開。あと、とりあえず、この公式サイトも見ていただきたい。これ見て、「あ、大好きっ!」って思った。
https://levenkali.com
ワンダ:顔が動く時点で勝ってる。
キド:ウェブサイトも90年代リバイバル。
モリアツ:なんかいろいろ身に覚えがあるよね(笑)
ワンダ:なんだこれ、親近感わく!
モリアツ:だからきっとイイ奴だと思います、ハイ。
05. Highlight/chelmico
【選者:ワンダ】
ワンダ:この曲多分今年一番多く聴いてます。
キド:「HALCALIみたい」って言ってたやつだ。
モリアツ:キュートだけどスキルある女の子ラッパー二人組、オレもすごい好き。
キド:コーラスパートはアイドル濃度が高いよね。
ワンダ:ちなみにこのふたり、SNSで話題にすると割と速攻本人たちがいいね返してきたりするあたりはアイドルにも共通する作法で良い感じです。
モリアツ:絡んでみたの?
ワンダ:絡みはしてないですが、エゴサ力高いようで、話題にすると結構なスピードでいいねがつきました。SNSの使い方も今時のソレだなと。
キド:去年のアルバムの『ラビリンス’97』というのもよかった。今の若い子の「’97」というのは、おれらの「1984」みたいな響きがあるんだろうな。
モリアツ:『ラビリンス’97』は完全に90sサウンド!
ワンダ:サウンド的には90s、でも「今」の曲だなあってバランス。って、あれ、自分このパターンに弱いのかも……?
06. PASSION/ReN
【選者:キド】
キド:2016年デビューなんだけど、今年知って。曲を聴いたあとに調べたら長渕剛の次男だったと。特にこの曲は長渕DNAが高く、2017年らしくもあって好きだった。
モリアツ:相当気に入ってるよね、これ。
キド:好きなシンガーの息子も好き、というのが初めての経験で嬉しくて。あああ、ショーン・レノンもいたけど……
ワンダ:「長渕濃度の高いエド・シーラン」みたいなイメージが。
モリアツ:オーガニックな感じ? と思いきや、やっぱり父親譲りのコブシが回る。サビの節回し、歌詞、コーラスに確かなDNAを感じるねえ。
ワンダ:親父の方もちょっと今風の曲とか出したりして、相互影響を感じますね。
モリアツ:親子共演はしてないの?
キド:まだしてないみたいね。何年か後に富士山か桜島で肩組んでるビジョンが浮かんだけど……
モリアツ:世襲議員みたいに、地盤を引き継いでファンとアーティストの関係が2代にわたって続いていく……というビジョンも浮かんだ。
キド:いやでも、真面目に好きな曲。デビュー2年目でこれはすごいなと。親父が手伝ってなければ(笑)
07. ロードムービー/東郷 清丸
【選者:モリアツ】
キド:これジャケでスルーしてたけど、トレモロのかかったギターも声も曲もよかった。
モリアツ:ね。それこそAppleMusicで出会った新人なんだけど、年内最後の大物キタ!と思ったね。
ワンダ:いいっすね!
モリアツ:フィッシュマンズやキリンジ弟を連想するような歌声。
モリアツ:あとアルバムの曲数がすごい。でも中盤あたりからロス・アプソンか! っちゅうような宅録デモみたいな音源ばかりになるんだけど……。
ワンダ:なんか七尾旅人にCD渡して軽くイラつかれたらしいですねw
モリアツ・キド:そうなの!?
ワンダ: https://twitter.com/tavito_net/status/938992080130412544
モリアツ:自分の話しかしない(笑)
ワンダ:これ見て、あ、これは間違いないな(いい意味で)と思いましたよ。
08. ビッチと会う (feat. Weny Dacillo, Pablo Blasta & JP THE WAVY) /DJ CHARI & DJ TATSUKI
【選者:ワンダ】
ワンダ:「♪時々ビッチと会う こいつはエロすぎるー」って歌詞歌われたらもうそれでオーケーですよ。
モリアツ:教えてもらって初聴きだったんだけど、かなりビックリしたよ!
キド:出落ち感もあるけど、すごいね。「初恋とはなんぞや」(パブリック娘。)以上かな。
モリアツ:時々、というのが素晴らしさかと。
キド:そうそう。そこはストーリー性がある。銃とかドラッグとかじゃなくて、これぐらいが日本のリアルなちょっと悪い子たちって感じ。となりのリアリティ。
モリアツ:ジャケも素敵。90sヒップホップで育った我々だけど、こういうサウス系の音については、どう感じるのかしら。好きだよね、ふたりとも。
キド:いや、ちょっと馴染むのに時間かかった。今もファンキードラマーのサンプリングのほうが気分はあがるけどね。
ワンダ:今は好きですね。銃とかドラッグとかじゃなくこれぐらい、って感覚は、自分が体感したことじゃないにせよ、若い頃の肌感として理解はできますし。
モリアツ:ヤンキー性、というのは我々にとっても重要なテーマだよね。他の曲でも引き続き語るテーマが、この曲でいくつか出てきてる感じかも。
09. Paris/ザ・チェインスモーカーズ
【選者:キド】
キド:こないだPlayStation VR買ったら、この曲のVR版があったのよ。これがほんとすごくて。 ※現在は配信終了した模様
https://www.youtube.com/watch?v=Bl2n5_iHGkY
ワンダ:VRだとすごそうな感じしますね。
キド:顔写真が宙に舞う空間を飛行して、海上に花火があがるという、ちょっとSNS的な極楽浄土、宗教的な体験なんだけど(笑)
モリアツ:うーん?
キド:VRは体験してもらうしかないね。歌詞は「あなたと駆け落ちしてパリにでも住めたら……」という「神田川」みたいな世界観で、これも好みだった。とはいえ、ビデオは数パターンあるけどどれも「パリ感」がない。
モリアツ:アメリカ人のいう「パリ」って、単に「遠いところ」くらいの意味かもしれないやね。
キド:自分に駆け落ち経験・願望ないから、これも「となりのリアリティ」なんだけど。「closer」に続いて男女かけあいヴォーカルというのもポイント高かった。チェインスモーカーズはVR含めて2017年の徒花となったとしてもそれはそれで美しいかな。
10. Chronic Sunshine/Cosmo Pyke
【選者:モリアツ】
モリアツ:サウスロンドン出身、期待の18歳!
ワンダ:リズムがちょっと変化球で好きな感じですね。
モリアツ:ああ、UKレゲエ感覚というか。しかし、フレッドペリーのポロシャツにジャケット羽織って、スケボーに乗って仲間と会いにく、とかちょっとカッコよすぎでしょ。
https://www.youtube.com/watch?v=iOSSAQPt-Ro&feature=youtu.be
ワンダ:仮にアメリカ出身だと、この感じ出てこない気はしますね。
モリアツ:あと、低音ボイスの若いアーティストが増えてきてるのが、いい傾向だなあ、と。
キド:声いいね、確かに。
モリアツ:今回、King Krule の新譜とどっち入れようか迷った。
ワンダ:あ、これもいいっすね。UKぽくそこはかとない陰鬱感。
モリアツ:こっちは結構暗くてシリアスな感じなんだけど、2017年の「In Utero」とか言われてるヨ!
ワンダ:インユーテロですか。良さそう。聴いてみよう……。
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